10 京都参戦
──東京校・校内。
伏黒恵と釘崎野薔薇は、紙袋を手に歩いていた。
中身は飲み物や軽食。 完全に“おつかい”である。
「……なんで私らがパシリなのよ」
釘崎が不満げに言う。
「先輩命令だ」
伏黒は淡々と返した。
(原作通りの流れだな……)
(問題は──)
伏黒の脳裏に、最悪の存在が浮かぶ。
(東堂葵)
(来るのか……本当に……)
内心では露骨に警戒していた。
釘崎が自販機の前で立ち止まる。
「ねぇ、この辺さ」
「自販機もうちょい増やしてくんないかしら?」
「無理だろ」
即答だった。
「入れる業者も限られてる。高専は立地が立地だ」
「不便なのよここ!」
「慣れろ」
──場面転換。
校舎内。パンダが周りを見ながら言った。
「あり? 一年ズは?」
「パシった」
禪院真希が素っ気なく答える。
「大丈夫か?」
「3歳児じゃねーんだ。おつかいくらいできるだろ」
「いや、そうじゃなくて」
パンダの声が少し低くなる。
「今日だろ。京都校の学長が来んの交流会の打ち合わせ」
「!」
「特急案件に1年派遣の異常事態」
「それに虎杖悠仁の秘匿死刑」
「悟とバチバチの上層部が仕組んだって話じゃん」
「京都の学長なんてモロその上層部側だろ 鉢合わせでもしたらさァ」
真希は少しだけ黙った。
「標的だった1年……虎杖はもう死んでんだ」
「恵達を今さらどうこうする理由もねぇ」
「京都のジジィだって、表立って騒ぎは起こさねぇよ」
パンダは首を振る。
「教員は立場があるけど」
「でも──生徒はそうでもないよな」
「…………」
真希の表情が、わずかに変わった。
「……来てるって言うのか?」
「真依が」
「憶測だよ」
パンダは肩をすくめる。
「打ち合わせに生徒は関係ないからな」
「でもなァ──」
少し嫌そうに言った。
「あいつら、嫌がらせ大好きじゃん」
──場面転換。
自販機前。
伏黒が小銭を入れようとした、その時。
「なんで東京にいるんですか、禪院先輩」
伏黒の声は低かった。
振り返った少女が、にこりと笑う。
「嫌だなぁ、伏黒くん」
「それじゃ真希と区別がつかないじゃない」
「真依って呼んで」
禪院真依は、楽しそうに言った。
その隣に立つ巨躯の男が、二人を見下ろしている。
「コイツらが乙骨と3年の代打……ね」
東堂葵だった。
釘崎が眉をひそめる。
「……誰よアンタら」
「アナタ達が心配で学長についてきちゃった」
真依がわざとらしく言う。
「同級生が死んだんでしょ?」
「辛かった?」
「それとも──そうでもなかった?」
(嫌味を言ってるな)
伏黒は理解しながらも、感情を抑える。
「……何が言いたいんですか?」
「いいのよ、言いづらいことってあるわよね」
真依は笑みを深めた。
「代わりに言ってあげる」
「“器”なんて聞こえはいいけど」
「要は半分呪いの化け物でしょ?」
「そんな穢らわしい人外が、隣で不躾に“呪術師”を名乗って」
「虫酸が走ってたのよね?」
「死んで──せいせいしたんじゃない?」
伏黒の拳が、わずかに握られる。
(乗るな)
(ここでキレるのは──向こうの思う壺だ)
「真依、どうでもいい話を広げるな」
「俺はただコイツらが乙骨の代わりに足りうるのか」
「それが知りたいだけだ」
「伏黒……とか言ったか」
「どんな女がタイプだ」
沈黙。
「……は?」
釘崎が素で聞き返した。
東堂は真顔だった。
「返答次第では、今ここで半殺しにして乙骨……最低でも3年は交流会に引っ張り出す」
「ちなみに俺は」
「身長と尻がでかい女がタイプです」
(なんなんだコイツは……)
伏黒は内心で毒づいた。
(これに……答えなきゃいけないのか? 俺は)
「……なんで初対面のアンタと、女の趣味を話さないといけないんですか?」
伏黒は時間を稼ぐように、ゆっくりと言葉を返した。
釘崎も腕を組む。
