朝六時。
ラジオで天気予報を聞きながら、唯はバイパスを走っていた。
行き先は、マクドナルド。
朝にしかないメニューがあると知ったのは、高校生のとき、バイパス沿いに住んでいたクラスメイトが、朝ごはん代わりに持ってきたからだ。
何度か行こうとしたけれど、平日は学校があったし、土日は部活がある。何より自転車で気軽に行ける距離にはなかった。
でも、車なら行けちゃうんだよね。
佐藤マートとは反対方向。教習所とも反対方向。
今日は土手は走ってないし、誰にも聞かないで、自分で決めた道を走っている。
予定通り黄色い看板が見えたら減速した。ドライブスルーの入り口と迷いながら駐車場に逃げる。
初めての一人での運転で、初ドライブスルーで注文なんて、できそうにない。
広い駐車場には、数台の車が停められていた。
両隣が開いている区画を狙って、車を進める。シフトをRに入れて、クラッチを繋ぐ。
パタパタパタと慌ただしくハンドルを回す。
「ん、もぅ!」
思ったように入らない。
教習車より断然小さな車で、両隣は開いているのに、だ。
恨めし気に、前進すれば入れられる区画を見て、もう一度後ろを見てみる。
仕切り直して、何度も車を前後させ、どうにか納得できるポジションに収められた。
「よし! 相原選手、無事駐車できました!」
両手を握って、頭の上でシェイクする。
車から降りて、鍵を差し込んだ。
唯のアルト君には、キーレンスエントリー機能はない。
鍵穴には、鍵がひっかかった小さな傷が無数にある。
けれど、鍵を自分で閉めるのも嬉しい。
注文が終わり、支払いを待つ間、唯のスマホが振動した。
通知が流れる。
佐々木からだった。
「免許取れた?」
唯は、ゆるふわパーマを思い出して微笑んだ。
「お支払いは――」
唯は、そのままスマホで支払いを済ませ、朝マックを持って車に戻った。
窓を全開にして、車内の熱気を外の熱気と入れ替える。川の方から吹いてきた風が、前髪を揺らした。
紙袋をガサゴソと音を立てながら、マフィンを取り出した。
ハンドルの上で、写真を撮る。
マフィンをかじった。
「おいし」
母親が顔をしかめるのを想像して、野菜ジュースを飲む。
二口目からは、ハムとチーズの塩からさが、めだま焼きに受け止められて、途中で止められない。
あっという間に食べ終わって、指についた粉を名残惜しく見てしまう。
「また来よう」
これからは、いつでも来られる。
それが嬉しくて、スマホをいじって撮ったばかりの写真を眺めた。SNSのアイコンに設定する。
佐々木からのメッセージを思い出して、「朝マック」とだけメッセージを送った。
佐々木なら、アイコンとこれでわかってくれるはずだ。
私が、免許を取ったかどうか。
電車やバスの時間、周りの目を気にしなくていい。
好きなタイミングで好きなところへ行けるようになったこと。
北は山、南は川。
このくらいアバウトな地図でも、マックには来られた。
大学も、案外そんなものかもしれない。
とりあえず、次はどこに行こう。