伏黒恵の調和 (タイトル変更)    作:ゲダツ

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ようやく個人戦編をたたみにいきます!


27 察せられるはずの異常事態

虎杖が体育館の壁を突き破った。

 

 轟音。

 

 コンクリート片が飛び散る。

 

 伏黒は荒い呼吸を整えながら玉剣を下ろした。

 

「……終わったか」

 

 七海が静かに歩み出る。

 記録用紙を確認し、口を開いた。

 

「勝者――」

 その瞬間だった。

 

 ――ガシャンッ!!!

 

 体育館全体に巨大な破砕音が響いた。

 

 伏黒は反射的に顔を上げる。

 

 空間そのものに亀裂が走っていた。

 

 まるで透明なガラスが割れるように。

 

 無数のひびが一斉に広がる。

 

 バキバキバキバキッ!!

 

 結界が崩れる。

 

 視界が歪む。

 

 次の瞬間。

 

 試合用の結界空間は消失していた。

 

 元の体育館へ戻る。

 

「……は?」

 

 伏黒は固まった。

 

 意味が分からない。

 

 なぜ結界が壊れた。

 

 俺が壁を壊したからか?

 

 いや。

 

 そんな程度で壊れる結界じゃない。

 

 なら――

 

 上空から何かが落ちた。

「?」

 

 冥冥のカラスだった。

 首が不自然な方向へ曲がっている。

 死んでいた。

 

 伏黒の背筋に寒気が走る。

 その直後。

 

 警報が鳴り響いた。

 

『警告』

『高専敷地内に大量の呪霊反応を確認』

『繰り返します』

『大量の呪霊反応を確認…』

 

 体育館の窓の外。

 黒い影が蠢いている。

 

 伏黒は舌打ちした。

 

「……事前に潰しておくべきだった」

 

 玉剣を構える。

 そのまま外へ向かおうとする。

 

「伏黒君!」

 七海が呼び止めた。

 

「待ってください!」

「状況確認が先です!」

 

 だが。

 

 伏黒は嫌な予感を感じていた。

 頭の奥が警鐘を鳴らしている。

 

 そして。

 次の瞬間だった。

 

 圧。

 

 圧倒的な呪力。

 空気が重くなる。

 呼吸すら苦しい。

 

 伏黒の目が見開かれる。

「……っ!?」

 知っている。

 

 この感覚を。

「馬鹿な……!」

 血の気が引く。

 

「虎杖が乗っ取られたのか……!?」

 

 七海も顔色を変えた。

 

「アレが五条さんが言っていた呪物――」

 

 窓の外。

 瓦礫の向こう。

 一人の男が立っていた。

 

 虎杖の身体。

 だが違う。

 口元に浮かぶ笑み。

 

 眼。

 雰囲気。

 全てが別物だった。

 

「ククッ」

 男が笑う。

 

「やっと出られた」

 

 伏黒の全身が強張る。

 

 宿儺。

 

 七海が前へ出る。

「伏黒君」

 低い声。

 

「逃げてください」

 呪具を握る。

 

 宿儺は笑った。

「ほう?」

 

「まだやる気か」

 七海が駆ける。

 

 一瞬で間合いへ。

 宿儺の懐へ踏み込む。

 

 鋭い一撃。遅

 だが。

斬撃が得物を受け止めた

 

「遅い」

 次の瞬間。

 伏黒の視界から宿儺が消える。

 

「――っ!」

 七海の背後。

 

 宿儺がいた。

 

 伏黒の背筋が凍る。

 速い。

 

 宿儺が腕を振る。

 間に合わない。

 

「邪魔だ」

 

 斬撃。

 

 鮮血。

 

 七海の身体が吹き飛ぶ。

 

「七海さん!!」

 

 伏黒が駆け寄る。

 

 七海は倒れた。

 息はある。

 だが立てない。

 

 宿儺は興味なさそうに言った。

 

「邪魔だったな」

 

 伏黒が睨みつける。

 

 宿儺は笑う。

「そう怯えるな」

「今は機嫌がいい」

 

 一歩。

 また一歩。

 近づいてくる。

 

「少し話そう」

 

 伏黒は玉剣を握り直す。

「……何のつもりだ」

 

 宿儺は楽しそうだった。

「何の縛りもなく俺を利用したツケだな」

 

 伏黒の瞳が細くなる。

 宿儺は続ける。

 

「伏黒恵に勝つ代わりに体を渡す」

「縛りじゃない」

「ただの口約束だ」

「ただ、それだけで小僧は俺に代わった」

 

「今更抵抗したところで小僧が

戻るのに時間がかかるだけだ」

 

 伏黒は吐き捨てた。

「ペラペラ喋って、イキってんのか」

 

