やっぱり上の評価が欲しい! 欲しすぎる! 欲しいんだよ〜
第2体育館。
パンダVS東堂葵の試合は、まだ続いていた。
鈍い衝撃音が、壁越しに第1体育館まで響いてくる。
床を踏み砕く音。
重量同士がぶつかる轟音。
東京校控えテントでも、その激しさは十分伝わっていた。
虎杖は思わず顔を引きつらせる。
「いや、ヤバくねぇかあれ……」
釘崎も眉をひそめる。
「壁越しでこれってどうなってんのよ……」
真希は腕を組んだまま鼻で笑う。
「東堂もパンダも真正面から殴り合うタイプだからな」
その直後。
館内放送が響く。
『第4試合、勝者――狗巻棘』
『試合終了です』
東京校の空気が少しだけ動く。
「お、棘先輩勝ったか」
虎杖が言う。
真希は当然と言わんばかりに頷いた。
「まぁあいつならそうなる」
釘崎は少し感心したように、
「三輪相手でも容赦ないわね……」
と呟く。
その頃。
狗巻は第1体育館の通路を静かに歩いていた。
喉を押さえながら、小さく息を吐く。
呪言の反動は軽くはない。
だが歩みに乱れはなかった。
その姿を見た東京校側の補助監督が、
「お疲れ様です」
と頭を下げる。
狗巻は小さく、
「しゃけ」
と返した。
そして――
東京校控えテント。
伏黒恵は静かに座っていた。
すでに準備は終えている。
制服の袖を整え、靴紐を結び直し、呼吸を整える。
視線は静かだ。
だがその奥では、熱が燃えていた。
(ここからだ)
(ここからが本番)
(連戦――上等)
(全員、ぶっ潰してやる)
(俺が勝つ)
その時。
テントの入口が開く。
「伏黒さん。特別試合です。10分以内に準備を済ませてください」
補助監督の声。
ついに呼ばれた。
伏黒は静かに立ち上がる。
その空気の変化に、虎杖が気づく。
「……伏黒?」
釘崎も少し目を細めた。
「なんか急に空気変わったわね」
真希は口元を上げる。
「やっとスイッチ入ったか」
伏黒はそのまま歩き出そうとする。
その背中を、虎杖が軽く叩いた。
「おい、伏黒」
伏黒は振り返る。
虎杖は笑っていた。
「大丈夫か?」
伏黒は一瞬だけ目を閉じる。
胸の奥で燃えていた熱を、ゆっくり押し込める。
そして静かに息を吐いた。
「……大丈夫だ」
虎杖は笑う。
「ならよし!」
真希は背中越しに言う。
「死ぬほど暴れてこい」
釘崎も腕を組みながら、
「MVP様なんだから、無様晒すんじゃないわよ」
伏黒は数秒黙り、
「……プレッシャーかけるの好きですね、みんな」
と小さく返した。
だがその声には、もう迷いはなかった。
★〜
伏黒が第1体育館へ到着した頃。
結界によって拡張された戦場は、先程までとは少し空気が違っていた。
伏黒はゆっくり視線を前へ向け――止まる。
「……は?」
そこに立っていたのは、
1回戦で敗北した加茂憲紀。
そして、
2回戦で敗北した禪院真衣。
伏黒は数秒沈黙したあと、素で口に出した。
「個人戦じゃねぇじゃん……」
加茂は静かに腕を組む。
「だからこその特別戦なのだろう」
真衣は肩を竦めながら笑った。
「悪く思わないでね、伏黒君」
伏黒は二人を観察する。
加茂の体にはまだ包帯が残っている。真衣の足取りも万全ではない包帯は少し血が滲んでいる
