伏黒恵の調和 (タイトル変更)    作:ゲダツ

32 / 32
一度出品したやつが全部再度ロードしたことで一旦消したんだ
保存してなかったら危なかったね



31 生得領域

 

 

伏黒が目を開く。

 見慣れない空だった。

 いや、正確には空ではない。

 空らしきもの。

 青いはずなのに、どこか色が薄い。

 雲も動いていない。

 

「……ここは」

 伏黒は周囲を見回した。

 道路。

 建物。

 信号機。

 

 どこにでもありそうな街並み。

 だが違和感がある。

 静かすぎた。

 

 風の音しかしない。

 車も走らない。

 人の気配もない。

 

「生得領域……か」

 伏黒は小さく呟いた。

 

 心の中。

 心象風景

 誰もが持つ領域。

 今、自分はそこへ侵入している。

 

 少し歩く。

 交差点。

 商店街。

 駅前らしき場所。

 そして見覚えのある文字が目に入った。

 

「……仙台」

 看板に書かれた地名。

 そこでようやく理解する。

「虎杖の故郷か」

 

 周囲を見渡す。

 街は広い。

 想像以上に広い。

 まるで本物の都市そのものだった。

 

「随分でかいな……」

 伏黒は少し驚いた。

 

 普通の術師の心象風景など知らない。

 だが少なくとも、自分が

 想像していたより遥かに大きい。

 

 歩く。

 さらに歩く。

 人はいない。

 

 どこへ行っても空っぽだった。

 

 コンビニ。

 公園。

 住宅街。

 

 すべて無人。

「……誰もいない」

 

 街は存在している。

 だが生きているものがいない。

 まるで舞台だけが残された世界。

 

 伏黒は考える。

(虎杖の家なんて知らねぇしな)

(手当たり次第探すしかないか)

 

 その時だった。

 微かに声が聞こえた。

 

 遠く。

 本当に遠く。

 風に混じるような声。

『……けて』

 

 伏黒が立ち止まる。

 耳を澄ます。

『……助けてくれ』

 

 今度ははっきり聞こえた。

 伏黒の表情が変わる。

 

「虎杖」

 声の方角へ走り出す。

 信号を飛び越え。

 道路を駆け抜け。

 病院の前へ辿り着く。

 

 板取のじいさんが入院していた病院だった。

 見上げた瞬間、伏黒は確信する。

 

「ここか」

 中へ飛び込む。

 廊下を走る。

 階段を上がる。

 

 そして。

 虎杖のじいさんの病室の扉を開けた。

 そこにいた。

 

 ベッドの脇に座り込み。

 膝を抱えている少年。

 

 虎杖悠仁だった。

 だが。

 

 伏黒はすぐに違和感に気付く。

 虎杖は顔を上げない。

 

 まるで自分が来たことに気付いていないかのように。

 

「……虎杖」

 声をかける。

 返事はない。

 

 虎杖はただ下を向き小さく呟いていた。

「助けてくれ」

「俺じゃ無理なんだ」

 

 伏黒は眉をひそめる。

 そしてゆっくり近付いた。

 

 伏黒は虎杖へ近付こうとして――足を止めた。

 

 何かいる。

 虎杖の周囲。

 黒い靄のようなもの。

 二つ。

 

 最初は影かと思った。

 だが違う。

 生きている。

 

 いや。

 呪霊だ。

 小さい。

 等級も高くない。

 だが。

 異様だった。

 

 一匹は虎杖の頭へ絡みついている。

 もう一匹は。

 耳元で何かを囁き続けていた。

 

「……なるほど」

 伏黒が目を細める。

(原因はこいつらか)

 

 観察する。

 頭に取り憑いている方。

 そこだけ。

 虎杖の記憶が欠落しているような 

 違和感があった。

 

 そして。

 囁いている方。

 ひたすら負の感情を増幅させている。

 罪悪感。

 後悔。

 自己否定。

 それだけを延々と。

 

(記憶を削る呪霊)

(精神へ干渉する呪霊)

 伏黒は結論を出した。

 

(このまま呪力で祓うのは危険だ)

 宿儺に感付かれる。

 ここは虎杖の生得領域。

 下手な刺激は危険だった。

 

「……試してみるか」

 伏黒は掌を見る。

 反転術式。

 

 正のエネルギー。

 呪霊に対して最も相性が良い力。

 だが。

 アウトプットはまだ慣れていない。

 伏黒は息を整える。

 

 正のエネルギーを練る。

 放出する。

 

 失敗。

 霧散。

 

 もう一度。

 失敗。

 

 さらに。

 失敗。

 

 時間感覚が曖昧になる。

 

 数分か。

 数時間か。

 はたまたそれ以上

 生得領域では分からない。

 

 それでも続ける。

 そして。25日後

 

「……できた」

 

 白い光。

 掌から正のエネルギーが溢れる。

 

 伏黒は迷わず一匹へ触れた。

 呪霊が悲鳴を上げる。

 身体が崩れる。

 存在そのものが削れていく。

 そして。

 消えた。

 

