《死にゲーマー》 死んだら終わりのSAOへ巻き込まれ…… 作:NEAR LIGHT
今話から次話にかけて主人公くんの自我を地の文にも反映して行くのでよろしく!
数か月前、始めてフルダイブ技術を聞いた時には半信半疑の思いだった。
本当に人間の意識をデータに変換して、ポリゴンで構築することが出来るのか?
出来たとしても荒い解像度と遅れ遅れになるアバターへの反応のせいでストレスマックスなのでは?
マ〇リックスみたいな感じ?
彼は己の感覚を第一に信用するタイプである。口コミでは絶賛されていても、実際にダイブするまで分からない違和感があると踏んでいたのだが………
「おぉ…これがフルダイブVRか…!!」
未だにアバター設定の段階で止まったままだが、既に心中にあった疑念と偏見は吹き飛んでいた。
「すげー滑らかな動作だ、応答速度は現実と変化が分からない位だな。物理エンジンは…」
続けて、飛び跳ねたり反復横跳びしたりバク転。一通り体を動かして慣性や摩擦、重力は現実とほぼ同等だと確認する。
(あとは攻撃に慣性が乗るかどうか…)
「ってダメだダメだ、さっさと初期設定しねぇと。サービス開始時間が来ちまう」
思わず検証に夢中になりかけてしまいそうな脳を覚まして、坂本美月はアバター設定のために宙に浮かんでいるシステムメニューに触れる。
「体格から性別までイジれるなんて、これ本当に一本目のフルVRゲームか?完成度というか自由度高すぎだろ」
作り手であるクリエイター達の熱意に感嘆しつつ設定を進める。顔面は主要なパーツを弄り、体格は二回り大きくしてササッと設定を終える。
最高パフォーマンスを目指すなら、現実と同じ体格にして感覚を同期させる方が良いのだが、承知の上で坂本美月は︎︎︎︎とある理由で、体格を大きくしているのだ。
「髪は現実と同じブロンドの金髪で、ボイチェンと顔は適当に青年Cみたいにして………ヨシっ!」
SAOに技量や信仰などのステータスは無い。HPはレベルアップに伴って上がり、筋力と敏捷、以外のステータスは全て装備と習得するスキルによって変化するのが基本的システムだ。
さらに、SAOには特有の『ソードスキル』という特定モーションを挟むと使える準必殺技のような、オートエイム付きの強攻撃がある。
死にゲーをメインでプレイしていた坂本美月には少々慣れない仕様だが、そこは死にゲーマー、死と共に覚えて慣れて行くことだろう。
最後にユーザーネームを設定すると、丁度サービス開始時刻となりそのまま視界は白光に包まれフィールドへと転送される。
「さーて、剣の世界。どんなもんか楽しみだ」
薄暗い目蓋の内が視界に映り、周囲から賑わう人々の喧騒が聞こえた。
彼が期待に胸を膨らませ閉じた目を開くと、そこは立派な石柱が中央に居を構える広場だった。
視界の左端には設定したユーザーネーム『
(さーて!やってみたいことが山積みだ、とりあえず武器の仕様とソードスキルの練習を兼ねてフィールドに行くとするか!)
SAOのパッケージやゲームニュース記事に記されていた安全圏とフィールドの概念を思い出しつつ、地図を見ながらフィールドへと一直線に向かう。
(走ってる感覚も現実同様。強いて言うなら少し軽いか)
そんなこんなで、彼はいわゆる圏外であるフィールドの小高い草原に辿り着く。
青いイノシシ型のモンスターがあちらこちらに点在する内の、一番近い一体に狙いを定める。腰に携帯している鞘から初期装備の短剣を抜刀し、逆手持ちで構え走り出す。
「さーて、初戦は楽勝と行きたいなッ!」
太い腹の短剣は数種類ある初期武器の中でも、最も扱い易い武器種だ。普段からゲームをしない人種、それも剣など振るう人々が選ぶ某ス〇ブラで言う暴食ピンクボール的な存在。
反面、全武器種の中で最低リーチと最低重量を誇る低火力武器である。
それを承知で俺が片手剣や戦爪ではなくあえて短剣を選んだ理由は……
「シィッ…!!」
逆手により側面と下方を広くカバーする短剣は、走力のエネルギーも乗せられた斬撃は、叩き込まれる素早く二連撃でイノシシ型モンストーをポリゴンに変える。
撃破後の経験値と
素早くウィンドウをスライドして閉じ、青イノシシは予備動作のチャージを溜めてサカヅキに突撃する。
牙と刃を接触させ突撃を軽く流し青イノシシに硬直を強制、その背後からジャンプして突き立てる。
短剣が突き刺さった青イノシシはロデオの如くサカヅキを振り払おうと、ひとしきり暴れた所で力尽きポリゴンに姿を変える。
「やっぱ良いな
短剣を選んだ理由、それは対応力とSAOの仕様にある。
リーチが短い故に防御からの攻撃に転じる切り替えの速さ、装備重量の無さから発生する俊敏性の向上。
攻防一体を可能にする短剣はソードスキル発動の判定も甘く、その攻撃性に拍車を掛ける。ソードスキルで敵の攻撃を相殺するパリィ的立ち位置の︎スイッチの存在は、防御性に追い風を吹かせた。
もう一つの理由は、ダメージ量が武器の質量or武器性能もしくは両方×速さで計算されるという仕様である。これならば、多少軽くとも攻撃回転と斬撃速度を上げればどうとでもなる話だ。
推測されるSAOの仕様は多くのゲームで日の目を浴びない短剣に、眩いほどに太陽光を浴びせる。
いまだ推測の域を出ない推論だが、これから成長方針とプレイスタイルを決めるには十分な要素だった。
(ベータ版プレイヤーからの情報によれば、短剣はソードスキルの発動判定が甘いらしく、どんな体勢からでも肩より先のモーションが整えば発動可能、だったけな?)
