伏黒恵の調和 (タイトル変更)   作:ゲダツ

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おかしくなった。伏黒 それは一体なぜ  そしていつからおかしくなった? 難産でした 


15 京都姉妹校交流会 4

 

教師陣も、それぞれ移動の準備を始めていた。

 

機材の確認、負傷者回収の段取り――交流会団体戦の後処理は意外と多い。

 

その中で、五条が軽く手を挙げる。 

 

 

「じゃ、僕と歌姫は生徒の回収に行ってくるよ」

 

 

振り返りもせず、いつもの調子で続けた。

 

 

「学長たちは先に戻ってて。後は任せて」

 

 

夜蛾は一瞬だけ五条を見るが、特に止めはしない。

 

 

「……分かった」

 

 

その横で、歌姫が露骨に嫌そうな顔をした。

 

 

「なんで私がアンタと一緒なのよ」

 

 

深いため息。

 

 

「……こいつと行くの、しゃくだけど」

 

 

五条はまったく気にしていない様子で笑う。

 

 

「ひどくない?」

 

「ほらほら、可愛い生徒たちを迎えに行こうじゃない」

 

「アンタが言うと腹立つのよ!!」

 

言い合いをしながら、二人は現場へ向かって歩き出した。

 

 

 

――――――――――場面転換。

 

 

 

人気のない場所。

 

交流会の区画内

 

そこに、一人の男が立っていた。

 

男は見下ろし、つまらなそうに呟く。

 

 

「でもなぁ……」

 

 

靴先で、黒い塵を軽く蹴る。

 

「呪霊はなぁ……死んだら何も残んねぇからなぁ」

 

声には、わずかな苛立ちが混じっていた。

 

「何んも作れねぇよなぁ!!」

 

次の瞬間。

 

男は懐から、異様な形状の釘を取り出した。

 

ただの釘ではない。

 

呪力を通すために加工された、儀式用の呪具。

 

それを――

 

地面へ、打ち込む。

 

ガンッ、と鈍い音が響いた。

 

「……これでいいんだっけ……」

 

少し考えるように首を傾げ、

 

すぐに思い出したように笑う。

 

「あぁ、そうだ……アレだ」

 

男は、低く唱える。

 

 

 

「闇より出でて、闇より黒く」

 

「その穢れを禊ぎ祓え」

 

 

 

次の瞬間。

 

帳が――降りた。

 

空間が、ねっとりとした闇に閉ざされていく。

 

外界との感覚が、ゆっくり遮断されていく異常な結界。

 

男はその様子を見上げ、満足そうに頷いた。

 

「おぉ、よしよし」

 

口元が歪む。

 

「……楽しみだなぁ」

 

まるで、新しい玩具を前にした子供のように。

 

ぽつりと、呟く。

 

 

 

「ハンガーラック」

 

 

 

帳の内側で、何かが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

場面は変わる。

 

 

 

森の奥。 

 

 

 

 

先ほどまでの戦闘音が嘘のように、静まり返った空間。 

 

 

 

 

その中心に――

 

恵は立っていた。

 

 

 

視線の先には、これまでとは明らかに“質”の違う存在。

 

 

 

特級呪霊。

 

 

人の形に近いが、人ではない。

 

 

木々と同化するような体表。大地に根を張ったかのような

 

そして――

 

 

その呪霊は、何かを語りかけていた。

 

 

耳には、言語として成立していない音が届く。

 

 

ざらついた、風の擦れるような、意味不明の響き。

 

 

だが。

 

 

「……音では、何を言ってるのかわからないのに」

 

 

恵は静かに言う。

 

 

「意味は理解できるね」

 

 

まるで、直接“概念”を流し込まれているような感覚だった。

 

 

「で――」

 

 

少し首を傾げる。

 

 

「なんで私の名前、知ってるの?」

 

 

敵意も警戒も、まだ表には出さない。

 

 

ただ純粋な疑問として、問いかける。

 

 

「知ってるなら、あなたの名前教えてよ」

 

 

沈黙が落ちた。

 

 

風が揺れる。

 

 

木々がざわめく。

 

 

そして、呪霊は答えた。

 

 

 

 

「――私は、花御」

 

 

 

 

「私は、この星を守りたいだけだ」

 

 

 

周囲の草木が、わずかに震える。

 

 

 

「森も」「海も」「空も」

 

 

 

「もう、我慢ならぬと泣いています」

 