「そうよ。ムッツリにはハードル高いわよ」
「お前は黙ってろ」
伏黒が小声で制止する。
「ただでさえ意味わかんねぇー状況が、余計ややこしくなる」
東堂は構わず名乗った。
「京都3年、東堂葵」
「自己紹介終わり。これでお友達だな」
「早く答えろ 男でもいいぞ」
「性癖には、そいつの全てが反映されている」
「女の趣味がつまらん奴は、そいつ自身もつまらん」
「俺はつまらん男が大嫌いだ」
東堂の目が、獣のように光る。
「交流会は血沸き肉踊る──俺の魂の独壇場だ」
「最後の交流会で退屈なんてさせたら、何しでかすか分からんからな」
「俺なりの優しさだ 今なら半殺しで済む」
「答えろ、伏黒」
「どんな女がタイプだ」
(考えろ……)
伏黒は必死に思考を巡らせた。
(釘崎は丸腰……守りながら2人同時は無理だ)
(つまらん。判定されれば戦闘になるのは確定)
(だったら俺の最善は俺の本音を言うしかない)
(……なら、俺の“推し”を出す!!)
「……長髪ロングの」
「明るいうっかり系女子がタイプです!」
(俺は三輪霞が推しなんだー!!)
心の中だけで叫んだ。
釘崎が素で驚く。
「アンタ……そういう趣味があったのね」
東堂の表情が──変わった。
「……素晴らしい」
「実に素晴らしいタイプだ!!」
「なら──」
拳を構える。
「それに見合う強さを示せ!!」
「やっぱりこうなるのかよ!!」
伏黒は即座に防御態勢を取る。
次の瞬間。
東堂のラリアットが炸裂した。伏黒の体が吹き飛び、地面を滑る。
「伏黒!!」
釘崎が駆け寄ろうとする──が。
真依に腕を掴まれた。
「残念」
「2級術師として入学した天才も、1級の東堂先輩相手じゃただの1年生だもん」
「後で慰めてあげよーっと」
釘崎は睨み返す。
「似てると思ったけど全然だわ」
「真希さんの方が100倍美人」
「寝不足か? 毛穴開いてんぞ」
真依の笑顔が消えた。
「口の利き方──教えてあげる」
銃口が釘崎の腹に突き付けられる。
──場面転換。
伏黒の前に立つ東堂。
「一目見た時から分かってた」
「あぁ、こいつは退屈だとな」
「だが人を見た目で判断しちゃいけない」
「実際そうだった」
「お前は素晴らしい女のタイプを持っている」
「だからそれに見合う実力を見せてみろ」
(……頭の中身までパイナップルか?)
伏黒は思いながらも、冷静に戦力分析していた。
(去年の百鬼夜行)
(東堂が討伐した判明している呪霊の数──1級呪霊5体、特級呪霊1体)
(しかも術式を使ったのは特級相手のみ)
(だが、俺も特級を祓っている)
(勝てる要素は……ある)
伏黒が影を広げる。
「──来い」
白狼と蝦蟇が融合する。
現れたのは異形の式神。
「蝦蟇犬さん・白」
遠距離呪力弾 舌で掴んだ相手の呪力を吸収する
最初にできた蝦蟇犬さんの方は──蝦蟇犬さん・黒と呼ぶことにする
さらに伏黒の影が揺らぐ。
「影分身」
複数の“伏黒”と“蝦蟇犬”が現れる。
白狼の調伏の後に手に入れた 縛りの恩恵は影操作による呪力効率の増加 影操作の自由度が上がり影分身の防御力を上げることができる
そして複数出せる式神や影分身の最大総数が大幅に増えた
影分身が蝦蟇犬になってるのかもしれない 蝦蟇犬が変化して俺になっているのかもしれない
いわばシュレリンガーの猫のバーゲンセールだった
「見分けはつかない」
「どれが本物かも」
「どれが近距離型で遠距離型か?」
(目的は3つ)
(見た目で困惑させて数で押す)
(そして術式発動に必要な最低呪力以下まで削り取る)
東堂が突撃する。
一撃で蝦蟇犬を殴り飛ばす──が、崩れない。
「ほう?」
次々と式神が絡みつく。
舌が東堂の腕に巻き付いた。呪力吸収が始まる。
「数が多いな!!」
東堂は薙ぎ払うが、次々と増殖する。
パンッ!! パンッ!! パンッ!! パンッ!!
