評価をくれー
どうすれば、私はうまく面白いやつが書けるんだー
呼び出された生徒たちは、それぞれ
席についていた。
三年生は停学中。
そのため、この場にいるのは
一年と二年だけだった。
壇上へ現れたのは夜蛾正道。
普段以上に険しい顔をしている。
「全員いるな」
静かな声。
真希が手を挙げた。
「伏黒と虎杖がいません」
夜蛾は頷く。
「その二人についての話だ」
ざわつきが起きる。
「何かあったのか?」
「また問題でも起こしたのか?」
小さな声が飛び交う。
パンダが周囲を見る。
「なんか空気重くね?」
「ツナ」
狗巻が短く頷いた。
釘崎は腕を組んだまま黙っていた。
嫌な予感がする。
理由は分からない。
だが。
妙に胸騒ぎがしていた。
夜蛾が口を開く。
「話を戻す」
ざわめきが止まる。
講堂が静まり返った。
「先日の事件によって」
「死亡者が出た」
一瞬。
空気が凍る。
誰も動かない。
誰も喋らない。
夜蛾は続けた。
「死亡したのは」
「虎杖悠仁」
釘崎の思考が止まる。
理解できなかった。
数秒前まで意味を持っていた言葉が、
急に別の言語になったようだった。
「は……?」
小さく漏れる。
誰にも聞こえないくらいの声。
だが夜蛾は続ける。
「呪物により肉体を乗っ取られ暴走」
「伏黒恵一級術師が」
「その鎮圧を行った」
講堂がさらに静かになる。
釘崎は瞬きを忘れた。
伏黒が。
虎杖を。
殺した?
意味が分からない。
理解したくもない。
真希が眉をひそめる。
「……伏黒は?」
「その際に重傷を負った」
「現在も療養中だ」
夜蛾は淡々と答える。
「二週間ほど寝込んでいる」
パンダが黙り込む。
狗巻も何も言わない。
釘崎だけが動けなかった。
(嘘でしょ)
(何言ってんの)
(意味分かんない)
昨日まで。
いや。
ほんの少し前まで。
あいつは普通にいたはずだ。
馬鹿みたいに笑って。
うるさくて。
面倒で。
でも。
ちゃんとそこにいた。
それが。
死んだ?
夜蛾の声だけが響く。
「以上の理由により」
「今年の交流会個人戦は中止とする」
誰も反論しなかった。
できなかった。
釘崎は未だに理解できていない。
夜蛾が去る。
集会が終わる。
生徒たちは少しずつ立ち上がった。
誰かが小声で話し、
誰かが無言で去る。
講堂はゆっくりと空になっていく。
真希も。
パンダも。
狗巻も。
それぞれ席を立った。
気付けば。
釘崎だけが残っていた。
「……は?」
ぽつり。
誰もいない講堂に声が落ちる。
「何それ」
静まり返った講堂。
釘崎はただ、
空になった壇上を見続けていた。
★→★
意識が浮上する
重い。
まぶたが鉛みたいだった。
ゆっくり目を開く。
知らない天井。
消毒液の匂い。
「……医務室か」
掠れた声が出る。
「正解」
聞き慣れた声だった。
ベッドの横。
椅子に腰掛けた家入硝子が、カルテを
めくっている。
「ようやく起きたね」
伏黒は体を起こそうとして――
頭痛に顔をしかめた。
「無理するな」
家入がペットボトルを放る。
「まず水」
「……どうも」
一口飲む。
乾き切っていた喉に水が染みた。
少しだけ落ち着く。
伏黒は最初に確認した。
「虎杖は……?」
家入は即答した。
「先に起きた」
「今は五条と一緒に海外」
伏黒は小さく息を吐く。
「そうですか」
安堵。
少なくとも最悪の事態にはなっていない。
それだけで十分だった。
「今は何日ですか」
家入が答える。
「七月の初め」
「虎杖が目を覚ましてから結構経ってる」
「君は二週間近く寝てた」
伏黒が固まった。
「……二週間?」
「思ったより長かったな」
天元から流し込まれた情報。
個人戦の連戦
宿儺戦。
心への侵入。
脳への負荷を思い出す。
(まぁ……妥当か)
伏黒は額を押さえた。
まだ少し頭が重い。
「後遺症は?」
「今のところなし」
家入は肩を竦める。
「正直もっと酷いことになると思ってた」
「運が良かったね」
伏黒は苦笑した。
「運か……」
そんなものに助けられるとは
思っていなかった。
ふと気付く。
家入は誰かと電話していた。
「うん、今来たとこ そう じゃ切るね」
「……誰と話してるんです?」
家入はスマホを軽く振った。
「君に用がある人」
「起きたって伝えたら」
「今から部屋に行くってさ」
伏黒は眉をひそめる。
(誰だ……?)
