伏黒恵の調和 (タイトル変更)    作:ゲダツ

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ここから巻いていきますよ〜



37 釘崎と強さ そして強者とは

 

 

 気付けば、京都校の空き部屋のベッドに寝かされていた。

 

 天井を見上げる。

 知らない天井だ。

 いや、正確には知っている。

 京都高専の多くある1つの空き部屋だ。

 

 ぼんやりと視界だけが開いている。

 体は重い。

 頭も働かない。

 

 ただ一つだけ。

 伏黒の言葉だけが、何度も何度も頭の中を回っていた。

 

『俺たちは呪術師だ』

『仲間が呪詛師になることもある』

『珍しくない』

『むしろ多い』

 意味が分からなかった。

 

 いや。

 分かりたくなかった。

 

 コンコン。 

 扉が叩かれる。

 返事をする気力もない。 

 

 それでも扉は開いた。

 入ってきたのは加茂だった。

 

「起きているか」

 

 釘崎は答えない。

 加茂は少しだけ困った顔をした。

 

「聞いているだけでいい」

 静かな声だった。

 

 説教ではない。

 慰めでもない。

 ただ事実を伝える声。

 

「伏黒くんの言葉は極端だ」

 

 釘崎の眉がわずかに動く。

 

「だが、間違いでもない」

 

 加茂は続けた。

「呪術師は何度も選択を迫られる」

「守るか」

「見捨てるか」

「戦うか」

「逃げるか」

「正しい答えなど存在しない」

 

 沈黙。

 

「君は今回負けた」

 釘崎の指先が強く握られる。

 

「だが」

「負けた人間が全員弱いのなら」

「呪術師は誰も残らない」

 

 釘崎は何も答えない。

 加茂も無理に返事を求めなかった。

 

「今は答えを出さなくていい」

 扉へ向かう。

「ただ一つだけ言う」

 加茂は振り返った。

 

「君はまだ生きている」

 

 それだけ言って部屋を出ていった。

 静寂。

 釘崎は天井を見つめる。

 加茂の言葉は聞こえていた。

 だが頭に入らない。

 

 伏黒の言葉ばかりが残る。

『虎杖はこうなる運命だった』

『そうするしかなかった』

『宿儺に体を明け渡した』

『やってることは呪詛師と同じだ』

「……違う」

 小さく呟く。

「違うだろ」

 

 だが。

 反論できない。

 反論する材料がない。

 だから余計に苦しかった。 

 

 気付けば眠っていた。

 

 そして。

 また目を覚ます。

 外は真っ暗だった。

 窓の向こうに月が見える。

 かなり時間が経ったらしい。

 

「……最悪」

 自分で呟く。

 

 何もできなかった。

 何も変えられなかった。

 虎杖も。

 伏黒も。

 何一つ。

 歯を食いしばる。

 

 その時。

 ガチャ。

 扉が開いた。

 

「よぉ」

 聞き慣れた声。

「野薔薇」

 禪院真希だった。 

 

 

 〜★

 

 真希は部屋へ入るなり、近くの椅子を引っ張ってきて

 腰掛けた。

 

 しばらく何も言わない。

 釘崎も何も言わない。

 

 静寂だけが流れる。

 

「……大丈夫か?」

 真希が先に口を開いた。

 

「大丈夫に見えます?」

 掠れた声だった。

 

「見えねぇな」

 即答。

 妙に正直だった。

 

 釘崎は小さく笑った。

 笑ったというより、力が抜けたような声だった。 

 

「真希さん」

「ん?」

「私……強いですか?」

 

 真希は答えなかった。

 すぐには。

 少しだけ考える。

 言葉を選ぶ。

 珍しく慎重だった。

 

「知らねぇよ」

 

 釘崎が固まる。

 

「……は?」

「だから知らねぇ」

 

 真希は肩を竦めた。

 

「私だって分かんねぇ」

「強い弱いなんて結果論だろ」

「勝てば強い」

「負ければ弱い」

「そんなもんで決まるなら、私なんか何回弱者認定されてると

 思ってんだ」

 

 釘崎は黙る。

 真希は天井を見る。

 