 

 

恵は黙って聞いている。

 

 

 

「これ以上――人間との共存は不可能です」

 

 

 

淡々とした宣告。

 

怒りではない。

 

憎しみでもない。

 

ただ、決定事項のように。

 

 

 

「星に優しい人間がいることは、彼らも知っています」

 

「しかし――」

 

「その慈愛が、どれだけの足しになろうか」

 

 

 

花御の背後で、枝が軋む。

 

まるで時間の流れそのものを語るように。

 

 

 

「彼らは、ただ"時間"を欲している」

 

「"時間"さえあれば――」

 

「星はまた、青く輝く」

 

 

 

そして、はっきりと言った。

 

 

 

「人間のいない"時間"」

 

 

 

静かに。

 

逃げ場を与えない声音で。

 

 

 

「死して、賢者となりなさい」

 

 

 

――宣告だった。

 

 

 

数秒の沈黙。

 

恵は、わずかに息を吐き。

 

理解した、という顔で頷く。

 

 

 

「……わかりました」

 

 

 

視線を、まっすぐ花御へ向ける。

 

 

 

「じゃ――」

 

 

 

影が足元で揺れる。

 

 

 

「君は、敵だね」

 

 

 

戦闘の空気が、静かに満ち始めた。

 

 

 

 

 

 

 

帳が降りた瞬間。 

 

区画内にいた生徒たちは、一斉に異変を感じ取っていた。

 

 

ざわめきが広がる。

 

 

「……何これ?」「結界……?」

 

 

突然の事態に、誰もが足を止める。

 

 

 

――――――――――その頃。

 

虎杖と東堂は、交流戦の終了を受けて帰路につこうとしていた。

 

 

「いや〜、いい運動だったなブラザー!」

 

 

東堂が満足そうに腕を回した、その時。

 

 

空気が変わる。

 

 

視界の上空を覆う、異様な膜。

 

虎杖が目を見開いた。

 

 

「――"帳"!? なんで今!?」

 

 

 

次の瞬間。

 

 

 

うさぎ犬をかぶっている全員に、通信が入る。

 

 

 

『……こちら伏黒』

 

 

 

いつも通りの落ち着いた声。

 

だが内容は、まったく穏やかではなかった。

 

 

 

『私は現在、高専に侵入した特級呪霊と戦闘しています』

 

『この区画内に、呪詛師も数人侵入しています』

 

 

 

一瞬の沈黙。

 

そして続く報告。

 

 

 

『呪詛師は、釘状の特殊な呪具を地面に打ち込み、帳を展開しました』

 

『ですがこの帳は――』

 

 

 

わずかに間を置き、説明する。

 

 

 

『一部の人間を除いて、すべてのものが出入り可能な結界です』

 

 

 

異常な仕様だった。

 

封鎖ではない。

 

選別。

 

 

 

『逃げられる者は、すぐに離脱してください』

 

 

『戦える者は、すぐにこちらへ来てください 大規模な術を扱うので見たらすぐわかります』

 

 

 

通信が切れる。

 

 

 

――――――――――釘崎は状況を理解できず、眉をひそめた

 

「……は? 何がなんだか分かんねぇんだけど」

 

 

真希は同時に送られてきた視覚情報を確認し、吐き捨てる。

 

 

「……嘘じゃねえな。マジで特級だ」

 

 

パンダが周囲を見渡し、すぐ判断する。

 

 

「よし、俺と釘崎は戦闘不能のやつらを連れて脱出を試みる」

 

 

そして振り返る。

 

 

「棘と真希はお前は恵のサポートに行ってやれ」

 

 

狗巻は短く答えた。

 

 

「しゃけ」

 

「もちろんだ」

 

即座に、それぞれが動き出した。

 

 

 

――――――――――場面は変わる。

 

 

 

帳の外側。

 

 

五条と歌姫が、異変の中心へ向かっていた。

 

 

歌姫が空を見上げ、苛立ちを隠さない。

 

 

「……なんで帳が下りてんのよ、こんなタイミングで!」

 

 

五条は気軽な調子で言う。

 

 

「下りたところで、破りゃいい話でしょ」

 

 

そのまま、結界へ手を伸ばす。

 

 

触れた瞬間――

 

 

 

バチンッ!!

