伏黒恵の調和 (タイトル変更)   作:ゲダツ

4 / 21
現在の時系列は伏黒が入学してきたばっかり 


3 運ぶための力

 

 

二度目に目を開けたときも、やはり知らない天井だった。

 

 

 

「……またか」

 

 

 

 喉が乾いている。身体は重いが、前回ほどの損傷感はない。単純に呪力と体力を使い切って気絶しただけらしい。

 

 

 

「お、起きた?」

 

 

 

 間延びした声が横から飛んできた。目隠しの音すら立てずに振り向くと、椅子に座っている教師がいた。

 

 

 

「……見舞いにしては距離が近すぎませんか」

 

 

「だって死なれたら困るし。確認確認」

 

 

 軽い調子のまま、しかし視線だけが真面目になる。

 

 

 

「なんであんな無茶したの?」

 

 

 

 間を置かず、次の質問。

 

 

 

「そんなに急ぐ理由あった?」

 

 

 

 さらに続けて。

 

 

 

「恵、ちょっと焦りすぎじゃない?」

 

 

 

 伏黒は天井へ視線を戻した。考える必要はなかった。 答えはもう決まっている。

 

 

 

「……俺の未来を、少しでも明るくしたいだけです」

 

 

 

 正義でも理想でもない。ただ、自分が後悔しない場所に立つための選択だ。 五条は数秒黙ってから、小さく笑った。

 

 

 

「なるほどね。じゃ、止めない」

 

 

 

 立ち上がりながら、いつもの調子に戻る。

 

 

 

「死なない程度にやってよ」

 

 

「善処します」

 

 

 それだけの会話だった。 退院後 伏黒はすぐに訓練へ戻らなかった。

 

 代わりに、校舎裏の空きスペースで座り込み、影へ呪具を出し入れしていた。 低ランクの呪具を影に入れる  数を増やす。

そして、立ち上がる。

 

 

 

「……やっぱり、重い」

 

 

 

 身体の中心が鈍く沈む感覚。呪力消費ではない。質量そのものを共有している感覚だ。

 

 

 

(影は倉庫じゃない)

 

 

 

 収納しているのではなく、繋げているだけだ。だから入れれば入れるほど負担になる。戦闘力を増やすほど、機動力が死ぬ。

 

 

 

「……これじゃ意味がない」

 

 必要なのは、収納を肩代わりする存在。そこで思い出す。物を出し入れできる呪霊。だが、あれは希少すぎる。見つける術がない。

 

 

 

「……なら」

 

 

 

 伏黒は印を結んだ。

 

「探す術を作る」

 

 蝦蟇。 玉犬・黒狼。影が混ざり合い、別の形を取る。 二足で立つ異形。翼はない。 代わりに、長く伸びる舌と鋭い爪。

 

 

 

「――蝦蟇犬」

 

 

 

 合成式神。戦闘力は黒狼より落ちる。だが、嗅覚だけは完全に引き継いでいた。呪力ではなく、存在そのものを“匂い”で識別する感覚。

 

 

 

「蝦蟇犬さんお願いします」

 

 命令を出す。蝦蟇犬は一度だけ頷くように揺れ、影の中へ消えた。捜索範囲は限定した。東京都内でも広すぎる。伏黒が絞ったのは、高専から半径数キロ圏内の閉鎖施設群。放置された医療施設。 廃業した小規模病院。 「産まれる」「保管する」という概念が残りやすい場所。だが、それでも見つからなかった。

 

 

 

 一週間。

 

 

 

 二週間。

 

 

 

 

 

 

 一ヶ月。

 

 

 

 

 

 

 

 蝦蟇犬さんは毎日戻ってくる。成果なし。ただ匂いの情報だけを持ち帰る。伏黒はそれを整理し、再び送り出す。任務と授業の合間を縫って、 同じ作業を繰り返した。時間だけが過ぎていく。

 

 

 

 原作開始前ギリギリ 夕方。影が揺れた。 いつものように蝦蟇犬が戻ってきた。だが、いつもと違う。腹部が、明らかに膨らんでいた。

 

 

「……見つけたな!」

 

 蝦蟇犬は静かに伏黒の前に座る。命令がない限り動かない縛り。 だが、存在そのものが報告になっていた。影へ戻す。内部から、異質な気配が二つ。

 

 

 

「……二匹?」

 

 

 

 偶然だった。同じ場所に、同種の個体が潜んでいたらしい。長い時間をかけて探した結果の、想定外の収穫。伏黒はゆっくり息を吐いた。

 

 

「これで……やっとまともな運用できる」

 

 

 戦うための強さではない。戦い続けるための仕組み。その基盤が、ようやく整った。影の奥で、新しい気配が蠢いている。武器を“預かる”存在。

 

 

 十種影法術の運用は、ここから別の段階へ入る。




伏黒恵  準1級術師 昇格した
調伏式神
玉犬・白  玉犬・黒狼 蝦蟇 鵺 大蛇 満象 脱兎 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。