薄く目を開く。
視界がぼやけていた。
全身が重い。
頭が割れるように痛む。
反転術式の酷使。
領域展開。
式神の大量運用。
全部の反動がまとめて来ていた。
「恵ー」
聞き慣れた声だった。
「大丈夫かー?」
伏黒はゆっくり顔を上げる。
「……誰……」
一瞬だけ考える。
「……五条先生?」
「おっ」
五条が笑った。
「よかったよかった」
「ちゃんと意識あるね」
「状況報告できそう?」
伏黒はゆっくり体を起こした。
だが途中でふらつく。
五条が肩を支えた。
「……えっと」
呼吸を整える。
「状況としては」
「虎杖が意図的に宿儺へ体を明け渡しました」
五条の表情が少しだけ消える。
「うん」
「続けて」
「そこから戦闘になりました
その途中指を2本食べられて」
「領域勝負になって」
「最後は不意打ちが通ったので……」
伏黒が横を見る。
巨大な蝦蟇鹿。
その腹部は大きく膨らんでいる。
「なんとか封印できました」
五条は蝦蟇鹿へ近づいた。
六眼が開く。
数秒。
「……」
さらに数秒。
「……」
そして。
「いや待って」
五条が真顔になった。
「本当に封印してる」
「うける 呪いの王がこんなになってるとは」
伏黒は疲れ切った顔で言う。
「俺もそう思います」
五条は蝦蟇鹿を見る。
「四本宿儺だよ?」
「封印したの?」
「はい」
「その程度ならまあ大丈夫だよね」
すぐに表情が戻る。
「でも違和感あるな」
伏黒が視線を向ける。
「違和感?」
五条は腕を組む。
「なんで悠仁は宿儺に体を明け渡したんだろ」
「悠仁なら」
「宿儺が出てきた後でも主導権を
取り戻せるはずなんだよね」
伏黒は思い返す。
「抵抗している様子は見えませんでした」
「だよね」
五条は頷く。
「となるとやっぱり」
「呪詛師かな」
伏黒が眉をひそめる。
「虎杖誘拐事件ですか」
「うん」
五条の目が細くなる。
「僕の目で見る限り」
「なんか取り憑いてるんだよね」
「呪霊ですか?」
「そんな感じ」
「多分」
「さっきの呪詛師ジジイの術式で操られた呪霊」
「あるいはその類」
伏黒は黙る。
そして聞いた。
「五条先生」
「その呪詛師は?」
「あー」
五条が頭を掻く。
「逃げられた」
伏黒の表情が止まった。
「……逃げられた?」
「うん」
「領域使ったら」
「向こうも呪霊の領域使ってきてさ」
「で」
「恵が宿儺封印した頃には」
「そそくさ逃げてった」
伏黒は目を閉じる。
(五条先生から逃げる)
(それだけでも異常だ)
(しかも呪霊を操れる)
(多分ダミー)
(本命は別)
(羂索か……)
嫌な予感だけが残る。
五条は話を切り替えた。
「ま、とりあえず」
「他の生徒は避難済み」
「葵以外はね」
伏黒が顔を上げる。
「葵?」
「あー」
「東堂」
「元気に呪霊殴ってる」
「そうですか」
少しだけ沈黙。
五条は続けた。
「今回の件で死者はいないと思う」
「重傷者はいるけど」
「恵のおかげでだいぶ減った」
伏黒は何も言わなかった。
五条がしゃがむ。
「というわけで」
「さっさと硝子のとこ行こうか」
「いや」
伏黒が抵抗しようとした。
その瞬間。
五条が肩へ担ぎ上げる。
「ちょっ」
「却下でーす」
完全な丸太運びだった。
伏黒の足が宙に浮く。
「五条先生」
「ん?」
「降ろしてください」
「やだ」
「歩けます」
「嘘つけ」
「今にも死にそうな顔してるじゃん」
「してません」
「してるよ」
伏黒は反論しようとした。
だが。
そこで限界だった。
意識が途切れそうになる。
五条が小さく笑う。
「お疲れ」
「今回は本当によく頑張った」
伏黒は返事をする前に。
再び意識を手放した。
家入硝子のいる医務室へ向かいながら。
五条は静かに考えていた。
(恵)
(君はどこまで行く気なんだろうね)
★→●
医務室の近く。
伏黒は廊下の壁にもたれかかっていた。
時計を見る。
三時間。
「……」
長い。
あまりにも長い。