 

 

 

鋭い音と共に、五条の手が弾かれた。

 

 

 

「……あれ?」

 

 

 

わずかに目を細める。

 

歌姫が目を丸くした。

 

「ちょっと、なんでアンタが弾かれて、私が入れんのよ」

 

 

 

歌姫が試しに踏み込むと、

 

何の抵抗もなく帳の内側へ入れてしまう。

 

 

 

五条は、そこで確信した。

 

 

 

「――なるほどね」

 

 

 

軽く笑いながら言う。

 

「歌姫、先に行って」

 

そして帳を見上げた。

 

 

 

「この"帳"――」

 

「"五条悟"の侵入を拒む代わりに、その他"すべての者"が出入り可能にしてる結界だ」

 

 

 

歌姫が絶句する。

 

「……は?」

 

 

 

五条は淡々と分析を続けた。

 

 

「よほど腕の立つ呪詛師がいる」

 

「しかも、こっちの情報をある程度把握してるね」

 

わざわざ“自分だけ”を排除する仕様。

 

それが意味するものは明確だった。

 

 

 

五条は、歌姫の背中を軽く押すように言う。

 

 

「ほら、行った行った」

 

「何が目的か知らないけど――」

 

その声から、完全に軽さが消える。

 

 

 

「一人でも死んだら、僕らの負けだ」

 

 

 

帳の内側へ向かう歌姫。

 

外に残された五条は、

 

結界を見上げたまま、静かに笑った。

 

 

 

「……面白いことしてくれるじゃん」

 

 

 

その目には、はっきりとした怒気が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

――植物の軋む音が、空間全体に満ちていた。

 

 地面を突き破るように伸びる蔦。 刃のように鋭く変形する枝。 まるで森そのものが敵意を持って襲いかかってきているかのようだった。

 

 恵は低く息を吐き、足運びを止めない。

 

 

「……っ」

 

 

 迫る蔦を半歩のズレで回避し、その合間に呪力の流れを読み取る。 花御の術式は圧倒的な物量。 だが――呪力の根は、確かに存在している。

 

 

(吸えるね……少しずつでも削れる)

 

 

 恵は触れた植物から呪力を吸収し、相手の出力を削ぐ。 だが。

 

 

 花御は微動だにしなかった。

 

 

「さすがは特級……簡単には怯みませんね」

 

 

 恵が呟くと、花御は静かに答える。

 

 

「この程度で止まる命ではない」

 

 

 次の瞬間、視界いっぱいに植物の槍が展開された。

 

 

 恵は跳ぶ。 捻る。 滑るように着地し、間髪入れず印を組む。

 

 

「……使うしかないですね これを」

 

 呪力を、圧縮する。

 

 空気が軋む。 周囲の呪力が、恵の掌へと収束していく。

 

 花御が目を細めた。

 

 

「そんな大きな隙を作って良いのですか?」

 

 

 答える代わりに、恵はさらに呪力を練り上げる。

 

 圧縮。 圧縮。 圧縮。

 

 その間にも植物の攻撃は止まらない。

 

 恵は避け続ける。

 

 頬を掠める枝。 制服を裂く棘。 だが一歩も崩れない。

 

 ――そして。

 

 

「……溜まりました」

 

 

 恵が顔を上げる。

 

 

「呪力砲、放ちます」

 

 

 放たれた奔流は――

 

 花御のいる方向とは、まったく別の方角へ飛んだ。

 

 花御は動かない。

 

 

「明後日の方向に……無駄でしたね」

 

 

 そう言いかけた、その瞬間。

 

 ――背後。

 

 衝撃。

 

 呪力砲が、花御の背中へ直撃した。

 

「……?」

 

 花御の身体が揺れる。

 

「さっきのは、私を油断させるためのブラフ……」

 

 理解が追いつく。

 

「明後日の方向に飛ばした後……呪力操作で軌道を調整したのですね」

 

 直撃。

 

 特級に、確かなダメージが刻まれる。

 

 煙の中、花御は膝をつきかけ――それでも倒れない。

 

 

「……これは、一本取られました」

 

 

 身体はボロボロ。 それでも、立っている。

 

 その時だった。

 

 

「恵!」「しゃけ!」

 

 

 聞き慣れた声。

 

恵が振り向く。

 

 

「真希さん!……狗巻さん!」

 

 

 合流。

 

 花御が二人を見据え、静かに言う。

 

 

「先ほど明後日の方向へ飛ばしたのは……仲間へ正確な位置を知らせるためですか」

 

