転生リィンのやり直し   作:影後

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一人また一人と部屋を訪ね歩くリィン。
だが、蟠りが完全に消えるには時間が必要だ。


3

3階、つまり女子生徒の生活圏に脚を踏み入れた。

正直、気にすることは無いとおもいたい。

思いたいのだが、前回のとき何故か着換え中だったり、

みっしぃぬいに埋もれるラウラなど、

見られると恥ずかしい姿を見てしまうことが多く、

どうにか今回は其れ等を無くしたい。

 

いや、俺がリィン・シュバルツァーである限り

無理だと言うのなら、せめて少なくしたい。

 

最初に訪ねたのはアリサの部屋だ。

別に他意があるわけでもなく、階段から一番近いから。

ノックし、返事を待つ。

 

「――はい、誰かしら?」

 

「リィン・シュバルツァーです」

 

どうしても距離がある生徒には素直に「リィンだ」

などと言えない、前の俺はどうしてあの状況で、

「リィンだけど」なんて、軽いノリだったんだ。

 

「あっ、リィ……シュバルツァーさんね。

何か用かしら……

こんな時間に女子の部屋を訪ねてくるなんて、

少々不躾でなくて?」

 

「それは俺も理解しています。

でも、早急に手渡す必要がある物があるので」

 

トワ会長から生徒手帳を預かっている事を告げると、

気不味そうな唸り声が聞こえる。

本当に俺何かしたかと思えてくるが、

旧校舎で抱き上げた事や、

重い身の上話をして距離感を破壊した事。

この2つのせいだとしたら、完全に後者で裏目に出ている。

マキアスはまだなんとかなるが、アリサの方は……

いっそ、お久しぶりとでも言えばいいのか。

扉が開くと、何処か申し訳なさそうなアリサが出てきた。

 

「その……ありがとうございます」

 

「………」

 

「シュバルツァーさん?」

 

もうどうなっていいやと思いながら、

このままクラスの輪が自分のせいで壊れるのは嫌だ。

 

「ねぇ、大丈夫?」

 

「あぁ、ごめんなさい。

ちょっと、アリサさんを見て昔の事を思い出しちゃって」

 

「それって」

 

「いや、違うよ。

昔、ユミルでね、迷子になってた女の子。

妹と一緒にその、泣き止むまで遊んだんだけど……

あの子、凄い……アリサさんに似てる気がして。

たしか、アリサ・ライン」

 

「ごめんなさい!生徒手帳ありがとう!!

本当にありがとうっ!!!」

 

「……え」

 

何かを思い出したのか、

顔を真っ赤に染め上げたアリサに生徒手帳を奪われた。

それだけでなく、扉を閉められ鍵までかけられた。

パーフェクトコミュニケーションどころか、

ベリーバットコミュニケーションを起こした気もするが、

まぁこれも自分の選択だ。

前回しなかった事を尽くやっているが、

本当に成功してるのか不安になる。

自分の選択を受け入れるとは言ったが、

不安にならないとは言ってない。

溜息をつきつつも、心機一転。

隣のラウラの部屋をノックする。

 

「ラウラ?居ないのか?」

 

扉を確認すると鍵は開いている。

だが、流石にガイウスやユーシスと同じような対応は駄目だ。

下手に入って着換え中やらだったら、

俺はアルゼイド卿に殺される。

 

「……ラウラ?」

 

もう一度だけノックして反応を確認する。

 

「…む?その声はリィンか。すまぬ、今開ける」

 

そう言えばと思い出した。

この時のラウラは自室でトレーニングをしていた。

そのためか、出てきたラウラは汗が流れており、

皮膚は艶を魅せている。

綺麗だ、や、美しいと思うより前に同じ事をしていた妹。

エリゼの事を思い出してしまい、

つい持っていたハンカチでラウラの汗をぬぐう。

 

「なっ…リィ」

 

「頑張るのは良いが、

そう言う状態で人前に出るのは駄目だぞ。

ちゃんと拭わないと直ぐに身体が冷えてしまうし、

他にも」

 

「ええぃ!リィン!私はそなたの娘ではないぞ!」

 

「…あっ…ごめんラウラ。

つい、その俺の妹に被って見えてしまった」

 

「むぅ、妹か。どうやら、リィン。

そなたは相当過保護なようだな。父上と似た雰囲気だったぞ」

 

「それは…アルゼイド子爵と同じと言われると…」

 

「なんだ?悪口か?」

 

「いや、偉大なる存在と対等に言われるのは嫌だな。

俺は、アルゼイド子爵のように素晴らしい人間じゃない。

俺は……いや、この話はよそう。気分が下がる」

 

「む?そこまで卑下する必要はないぞ。

リィン、確かに今さっきの行動は少しばかり不満に思える。

しかし、授業外では皆のサポート。それだけでなく、

教室やここの掃除等もしているではないか。

まぁ、未だに本気を出していないようだが…」

 

「……俺が本気を出したら、帝国に亀裂ができる。

ただでさえ色々と火種が多いのに、余計に……」

 

「では、私と打ちあうのは」

 

「少なくとも学園内は駄目だ。

口止めが難しい、ラウラも判るだろ?