どう見ても手負いだった。
伏黒は眉をひそめる。
「……2人とも結構な傷負ってるのに」
「大丈夫なんですか?」
「それで私に勝てますか?」
その言葉に、真衣が少しムッとする。
「言うようになったじゃない」
加茂は真っ直ぐ伏黒を見る。
「無論だ」
「こちらも勝つために来ている」
真衣も拳銃を回しながら言う。
「勝つためにはしょうがないからね」
伏黒は思う。
(いや普通に理不尽だろ)
(手負い二人とはいえ、連携されたら普通に面倒だぞ)
(しかも俺はこの後も連戦確定)
(五条先生、絶対面白がってるな……)
その時。
壇上へ五条が飛び乗る。
「はーい注目ー!」
軽い声が体育館に響いた。
五条は楽しそうに笑いながら説明を始める。
「今回の特別戦はぁー!」
「2対1!」
「加茂憲紀&禪院真衣VS伏黒恵!」
少し間を置き、さらに続ける。
「恵側は相手を全員倒さないと勝利になりませーん」
「憲紀と真衣は、相手一人を倒せば勝利ね」
伏黒は無言。
真衣はニヤつく。
加茂は静かに目を閉じる。
五条はさらに笑顔で続けた。
「でもまぁー、一回負けた側は手負いでどこまで行けるかわかんないし?」
「恵はこの後も連戦だから、力をセーブする必要もあるし?」
「そこんとこ頑張ってー」
伏黒は思う。
(説明の全部が嫌すぎる)
(誰も俺の負担を軽くしようとしてない)
(教師としてどうなんだこれ)
その時、真衣が小さく笑った。
「伏黒君、顔に出てるわよ」
加茂も珍しく口元を緩める。
「少々同情する」
伏黒は真顔で返す。
「だったら辞退してください」
「断る」
「断るわ」
綺麗に重なった。
伏黒は小さくため息を吐く。
その空気を断ち切るように、五条が手を振り上げる。
「それじゃ!」
「特別戦第一試合――開始!!」
★
特別戦開始
だが、開始と同時に伏黒は動かなかった。
むしろ口を開く。
「赤血操術は血液を操る術式っていうのは知ってますよね?」
加茂は怪訝そうに眉をひそめた。
「そうだが、それがどうした?」
伏黒は淡々と続ける。
「それに比べて俺の術式は影を媒体とした式神を顕現する術式――十種影法術」
「影は操ることは――」
「できないだろう」
加茂が弓を構えながら言った。
御三家の術式。
当然知識はある。
十種影法術において影はあくまで媒体。
式神を出し入れするためのものだ。
伏黒は小さく頷く。
「ええ。その通りです」
そして僅かに口元を上げた。
「縛りを除いての話ですが……」
加茂の目が見開かれる。
「なに?」
次の瞬間。
伏黒の足元から黒い影が溢れ出した。
まるで静かな波。
だがその量は異常だった。
床を這うように広がり、
加茂へ、
真衣へ、
そして戦場全体へと侵食していく。
「なっ――!?」
加茂は思わず後退する。
だが遅い。
影はすでに二人の足元近くまで到達していた。
真衣も目を見開く。
「何この量……」
影は止まらない。
床を影染める。
飲み込む。
まるで体育館そのものが黒く塗り潰されていくかのようだった。
加茂は状況を分析する。
(違う……)
(ただ影を広げているだけじゃない)
(呪力の密度が異常だ)
(まさか……)
そして一つの結論に辿り着く。
(縛りで影を操れるようになったのか!?)
