――高専・死体留置所。
静まり返った室内。 消毒液の匂いが強く残っている。
家入硝子はカルテを書きながら、入ってきた人物に目も向けず言った。
「……で?」
「また狙われる前に悠二に最低限の力をつける時間が欲しい 悠仁は記録上死んだことにしてくれ」
あまりにも軽い口調だった。家入のペンが止まる。
「んーー?」
「上への報告はそれでいい。処刑は完了したことにするよ」
「…………はぁ」
数秒の沈黙。
「面倒ごと増やすの好きだよね、アンタ」
「若人の青春を守るためならね」
「理由になってないよ それ」
家入は深くため息をついた。
「じゃあ虎杖ガッツリ匿う感じ?」
「いや 交流会までには復学させる」
「何故?」
「若人から青春を取り上げるなんて、許されていないんだよ」
目隠し奥の目だけが、冗談を言っていなかった。家入はしばらく黙ってから、再びペンを走らせる。
「……分かった。そう上に報告する」
「ありがと」
「貸し一つだから」
★
――場面転換。 五条の隠れ家。
薄暗い室内。 簡易ベッドの上で、虎杖がゆっくり目を開け
た。
「……ん……?」
「おはよう」
すぐ横に五条が立っていた。
「今の君はどっちかな?」
「は?」
体を動かそうとして、虎杖は気づく。
「……なんだよこれ!?」
拘束されている。
「念のためね。宿儺だったら困るし」
「外してくれ!!」
「はいはい」
五条は軽く拘束を解いた。
「悠仁の秘匿死刑が決定した」
「……は?」
虎杖が固まる。五条は淡々と説明を始めた。
「君が誘拐されてから、五条家の術師をフル稼働させて捜索させてた」
「その中の一人が、宿儺の呪力を感知した」
「僕がすぐ現場に向かったけど――」
「残ってたのは、気絶してる悠二だけ」
「……」
「なぜかそれに気づいた上層部が、君の死刑を決定」
「表向きは僕が処刑したことになってる」
少し間を置いて。
「交流会までに力をつける」
「……というと?」
五条が笑う。
「これからやることは二つ」
「呪力のコントロール そして呪術に関する最低限の知識」
虎杖は、なぜかニコニコしていた。
「……どうしたの?」
「いや、やっぱ修行つけてもらうなら五条先生がいいって思ってたから 嬉しくて」
まっすぐだった。
「俺、弱くて誰も助けられなかった」
「伏黒に任せっきりだった」
「……あいつの式神が釘崎を先に助けた」
「今のままじゃ、あいつらに顔向けできねぇ」
拳を握る。
「強くなりたい」
「最強を教えてくれ」
「フッフッ」
五条が笑う。
「お目が高い」
指差した先には、缶ジュースが二本置かれていた。
「では、あちらをご覧ください」
瞬間。
一つの缶が弾け飛ぶ。 もう一つは、ぐにゃりと“ねじれた”。
「おおっ!?」
「こっちが呪力で」「こっちが術式」
「なるほど、わからん」
「うーんそうだね」
「呪力を“電気”」「術式を“家電”に例えようか」
「電気だけじゃ使い勝手悪いでしょ? だから家電に電気を流して様々な効果を得るわけ」
「こっちは呪力をぶつけただけ」
「こっちは呪力を術式に流して発動させた呪術で捻ったの」
「つまり!!これからチョベリグな術式を身につけると!!」
「悠仁は呪術 使えないよ」
「え?」
「簡単な式神とか結界術は別として、基本的に術式は生まれながら体に刻まれてるものだ、。だから、呪術師の実力は才能がほぼ8割って感じなんだよねー」
虎杖、沈黙。
「大丈夫?」
「いや、サンダーとかファイヤーとかパワーボムとかできると思ってたから……」
「パワーボムはできるでしょ 大仁田か」
(今は使えないだけ そのうち君の体は宿儺の術式が刻まれる)
五条は内心だけでそう思う。
「できないことはガン無視してこ!! 君の長所を伸ばす 体術に呪力を上乗せするんだ。下手な呪術よりも、 こういう基礎でゴリ押しされた方が僕は怖いよ」
「さっきも肉団戦の才能はピカイチだからね」
「じゃ、早速やってみて」
自分の手を指差す。
「ここに呪力込めて打ち込んで」
「どうせできないから」
「言い方!!」
虎杖が殴る。
――パン。
「うん、呪力こもってなかったね」
「なんで!?」
「呪力の源は負の感情それをコントロールする訓練が必要だ」
「みんなわずかな感情の火種から、呪力を捻出する訓練をしてるんだ」
「大きく感情が振れた時、呪力を無駄遣いしないためにもね」
「訓練方法はいくつかあるけど」
五条が笑う。
「悠仁には、かなりしんどいのをやってもらう」
「ど、どんな……?」
「映画鑑賞!!」
「映画鑑賞?? 」
「そ 名作から C 級ホラー 地雷のフランス映画まで起きてる間はぶっ通しでだ」
「??」
「勿論 ただ観るだけじゃない」
五条が取り出したのは、寝ているくまのぬいぐるみ。
「コイツと一緒に観るんだ」
「何このキモカワイイ人形」
(可愛いか……?)