 

 恵は短く息を整え、即座に指示を出す。

 

 

「狗巻さん、あまり呪言は使わないでください」

 

 花御を睨んだまま続ける。

 

「相手は呪力砲をまともに受けても、少しボロボロになっただけです。本当に危ない時だけ使ってください」 

 

 

「しゃけ」

 

 

 了解の返事。

 

 恵は次に視線を真希へ向ける。

 

 

「真希さんは、特級呪具で戦ってください」

 

 

 真希は鼻で笑う。

 

「言われなくても使う」

 

 

 花御が静かに手を上げた。

 

 

「作戦タイムは終わりですか? では――こちらから行きますよ」

 

 

 地面が爆ぜる。

 

 

 無数の植物が津波のように押し寄せた。

 

 

「……っ!」

 

 

 恵は前へ出る。

 

 掌に呪力を集束。

 

 

「連射します!」

 

 

 複数の呪力砲が放たれ、迫る植物群を次々と消し飛ばす。

 

 爆ぜる。 抉る。 道を強引に切り開く。

 

 

「真希さん! 早く呪具を出してください!」 

 

 

「だから急かすなっての!」

 

 

 真希は背後へ手を伸ばす。 体に巻き付いている武器庫呪霊から取り出したのは――

 

 かつて夏油傑が使った特級呪具。

 

 

「遊雲」

 

 

 手にした瞬間、真希の表情がわずかに歪む。

 

「これ使うのは――胸糞悪ぃんだよ」

 

 だが、構える動作に迷いはなかった。

 

真希は地面を蹴った。

 

 一瞬で間合いを詰める。

 

「――らァッ!!」

 

 振り抜かれた遊雲が、空気ごと叩き潰す。

 

 直撃。

 

 花御の巨体が弾き飛ばされ、そのまま木々をなぎ倒しながら池まで吹き飛んだ。

 

 

 水面が爆ぜる。

 

 

 大量の水しぶきが舞い上がった。

 

 花御はゆっくりと身を起こす。

 

 

「……確かに。これは、いいものだ」

 

 

 感心するような声音だった。

 

 

 

 その隙に。

 

 恵はすでに次の呪力砲のためを終えていた。

 

 

(捕捉完了)

 

 

「――放ちます」

 

 

 圧縮された呪力が一直線に走る。

 

 

 回避する間もなく、花御へ直撃。

 

 

 爆発。

 

 

 煙が上がる。

 

 

 花御の身体はさらに損壊し、焼け焦げていた。

 

 

 

 

 真希が追撃に入る。

 

 

「終わりだ――!」

 

 

 再び遊雲を振り下ろそうとした、その瞬間。

 

 

 

 足元の植物が蠢いた。

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

 絡みつく根が真希の体勢を崩す。

 

 その一瞬を、花御は逃さなかった。

 

 無数の植物が槍となって集中する。

 

 倒れた真希へ、一斉に突き刺さろうとする。

 

 

 

「させません!」

 

 

 恵が呪力砲を連射。

 

 次々と植物を撃ち抜き、軌道を逸らす。

 

 爆発の連続が、真希の周囲を強引にこじ開けた。

 

 

 

「……すまねぇ!」

 

 真希が舌打ち混じりに言う。

 

 恵は即座に返す。

 

「謝る暇があるなら攻撃してください!」

 

 

 

「言われなくても分かってんだよ!」

 

 真希が再び踏み込み、遊雲を叩き込む。

 

 恵は間髪入れず援護射撃。

 

 呪力砲が植物を焼き払い、花御の動きを削ぐ。

 

 

 

 少しずつ。

 

 本当に少しずつだが。

 

 花御の身体は確実にボロボロになっていった。

 

 

 

 ――その時。

 

 

 

 恵の腹部に、違和感が走った。

 

 

「……?」

 

 

 視線を落とす。

 

 制服を突き破り、小さな芽が生えている。

 

 瞬時に理解した。

 

(これは……呪力を吸って成長する植物……!)