「家にも負けた」

「才能にも負けた」

「何回もだ」

 

 淡々としている。

 だが重みがあった。

 実際に経験してきた人間の言葉だった。

 

「でもな」

 真希は釘崎を見る。

「辞めたことだけは一回もねぇ」

 

 釘崎の胸が少しだけ痛んだ。

 辞めたい。

 そう思ったわけじゃない。

 でも。

 

 逃げたいとは思った。

 自分より強い奴がたくさんいる。

 伏黒。

 東堂。

 虎杖

 五条先生。

 上を見ればきりがない。

 それを認めるのが嫌だった。

 

「……怖かったんです」

 ぽつりと零れる。

 

「何がだ」

「全部」

 真希は何も言わない。

 

「認めたくなかった」

「私より強い奴がいっぱいいることも」

「追いつけないかもしれないことも」

「伏黒も」

「虎杖も」

「みんな」

 声が震える。

 

「私は頑張ってるのに」

「なんで置いていかれるんだって」

「なんで私はこんなに弱いんだって」 

 

 涙が落ちた。

 止まらない。

「悔しかったんです」

「すげぇ悔しかった」

「虎杖が死んで」

「伏黒が全部背負って」

「私は何もできなくて」

「何も」

 

 拳を握る。

「何もできなかった」

 

 真希は黙って聞いていた。

 慰めない。

 否定もしない。

 ただ聞く。

 

 だから釘崎は全部吐き出せた。

 しばらく泣いた。

 時間が経った。

 

 やがて。

 真希が口を開く。

 

「なら認めろ」

 釘崎が顔を上げる。

「え?」

「お前より強い奴なんか腐るほどいる」

「私より強い奴も腐るほどいる」

「世界中にな」

 

 真希は笑う。

「だから何だ」

 言葉が刺さる。

 

「強い奴がいるから諦めるのか?」

「追いつけないから辞めるのか?」

「違うだろ」

 

 釘崎は言葉を失う。

 違う。

 違う。

 本当は。

 そんなことが言いたかったんじゃない。

 

「……私」

 自然と言葉が出る。

「強いって思われたいんじゃなかった」 

 

 真希は黙る。

 

「私」

「強くなりたかったんだ」

 

 言った瞬間。

 胸の中の何かが少しだけ軽くなった。

 ずっと引っかかっていたもの。

 悔しさ。

 劣等感。

 焦り。

 全部が少しだけ整理された。

 真希は小さく笑った。

 

「やっと分かったか」

「……はい」

「遅ぇよ」

「うるさい」

 

 少しだけ。

 本当に少しだけ。

 いつもの空気が戻る。

 

 そして。

 真希が立ち上がった。

「そういや伝言」

 

 釘崎が顔を上げる。

「誰からですか」

「伏黒」 

 一瞬。

 空気が止まる。

 真希は面倒そうに頭を掻

 いた。

 

「強くなくても諦めるな」

「だとさ」

 

 釘崎は数秒固まった。

 そして。

 笑った。

 

「……アイツ」

 真希も鼻で笑う。

 

「無責任だろ」

「本当に」

 

 しばらく沈黙。

 それから。

 釘崎はゆっくり立ち上がった。

 涙の跡を乱暴に拭う。

 拳を握る。

 

「言われなくてもだ」

 

 真希が口元を上げる。

「そうか」

 

 釘崎は窓の外を見る。

 夜だった。

 でも。

 

 さっきまでより少しだけ前が見えた。

「次会ったら」

「まず伏黒ぶん殴ります」

 真希が吹き出した。

 

「それは私も参加する」

「一緒にボコりましょう」

「そうだな」

 

 久しぶりに。

 釘崎野薔薇は心から笑った。

 強くなりたい。

 その気持ちは。

 まだ消えていなかった。

 




自分から見たらちょっと短いお話です
自分は人の心を折るのは得意だけど、人の心を立て直すのが苦手だと初めて気づきました
精進しまーす

オリキャラ出します 

  • 大丈夫だよー
  • どっちでもいいよー
  • 入れちゃだめだよー
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