術式「百鬼夜行」   作:Virus Miss

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誤字があれば報告お願いします。

戦闘描写が難しい。
わかりずらかったらすみません。


京都姉妹校交流会 〜不義遊戯〜

開始の合図と共に、全員が散開した。

予定通り、僕たちは別行動を取る。

金次は乙骨君を連れて呪霊狩りへ。森を更地にしそうだ。

そして綺羅羅は、志乃介先輩の護衛として索敵班に回る。先輩の目は優秀だが戦闘力は高くないため、綺羅羅の術式で守りを固めるのが最適解だ。

そして僕は――囮役だ。

林の中を駆けながら、一時的に呪力を解放する。これだけ目立つ呪力を垂れ流せば、獲物を求めている東堂は確実に食いつくはずだ。

さらに、作戦通り『帳』を下ろす。

 

「闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え」

 

詠唱と共に、昼間の空がドロリとした闇に塗りつぶされる。

今回、教師側から出された条件は「上空のカラスを全て内側に閉じ込めること」

範囲は会場全体だ。

 

「お出で――『天狗』、『一反木綿』」

 

影から現れた山伏姿の妖怪と、白い布。

久しぶりだね、君たち。

 

「空から探索する輩は叩き落としてね。ただし殺すなよ。気絶に留めろ」

 

二体が上空へ消えていく。これで相手側の索敵手段は封じた。

ドォン、と遠くで重い足音が響いた。

近づいてくる。迷いのない一直線の気配。奴か。

 

「ブラザー! さぁ、始めようか!」

 

木々をなぎ倒して現れたのは、東堂葵。

筋骨隆々の巨体が、獲物を見つけた猛獣のように喜悦に震えている。

彼は1級術師だ。油断は命取りになる。先日の特級呪霊戦の感覚を思い出せ。

 

「心当たりはないけど……勝たせてもらうよ」

 

「お出で――『風神』、『雷神』」

 

左右の影から、対となる二体の鬼神が現れる。

一方は背に大きな風袋を担ぎ、暴風を纏う鬼。もう一方は連ねた太鼓を背負い、稲妻を迸らせる鬼。日本画などでセットで描かれる有名な妖怪だ。

東堂は二体の鬼神を見て、なぜか深く頷いた。

 

「風神と雷神か……。台風や夕立を見れば分かる通り、激しい風と雷は常にセットで発生する。切り離せない自然現象を、仏教がペアの守護神として取り込んだのが始まりだ。……いいか、ブラザー。切り離せないペア、それはつまり、俺たちのことを指している!」

 

……えっと。

そういう意味で呼んだわけではないんだけど。まあいい、解釈は自由だ。

 

「すまないブラザー。俺の術式『不義遊戯(ブギウギ)』との相性は最悪だ」

 

相性最悪?

パン!

東堂が柏手を打った。

その瞬間、世界が反転した。

 

「……ッ!?」

 

目の前に東堂がいる。

いや、違う。僕の位置が、東堂の位置と入れ替わっている!

風神が、東堂の拳を顔面に受けて弾け飛んだ。一撃で破壊された。

何が起こった? 立て直す。

僕は手元に雷神を引き寄せた。

遠距離攻撃は不利だ。東堂の術式がある限り、放った雷撃と僕自身の位置を入れ替えられれば、僕が自分の雷に打たれることになる。

なら、間合いを詰めて確実に叩くしかない。

 

「雷神!」

 

僕の近くで雷神が太鼓を打ち鳴らす。

周囲への無差別放電。これなら入れ替えられても被害は最小限だ。

その隙に僕は側面へ回り込み、死角から東堂へ接近する。

パン!

また、あの音。

直後、東堂の姿が消えた。

雷神の放った電撃が、あろうことか雷神自身を直撃した。

やっぱりな。

入れ替えられた。雷神と東堂の位置が。

 

背後に気配。東堂だ。

僕は振り返りざまに拳を繰り出すが、空を切る。

また逃げられた。

 

「……入れ替えだね。君の術式。発動条件は手を叩くことか」

 

僕が分析を口にすると、東堂はニヤリと笑って続きを促すように黙った。

 

「最初は僕と入れ替わった。対象は術式範囲内の生物と入れ替えかと思った。だけど今の、雷神と入れ替わった。僕の百鬼は生物じゃない、呪力の塊だ」

 

つまり――。

 

「術式範囲内にある“一定以上の呪力を持ったモノ”の位置を入れ替える。これが正解だね?」

 

「その通りだ! 流石だぞ、ブラザー!」

 

東堂が高らかに笑う。

 

「しかしだ、ブラザーが召喚すればするほど、俺の術式対象を増やすだけだ。どうする?」

 

確かにその通りだ。

僕の『百鬼夜行』は「数」と「手札」が強みだが、東堂の前ではその数が混乱の種になる。自分の放った攻撃が、味方に、あるいは自分自身に牙を剥く。

僕は雷神を戻した。

拡張術式で自己強化して戦ってもいいが、東堂はそれを望んでいないだろう。

彼が求めているのは、小細工なしの真っ向勝負。

……いいだろう。これでやりたいんでしょ? 付き合うよ。

僕は学生帽とマントを脱ぎ捨てた。

身軽になった体で静かに構え、右拳を前に突き出す。

全身の呪力を解放し、練り上げる。

 

「来なよ。続きをしてあげる」

 

「それでこそブラザーだ!」

 

東堂が歓喜の声を上げ、構えを取る。

言葉はもういらない。

今こそ、決着を。

 