加茂の額に汗が流れる。
御三家の術師だからこそ分かる。
これは本来の十種影法術ではない。
明らかに拡張術式だ。
伏黒は二人を見ながら静かに言った。
「これが俺の縛りによって生み出した拡張術式」
さらに影が広がる。
二人の周囲に逃げ場はない。
影のない床まで距離がありすぎる。
今から走っても簡単には抜けられない。
伏黒はそのまま告げる。
「影操術」
その声は落ち着いていた。
だが、
どこか自信に満ちていた。
「――とくとご覧あれ」
加茂は弓を引き絞る。
真衣は銃を構える。
「私が隙を作る。その隙に前へ撃ってくれ!」
そう叫びながら赤鱗躍動を発動する。額に文様が浮かび、身体能力が一気に引き上げられる。
だが――。
「……真衣?」
返事がない。加茂は違和感を覚え、横を見る。
「なっ――」
真衣はすでに影の触手によって壁際へと拘束されていた。
両腕も胴も固定され、さらに口まで影で塞がれている。
必死にもがいているが動けない。
「んっ!! んーーっ!!」
「真衣!!」
加茂は即座に救出へ向かう。その瞬間。
「隙ありです」
伏黒が加茂の死角から現れた。
拳が横腹へと叩き込まれる。
加茂の身体が吹き飛んだ。
「ぐっ……!!」
床を転がりながらも立ち上がる。
伏黒は淡々と言った。
「やってくださいよ、穿血を」
「……何?」
「ための時間くらいは与えますので」
加茂の眉が動く。
「言ってくれる」
「ならばそれに応えよう」
懐から輸血パックを取り出す。
百斂。圧縮。高密度化。
血液が術式によって一点へ収束していく。
対する伏黒は。
影を盛り上がらせた。
黒い液体のような影が集まり、巨大な球体となる。
伏黒はその内部へ姿を消した。
加茂は息を整える。
「その程度で防げると思うな」
百斂が終わり放つ。
「穿血!!」
圧縮された血液が超高速で放たれる。
一直線。
影の球体へ命中。貫通。
球体に穴が空いた。
「当たった!」
加茂は即座に接近する。
しかし。
崩れた球体の中に伏黒の姿はなかった。
「どこに――」
言い終わる前だった。影から手が伸びる。
加茂の足首を掴んだ。
「なっ!?」
「下ですよ」
影が加茂を飲み込もうとする。
加茂は即座に抵抗した。
「くっ……!」
伏黒は影へ任せるように後退しながら言う。
「引きずり込むのは影に任せます」
そして自らも攻撃へ移る。
加茂は咄嗟に弓を構えた。
最大まで引き絞る。
「舐めるな!!」
矢を放つ。
その反動で自ら後方へ飛び、影から脱出する。
距離を取ることには成功した。
だが。
伏黒は複数の影の触手で矢を受け止めていた。
止めた矢をそのまま床へ捨てる。
「今ので…」
伏黒が小さく呟く。
「この技、使える気がします」
加茂の嫌な予感が膨らむ。
床の影が大きくうねった。
巨大な手。影で構成された腕が二本。
床から生える。
その両手が合わせられる。手の先端は加茂へ向いていた。
加茂の目が見開かれる。
「まさか……!」
伏黒は静かに告げた。
「穿水」
次の瞬間。
圧縮された水流がレーザーのように放たれた。
加茂は横へ跳ぶ。紙一重。
水流が通り過ぎる。だが威力は理解できた。
(穿血の模倣……!?さっきの一瞬 で 理解したのか!)
加茂はすぐに分析する。
(穿血の弱点は初速だ。初速を避ければ速度は落ちる)
ならば近付く。
近接戦へ持ち込む。加茂は駆け出した。
しかし。
別方向の影が盛り上がる。再び巨大な手。
いや。
一つではない。
二つ目。
三つ目。
四つ目。
複数の巨大な影手が床から出現する。
それぞれが手を合わせる。
照準は加茂。
真衣は拘束の隙間から叫んだ。
「後ろ!!」
加茂は振り返る。
「穿水。」
水のレーザーが放たれる。
「ぐっ!!」
加茂は両腕で受け流した。
腕には血液を硬化させた防御が施されている。
だから耐えられた。
だが。
「終わりです」
伏黒の声。加茂が周囲を見る。
影の両手。
一つ。二つ。三つ。四つ。五つ。六つ……と
次々と現れる。
完全包囲。逃げ道はない。
加茂は静かに息を吐いた。
「……詰みか」
伏黒は構えを解かない。加茂も理解していた。
ここから先は防ぎ切れない。
壇上から声が響く。
「試合終了!!」
五条悟だった。
「勝者――伏黒恵!!」
加茂は苦笑する。
「完敗だな」
伏黒もようやく肩の力を抜いた。
「ありがとうございました」
拘束されていた真衣は不満そうに舌打ちする。
「最悪……」
特別戦第一試合。
勝者、伏黒恵。
こうして伏黒は最初の試練を突破したのだった。
難産でした
とても難しかったです違和感が所々にありますが、その辺は許してくれると幸いです