 直後。

「――あ」

 虎杖の身体が震えた。

 顔が上がる。

 瞳が大きく見開かれる。

 

「俺……」

 呼吸が荒くなる。

「なんてことしたんだ」

 頭を抱える。

「俺……」

「呪いの王に」

「体を明け渡した……」

 

 伏黒は理解する。

(記憶)

(こいつが奪ってたのか)

 

 消した呪霊は。

 虎杖から宿儺に関する記憶を奪っていた。

 

 その瞬間。

 残っていたもう一匹が笑った。

 

 呪霊は虎杖の声で。

 

『俺のせいだ』

 

 伏黒の眉が動く。

『俺が宿儺を解放した』

『俺のせいで死人が増えた』

『俺が伏黒を助けようなんて思わなければ』

『俺が宿儺に助けを求めなければ』

 

 虎杖の身体が震える。

『俺のせいで仲間が死んだ』

 

「違う」

 伏黒が即座に否定した。

「仲間は死んでない」

 

 呪霊は止まらない。

『俺のせいで伏黒は大怪我した』

 

「大怪我はした」

「でも生きてる」

 

『役立たず』

『役立たず』

『役立たず』

『役立たず』

 呪霊の声が重なる。

 虎杖の顔が歪む。

 耳を塞ぐ。

 だが止まらない。

 

『お前は弱い』

『何も守れない』

『何も救えない』

『お前がいると皆が不幸になる』 

 

「やめろ……」

 虎杖が呟く。

 

『お前のせいだ』

「やめろ!!」

 絶叫。

 病室全体が震えた。

 

 伏黒は舌打ちする。

「黙れ」

 正のエネルギーを叩き込む。

「クソ呪霊が」

 

 白い光が弾ける。

 呪霊が悲鳴を上げる。

 身体が崩れる。

 存在が消える。

 

 静寂。

 虎杖だけが残った。

 荒い呼吸。

 震える肩。

 

 伏黒は少しだけ距離を詰める。

「虎杖」

 返事はない。

 

 もう一度呼ぶ。

「虎杖」

 今度は反応した。

 ゆっくり顔が上がる。

 涙で滲んだ目。

 

 伏黒は短く聞いた。

「……今」

「話せるか?」

 

 虎杖はしばらく黙った後。

 小さく頷いた。

 

 

 ★

 

 伏黒はしばらく黙ったまま虎杖を見ていた。

 

「まず」

 静かな声。

 「なんで俺を助けようとした?」

 

 虎杖が顔を上げる。

 「……は?」

 「そこだよ」

 

 伏黒は続ける。

 「なんであんなことになった?」

 「普通に疑問なんだ」

 

 虎杖は視線を逸らした。

 口を開く。

 閉じる。

 また開く。

 

「……」

「伏黒がさ」

 小さな声。

「何でも一人で背負ってるように見えたんだ」

 

 伏黒は黙って聞く。

「辛そうだった」

「見てられなかった」

 虎杖が拳を握る。

「だから」

「助けてやりたかった」

 

 伏黒は少しだけ目を伏せた。

「なるほど」

「続けて」

 

 虎杖は苦笑する。

「あと」

「嫉妬もしてた」

 

 伏黒が眉を上げる。

「嫉妬?」

「うん」

 虎杖は笑えなかった。

「伏黒は強いから」

「成長も早い」

「俺より色んな人を助けてる」

「だから」

「羨ましかった」

 伏黒は少し考える。

 

(そうだったのか)

 意外だった。

 だが。

 

 虎杖らしいとも思った。

 人を助けたい。

 だからこそ。

 助けることができる人間を羨む。

 虎杖は続けた。

 

「俺さ」

「宿儺が体を動かしてる時」

「中で見てたんだ」 

 

 伏黒の表情が変わる。

「見てた?」

「うん」

「なんか」

「感情も薄くて」

「宿儺に逆らえなかった」

「でも今になると分かる」

 

 虎杖が頭を抱える。

「俺」

「とんでもないことしたんだな」

「伏黒に」

「とんでもない奴と戦わせた」

 

 伏黒は静かに聞いていた。

「そうか」

 

 そして思う。

(記憶を奪う呪霊の置き土産か)

(全部後から返ってきてる)

 

 虎杖が続ける。

「それだけじゃない」

「俺」

「誰か死なせたんじゃないかって」

 

 声が震える。

「宿儺を出したせいで」

「誰か死んだんじゃないか」

 

 伏黒は即答した。

「今回は死んでない」

 

 虎杖が固まる。

「本当か?」

「ああ」

「重傷者はいる」

「でも死者は出てない」

 虎杖が小さく息を吐く。

 肩から力が抜ける。

 

「……そっか」

 しばらく沈黙。

「他にはあるか?」

 伏黒が聞いた。

 虎杖は首を振る。

「ない」

 伏黒は頷いた。

 

(相当追い詰められてたんだな)

(あのクソ呪霊に)

 

「どこまで思い出した?」

「誘拐されたところまで」

 

「誘拐した奴は?」

「分かんない」

 

 虎杖は少し考える。

「でも」

「姿は覚えてる」

 伏黒の目が細くなる。

「言ってくれ」

 