 

轟鬼の呪力量を観測して、東堂は瞬時に理解していた。

あの間合いで、あの拳を真正面から受ければ――危険なのは自分だと。

 

『桁が違う……! あの特級被呪者・乙骨憂太には劣るが、ほぼ底なしの呪力貯蔵量!』

 

通常、呪術師は攻撃の直前、呪力の流れが体に「起こり」として現れる。水が流れるように、打撃点へ向かう予備動作が見えるものだ。

だが、轟鬼は違う。

あまりに膨大な呪力が全身を高密度で満たしており、海のように凪いでいる。

どこへ流れるか、いつ動くか。その「起こり」が、圧倒的な水量にかき消されて読めない。

それだけの出力を持ちながら、操作は緻密。

インパクトの瞬間、ピンポイントで呪力を爆発させている。

 

『「浸透」させる打撃……! 表面の硬度など無意味、触れれば内部から破壊される!』

 

だからこそ、東堂は踏み砕くのではなく“ずらす”。

轟鬼が強く地面を踏みしめ、短い距離から拳を放つ。

東堂は拳の芯を外し、わざと軌道を浅くする。直撃を避けるための選択。

頬を掠めるだけの一撃でも、風圧が背後の枝を揺らす。

 

『浅いか……!』

 

轟鬼はその隙間を縫うように滑り込み、二撃目の衝撃を差し込む。

触れたか触れないかの距離で弾ける打撃。密度の高い呪力が一点に収束し、内側へ潜り込もうとする。

東堂は受けるが、止めない。

受けながら半歩だけ外へ逃がす。

 

『――巧い!』

 

真正面で受けきると危険――その判断は思考するよりも早く、反射で行われている。

肩と前腕で衝撃を散らし、同時に体を寄せていく。距離を詰めることで、相手の加速を殺す高等技術。

 

『なら、連撃で崩す!』

 

次の一打も、同じく短距離。

肘、掌底、肩による体当たり。どれもが直線で繋がる連撃。

呪力の上乗せで打撃は重い。だが、東堂は芯を外し続ける。

 

『このデタラメな出力……! 常に全身がMAX状態。並の術師なら自身の呪力に振り回されるところを、ブラザーは完全に御している!』

 

打点をほんの数センチずらすだけで、致命の線から外していく東堂。

それでも危険は消えない。

触れた瞬間に内部を揺らされる感触。骨の外からではなく、内から軋むような圧が東堂の肉体を蝕む。

東堂は踏み込む。

今度は深く。だが真正面には立たない。

轟鬼の肩口を擦るように侵入し、相手の軸の外へ回る。

カウンターが差し込まれる瞬間、その直線を腕一本で折り、外へ流す。

受けて、切る。切って、入る。

 

『術式は使わないのか? いや、この距離なら入れ替えるまでもないということか……!』

 

轟鬼も崩れない。

流された力をそのまま反転させ、背中を使った打撃へと繋げる。

接触の瞬間だけを刈り取る、鋭い打撃。

東堂の足が一瞬止まる。

止まるのは一瞬だけ。すぐに踏み直し、再び圧を掛ける。

近すぎる距離――どちらも一撃で致命傷になり得る間合い。だが東堂はあえてそこに居続ける。

離れれば安全だが、主導権は渡る。

 

『――離れない? なら、そのまま押し潰す!』

 

轟鬼が全身へ呪力を満たす。

関節がわずかに沈み、次の動きのための余剰が生まれる。必殺の踏み込みからの突きが来る。

東堂はそれを見て、さらに角度を変える。正面を外し、線で受ける位置へ誘導する。

拳が来る。

轟鬼は内側へ滑り込む。

同時に、東堂もまた内へ入る。

互いの直線が重なる寸前、東堂はわずかに身を開く。真正面の打点を捨て、側面へずらす。

致命の芯を外しつつ、掴みの形へ移行するための角度。

危険を避けながら、主導権だけを奪う動き。

 

『肉を切らせて骨を断つ気か……上等だ、ブラザー!』

 

轟鬼の拳が東堂の脇腹を抉り、内部に衝撃が走る。

浅いが、確実に重い。内臓が揺れる。

それでも東堂は崩れない。

踏み込みを止めず、轟鬼の腕を抱え込むように差し入れる。

危険だと判断しているのは東堂の方。

だからこそ、受けずに、外し続け、なお前へ出る。

 

押し切る力と、危険を見切る勘。

静寂な林の中、東堂優位の均衡が、ギリギリのところで保たれていた。




呪力ゴリラ VS IQ53万ゴリラ VS ダークライ

次回、黒い火花がゴリラに微笑む。

新しく出た百鬼
・風神(ふうじん)
大きな風袋を背負った鬼の妖怪。
袋の口を開けることで、家屋を吹き飛ばすほどの暴風を巻き起こす。
鎌鼬のような「鋭利な斬撃」とは異なり、質量のある風の塊をぶつける「吹き飛ばし」や、広範囲の制圧を得意とする中・遠距離タイプ。

・雷神(らいじん)
背中に連太鼓を背負った鬼の妖怪。
太鼓をバチで打ち鳴らすことで、強力な雷撃を発生させる。
上空から標的へ落雷させるピンポイント攻撃や、自身を中心に全方位へ放電する広範囲攻撃が可能。火力は百鬼の中でもトップクラスだが、太鼓の音が発動のトリガーとなるため、隠密性は皆無。
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