 宿儺は肩を震わせる。

「クックック」

「上機嫌だからな」

 

 そして。

 視線を落とした。

 

「話を戻そう」

「小僧が主導権を取り戻すのも時間の問題だ」

 伏黒の嫌な予感が膨れ上がる。

 

「……やめろ」

 

 宿儺が笑う。

「そこで考えた」

「俺に今できることをな」

 

 伏黒の顔色が変わる。

「やめろ!!」

 

 宿儺は聞かない。

 自身の胸元を手を貫き

 何かを掴む。

 

 そして。

 

 握ったまま引きちぎろうとする

 

 伏黒の血の気が引く。

 

 宿儺は楽しそうに笑った。

 

 

 伏黒は地面を蹴る。

 

「狗顎爪――!」

 

 両腕に巨大な爪。

 影の触手が宿儺の足を拘束する。

 そのまま叩きつける。

 

 轟音。

 床が砕ける。

 

 だが。

 宿儺は立ち上がる。

 

 笑ったまま。

 

「威勢だけはいいな」

 

 伏黒は奥歯を噛み締めた。

 嫌な予感が確信へ変わる。

 宿儺はゆっくりと告げる。

 

「小僧を人質にしよう」

取り出した心臓を握りながら言う

 

 伏黒の瞳が揺れる。

 

「ここにいる連中も」

「皆殺しにする」

 

 宿儺は笑った。

 

「味見だ」

「まずは味見から始めるとしよう」

 

 伏黒は爪を再びまとい玉剣を影にしまった。

 

 最悪の状況だった。

 だが。

 逃げるわけにはいかなかった。

 

宿儺の姿を睨む。

 

 目の前の存在は、今まで戦ってきた呪霊とは

 根本から違う。

 勝てるかどうか。

 本来ならそんな次元ではない。

 

(無理だ)

 即座に結論が出る。

 

(今の俺じゃ勝てないだろう…)

 だから考える。

 

 何を優先するべきか。

 何を捨てるべきか。

 

 視線が七海へ向く。

 床に倒れている。

 

 重傷。

 放置すれば危険だ。

 

 そして。

 宿儺の手元。

 

 虎杖の身体。

 あれも失えない。

 

(まずは救助)

(時間を稼ぐ)

(戦うのはその後だ)

 

 伏黒は手印を組んだ。

 影が大きく波打つ。

 

 宿儺が口元を歪める。

「やる気か?」

「黙れ」

 伏黒は短く返した。

 

 影の中で二つの存在が混ざる。

 

 鵺。

 貫牛。

 

 翼が生える。

 角が生える。

 猛禽の嘴。

 雷光を纏う巨体。

 

 宿儺が少しだけ目を細めた。

「ほう」

「面白いな」

 

 伏黒は完成した式神を睨む。

「――貫鵺」

 次の瞬間。

 

 複数の貫鵺が宿儺へ突撃した。

 

 雷鳴。

 衝撃。

 

 翼による突進。

 

 角による刺突。

 

 宿儺は笑った。

 

「数まで増やしたか」

 

 拳を振るう。

 

 一体が吹き飛ぶ。

 

 だが。

 

 残りが止まらない。

 横から。

 上から。

 

 背後から。

 次々に押し込む。

 

 体育館の床が砕ける。

 壁が軋む。

 

 そして。

 宿儺の身体が押し出された。

 体育館の外へ。

 

 コンクリート壁を突き破りながら。

 外へ。

 外へ。

 外へ。

 

 次の手印を結ぶ。

 影がさらに広がる。

 

 伏黒の額に汗が浮かぶ。

 

(急げ)

(七海さんが先だ)

 

 新たな式神が姿を現す。

 

 蝦蟇。

 円鹿。

 黒狼。

 

 三つの影が混ざる。

 

 奇妙な巨体。

 鹿の巨大な角。

 異様に膨らんだ腹。

 

 長い舌。

 狼の牙。

 

「――蝦蟇鹿」

 

 複数顕現。

 

 七海の近くへ走る。

 七海は薄く目を開いた。

 

「伏黒……君……」

「喋らないでください」

 蝦蟇鹿が口を開く。

 

 七海の身体を飲み込む。

 その瞬間。

 

 腹部が大きく膨らんだ。

 まるで何かを守る袋のように。

 

 伏黒は続ける。

 

「保存しろ」

 

 別の蝦蟇鹿が頷くように揺れる。

 

 宿儺が先ほど投げ捨てた虎杖の心臓へ向かう。

 それを慎重に飲み込む。

 腹が膨らんだ。

 

 伏黒は安堵の息を吐く。

「よし」

 

