相原唯は免許が取りたい   作:藍色 紺

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第25話 あぁ、憧れのマイカー生活

 朝六時。

 ラジオで天気予報を聞きながら、唯はバイパスを走っていた。

 行き先は、マクドナルド。

 

 朝にしかないメニューがあると知ったのは、高校生のとき、バイパス沿いに住んでいたクラスメイトが、朝ごはん代わりに持ってきたからだ。

 何度か行こうとしたけれど、平日は学校があったし、土日は部活がある。何より自転車で気軽に行ける距離にはなかった。

 

 でも、車なら行けちゃうんだよね。

 

 佐藤マートとは反対方向。教習所とも反対方向。

 今日は土手は走ってないし、誰にも聞かないで、自分で決めた道を走っている。

 

 予定通り黄色い看板が見えたら減速した。ドライブスルーの入り口と迷いながら駐車場に逃げる。

 初めての一人での運転で、初ドライブスルーで注文なんて、できそうにない。

 

 広い駐車場には、数台の車が停められていた。

 両隣が開いている区画を狙って、車を進める。シフトをRに入れて、クラッチを繋ぐ。

 パタパタパタと慌ただしくハンドルを回す。

 

「ん、もぅ!」

 

 思ったように入らない。

 教習車より断然小さな車で、両隣は開いているのに、だ。

 

 恨めし気に、前進すれば入れられる区画を見て、もう一度後ろを見てみる。

 仕切り直して、何度も車を前後させ、どうにか納得できるポジションに収められた。

 

「よし! 相原選手、無事駐車できました!」

 

 両手を握って、頭の上でシェイクする。

 

 車から降りて、鍵を差し込んだ。

 唯のアルト君には、キーレンスエントリー機能はない。

 鍵穴には、鍵がひっかかった小さな傷が無数にある。

 

 けれど、鍵を自分で閉めるのも嬉しい。

 

 注文が終わり、支払いを待つ間、唯のスマホが振動した。

 通知が流れる。

 佐々木からだった。

 

「免許取れた?」

 

 唯は、ゆるふわパーマを思い出して微笑んだ。

 

「お支払いは――」

 

 唯は、そのままスマホで支払いを済ませ、朝マックを持って車に戻った。

 窓を全開にして、車内の熱気を外の熱気と入れ替える。川の方から吹いてきた風が、前髪を揺らした。

 

 紙袋をガサゴソと音を立てながら、マフィンを取り出した。

 ハンドルの上で、写真を撮る。

 

 マフィンをかじった。

 

「おいし」

 

 母親が顔をしかめるのを想像して、野菜ジュースを飲む。

 

 二口目からは、ハムとチーズの塩からさが、めだま焼きに受け止められて、途中で止められない。

 あっという間に食べ終わって、指についた粉を名残惜しく見てしまう。

 

「また来よう」

 

 これからは、いつでも来られる。

 それが嬉しくて、スマホをいじって撮ったばかりの写真を眺めた。SNSのアイコンに設定する。

 佐々木からのメッセージを思い出して、「朝マック」とだけメッセージを送った。

 佐々木なら、アイコンとこれでわかってくれるはずだ。

 

 私が、免許を取ったかどうか。

 電車やバスの時間、周りの目を気にしなくていい。

 好きなタイミングで好きなところへ行けるようになったこと。

 

 北は山、南は川。

 このくらいアバウトな地図でも、マックには来られた。

 

 大学も、案外そんなものかもしれない。

 

 とりあえず、次はどこに行こう。

 

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