家入は少しだけ笑った。
「まぁ」
「会えば分かるよ」
★〜
夕方。
伏黒はようやく自室へ戻ってきた。
長かった一日が終わった。
眠気と疲労が体中に残っている。
正直、今すぐベッドへ倒れ込みたかった。
だが。
部屋の前で足が止まる。
「……何してるんですか」
扉の前に二人いた。
一人は東堂葵。
もう一人は三輪霞だった。
「おぉ、来たか」
東堂が腕を組む。
三輪は少し気まずそうに笑った。
「お、お疲れ様です」
伏黒はため息を吐く。
「で」
「何の用ですか」
東堂が答える前に、
三輪が口を開いた。
「実はですね」
「京都校と東京校で合同合宿を
やることになったんです」
「……合宿?」
伏黒は聞き返した。
頭がうまく回らない。
今の自分は、
宿儺戦を終え、
虎杖の主導権を取り戻し
長い眠りから目覚めたばかりだ。
そんな状況で急に合宿と言われても困る。
東堂が説明を引き継ぐ。
「今回、人が死んだ」
真面目な声だった。
「そして高専は襲撃された」
「宿儺まで現れた」
「異常事態だ」
伏黒は黙って聞く。
東堂は続けた。
「今回みたいなことが二度と起きない保証はない」
「ならば俺たちにできることは何だ」
「強くなることだ」
迷いのない声だった。
「次に同じことが起きた時」
「少しでも多く生き残るために」
「少しでも多く守るために」
「俺たちは強くならなければならん」
伏黒は思う。
(そっか。 虎杖のこと生きてるの
知らせてなかったな)
三輪が慌てて補足する。
「その提案を先生たちにしたらですね」
「許可も出まして」
「費用も高専持ちになりました」
伏黒は少し驚いた。
「それは良いことですね」
金銭的負担がないなら参加しやすい。
だが同時に思う。
(俺だって発展途上だ)
(やりたいこともある)
(結界術の整理もしたい)
(シン・陰流の件もある)
時間はいくらあっても足りない。
伏黒は尋ねた。
「期間は?」
三輪の笑顔が固まる。
「えっと、その……」
東堂が代わりに答えた。
「一ヶ月だ」
沈黙。
「……は?」
伏黒の思考が止まる。
「一ヶ月?」
「長すぎません?」
本気で言った。
東堂は頷く。
「あぁ」
「俺もそう思った」
「冗談で言ったら採用された」
伏黒は頭を抱えた。
「何してるんですか本当に……」
疲労感が倍増した気がした。
東堂は全く気にしていない。
「出発は三日後だ」
「詳細は後で連絡する」
「覚悟しておけ」
そう言うと踵を返した。
三輪も軽く頭を下げる。
「それじゃ失礼します」
二人の姿が廊下の向こうへ消えていく。
静寂。
伏黒は数秒その場に立ち尽くした。
「……疲れた」
本音だった。
ようやく部屋へ入る。
制服のままベッドへ倒れ込む。
天井が見える。
一ヶ月の合宿。
強くなるための時間。
悪い話ではない。
だが。
「せめて一日くらい休ませろよ……」
誰にも聞こえない愚痴をこぼしながら、
伏黒はそのまま眠りへ落ちていった。
伝達
伏黒恵殿
貴殿の活躍により宿儺を殺害したことを称える
よって総監部より貴殿を一級術師に昇格とする
及び資金を贈与とする
貴殿の活躍が広く伝わるよう我々は願っております