 蝦蟇鹿たちは反転術式を帯びたまま移動を開始する。

 重傷者の保護。

 欠損部位の保存。

 

 それが役目だ。

 体育館から離れていく。

 宿儺はその様子を見ていた。

 

 少し離れた場所。

 貫鵺を踏み潰しながら。

 

「ククッ」

 楽しそうだった。

「なるほど」

「そういう使い方もあるか」

 

 伏黒は睨み返す。

 

 宿儺は笑う。

「いい目だ」

「やはり面白い」

 

 伏黒は影から玉剣を握る。

 呼吸を整える。

 

 冷静になれ。

 考えろ。

 

 宿儺は完全体じゃない。

 虎杖が取り込んだ指はまだ少ない。

 

 今なら。

 まだ。

 

 全然可能性はある。

 

(指は二本)

(おそらく二本分)

(それでも特級以上)

 

 冷や汗が流れる。

 だが。

 絶望はしない。

 伏黒は影を広げた。

 宿儺は笑う。

 

「こい」

 

 伏黒は静かに答えた。

「やるしかないだろ」

 

 宿儺の笑みが深くなる。

 伏黒の瞳は鋭く細められる。

 

(さて)

(どうするか)

 

宿儺は飛来する貫鵺を見上げた

 

  雷光を纏う異形。

 

 一直線に突っ込んでくる。

 軌道修正はない。

 回避もない。

 ただ獲物へ向かって突進するだけ。

 

「なるほどな」

 宿儺は笑う。

 

 迫る一体の角を掴んだ。

 重い。だが止められないほどではない。

 軌道を逸らし、そのまま地面へ叩きつける。

 

「直線でしか動けん」

 

 別の個体が迫る。

 宿儺は半歩ずれる。

 その背後を貫鵺が通り過ぎた。

 体育館跡地のコンクリートが大きく抉れる。

 宿儺の目が細まる。

「飛距離に比例して威力が上がるか」

 

 伏黒は遠くから睨む。

 もう見抜かれた。

 だが関係ない。

 最初から隠し通せるとは思っていない。

 

「たたみかけろ」

 命令。

 残った貫鵺が一斉に旋回する。

 大きく距離を取る。

 そして。

 

 再び突撃。

 今度は先程よりも速い。 

 空気そのものを押し潰すような圧力が発生する。

 

 宿儺は笑った。

「面白い」

 指を軽く振る。

「解」

 

 次の瞬間。空間が揺れた。

 伏黒の目には見えない。

 だが。何かが存在している。

 無数の切断現象。

 それらが群れのように広がりながら飛来する。

 一つ一つは小さい。

 だが数が異常だった。

 魚群。

 あるいは蝗害。

 対象を喰い尽くすためだけに存在する群体。

 

 それが貫鵺へ殺到する。

 先頭の一体が裂けた。

 翼が切断される。

 胴が分かれる。

 だが。

 

 後続は止まらない。

 宿儺へ向かう。 

 

 伏黒の額に汗が流れる。

(速い)

(見えない)

(違う)

(見えているのに間に合わない)

 

 宿儺が放ったものは斬撃というより現象だった。

 空間そのものが削られている。

 そんな感覚。

 

 次々に貫鵺が失われる。

 それでも。

 数体は宿儺へ到達する。

 宿儺は腕を振る。

 殴る。

 蹴る。

 掴んで投げる。

 圧倒的な身体能力だけで処理していく。

 

「数だけは大したものだ」

 

 伏黒は歯を食いしばる。

 影を広げた。

 巨大な触手が宿儺の足元から伸びる。

 拘束。

 

 時間稼ぎ。

 少しでも。

 一秒でも。

 宿儺の視線が触手へ向く。

「まだあるか」

 再び指が動く。

 解。

 見えない群れが触手へ襲いかかった。

 

 触手の先端が消える。

 一本。

 二本。

 三本。

 切断される。

 

 だが伏黒は引かない。

 触手をさらに重ねる。

 削られる前提。

 消耗させる前提。

 

 宿儺の斬撃を受け止めるのではなく。

 食わせる。

 何層もの影を盾にする。

 そして。

 

 最後に残った触手が斬撃を弾いた。

 接触した瞬間。

 影の表面が内側から弾け飛ぶ。

 

 伏黒の瞳が揺れる。

(重い……!)

