乙骨が入学したすぐ後ぐらいに交流会があるのですね。
呪術廻戦0の2話が終わった後ぐらいですかね?
過酷な任務を終え、ようやく高専に帰還した。
時間帯は昼過ぎ。日差しはまだ強いが、山奥の空気は少しだけ秋めいてきている。
喉が渇いた。自販機でスポーツドリンクを買い、ベンチに腰掛けて一息つく。
遠くのグラウンドでは、後輩たちが鍛錬している声が聞こえる。ああ、平和だ。これでようやく長期休暇を満喫できる。
「やぁ。君が噂の轟鬼君?」
突如、頭上から声が降ってきた。
見上げると、バイクにでも乗っていたのか、レザーのライダースジャケットを羽織った長身の女性が立っていた。
「……すごい制服だねぇ。大正ロマン? 早速だけど質問。君、どんな女が好みかな?」
不審者だ。
無視するに限る。……と言いたいところだが、本能が警鐘を鳴らしている。
この人、異常に強い。歴然とした「強者の圧」を感じる。
「自己紹介をしていなかったね。特級術師・九十九由基って言えば分かるかな?」
……ああ、この人が。
「あぁ、ろくでなしって言われてる……」
「ははっ、やっぱり。これだから高専って嫌ーい」
彼女は豪快に笑い飛ばした。
「何の用ですか? 僕は今、貴重な休暇を楽しんでいるんです。邪魔をしないでください」
「つれないなぁ。君のような顔をした子を昔見たことがあってね。声をかけてみただけだよ。
……で、タイプは?」
しつこいな。
顔? ああ、任務続きで目の下のクマが酷いから、死相でも出ていると言いたいのか。
嘘つくとめんどくさそう・・・真面目に答えて追い払おう。
「……『魂』が綺麗な人ですよ。いや、魂(自分)に正直な人かな。ほら、アイドルの高田ちゃんとか」
偶然テレビで見たアイドルだ。彼女は確かにキャラを貫き通している。あれは一種の「魂の完成形」だと僕は思う。
「なんだ、私じゃーん!」
うざい。
九十九さんは僕の横に腰掛け、少し声を潜めた。
「魂、ね……。その回答、君の術式由来かい?」
ドキリとした。なぜ知っている?
「……そうですね。触媒が自分の魂なので」
「『百鬼夜行』だったか。知っているかい? かつて平安の世で起こった百鬼夜行ってのはね、術者の魂が術式に食い尽くされて起こった暴走なんだよ」
初耳だ。
彼女の目が、悪戯っぽく、けれど冷徹に僕を射抜く。
「面白いことにね、その術式には因果が絡んでいてね。歴代の術者は皆――」
ピピピピッ!
彼女のスマホのアラームが鳴り響いた。
「おっと、時間か。今日は五条君に今度こそ挨拶したくてね。お暇させてもらうよ」
彼女は颯爽と立ち上がった。
……この高専内に、今五条先生がいないことは黙っておこう。ちょっとした嫌がらせだ。
「君の魂が焼き切れないことを祈ってるよ、少年」
手を振って去っていく背中を見送り、僕はため息をついた。
不吉なことを言われた気がするが、忘れよう。
後輩にお土産でも渡して、さっさと寝よう。ちなみに金次たちは買い物に出かけていて不在だ。
そして季節は巡り、秋になった。
校門から続く石畳の道の両脇で、木々が静かに色づき始めている。
まだ緑を残した葉の先だけが赤や橙に染まり、吹き抜ける風に合わせてゆっくりと揺れていた。足元には乾いた落ち葉が薄く積もり、踏めばカサリと軽い音を立てて砕ける。
校舎の壁に差し込む午後の光は柔らかく、長い影を廊下の床に落としている。窓越しに見える空は高く澄み、淡い青の中を鰯雲が流れていた。
遠くの林の奥では、枝と枝が触れ合う乾いた音が断続的に響く。湿った土の匂いに混じって、枯れた草の甘い香りが漂い、空気はひんやりと澄んでいる。
平和だ。
なんと今日から、1年生に転入生が来るらしい。特級被呪者だとか。
今頃、教室で挨拶しているだろうか。五条先生は説明が適当だから、後で僕が呪術について補足してあげないとな。
その瞬間、空気の密度が変わった。
さっきまで静かに揺れていた木々が、不自然に動きを止める。風は吹いているはずなのに、葉の擦れる音だけが、どこか遠くへ引き延ばされたように消えていく。
校舎の窓ガラスが、ビリビリとかすかに震えた。
地鳴りにも似た低い圧が、建物の内側からじわりと滲み出てくる。
山の空気が一段、冷たくなる。肺に入る空気が重く、粘りつくような湿り気を帯びたように感じられた。
次の瞬間、見えない何かが校舎の中で“膨らんだ”。
なるほどね。これが例の子か。