「一人は」

「会ったことある」

「つぎはぎの男」

 伏黒の顔が険しくなる。

 

「真人か 前にも会ったことあるよな」

「うん」

 

「もう一人は?」

「知らない奴」

「黒髪ロング」

「袈裟着てた」

 

「頭に縫い目があった」

 

 伏黒の思考が止まる。

(羂索)

(やっぱりお前か)

 拳を握る。

(あの時から仕込んでやがった)

 

 虎杖は続ける。

「その後」

「袈裟の男が俺の頭に触って」

「そこから先は――」

「もういい」

 伏黒が遮った。

 

「十分だ」

 虎杖が頷く。

 そして。

「じゃあ」

「今度は俺が聞いていいか?」

「なんだ」

「なんでそんなに強くなろうとしてるんだ?」

 

 伏黒は少し考えた。

 

 だが。

 隠す意味はない。

「いいだろ」

「どうせいつか知られる」

「お前には話す」

 虎杖が真剣な顔になる。

 

 伏黒は言った。

「俺は未来の記憶を持ってる」

 虎杖が固まる。

 

「未来?」

「ああ」

 伏黒は続ける。

「数年後」

「最悪の呪術テロが起きる」

 そして。

 摩虎羅。

 宿儺。

 渋谷。

 自分の失敗。

 全てを話し始めた。

 

 虎杖は途中で何度も言葉を失った。 

 

 だが最後まで聞いた。

「……分かった」

 伏黒が少し驚く。

「信じるのか?」

「伏黒」

 虎杖は笑う。

「お前そういう冗談言うタイプじゃねーだろ」

 

 伏黒は少しだけ息を吐く。

「ありがとう」

 

 そして心の中だけで呟いた。

(まだ言ってない)

(俺が転生者であること)

(渋谷事変以降の知識 があること)

(俺が最終的に宿儺の器になることは)

 

 

 まだ全ては話せなかった。

 

 

 




貫鵺 

貫牛+鵺の複合型

姿は鵺に貫牛の姿の特性を合わせたもの

貫牛の前しか進めない代わりに、 
距離を取れば取るほど威力が上がるという能力を持っている

この式神は空を飛べるという利点があり 
相手から距離を取りやすく、
故障害物を回避しやすいというものもある

そしてジグザグの動きにはなるが、
長く距離を取ることができれば 

摩虎羅のとどめになるとして期待されている
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

戦国転生 4歳から始める十種影法術(作者:匿名希望)(原作:呪術廻戦)

慶長に行われる御前試合から逃げ切りたい転生者くんの話です。▼10〜14歳のどこかの影久のイメージです。AIくんありがとう・・・。▼【挿絵表示】▼十八話の後書きに14歳時点での十種影法術の仕様をまとめました、ガバガバです。▼あまりにも慶長の御前試合が遠いのでタイトル詐欺にならないよう変更することにします。▼変更前「慶長御前試合」▼誤字脱字報告助かります、ありが…


総合評価:1446/評価:7.95/連載:47話/更新日時:2026年06月16日(火) 12:56 小説情報

直哉の兄で十種持ち(作者:七罪の王)(原作:呪術廻戦)

「ドブカスじゃねえか」▼禪院家当主禪院直毘人の息子であり、後の炳筆頭禪院直哉の異母兄にして、十種影法術持ち。▼それが俺、禪院家次期当主筆頭候補、禪院直久。転生者である。


総合評価:1417/評価:7.85/連載:6話/更新日時:2026年04月25日(土) 22:38 小説情報

術式【適応】(作者:雨曝し)(原作:呪術廻戦)

▼ 禪院家に魔虚羅と同じ術式持ちが生まれる話。▼タグは随時追加


総合評価:1136/評価:7.06/連載:7話/更新日時:2026年04月09日(木) 13:14 小説情報

雷神の系譜~鹿紫雲一の末裔に転生したので、原作の悲劇を打ち壊す~(作者:メンチカツ)(原作:呪術廻戦)

『呪術廻戦』を愛読していた男は、なせか『呪術廻戦』の世界に転生してしまった。しかも転生先は原作には存在しない家系───"雷神"鹿紫雲一を始祖に戴く呪術師の名門だった。▼五条悟に勝るとも劣らない才能を持つ主人公だが、待っていたのは名門特有の権力闘争と、原作の悲劇。▼「鹿紫雲の術式」と「原作知識」を武器に男は決意する。推しの死も、羂索の策謀も…


総合評価:1849/評価:7.92/連載:9話/更新日時:2026年06月10日(水) 00:00 小説情報

赤血操術の可能性を追い求めたい!(作者:甚一くんは…髪と眉毛がアカンわ)(原作:呪術廻戦)

良くあるトラックで死亡した主人公は、呪術廻戦の世界に転生してしまう。▼死の危機によって術式を自覚した主人公は頑張って術式を鍛えることにした。▼って感じの二次創作です。もしかしたら恋愛もするかも。


総合評価:1223/評価:7.58/連載:6話/更新日時:2026年04月11日(土) 00:01 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>