「遅ぇ……」
伏黒は小さく悪態をついた。
「三時間待ってんだぞ……」
その時。
「おまたー!!」
聞き慣れた声。
五条悟が現れた。
満面の笑み。
そして。
両手いっぱいの紙袋。
伏黒は嫌な予感がした。
「……何ですかそれ」
五条は嬉しそうに掲げる。
「お土産!」
「ほら見て」
「N.Y.C.SAND」
「東京ショコラファクトリー」
「東京ばな奈チーズケーキ」
「まとめ買い」
伏黒は無言。
「……」
「……」
「そんなことのために俺を待たせたんですか?」
「違う違う」
五条は笑う。
「上への報告とか色々あったから」
「これはついで」
「ついでの量じゃないだろ」
「えー?」
「結構普通じゃない?」
「普通じゃないです」
五条は肩を竦めた。
「まぁまぁ」
「案外早く終わっちゃったんだよ」
そして。
少しだけ真面目な顔になる。
「で、本題」
伏黒の表情も変わった。
空気が切り替わる。
五条は言う。
「虎杖のことは死んだと報告してきた」
伏黒は黙って聞く。
「上には」
「伏黒恵が宿儺ごと殺した」
「そう報告したよ」
伏黒は目を細めた。
「納得したんですか」
「した」
五条は即答した。
「むしろ喜んでた」
伏黒の表情が少しだけ険しくなる。
五条は続ける。
「宿儺が出現」
「その後、伏黒が討伐」
「上からすると理想の結果だね」
「だから深追いされなかった」
伏黒は小さく息を吐く。
「……そうですか」
「うん」
五条は伏黒を見る。
「だから今のところ」
「悠仁は死んだことになってる」
少し間を置く。
「本人は生きてるけどね」
伏黒が聞く。
「どこに?」
「硝子の施術室」
五条は親指で奥を指した。
「絶賛かくまい中」
伏黒は天井を見上げる。
「またですか」
「まただね」
「先生そういうの好きですよね」
「青春を守るためならね」
「便利な言葉ですねそれ」
五条は笑った。
「褒め言葉かな?」
「違います」
少しだけ沈黙。
そして五条は歩き出す。
「ほら」
「硝子のとこ行こうか」
「悠仁も起きてるはずだし」
伏黒も壁から身体を離した。
まだ身体は重い。
だが。
歩ける。
「……分かりました」
二人は並んで歩き出す。
施術室の向こうには。
死んだことになっている少年が待っていた
★〜
家入の施術室。
消毒液の匂いが漂う静かな部屋だった。
家入硝子はカルテを閉じる。
「遅いよ」
伏黒へ視線を向ける。
「何してたの?」
伏黒は即答した。
「五条先生がお菓子を大量に買って時間を潰してました」
「恵ひどくない?」
「事実です」
「硝子ー」
五条が手を合わせた。
「めんご」
家入は深くため息を吐く。
「ほんと面倒な教師だな」
そう言いながら。
ベッドへ歩く。
「で」
「問題はこれ」
白いシーツを掴む。
ゆっくり取り除いた。
伏黒の表情が僅かに硬くなる。
蝦蟇鹿。
その膨れた腹の内部。
半透明の緑色の液体。
その中に浮かぶ人影。
いや。
もはや人ではない。
四本の腕。
腹部の異形。
完全受肉の姿。
家入は腕を組んだ。
「私でも無理だよ」
「さすがにね」
五条も珍しく真顔だった。
「硝子でも駄目だったか」
「見た目そのまんまだからね」
家入は言う。
「受肉が進行した結果としか思えない」
伏黒は静かに頷いた。
「やっぱりそうですか」
五条はベッドへ近付く。
「上への報告はごまかしたよ」
伏黒が言う。
「虎杖は俺が殺したことになってます」
家入が眉をひそめた。
「伏黒君」
「まだ十代でしょ」
「仲間を殺した責任なんて背負う必要ない」
伏黒は黙る。
五条が代わりに答えた。
「恵がどうしてもって言うからね」
「本当は僕の責任にしたかった」
「でも上は納得しない」
少し苦笑する。
「前に一回嘘ついてるし」
伏黒はベッドを見つめる。
そして。
ふと思考が繋がった。
(渋谷事変)
(目的は五条先生)
(五条先生が渋谷にいなければ)
(少なくとも悲劇は先延ばしになる)