「おい、とんでもねぇな。欠意より多いんじゃね?」
隣を歩いていた金次が、珍しく真顔で校舎を見上げる。
「すごい呪力だねぇ……。欠意ちゃんも大概だけど、質が違うよ」
新調した秋服に身を包んだ綺羅羅も、寒気を感じたのか腕をさする。
「確かに……とんでもない後輩が来たね」
今日は三人で新宿へ買い物に行った帰りだったのだが、酔いも覚めるようなプレッシャーだ。
「少し教室、寄って見る?」
「そうだな」
金次がニヤリと笑う。楽しそうだね。
「よぉし、レッツゴー!」
綺羅羅が走り出す。
僕は皆の荷物を持っているから、ゆっくり向かおうかな。
1年の教室に着く頃には、廊下まで重苦しい空気が漏れ出していた。
金次たちはもう中に入っている。僕も遅れて入室した。
「失礼するね」
目に飛び込んできたのは、カオスな光景だった。
倒れた机に椅子。そして壁際に避難して、怪我をしている1年生たち。
その中心で金次と綺羅羅にグイグイ詰め寄られ涙目になっている気弱そうな少年――乙骨憂太。
それを離れた場所から見て、ケラケラと笑っている五条先生。
……おい、大人。止めろよ。
「金次、綺羅羅。そこまでにしなよ。彼、困ってる」
僕は荷物を置いて、乙骨君に近づき挨拶をしようとした。
だが、その瞬間。
僕の中の『百鬼』たちが、一斉に殺気立った。
呼応するように、乙骨君の背後の空間が裂ける。
「ゆ゛う゛た゛を゛ををを……い゛じめ゛るな゛ぁぁぁ!!!」
特級過呪怨霊・折本里香。
その太く禍々しい白い腕が、金次でも綺羅羅でもなく、真っ直ぐに僕を掴もうと伸びてきた。
――なんで僕!?
「わっと……!」
反射的にバックステップで回避する。
机が吹き飛び、床が抉れる。
「いじめてないよ!? 挨拶だって!」
弁解するが、里香ちゃんは止まらない。
……もしかして、僕の中の百鬼に反応した?
「女王」としての本能が、僕の「軍勢」を敵性存在だと認識したのか。
すぐに気配を消そうとするが、ロックオンされている。
白い腕が、執拗に僕を捕まえようと暴れ回る。
僕は教室内を逃げ回りながら、五条先生を見る。
先生は腹を抱えて笑っていた。
真希たちも、壁際で固まったまま「こっち来んな」と言いたげな目で僕を見ている。
綺羅羅に至ってはスマホで動画を撮っている。
……あの、誰か助けて??
「里香ちゃん! ダメだ! やめて!」
乙骨君の必死の制止で、ようやく白い腕が霧散した。
嵐が去ったような静寂。
教室は半壊していた。
「あ、あの……先輩、ですか?」
乙骨君が、申し訳無さそうに聞いてきた。
僕は乱れた制服を直し、努めて優しく微笑んだ。
「……え〜と、2年の轟鬼欠意。君の先輩に当たるよ。怖がらせてごめんね」
ポケットから、日下部先生に渡すために持っていた棒付きキャンディを取り出す。
今度は里香ちゃんを刺激しないよう、呪力をできるだけ断ってそっと差し出した。
「飴、いるかい?」
「あ、ありがとうございます……」
「秤金次だ」
金次は相変わらず簡潔に名乗る。
「星綺羅羅だよ! よろしくね!」
綺羅羅もウインクを決める。元気でよろしい。
「それじゃ、午後から呪術実習するから。ほら、2年は帰った帰った」
五条先生がシッシッと手を振る。
この人が一番の元凶な気がするが、まあいい。新しい後輩の顔も見れたし、退散しよう。
「それでは」
「じゃあね、憂太くん!」
僕たちは教室を出た。
廊下を歩きながら、金次が口を開く。
「……とんでもねぇのが入ってきたな」
「そうだね。制御できてないけど、底が見えない」
「もうすぐ交流会だけど、どうする? あのコ、出るのかな?」
綺羅羅が首を傾げる。
「3年の先輩と僕たち、人数合わせで1年生から1人入ってもらうらしいよ。乙骨君になるかもね」
「へぇ……面白ぇじゃん」
金次が好戦的に笑う。
「俺は熱くなれりゃなんでもいい。特級だろうが何だろうが、ノッて殴り合うだけだ」
「交流会に向けて手合わせしない? 金次」
「久々だなぁ、いいぜ」
3人で運動場に向かう。
風が冷たい。
今年の交流会は、京都校相手よりも、身内の怪物をどう扱うかが鍵になりそうだ。
あ、その前に。
普段は任務でいない、尊敬する先輩にも挨拶に行かないとな。
確か、今は高専に戻ってきているはずだ。
作者は身長と尻のデカい女性がタイプ
轟鬼君のタイプ、東堂に言ったらどんな反応するかな?
因果関係はかなり先で説明します。
次は姉妹校交流会を書きます