 

 恵は即座に呪力の供給を抑え、手で引き抜こうとする。

 

 

 

 だが。

 

 

 

 花御は、その隙を待っていた。

 

 

 

 踏み込み。

 

 拳が振り下ろされる。

 

 鈍い衝撃音。

 

 恵の頭部へ、強烈な一撃が叩き込まれた。

 

 

 

「恵!!」

 

 真希が叫ぶ。

 

 だが、その背後から――

 

 植物の槍が突き出した。

 

 真希の身体を貫き、そのまま拘束するように絡み上げる。

 

 

 

「……っ、クソ……!」

 

 

 

 動けない。

 

 締め上げられる。

 

 

 

 その瞬間。

 

 

 

 上空から、二つの影が落ちてきた。

 

 

 

 ――ドォンッ!!

 

 

 

 着地の衝撃で植物が吹き飛ぶ。

 

 拘束が砕け散った。

 

 

 

「遅くなったな!」

 

 響く低い声。

 

 

 

「大丈夫か真希先輩!?」

 

 

 

 真希を庇うように立っていたのは――

 

 東堂と虎杖だった。

 

 

 

 恵が顔を上げる。

 

「……東堂さん……虎杖さん……!」

 

 安堵が滲む。

 

 

 

 東堂は拳を鳴らし、花御を見据える。

 

「行けるか――マイフレンド」

 

 虎杖は、迷いなく前へ出た。

 

「――応ッ!!」   

 

 

 

恵は呼吸を整えながら、すぐに口を開いた。

 

 

「二人とも聞いてください!」

 

 

 東堂と虎杖の視線が向く。

 

「種を体に埋め込み、呪力を吸って体に根を張る植物があります。長引けばこちらが削られます」

 

 

 短く、的確な情報共有。

 

 東堂は満足そうに頷いた。

 

 

「ありがとう、伏黒」

 

 

 その時――

 

 

「おーい、回収だ回収!」

 

 パンダと狗巻が現れた。

 

 拘束されていた真希を抱え上げ、体に巻き付いた武器庫呪霊ごと担ぐ。

 

 

「とりあえず戦闘不能組は離脱だ。伏黒、お前も連れて行くぞ」

 

 だが恵は首を振った。

 

「……いや 私はまだ戦えます。策があります」

 

 

「はぁ?」

 

 パンダが眉をひそめる。

 

「ここで削らないと、後が危ないです。時間を稼いでください」

 

 

 数秒の沈黙。

 

 パンダはため息をついた。

 

「……無茶しやがって。死ぬなよ」

 

「はい」

 

 パンダと狗巻は真希を担いだまま、その場を離脱した。

 

 

 

 東堂が前に出る。

 

「俺は手を出さんぞ」

 

 虎杖を見る。

 

「虎杖――お前が『黒閃』をキメるまでな」

 

 静かに言い放つ。

 

「『黒閃』をキメられず、お前がどんな目に遭おうと……俺はお前を見殺しにする!!」

 

 虎杖は一瞬も迷わない。

 

「押忍!!」

 

 

 

 そのやり取りの背後で――

 

 恵は呪力を圧縮していた。

 

(……時間、もらいました)

 

 

 

 一方、花御は動かない。

 

 何かを観察するように、二人を見ている。

 

 

 

 虎杖が口を開いた。

 

「なあ、お前……話せるのか?」

 

 花御は答える。

 

「ええ」

 

「じゃあ一つ聞きたいことがある」

 

 虎杖の目が鋭くなる。

 

「お前の仲間に……つぎはぎ面の人型呪霊はいるか?」

 

 わずかな間。

 

「……いる といったら」

 

 次の瞬間、虎杖が水しぶきを上げて移動した。

 

 だが距離は詰め切らない。

 

 花御が言う。

 

「無警戒に距離を詰めない。そこは評価します」

 

 

 

 虎杖は植物に触れそうになる軌道を利用し、花御へ蹴りを叩き込む。

 

 連撃。

 

 胴体ががら空きになる。

 

(今だ!!)

 

「黒閃ッ!!」

 

 だが。

 

 タイミングがズレた。

 

 発動しない。

 

 植物が襲い、虎杖は後退を余儀なくされる。

 

 

 

 ――バチンッ!!