手を連続で叩く。
全員の位置が空中に入れ替わる。
(だいぶ呪力を吸収されてんのに、連発できんのかよ……!!)
「白狼」
伏黒は白狼を顕現。
「呪力砲、準備」
影分身が時間を稼ぐ。
蝦蟇犬・白が東堂に絡みつき、呪力を吸う 蝦蟇犬に操作した影が導線のように伝わって最終的に
白狼へと蝦蟇犬が吸収した呪力が雪崩込む
「面白い!!」
東堂は笑うが、動きが鈍り始める。
「……術式発動に必要な呪力を」
「下回らせるつもりか!」
「違うな! それは第2の策だ」
伏黒が言う。
「本命は弱くなったお前に向けて吸収した呪力砲を放つことだ」
呪力砲が完成する──直前。
ブチィィィ
東堂が最後の力で蝦蟇犬の拘束を破る。
伏黒が放つか 東堂が仕留めるか
東堂が拳を振り上げた、その瞬間。
「止まれ」
呪言が響いた
伏黒も 東堂も 白狼の呪力砲も止まった
次の瞬間。
パンダの拳が東堂に炸裂。
「何やってんの──ー!!」
「フゥ、ギリギリセーフ」
「お゙がが! ゲホッ ゲホッ」
狗巻は格上たちに呪言を使ったため喉が疲弊する
「うんまぁアウトっちゃアウトか」
東堂は起き上がりながら言った。
「久しぶりだな、パンダ」
「なんで交流会まで我慢できないかねぇ!」
「帰った帰った! 大きい声出すぞ! いや〜んって」
「言われなくても帰るところだ」
東堂は伏黒を見る。
「伏黒 お前の下の名は何だ」
伏黒は言う
「伏黒恵」
「伏黒恵よし 覚えた」
「パンダ」
「なんだ」
「こいつは俺に匹敵する術師だ」
東堂は伏黒を指しながらそう言った
「「!」」
パンダたちは驚いた
「そして乙骨に伝えとけ」
「──お前も出ろ、と」
パンダは片言で言った。
「オレ、パンダ。ニンゲンノコトバ ワカラナイ」
「…………」
★
場面は変わる。
──────────
釘崎は、地面に倒れていた。
撃ち込まれた複数の弾丸の衝撃で、身体がうまく動かない。
真依は銃口を下ろし、興味なさげに言う。
「呪術師続けるなら、喧嘩を売る相手は選ぶことね」
その声に、苛立ちを隠さない足音が割って入った。
「……うちのパシリに何してんだよ、真依」
真希だった。真依は肩をすくめる。
「あら。落ちこぼれすぎて気がつかなかったわ、真希」
「落ちこぼれはお互い様だろ。お前だって物に呪力込めるばっかで、術式もクソもねぇじゃねえか」
「呪力がないよりマシよ 上ばかり見てると首が痛くなるから、たまにはこうして下を見ないとね」
真希は舌打ちした。
「あーやめやめ。底辺同士でみっともねえ」
そう言って、倒れている釘崎を見下ろす。
「野薔薇!! 立てるか!?」
反応はない。真依が淡々と言う。
「無理よ しばらく起きないわ。それなりに痛めつけたもの」
その瞬間──
真希の手にあった武器が、真依の眼前へ突きつけられた。
「……何? やる気?」
真依が笑った、その直後。背後から腕が回された。
「──ナイスサポート、真希さん」
いつの間にか立ち上がっていた釘崎が、真依に組み付いていた。 真依の目がわずかに見開かれる。
「おろしたてのジャージにバカスカ穴空けやがって……」
釘崎は歯を食いしばる。
「てめえのその制服、置いてけよ。私の夏服にしてやる」
「次は体の穴増やしてやるわよ。……あと、その足の長さじゃこれは着れないんじゃない?」
(おとす!!)