「学長特製の呪骸だよ」
「あー!! やっぱりか!! 趣味同じ!!」
「……で、全然要領を得ないんだけど」
「焦らない焦らない そろそろだよ」
瞬間。
ぬいぐるみが虎杖を殴った。
「いっでぇぇぇぇぇぇぇぇ」
「その呪骸は、一定の呪力を流し続けないと今みたいに目を覚まして襲ってくる」
「さっきも言った通り、ここにはいろんな映画が揃っているから、ドキドキ ハラハラ ワックワック 泣けて笑えて胸糞悪くなれる」
「まずはその呪骸を起こさず映画1本無傷で観通すこと」
「これがどんな感情下でも、一定の受力出力を保つ訓練 多すぎても少なすぎても駄目だよ」
虎杖は慌てて呪力を流し、呪骸を眠らせる。
「今は悠仁でも出せる程度の微弱な呪力に設定してあるけど、徐々に大きな出力を要求してくるから常に気を抜かない様にね」
「抜きたくても抜けねーよ これじゃ」
「で、何から観る?」
「これなんておすすめだよ。ヒロインがムカつくんだけど 最後派手に死ぬの」
「すんげえネタバレ」
「最初はアクショ ン゙」
グシャ。
また殴られる。
「もーー!!も゙ぉーー!!!」
「はい、イライラしても呪力は一定」
虎杖悠仁の、地味で過酷すぎる修行が始まった。
★
――少し時間は戻り伏黒サイド
高専・訓練場。
乾いた打撃音と、地面に叩きつけられる音が響いていた。
「っしゃぁ!!」
パンダが豪快に腕を振り抜く。
次の瞬間――
「ぐえっ!?」
釘崎が宙を舞っていた。
そのまま地面に落ちる。
「投げ技もありかよ!!」
「実戦は何でもありだぞー」
パンダは悪びれもなく言う。
一方。
伏黒は、その様子を横目で見ながら別のことを考えていた。
(拡張術式……)
影の中に手を沈める。
(影の応用)
(式神の出入りだけじゃない)
(影そのものを“形”にできないか)
試す。
影が、揺れる。
ゆっくりと人型を作り――
崩れた。
(やっぱり脆い)
(縛りを設けても、単体じゃ強度が足りない)
伏黒は結論に至る。
(なら――式神にまとわせる)
(外殻として使えば、防御力の底上げになる)
視線の先では。
蝦蟇犬と禪院真希が組み手をしていた。
「ほらどうした!」
真希の薙ぎ払いを蝦蟇犬が受け止めるが、人間相手は初めてのため 若干押されている。
(現状じゃ、まだ押し切られる)
伏黒は手を組む。
影が分裂する。一体。 二体。さらにもう一体――
(最大五体が限界か)
(呪力総量と出力が上がれば、増やせる)
(……今はこれが上限)
「おい恵!」
真希が声をかける。
「さっきから何やってんだ?」
伏黒は影に手を入れたまま答える。
「物を出し入れできる呪霊を、できるだけしつけています」
「は?」
真希の動きが止まる。
「……なんでそんなの持ってんだ」
「任務の途中で、たまたま二匹手に入れました」
「二匹?」
真希が眉をひそめる。
「一匹よこせ」
「……分かりました」
伏黒は一体を差し出す。影から、小型の呪霊が現れる。真希はそれを受け取り、しげしげと観察した。
「……マジかよ」
呪具運搬にも使える 戦術の幅が一気に広がる代物だった。
「とりあえず――」
真希が槍を構える。
「私と戦え」
「式神は弱っちい」
「まず私らから一本取れ」
「話はそれからだ」
「分かりました」
伏黒は即答した。
「では、始めましょう」
「……は?」
あまりの即答に真希が一瞬戸惑う。だが、伏黒はすでに動いていた。影分身を二体展開。左右に散らす。
「分身……?」
真希は迷わず本体を狙う。その瞬間。 本体と分身が同時に手を組む。
「「「――咬捻」」」
不可視の圧が叩き込まれる。
「っ!!」
真希の体が一瞬軋む。その隙。分身たちが足を掴み――叩きつける。
地面が割れる。真希は即座に受け身を取り、掴みを振りほどく。
「ちっ……!」
距離を取った瞬間。再び咬捻が飛ぶ。
「うぜぇな!!」
三体が囲むように殴打を続ける。真希は強引に突破。
だが――
「そこか」
背後。真希の“影”から、もう一体が現れる。
「なっ――」
ゼロ距離。咬捻が直撃した。衝撃が抜ける。真希が膝をついた。
「……一本です」
伏黒が静かに言う。数秒の沈黙。そして。真希が、ニヤッと笑った。
「……面白ぇじゃん」
「交流会までに、もっと仕上げろ」
