見にくかったらゴメンネ!
分岐点1
試合後半再開のホイッスルが鳴る。いつもの様な光景だ。
───いつからだろう。自分が落ち目と言われ始めたのは。
影山東吾はそう思案する。
無理のないことだ。今のサッカー界は若手が台頭してきており、自分は実際に落ち目なのだろう。だがあんまりではないか。あれだけ天才と、日本の至宝と称えられた自分がここまで言われるのは。
若手から見ればロートルなのだろう。現在のサッカーファンから見てももう注目すべき選手ではないのだろう。
───自分はこのまま落ちていくだけなのだろうか。
影山に、そんな考えが過ぎる。
頭を振って考えを飛ばそうとしてもこびりついて消えない。
「───ダッシュアクセル!」
「ぐあっ…!?」
考えごとをしていたせいか相手のMFの必殺技に吹っ飛ばされてしまう。自分達は必殺技なんてもっていない。そもそもサッカーに必殺技なんてものはなかったのだ。そんな概念を持ち込んできたのは───
「いいぞ、そのまま行け!」
───向こうのゴールで声を張り上げて応援しているキーパー、円堂大介だ。
必殺技は華やかで派手だ。観衆受けもいい。だがその分、必殺技を使えない者達は評価されなくなっていった。
元々は鉄壁とまで言われたキーパーも、必殺技の前には藻屑にすぎない。せっかくまだ無失点だったのに、一点を取られてしまったら、円堂を突破する手段がない自分達では負け一直線だ。
───諦めてしまおうか。
影山がそう思った時、声が聞こえてきた。
「───お父さん、頑張れー!」
ああ、これは息子の声だ。紛れもない、いつも会場で応援してくれる、自慢の息子の声だ。
───何を諦めていたんだ。
まだ抜かされただけだ。FWにボールすら渡っていない。ここからカウンターを決めれば勝ち目はある。
「───ディフェンスッ!」
「あいよっ!」
味方がフェイントプレイでボールを奪う。ここからカウンターを決めて、勝利へ───
───ふと思考を目の前の状況に戻す。ペナルティエリアに着いたものの、FWの二人は敵のDFが張り付いている。後ろのMFも同様。つまり、自分でシュートを決めるしかないのだ。
上等だ。
円堂は今まで無失点?自分に必殺技がない?煩いな、今から作ればいいんだ。
「…スゥーッ、フゥーッ…。…いくぞっ、円堂!」
「…!あぁ、こい!」
口笛を吹く。地面から皇帝の名を冠する鳥達が現れ、脚に齧り付いていく。激痛が走る。骨折でも、肉離れでも、筋肉痛でもこの様な痛みは経験したことがなかった。
───だが構わない。
今はただ目の前の相手をぶち抜くことだけでいい───!
「…皇帝ペンギン───」
「…ッ!?マジン・ザ───」
「───1号ォ!!!」
「───ハンドォ!!!」
ボールを思い切り蹴り、ペンギンが放たれる。ペンギンと共にゴールへ向かっていくこのシュートは、我ながら技術のカケラも無く、それでいて力強いシュートだった。
円堂は背後のマジンと共に自分のシュートを止めようと手を伸ばす。だが何故か確信があった。
「───ぐああああっ!!」
このシュートは、円堂の必殺技だって破れると。
ピピ───ッ!
得点の笛が鳴った。試合も終わりに近い。これは勝っただろう。そう思った途端に視界が歪む。
声が出ない。先ほど放った必殺技のせいか。シュートを放った左脚はもはや見る価値もない程にボロボロなのだろう。しかし、何故か影山は晴れやかだった。円堂相手に得点を取ったことによる高揚感か、若手相手に一手報いた嬉しさからだろうか。
───ああ、空ってこんなに綺麗だったんだな。
そう思いながら、影山東吾は意識を失った。
これは、影山東吾が円堂大介に一矢報いたifの話。
まだちょっと変わっただけ。まだ。
影山東吾:息子の応援で覚醒した元スター。この世界では皇帝ペンギン1号はコイツが編み出した。
円堂大介:サッカーの世界に必殺技を持ち込んだ異分子。現時点でのスター。プロになってから初失点。
追記:皇帝ペンギン1号の部分が漢数字になってたので再編集しました。