「ソードスキル…」
無惨に切り伏せられた同族など知らんとばかりに、性懲りも無くまた参戦して即猪突猛進する青イノシシに対して、ソードスキルの初期モーションの構えを取る。
眩いオレンジのライトエフェクトが刀身を覆い、システムが目標を定める。
「エレメンタリィエッジっ!!」
単発中段斬りソードスキル エレメンタリィエッジ
武器使用による熟練度と特定条件で解放される数多あるソードスキルの中でも、それぞれの武器種で初めから解放されている基本の技だ。
威力は初期技相応だが、同じく初期敵の青イノシシなら問題無い。
刀身だけが勝手に敵へと向かって行くホーミング感に違和感を覚えつつ、合わせてステップを踏み剣技を補助する。
そして、橙色の閃光が青イノシシを斜め下から上へと走る。
「このゲーム中々……」
赤い斬撃痕が残る肉体がポリゴンとなって散った。
「…神ゲーかもしんねぇな」
細かい敵エネミーのモーションとキャラメイクの豊富さ、他に無いステータスシステムとそれを成り立たせている武器や防具面でのバランス、何よりも仮装肉体であれ自身の手で敵を倒しているという実感。
今までクソゲー、汎ゲー、などなどを遊び歩いていた彼が「神ゲー」たる判定を下すのも当然のクオリティを、SAOは魅せたのだ。
SAOは彼を確かに魅了し、死にゲーで弱った火を炎へと一気に燃え上がらせる燃料を十分過ぎるレベルで与えた。
「ほほー!これが経験値とレベルの欄か…ってこりゃ1レベル上げるのにも苦労しそうだな……」
「おーい!そこの金髪のあんちゃーん!!」
「ん?」
ウィンドウを開きステータスのページを眺めていると、背後から俺に向けと思われる声がして振り向く。まあ、この辺人居ないから、俺だとは思うが……
「さっきの凄かったな!もしかして、あんたもベータテスターか!!」
赤髪に赤バンダナの男、それに続くように黒髪の塩顔が走って来るのが視界に映る。PKかと一瞬疑って短剣を構えるが思い直してすぐ鞘に納めた。
(いかんいかん、この前裏切り上等な対人ゲームやったせいで懐疑心が染み付いちまってるな。よし、ここは感じよくフレンドリーに行こう)
「どーも、けど俺はベーターじゃねぇぞ?ただの一般プレイヤーだ」
フレンドリーと意識しつつも、SAOに来てからの戦闘で把握した自分の間合いと、相手の武器やら立ち位置を意識し常に襲撃へ備える。
「え!?そうなのか、さっきのキレキレの動きからしててっきりベータ上がりかと思っちまったぜ」
そう言って褒めてくれた赤バンダナのプレイヤーの背には、初期武器の曲刀が携えられていており、もう片方の黒髪塩顔は片手剣を同じく装備していた。
(片方が油断させてもう片方が襲って来る……みたいな外道戦法はしてこなさそうだな)
「クライン、いくらゲーム内でもコミニュケーションはちゃんとしないとダメだぞ」
「おぉそうだ!悪いな兄ちゃん、挨拶も無しに突然」
「別にいいぜ。こっちも挨拶してなかったしな」
一息吐くと、俺は警戒を解きリラックスして口を開く。
「俺はサカヅキ。好きなゲームは死にゲーだ、よろしく」
デメリットを理解しているのに、主人公くんがアバターを現実より大きくしたのには、それはそれは深い(浅い)訳があるのです……
あと独自解釈って言葉はとても便利