相原唯は免許が取りたい   作:藍色 紺

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第13話 リバーシブルレーン、どっち側?

 レジカウンター周りをウェスで拭き終わった唯は、チェックシートにレ点を入れながらため息をついた。ボールペンを音をさせて二度ノックする。

 ふわふわの髪を思い出して、さらにノックが重なる。

 

 バツは間違いでしょ。じゃなきゃ、何だっての?

 そもそも、佐々木に絡まれた意味がわかんないんだけど。

 

 あれはわざわざついてきたのだ。それで、私にだけ文句を言ってきた。

 他の人も同じように文句言ってたのに。

 

 唯一思い当たるとすれば、同じ地元ってことくらい。

 いや、でも。住んでる地域も、高校も全然違うし。

 

 じゃあ、なんで?

 ボールペンを、もう一度強くノックした。

 わからない。

 理由なんてないんだろうな。言いやすいってだけ。

 

 来店の音がして、反射的に「いらっしゃいませ」と笑顔を向ける。作業着に白髪のおじいさんが、スポーツ新聞を引き抜くところだった。

 唯は、注文される前に赤マルのソフトをレジカウンターに出した。

 

 中島のゲンさんが、にやっと笑う。財布を出して、小銭を数え始める間に、唯はレジを打つ。

 

「そういえば、佐々木さんに世話になってるらしいな」

 

「佐々木?」

 

 今、聞きたくない名前に、不機嫌まるだしの声を出してしまい、後悔する。

 

「世話になってるのに名前も憶えてないんか?」

 

 ゲンさんが苦笑いをしながら、小銭をレジカウンターに乗せた。

 

「あの受付、簡単に予約入れてくれる人じゃねぇけどな」

 

「え?」

 

 予約? 何の話?

 予約といえば、教習所でしか入れてないはずだけど。

 

 ——あ。

 頭の中で、ゆるパーマと受付のおばちゃんが並んで笑う。

 ……、そういうこと?

 

『空席待ち入れなきゃ、日数で帰れないとかさ』

『合宿ってどこもそうらしいよね』

 

 佐々木がフォローを入れていたのは、どれも受付のおばちゃんに関係がある。

 

「じゃあ、――」

 

「やっぱ、甥っ子と一緒に入れてくれるって強いわ。お前、運がいいよな」

 

「ハハ……。運、いいですかね」

 

 お世話になっているおばちゃんの、甥っ子の前で教習所の怖さに強く共感したばかりだ。

 もう、予約入れてくれないかもな。

 

 自分だけの優遇がなくなることより、やってしまった感に打ちのめされる。

 

「どした? さっきから一人百面相してっけど、教習車でも潰したか?」

 

 ゲンさんの声に、首を振るって苦笑いするしかない。

 

 大学生とか、合宿生とか、それだけで、線を引いてた。

 

 ついこの間、学科で教えてもらったリバーシブルレーンを思い出す。

 時間帯によって、交通量の多い方に、中央線の位置が変わるというが、唯の住む県にはない。

「紛らわしいから、事故が多くて、なくなってきてんねん」

 角刈りの言葉に、そりゃそうだと頷いた。とりわけルールは白黒はっきりしている方がわかりやすい。

 

 でも、そんな単純じゃ、ないんだよね。

 大学生か浪人生かで、人間が分けられるわけじゃ、ないのに。

 

 口の中で、言葉が止まる。

 レジの液晶に映った自分と目が合った。

 「不正入力」の表示と重なる。

 

 私、浪人が間違いって思ってる――?

 いや、そんなわけないし。

 

 慌てて、打ち直し、レシートが排出される。と、同時に自動ドアが開いた。

 若者の笑い声が店内に侵入する。

 真っ先に、ゆるパーマが目に入った。

 

「あ、バイト先、ここだったの?」

 

 顔なじみになった合宿生の女の子の言葉に、どうにか笑顔になれたと思う。

 佐々木がレジに向かう前に、唯はゲンさんに向き直した。

 

「袋、ご入り用ですか」

 

 声が上ずった。

 いらないと知っていて聞いていると、ゲンさんにはバレたはずだ。

 

「そろそろ出ぇへんと、コース横切っても間に合わへんで!」

 

 大声に、皆が振り向く。唯はゲンさんに頭を下げて、バックヤードに飛び込んだ。

 

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