今、改革派と貴族派の取り込み合戦。

アルゼイド子爵は貴族であるが、

貴族派や改革派と言ったものに対して中立な立場であり、

強いて言えば王族派」

 

「言わんとすることは理解できた、だが聞かせてくれ。

リィン、御主の…『剣聖』としての名を」

 

ラウラはじっと俺の目を見つめている。

ごまかしは許さない、嘘もつかせないという気概がある。

 

「…終の剣聖」

 

「終の……剣聖」

 

「ラウラ、すまない。

これ以上は今は……話したくない」

 

自分でも判るほどに声が重くなっている。

終の剣聖、灰の剣聖に対を成している状態に等しい俺。

彼奴なら、リィンなら終なんて名乗らないだろう。

 

「…そうか、すまぬ。リィン」

 

「いや、どうせまだ無名だからな。

通り名を変えることも考えるさ。じゃあな、ラウラ」

 

哀しそうな顔を見せるラウラに気にするなと言いながら、

俺が扉を閉めた。

『終の剣聖』それが、己に課した通り名である。

『閃』やら『零』やら沢山あったが…

『灰』だけは名乗らない。

『灰の剣聖』は彼奴だけ、リィンだけだ。

俺に道を教えてくれた彼奴、

その通り名を奪う訳には行かない。

 

「あっ、リィンさん」

 

「エマ。ちょうど伺おうと」

 

「でしたら、部屋に入ってください。

色々と話したいことがありますので」

 

エマにそう言われ、

部屋に入ると鍵をかけられ何やら魔術をかけている。

 

「これでコチラの声が外に漏れる事はありません」

 

「なら、逆は」

 

「安心なさい、外からの音は聞こえるわ。

ただし、扉や窓を開けた瞬間この術は消えるから」

 

「やぁ、セリーヌ。

今夜は俺の部屋とエマの部屋。どっちで寝るんだ?」

 

「アンタ、その言い方止めなさい!」

 

「セリーヌ、夜に居ないと思ったら……」

 

エマは呆れたようにセリーヌを見つめる。

実際、既にセリーヌは俺の左肩に乗っており、

そこでだらんとしている。

 

「良いじゃない、此奴の身体。乗るのに丁度いいのよ」

 

「…もう」

 

「あはは」「ゴロゴロ」

 

エマに呆れられながらも、セリーヌの下顎を撫でる。

気持ち良さそうに鳴いてくれるのが心地良い。

 

「そうだ、本題の先にこれを。

生徒手帳だ、忘れずに携帯するように」

 

「えと、ありがとうございます。確かに受け取りました。

では、本題の話に入りましょう」

 

「……ヴァリマールの事だよな」

 

「はい、この昨晩の事です」

 

昨晩の事、

俺はエマとセリーヌと共にヴァリマールの下に向かった。

人に見られる訳には行かないため、皆が寝静まった深夜。

俺は気配を消し、エマは魔術で気配を隠し、

旧校舎へ潜入した。

無論、鍵は手間取ったがピッキングでどうにかした次第だ。

一度やった事であるし、何とかなった。

 

「ヴァリマールは今、霊力。

マナの回復に努めています。分かりやすく言えば、

燃料切れですね。

動きはするようですが、現状まともに動けるとは思えません」

 

「…エマの言う霊地である此処でもか?」

 

「長らく封印されていたせいかと。

休眠状態であったわけですし、

恐らくは維持程度に努めており霊力の吸収が

最小限だったのではと思います。

すみません、私も学んだとは言え半人前の魔女で」

 

「いや、エマが半人前なら俺がもう半分を補うさ。

起動者と魔女はパートナーなんだろう?

手を取り合うのが普通じゃないか?」

 

俺はエマの手を優しく包み、じっと彼女の瞳を見つめる。

何故か急に視線を逸らされ、

それどころか顔を見せてもらえない。

 

「…女誑しよ。ここに女誑しがいる」

 

「エマ?大丈夫か…」

 

「えと…リィンさん」

 

「はい」

 

「女の子の手を取って、瞳を見つめるのは禁止です!」

 

「なっ!?」

 

「……駄目です!リィンさんは色々と駄目です!」

 

「いや、俺は誠心誠意を」

 

「リィンさんは色々とアウトです!!」

 

そのまま部屋を追い出され、鍵を閉められた。

おかしい、アリサのアレは計算でもあったが

エマのは完全に想定外だ。

もっと、ヴァリマールについて話したかったのに。

 

「最後はフィーか」

 

部屋の前でノックすると以外にも速い返事が来た。

 

「ふぁぁ〜……リィン、どしたの」

 

寝ていたのだろうか、瞳がトロンとしており、

目尻に涙を浮かべながら欠伸が出てくる。

 

「フィーの分の学生手帳だ。

あと、寝るんだったら着替えた方が良いぞ」

 

「…ゼノやレオ達みたいな事言うね」

 

「妖精にそう言われるとはな……」

 

「へぇ…ねぇ、もしかして『斑鳩』の関係者?」

 

「俺は少し裏に詳しいだけの、男爵家の養子だ。

じゃあな、ゆっくり休めよ」

 

「ん、ありがと」

 

フィーとの会話も終わり、部屋に戻る。

 

「明日は自由行動日。帝都に行くか……」

 

あの発禁本を手にする事と、

妹たるエリゼに顔を合わせる必要もある。

運が良ければ、彼女とも会えるだろう。

 

「…やる事が多い」

 

恐らく、此方に仕事は回って来ないだろう。

来ていたら、帝都に行くのは諦めよう。

 

「セリーヌ抱いて寝たいな」

 

くだらない望みを言いながら、少しだけ窓を開ける。

天気予報は今のところ問題ない。 

最悪雨が振っても濡れるものはない。

俺は部屋の鍵を閉め、

照明を落とすと静かにベッドへ横になった

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