白い空間の中心。
伏黒は一歩進み、静かに頭を下げた。
「聞きたいことが、複数あります」
天元は微動だにしない。
ただ、空間そのものがこちらを見ているような圧がある。
「言ってみなさい」
伏黒は息を整える。
「一つ目は――」
「シン・陰流の当主の居場所」
わずかに空気が揺れる。
天元は、淡々と返す。
「……知っているだろう?」
伏黒の瞳が揺れない。
「ええ。おおよその見当は」
天元の声がわずかに低くなる。
「では、それを知って何をする?」
試す声。
伏黒は即答する。
「簡易領域を、一般術師に普及させます」
間。
「そして、シン・陰流の門弟たちに課せられた理不尽な縛りを解きたい」
白い空間が、わずかに軋む。
天元はしばらく沈黙した。
「なるほど」
「理由は通る」
伏黒の胸の奥が、ほんの僅かに緩む。
だが表情は変えない。
「二つ目は?」
伏黒は言う。
「結界術の知識の受け渡しです」
「完全な継承でなくても構いません」
「コピーされたものでもいい」
天元は興味深そうに沈黙する。
「……一応、可能だ」
「だが」
空間が近づく。
「そこまでして、私に会いに来る理由は何だ?」
伏黒の喉が、わずかに鳴る。
ここが本題だ。
伏黒は視線を逸らさない。
「俺は……」
言葉を選ぶ。
だが、途中で諦める。
飾るのをやめる。
「助けたい人がいるんです」
天元は無言。
伏黒の拳が、わずかに震える。
「でも、全員は助けられないと思ってる」
息が荒くなる。
「好きな人もいます」
言った瞬間、わずかに頬が強張る。
「仲間もいます」
「全員助けたい」
声が低くなる。
「でも、どこかでこぼれが出る」
歯を食いしばる。
「それが、気に入らない」
視線が鋭くなる。
「呪術界を……世界を、少しでもマシな未来にしたい」
「そのために、力がいる」
沈黙。
白い世界が、しんと静まる。
天元はゆっくりと言う。
「……私は、人の心までは分からない」
「だが」
「嘘は感じない」
伏黒の胸の鼓動が強くなる。
「よかろう」
空間が、わずかに温度を持つ。
「情報を渡そう」
天元が手を差し出す。
人の形をしているが、
指の数も、関節も曖昧だ。
伏黒は一瞬だけ迷う。
(ここで拒絶されたら終わりだ)
覚悟を決める。
その手を、握る。
瞬間。
膨大な情報が流れ込む。
「っ……!」
視界が白く弾ける。
結界術の構造。
重層結界の理論。
呪力循環の補助式。
空間固定の応用。
結界と領域展開の差異。
脳が悲鳴を上げる。
伏黒は膝をつく。
「ぐ……っ……!」
頭が割れそうになる。
意識が飛びかける。
天元はそれを静かに見下ろす。
「結界術のみだ」
「それ以上は与えない」
伏黒の呼吸が荒い。
それでも、意識を手放さない。
(……覚えろ……全部だ)
歯を食いしばる。
天元は言う。
「君ならば、何かを変えられるだろう」
声は静かだが、
確信を含んでいる。
伏黒の視界が揺れる。
最後に見えたのは、白い空間。
次の瞬間――
景色が変わる。
薄暗い部屋。
見慣れた天井。
自分のベッド。
高専の、自室。
伏黒はそのまま倒れ込む。
荒い呼吸。
額には汗。
頭の奥に、確かに残る知識。
(結界術……だけか)
だが、それで十分だ。
ゆっくりと瞼が落ちる。
静寂。
伏黒はそのまま、深い眠りに落ちた。
短くてごめんね!!!!