 

 

 

 東堂の平手打ちが炸裂した。

 

「マイフレンド」

 

 低く語る。

 

「"怒り"は術師にとって重要なトリガーだ。相手を怒らせた結果、格下に遅れを取ることもある」

 

 

 さらに言葉を重ねる。

 

「逆もまた然り。"怒り"で呪力を乱し、実力を発揮できず負けることもな」

 

 

 もう一度、平手打ち。

 

「傷つけられ……そして何より親友である俺との蜜月に水を差され……お前が怒髪衝天に陥るのは理解できる」

 

 東堂は虎杖の目を覗き込む。

 

「だが、その怒り……お前には余る。今は収めろ」

 

 

 

「消えたか? 雑念は」

 

 虎杖は答える。

 

「ああ……雲ひとつもねぇ」

 

 

 

 構える。

 

 呼吸が止まるほどの集中。

 

 唾液が地面に落ちた。

 

 

 

「――黒閃」

 

 

黒い火花が散る 衝撃が空間を歪めた。

 

 東堂が笑う。

 

「成ったな」

 

 虎杖が呟く。

 

「今のが……黒閃……?」

 

 東堂は説明する。

 

「"味"を理解したんだ。呪力という食材の味をな」

 

「今までのお前は、知らない食材を適当に鍋に放り込んでいた状態だ」

 

「だが今は違う」

 

 断言する。

 

「呪術師として、三秒前とは別次元に立っている」

 

「ブラザー――お前は強くなれる」

 

 

 

 花御は損傷した体を修復し始める。

 

「治んのか!?」

 

 虎杖が驚く。

 

 東堂が解説する。

 

 

「呪霊の体は呪力でできている。俺たちと違い、治癒に反転術式は要らん」

 

「特級なら修復も可能だ。だが確実に呪力は削れる」

 

 拳を鳴らす。

 

「急所を潰せば終了だ。さあ――調理を始めようか」

 

 

 

 その時。

 

「私を仲間外れにしないでくださいね」

 

 二人の背後から声。

 

 恵だった。

 

「時間稼ぎ、ありがとうございます。おかげで最大出力の呪力砲が放てます」

 

 掌に収束する膨大な呪力。

 

「――放ちます」

 

 

 

 轟音。

 

 最大出力の呪力砲が直撃。

 

 直線上にあった草木がすべて消し飛んだ。

 

 

 

 花御は修復するが、明らかに消耗している。

 

「……残り呪力は、もう僅か」

 

 静かに言う。

 

「ここで本気を出さねばなりません」

 

 左手の袋を解いた。

 

 

 

 次の瞬間。

 

 広範囲に、とてつもない量の植物が噴き出す。

 

 

 

 恵は落ちていた遊雲を拾う。

 

「借ります」

 

 踏み込み、殴打。

 

 そのまま東堂へ投げ渡す。

 

「東堂さん!」

 

「任された!」

 

 東堂が受け取り、全力で叩き込む。

 

 凄まじい衝撃。

 

 花御へ大ダメージが入る。

 

 

 

 恵が呪力を込める。

 

 放つ。

 

「黒閃」

 

黒い火花が散る

 

虎杖の黒閃の余波と重なり、花御ははるか遠方へ吹き飛んだ。

 

 

 

 追撃しようとした、その瞬間。

 

 

 

 帳が――解除された。

 

 

 

 外から現れたのは。

 

 五条悟。

 

 

 

「遅くなってごめんね」

 

 軽い口調。

 

 だが次の瞬間。

 

 花御へ向けて放たれる。

 

 

 

 虚式「紫」。

 

 

 

 空間ごと抉り取る一撃が、戦場を貫いた。

 

 

 

 ――戦闘終了。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 恵たちは合流地点へ戻る。そこには教師陣、京都校のみんなが揃っている 

 

 

恵が安堵した。

 

 

 だが、その時。

 

 

 

 伏黒恵の姿が、ふっと歪む。

 

「もう限界ですね」

 

「……え?」

 

 輪郭が崩れる。

 

 影のように解けていく。

 

 そこに立っていたのは――

 

 一体の式神。

 

 白狼だった。

 

 場が、凍りつく。

 

「……は?」

 

 虎杖が固まる。

 

「伏黒……じゃねえ……?」

 

 パンダが目を見開く。

 

「おいおいおい……どういうことだ?」

 

 真希も言葉を失う。

 

「……式神? じゃあ今までの伏黒は――」

 

 

 白狼は静かに彼らを見返していた。

 

 まるで、役目を終えたかのように。

 

 

 

 その場にいた全員が理解できず、ただ立ち尽くすしかなかった。

 

 

 




はい、というわけで 口調や一人称が変だったのは 白狼が途中でたなり替わってたってことです しかし、本物はいつ白狼と入れ替わった? そして本物はどこ? あと!花御との戦いてわ式神を使わなかったのは自分が式神だったからです
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