締め落とそうと力を込めた、その時。
「そこまでだ」
低く、よく通る声。東堂が戻ってきていた。
「帰るぞ、真依」
「なっ」
「そんな伏黒は……」
「大丈夫だ パンダたちがついてる」
「はぁ!? 私はこれから──」
「駄目だ」
東堂はきっぱりと言い切る。
「お前と違って、俺にはまだ東京に大事な用があるんだよ」
一拍置いて。
「高田ちゃんの個握がな!!」
その場の女子全員が、無言で冷たい視線を向けた。
空気が一瞬、凍る。
釘崎が呆然としていると、
「……俺を勝手に負けたことにするな」
聞き慣れた声がした。
「伏黒!」
釘崎が振り返る。
「……あんた、どうやって──」
「相手の呪力を吸収して、そのまま放とうとしたら先輩たちに止められた」
伏黒は軽く肩を回す。
「まぁ、引き分けってところだ」
東堂は満足そうに笑った。
「楽しんでるようだな」
真依は頬を膨らませる。
「冗談!! 私はこれからなんですけど!」
「乗り換えミスって、もし会場に辿り着けなかったら──俺は何しでかすかわからんぞ。ついてこい真依」
「もうっ、勝手な人!!」
去り際、真依は振り返る。
「アンタ達。交流会はこんなもんじゃすまないわよ」
「何勝った感出してんだ!!
制服置いてけゴラァ!!」
釘崎の叫びに、
「やめとけ馬鹿」
真希が止める。
「ここじゃ勝っても負けても貧乏くじだ。交流会でボコボコにすんぞ」
釘崎は少し黙ってから、真希を見る。
「……ねぇ真希さん。さっきの本当なの? 呪力がないって」
「ああ、本当だよ」
真希は眼鏡を軽く叩く。
「だからこれがねぇと呪いも見えねぇ。 私が扱うのは“呪具”。初めから呪いが籠ってるもんだ。お前らみたいに自分の呪力流してどうこうしてるわけじゃねぇよ」
釘崎は、ふと虎杖が五条に受け取っていた物を思い出す。
(……あれと同じか)
「じゃあ、なんで呪術師なんか……」
真希は少しだけ笑った。
「嫌がらせだよ」
「見下されてた。私がな。
大物術師になってみろ。家の連中、どんな面すっかな」
その笑みは、挑戦的だった。
「楽しみだ」
そして振り返る。
「オラ伏黒、野薔薇。さっさと硝子さんとこ行くぞ」
「私は真希さん尊敬してますよっ!」
「あっそ」
歩き出す二人の背中を見ながら──
伏黒は、わずかに視線を落とした。
そして、見て見ぬふりをして、助けなかった。人間がいる
兄 吉野純平
見過ごして救えるはずだった。命を手放す 自分の思い通りに未来を原作を変えていいのかという葛藤がある
(……数ヶ月すれば、みんな変わる)
夢も。
体も。
命も。
何もかもが変わってしまう。
(だから──)
伏黒は静かに拳を握る。
(俺は、未来を変える)
その決意だけが、今は確かだった。
交流戦まであともう少し
現在虎杖たちは真人と戦いが始まって あともう少しでのところで逃げられたというところです
吉野純平はもう死んでいます 伏黒なら救うことができたかもしれませんが、伏黒が考えてる。これからの計画には必要な犠牲ですが 彼はそれなりに引きずってるようです