控室。
伏黒恵は椅子に腰掛け、静かに目を閉じていた。
特別戦。
加茂憲紀と禪院真依を相手にした二対一。
勝ちはした。
だが消耗がなかったわけではない。
影操術。
影分身。
万象
複数の術式運用。
負担は確実に積み重なっていた。
「……」
静かに息を吐く。
次の試合。
準決勝。
相手はまだ決まっていない。
だからこそ今は休む。
そう判断していた。
その時。
控室の扉が開く。
補助監督が入ってきた。
「伏黒さん」
「結果が出ました」
伏黒が目を開く。
「そうですか」
補助監督は資料を見ながら続ける。
「釘崎野薔薇さん」
「狗巻棘さん」
「両名リタイアです」
「……」
伏黒は短く頷いた。
予想通り。とは言えない。
釘崎は勝つ可能性もあった。
だが結果は結果だ。
「詳細を聞いても?」
「ええ」
★
補助監督は説明を始めた。
第2体育館。
広いフロアの中央。
向かい合うのは禪院真希と禪院真依。
姉妹。
だが、その空気は家族のものではなかった。
「来ないでよ、お姉ちゃん」
真依が拳銃を構える。
真希は肩に巻き付いている武器庫呪霊を軽く叩いた。
「嫌だね」
「試合開始ィィー!」
開始の合図。
同時に銃声が響いた。
ダンッ!!
真依の初弾。
真希は半歩横へずれて回避する。
さらに二発。
三発。
連続射撃。
だが真希は止まらない。
避ける。
弾く。
走る。
一直線に距離を詰める。
「相変わらず化け物かよ!!」
真依が舌打ちした。
「そっちこそ相変わらず口悪いな」
真希が笑う。
真依は後方へ飛ぶ。
射線確保。
連射。
だが。
真希は肩の呪霊へ声をかけた。
「アモリィー」
武器庫呪霊が口を開く。
ずるり。
長い鎖付き鉤爪が吐き出された。
「またそれ!?」
真依の顔が引きつる。
真希は鉤爪を体育館の天井付近へ投げた。
ガキィン!!
鉄骨へ突き刺さる。
そのまま鎖を引き、身体を射出。
一気に距離を縮める。
「速っ――!?」
真依が慌てて照準を修正する。
だがもう遅い。
真希は目前まで迫っていた。
「近づくな!!」
真依が叫ぶ。
「嫌だって言ってんだろ」
真希が拳を振るう。
真依は咄嗟に腕で防御。
衝撃。
吹き飛ばされる。
体育館の床を滑る。
「っ……!」
立ち上がる。
即座に発砲。
真希は呪具で弾く。
火花が散った。
「なんで戻ってくるのよ!!」
真依が叫ぶ。
「禪院家なんか出てけばよかったじゃん!!」
真希は少しだけ眉を動かした。
「また出たぞ」
「その話」
「答えろよ!!」
真依がさらに撃つ。
撃つ。
撃つ。
体育館中に銃声が響く。
「アンタは才能も!」
撃つ
「強さも!」
撃つ
「自由も持ってるくせに!!」
撃つ
真希は弾丸を避けながら言った。
「自由?」
鼻で笑う。
「誰がくれたんだよそんなもん」
真依の動きが一瞬止まる。
「は?」
その隙。
真希は再び距離を詰めた。
「私は自分で掴んだんだ」
蹴り。
真依が飛ぶ。
だが倒れない。
歯を食いしばる。
「うるさい!!」
真依が術式を発動する。
構築術式。
呪力を大量消費する切り札。
一日一発。
特別な弾丸。
生成。
装填。
照準。
真希。
「今度こそこれで終わりだ!!」
発砲。
ダァンッ!!
空気を裂く弾丸。
だが。
真希は動かなかった。
いや。
動いていた。
最小限。
呪具を振るう。
ジィィィンッ!!
高い金属音が体育館へ響いた。
特殊弾は軌道を変え、
壁へ突き刺さる。
轟音。
コンクリートが砕けた。
真依が固まる。
「……は?」
真希は静かに言う。
「さすがに2度目は読めるんだよ」
一歩。
前へ出る。
「お前が最後に何を撃つかくらいな」
真依の顔から血の気が引いた。
真希はもう目の前にいた。
武器が首元へ突き付けられる。
完全な敗北。
真依は悔しそうに唇を噛んだ。
拳が震える。
「……大嫌い」
絞り出すような声。
真希は少しだけ笑った。
「知ってる…2度目だぞこれ」
沈黙。
そして。
壇上から声が響いた。
「試合終了」
勝者――禪院真希。
体育館に静かに結果が告げられた。
★
伏黒は静かに聞いていた。
(まぁ……そうなるか)
あの二人の実力差は大きい。
真依も強い。
だが真希はもっと強い。
「そして」
補助監督が続ける。
「東堂葵さん対狗巻棘さんです」
伏黒の眉がわずかに動く。
東堂。そして狗巻。
気にならないはずがない。
「結果は東堂さんの勝利です」
「やはり」
伏黒は小さく呟く。
「試合開始直後」
「狗巻さんは呪言によって距離を維持しようとしました」
★
「止まれ」「潰れろ」
「近づくな」
だが。
東堂は止まらない。
強引に突破。
喉への負荷が蓄積。
狗巻の出力が落ちる。
そこを突かれた。
「最終的には」
「近距離へ持ち込まれました」
補助監督が少し苦笑する。
「東堂さんは試合後」
「いい男だった」
「と言っていました」
伏黒は思わず目を閉じた。
「……そうですか」
(それは褒めてるのか?)
(褒めてるんだろうな)
補助監督が去っていく。
控室が再び静かになる。
「……」
伏黒は天井を見上げた。
真希は勝った。
東堂も勝った。
そして。
自分はまだ残っている。
(真希さんは順当)
(東堂さんも順当)
つまり。
次にぶつかる可能性が高いのは。
(虎杖か)
少しだけ頭が痛くなった。
「……めんどくさいな」
正直な感想だった。
だが。それ以上に。
別のことが気になっていた。
(真希さんは今頃何してるんだろうな)
なかなかうまくいかず悪戦苦闘の毎日
うまくいかないことがたくさんあるので、ストレスがいっぱい 頭が潰れるよ!