休憩時間は終わりを告げた。
第一体育館。
結界によって拡張された戦闘空間の中央で、
二人の術師が向かい合う。
虎杖悠仁。
釘崎野薔薇。
同じ東京校の仲間同士。だが今は対戦相手だった。
虎杖は肩を回しながら前へ出る。
「本気で行くからな」
釘崎は鼻で笑う。
「ハッ」
金槌を肩に担ぎ上げた。
「かかってこい 釘だるまにしてやる!」
二人とも引く気はない。
普段なら言い合いで終わるやり取りも、
今は試合前の火花だった。
少し離れた壇上。
今回の試合の審判を任された一級術師が前へ出る。
七海建人
七海は二人を順番に見た。
「双方用意はできましたね」
虎杖は拳を握る。
「はい」
釘崎も構える。
「いつでも」
七海は小さく頷いた。余計な言葉はない。
ただ試合を成立させるための確認だけ。
そして静かに右手を上げる。
「それでは――」
空気が張り詰める。
虎杖は重心を落とす。釘崎は金槌を握り直した。
二人の視線が交差する。
仲間としてではない。術師として。
勝利を奪い合う相手として。
七海の手が振り下ろされた。
「試合開始」
試合開始の合図と同時に、釘崎が先に動いた。
「まずは様子見なんてしないわよ!」
金槌を振り抜く。放たれた釘が一直線に虎杖へ向かう。
虎杖は即座に反応した。
体を傾け、横へ飛ぶ。
「甘い!」
避けながらも距離を詰める。
釘崎は舌打ちした。
「近づかせるかっての!」
左手でネイルガンを引き抜く。金槌を握ったまま、連続で釘を撃ち出した。
釘が次々と飛来する。
虎杖は避けながら前進する。
(近づかれたら終わる)
釘崎は冷静だった。
(アイツのフィジカルは異常。
接近戦に入ったらこっちがジリ貧になる)
釘を撃ちながら考える。
(チャンスを作らないと)
虎杖は釘を避け続ける。
「くそっ!」
脳裏に伏黒の顔が浮かんだ。
(伏黒のやつ、こういう時にアドバイスくらいくれてもいいだろ)
目の前を釘が掠める。
「っと! あぶねぇ!」
寸前で回避。しかし次の瞬間。
虎杖は自分の考えに気付く。
(何で俺、こんな消極的なんだ?)
伏黒の姿が脳裏によぎる。交流会。特級呪霊との戦い。
天元との接触。次々と前へ進んでいく背中。
(あいつは俺たちを待たない)
(構わず先へ行く)
(だったら――)
その時だった。
釘が数本、虎杖の腕や肩へ突き刺さる。
釘崎が目を見開いた。
「なっ」
本来なら避けられたはずだった。だが虎杖は止まらない。
むしろ前へ出る。
「全力でやる」
その一言だった。虎杖の目が変わる。
釘崎の背筋がぞくりと震えた。
「来る!」
ネイルガンを乱射する。
だが虎杖は止まらない。釘を受けながら距離を詰める。
「オラァッ!」
拳が振り抜かれた。
釘崎は咄嗟にガードする。だが衝撃は消えない。
「ぐっ!」
体ごと吹き飛ばされる。
何度か床を転がったあと、すぐに立ち上がる。
「馬鹿力すぎるでしょ!」
愚痴を吐く。
だが虎杖は待たない。再び突っ込んでくる。
釘崎は床へ向けて釘を打ち込む。
さらに数本の釘を地面へ落とした。
虎杖は眉をひそめる。意味が分からない。
だが釘崎は笑った。
「簪」
術式発動。落ちていた釘が一斉に反応する。
床へ加速して突き刺さる。
そして周囲に散らばっていた釘が――
虎杖へ向かって殺到した。
「っ!」
虎杖は理解する。
(術式を使わなかったのはこれか!)
(床に釘が溜まるほど後で一気に襲ってくる!)
釘の雨。全方向から迫る。虎杖は呪力で防御する。
だが完全には防げない。無数の衝撃が蓄積していく。
その隙だった。釘崎が飛び込む。
(置いていかれない)
伏黒。
虎杖。
真希さん。
東堂。
交流会で見た強者たち。
(私はアイツらに置いていかれない)
(私は私の強さを証明する)
金槌を振り抜く。
「らあっ!!」
黒い火花。空間が歪む。黒閃。
虎杖の体が吹き飛んだ。釘崎は荒い息を吐く。
「しゃあ……!」
確かな手応え。
だが。虎杖は立ち上がった。
ふらつきながらも。確実に。
釘のダメージ。黒閃のダメージ。
どちらも効いている。
だが。
虎杖の周囲から呪力が溢れ出した。
釘崎の顔から笑みが消える。
「……嘘でしょ」
虎杖は拳を握る。
「ここで負けるわけにはいかねぇ」
呪力がさらに膨れ上がる。
「特級に勝つためには」
「もっと強くならなきゃいけねぇんだ」
「俺は伏黒に追いつく!」
地面が砕ける。
一瞬で距離が消えた。
釘崎の目が見開かれる。
(早い!)
(ギアが上がった!?)
ネイルガンを撃つ。
釘を放つ。牽制する。
だが。
虎杖は拳で釘を叩き落とした。
そのまま前へ。釘を受けながら。
止まらず。近づく。
「くっ!」
釘崎が攻撃を仕掛ける。
しかし。虎杖の拳が先だった。
武器を握る腕へ直撃。
金槌が飛ぶ。ネイルガンも吹き飛ぶ。
「しまっ――」
次の瞬間。
釘崎を殴打する
連続攻撃。
釘崎の体が揺れる。
だが釘崎は笑った。
(まだだ)
(まだ口の中に――)
釘がある。
そう思った瞬間。
衝撃が走る。
逕庭拳。時間差の二重打撃。
それが複数起きる
「っ!?」
予想外の追撃。
体勢が崩れる。隙が生まれる。
釘崎の脳裏に警鐘が鳴った。
(しまった)
虎杖は拳を引く。
集中。呪力。一致。
そして。
「黒閃!」
黒い火花が炸裂した。
釘崎の体が吹き飛ぶ。遥か後方へ。
床を転がり。
壁際で止まる。立とうとする。
だが。
足が動かない。指一本すら言うことを聞かない。
(やば)
苦笑する。
(マジで一歩も動けねぇ)
その時。七海の声が響いた。
「試合終了」
静かな宣告。
「勝者――虎杖悠仁」
こうして二回戦第一試合は終了した。
勝ったのは虎杖。
だが釘崎もまた、黒閃を成功させるという
大きな成果を残したのだった。
少し変えて執筆してみました
違和感などあったら随時教えてくださると幸いです