「今のままじゃ、京都校の連中にはまだ足りねえ」
伏黒は頷いた
(やることは多い)
(影分身の精度) (武器庫呪霊の運用) (式神強化)
(――全部、間に合わせる)
★
――同時刻。高専訓練場。
乾いた打撃音が、一定のリズムで響いていた。伏黒は、上級生相手の組み手を続けている。
勝つ時もあれば、負ける時もある。
(このままじゃ、勝率が安定しない)
体術でも式神でも通用する。 だが――決定打に欠ける。
(不意を突ける手段が必要だ)
伏黒は足元を見る。
自分の影。ふと浮かんだ考えを試すように、 そこへ呪力を流した。
じわり、と影が揺れる。
「……?」
もう一度、意識を集中させる。
影に触れる感覚を、術式ではなく “自分の手足の延長”として捉える。
すると――影が、水面のように広がった。
「……広がった?」
伏黒はさらに呪力を調整する。流しすぎると暴れる。 弱すぎると動かない。
一定量を保った瞬間。影が、ぬるりと前へ伸びた。
まるで、生き物のように。
(……いける)
試しに先輩の足元へ滑り込ませる。影が絡みつき、 一瞬だけ動きを止めた。
「っ!?」
その隙に伏黒の拳が入る。組み手終了。
伏黒は影を戻しながら息を吐いた。
(呪力消費が重い……だが)
(不意打ちと拘束には使える)
伏黒は小さく呟く。
「……影真似、だな」
自分の影を“操る”のではなく、 相手の影と“同調させて縛る”感覚。
未完成だが、 勝率を引き上げる札になると確信した。
「釘崎」
伏黒は工具袋を差し出した。
「何これ?」
「ハンマータッカーだ」
「……は?」
釘崎はそれを受け取り、 まじまじと眺める。
「工具用の釘打ち機だ。 叩くだけで釘を打ち込める」
「へぇ」
カシャン、と試しに打つ。想像以上の速度で釘が刺さった。
「……これ、早っ」
「呪力を込める前提なら、 手打ちより精度も速度も上がる」
「合理的じゃない」
釘崎は口角を上げる。
「嫌いじゃないわ」
――別エリア。
「おい伏黒!!」
禪院真希の苛立った声が響いた。
「なんだこれ全然言うこと聞かねぇぞ!!」
そこには、 もぞもぞ動く武器庫呪霊。
伏黒が確保した個体を、 真希にも一体渡していた。
現在、武器庫呪霊は二匹。
伏黒用と、真希用。
「思わぬもん拾ってきやがって……!」
「悪かったですね」
伏黒も自分の個体を前に苦戦していた。呪力を流す。
――出てきたのは、薙刀。
「違う」
引っ込める。
もう一度。今度は鎖分銅。
「だから違う……!」
真希の方も同じ状況だった。
「短刀出せっつってんだろ!!」
出てきたのは、巨大斧。
「重ぇよ!!」
二人同時にため息を吐いた。
「こいつ、“理屈で覚えさせる”タイプじゃないですね」
伏黒が分析する。
「……ああ」
真希もすぐ理解する。
「こっちが合わせるしかないな」
伏黒は短刀を実際に手に取る。
重さ。 握り。 抜く動作。
その感覚を維持したまま、 影へ呪力を流した。
ノックするように、 最小限で。影が揺れる。
ゆっくりと――短刀が出現した。
伏黒の手に、収まる。
「……出た」
「お、今の感覚だ」
真希も同じ動作を試す。
しかし出てきたのは槍。
「違ぇ!!」
「焦るとズレますよ」
「分かってる!!」
調教ではない。
命令でもない。
これは――
“操作訓練”。
数十分後。
二人とも汗だくになっていた。
「こんな面倒なもん、どうやって使うんだよ……」
真希がぼやく。伏黒も同感だった。
(パパ黒は意思疎通なしで任意の呪具を出してた……)
(やっぱり異常だ)
だが。
影がわずかに応答する。武器庫呪霊も、 ほんの少しだけ“扱える道具”に近づいていた。
「……まだ戦闘じゃ使えないですね」
「ああ」
「でも」
真希が笑う。
「使えるようになれば、相当エグいぞこれ」
伏黒は影を見る。
影真似。 武器庫呪霊。 未完成の技ばかりだ。
だが確実に――
底上げは進んでいた。
(交流会までには、確実に間に合う)
交流会まであと一月半
覚醒前真希に武器庫呪霊が巻き付いているそれを想像すれば
胸が強調されてエロいすね〜 あと、火傷跡がない
オリジナルキャラを入れるべきか
-
オリキャラを入れるべき。面白いから
-
入れない方が面白い