 宿儺は少し驚いたように眉を上げた。

「弾くか」

 その一言に。

 伏黒は少しだけ呼吸を整えた。

 

 まだ。通用している。

 まだ勝てない。

 だが。

 まだ死んではいない。

 

 宿儺は口元を歪めた。

「ますます面白いな」

宿儺へ向けて、無数の貫鵺が突撃する。

 

 雷光を纏った異形たちは、一直線に

 空間を切り裂くように迫った。

 

 宿儺は笑う。

「くどいな」

 

 迫る一体を掴み、投げる。

 別の一体を蹴り飛ばす。

 

 さらに指を軽く振った。

 空間に無数の切断現象が生まれる。

 

 一本の斬撃ではない。

 極小の斬撃群。

 

 魚群のように。

 獲物へ群がる蟲のように。

 貫鵺たちへ殺到した。

 

 先頭が裂ける。

 二体目が砕ける。

 三体目が空中で崩壊する。

 

 だが。

 

 伏黒はすでに理解していた。

 

「今!」

 影が伸びる。

 巨大な触手。

 その一本が斬撃群へ触れた瞬間。

 

 触手が自壊した。

 内部へ圧縮していた影が爆散する。

 

 斬撃群が乱れる。

 進路が逸れる。

 

 宿儺の目が細くなった。

「ほう」

 

 伏黒は歯を食いしばる。

 

 止めることはできない。

 だが散らすことはできる。

 

 ならば十分だった。

 次々と触手が破裂する。

 影が爆ぜる。

 

 斬撃群の隊列が崩れる。

 宿儺は理解した。

 

「防いでいるわけではない」

「軌道を崩しているのか」

 

 伏黒は返事をしない。

 余裕がなかった。

 

 貫鵺たちがさらに距離を取り始める。

 飛距離を稼ぐ。

 

 威力を高める。

 再突撃。

 宿儺へ向かって空間を埋め尽くした。

 

「追い詰めろ」

 

 命令。

 

 貫鵺が加速する。

 宿儺は斬撃を放ちながら進む。

 

 切る。

 裂く。

 叩き落とす。

 

 それでも…。

 

 一瞬だけ視界が塞がれた。

 その背後。

 影が開く。

 巨大な口。

 異形の角。

 膨れ上がった腹。

 蝦蟇鹿。

 

 宿儺を丸ごと飲み込もうとしていた。

 宿儺は初めて後退した。

 

 わずか半歩。

 

 そして。

 指を振る

 

 蝦蟇鹿の口元が切断される。

 飲み込みは失敗。

 異形の式神はそのまま崩壊を始めた。

 

 伏黒が舌打ちする。

「くそっ」

 

 蝦蟇鹿は影へ沈みながら消える。

 宿儺はそれを見て笑った。

 

「なるほどな」

「今のが本命か」

 

 伏黒は何も答えない。

 

 宿儺は続ける。

「封印用の式神だな」

「成功すれば確定で封印する」

「その代わり失敗すれば自壊する縛り」

 口元が吊り上がる。

「危なかったぞ」

 

 伏黒は静かに呼吸を整える。

(勝ち筋は三つ)

 

(宿儺を殺す)

 却下。

 虎杖が死ぬ。

 

(蝦蟇鹿による封印)

 数に限りがある、残り二体。

 

(そして――)

 五条先生。

 最大の勝ち筋。

 

 伏黒は空を睨んだ。

(何してんだよあの人)

 

(こんな時に)

 

 

 その頃。

 

 五条悟は深いため息を吐いていた。

「ねぇ」

「じじい」

「さっさと失せてくんない?」

 

 周囲には無数の呪霊。

 ざっと五十。

 

 どれも1級以上特急未満クラスの呪霊。

 弱くはない。

 

 その中心に立つ老いた呪詛師が笑う。

 

「最近の若造は元気いっぱいだこと」

 

 五条は視線を細める。

 呪霊たちの動きを見る。

 呪力の流れを見る。

 理解する。

「身体の一部を核にしてるのか」

 

 呪詛師は笑う。

「ご名答」

「俺の肉体の欠片を埋め込んである」

「だから遠隔操作ができる」

 

 五条は眉をひそめた。

「めんどくさ」

 

 呪霊が一斉に襲いかかる。

 五条は避けない。

 

 触れようとした瞬間に全て停止する。

 

 だが。

 数が多い。

 止めても止めても次が来る。

 

 さらに別方向から。

 さらに後ろから。

 絶え間なく。

 

 呪詛師が笑う。

「時間稼ぎが仕事なんでね」

 

 五条は肩を落とした。

「本当にめんどくさい」

 

 だが。

 その目だけは笑っていない。

 

 遠く。

 宿儺の気配。

 伏黒の気配。

 

 両方を感じていた。

 

(踏ん張れよ、恵)

(俺が来るまで持ちこたえろ)

 五条は拳を握る。

 

 呪力が膨れ上がった。

 呪詛師の笑みが僅かに引きつる。

 

 次の瞬間。

 五条悟は本気で邪魔者を排除し始めた




さてさてさーて
どのように決着がつくのでしょう?
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