伏黒が顔を上げる。
「五条先生」
「ん?」
「虎杖を海外で匿ってください」
五条が目を細める。
「へぇ」
「その心は?」
伏黒は即答した。
「仮に主導権を取り戻せても」
「虎杖はもう普通の生活に戻れません」
「今の姿では日本にいれば必ず目立つ」
「上層部にも知られる」
五条は頷いた。
「確かにね」
「本当は若人の青春を邪魔したくないんだけど」
「今の悠仁はもう普通には戻れない」
少し考える。
「海外なら身を隠せる」
「でも」
「この姿じゃいつかバレる」
伏黒は答える。
「だから期限を設けます」
五条が興味深そうに聞く。
「いつ?」
「12月24日まで」
五条が笑った。
「いいね」
「みんなへのクリスマスプレゼントに」
「虎杖生存サプライズ」
伏黒は即答した。
「それ二回目です」
「人気企画だから」
「そういう問題じゃないです」
家入が呆れたように言う。
「でも何で12月24日なの?」
「何か意味ある?」
伏黒は少し考えて答えた。
「仲間と再会するなら」
「めでたい日の方がいいと思ったので」
家入が吹き出した。
「五条と同じこと言ってる」
「不本意です」
即答だった。
そして家入はベッドを見る。
「その前に」
「まず虎杖の主導権を取り戻さないとね」
伏黒は静かに言う。
「俺に任せてください」
五条が振り返った。
「できるの?」
「はい」
伏黒は蝦蟇鹿を見る。
「俺の術式で」
「相手の心の影へ潜ります」
五条が眉を上げた。
「十種影法術はそんなことできないでしょ」
「普通なら」
伏黒は答える。
「だから縛りを作りました」
静かな声。
「相手の生殺与奪を完全に握った時のみ」
「相手の心の影へ侵入できる」
「その代償として」
「俺自身が重大な精神的損傷を
受ける可能性があります」
家入の表情が変わった。
「駄目だ」
「それはやっちゃいけない」
「失敗したら君が壊れる」
伏黒は目を閉じる。
「でも」
「これしかありません」
「これしかないんですよ」
沈黙。
家入は何か言おうとする。
だが。
五条が先に口を開いた。
「行ってこい」
伏黒が顔を上げる。
五条は続けた。
「ただし」
「必ず戻ってこい」
家入が睨む。
「ちょっと五条」
「生徒に任せっきり?」
五条は珍しく真面目だった。
「今はこれしかないと思う」
「悠仁も目を覚ましてない」
「時間もない」
家入は長く息を吐いた。
「……分かった」
「でも約束して」
「治療不可能なダメージだけは負わないで」
伏黒は小さく頭を下げる。
「ありがとうございます」
そして。
その場へ座る。
瞳を閉じる。
蝦蟇鹿の影が広がる。
伏黒の身体がゆっくり沈む。
影と同化する。
蝦蟇鹿と簡易接続。
さらに奥。
封印された虎杖の内部へ。
心の影へ。
伏黒の意識は静かに沈んでいった。
蝦蟇鹿
蝦蟇+円鹿+黒狼で構成されたサポート式神
能力に関しては妊婦のように相手を体内へ取り込み
飲み込んだ相手の情報を解析 どのように直すかを即座に決める
もちろん、これは本来は持ってない力
縛りによって腹の中の人を守り保護し治療する。その代わり、あらゆる能力を一時ダウンするという縛り
伏黒はこの式神を相手を拘束する手段に置き換えた。命令によってどんなダメージかは命令したものによって決められる
今回の場合は虎杖の体を戻すという命令が下されている
ダメージが完治するまで拘束は続く
伏黒がやめろと言ったら拘束はとく
腹の中は見れるようにできるし
見えないようにするってこともできる
栄養に関してはその式神自体が摂取し、体内にいる人に送り込むというものである。その点は妊婦と似ている部分がある
排泄はその式神が代わりに行うが基本的にはそれは溜め込められるものである
繋がってる部分がありそれは口と尻である 粘膜のようなものそこからエネルギーを送り受け取っている
しかし飲み込んだ時に繋がるのは口だけであり尻にかんしては後になる