術式「百鬼夜行」   作:Virus Miss

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多分、直哉って東京高専に行って来ようと思ったら来ると思うんですよ。


ざけんなや ここから出れへん ドブカスが

交流会が終わり、少しの平穏が戻ってきたある日。

普段通りに授業や任務をこなしていると、担任の日下部先生が気怠げに教室に入ってきた。

 

「おい、ガキども。今日は教室から出るなよ。御三家のお偉いさんが視察に来るらしいからな」

 

先生は心底嫌そうに棒付きの飴を噛み砕く。

 

「誰が来るんですか?」

 

「禪院家の人間だってよ。……はぁ、とにかく大人しくしてろ。俺は関わりたくねぇ」

 

言うだけ言って、先生はそそくさと教室を出て行ってしまった。

暇になる。

秤はスマホをいじり、綺羅羅は術式『星間飛行』でペンや消しゴムを浮かせて遊んでいる。改めて見ると、引力を操る器用な術式だ。

僕も百鬼達の様子でも見ようかな。

そう思った時、教室のドアが乱暴に開け放たれた。

 

「……あれ? 真希ちゃんおらんやん」

 

立っていたのは、狐のように吊り上がった目をした青年だった。

着崩した和装に、金髪のメッシュ。顔立ちは整っているが、滲み出る性格の悪さが全てを台無しにしている。

禪院直哉だ。

 

「あ? こっち見んなや、気色悪い」

 

直哉は僕たちを一瞥すると、鼻で笑った。

その態度に、金次が即座に反応する。

 

「誰だテメェ」

 

金次がドスを効かせて詰め寄るが、直哉は動じない。

 

「誰でもええやろ。で、真希ちゃんの教室どこや。あの落ちこぼれの様子を見に来てやってん」

 

落ちこぼれ? 真希のことを言っているのか。

僕の中で、静かに導火線に火がついた。ドアは閉まっている。綺羅羅のマーキングは既に済んでいるはずだ。

 

「……後輩の悪口を言うような人に、教える義理はありませんね」

 

「なんや、先輩やったん? 大変やろ、あのカスの先輩て」

 

直哉(カス)は嘲笑うように僕たちを見回した。

 

「君らのことは聞いとるで。五条悟に甘やかされた、お遊び集団やってな」

 

彼は金次を指差す。

 

「上層部に嫌われとる、術式持ちのヤンキー」

 

次に僕を見る。

 

「わけの分からんモン使役する、統率も取れん雑魚の寄せ集め」

 

そして最後に、綺羅羅を見た。

 

「男か女かも分からんナリしよって……吐き気するわ。気色悪い」

 

ブチリ、と何かが切れる音がした。

僕の中で。そして、金次の中で。

 

「……どうしようと、アタシの勝手じゃん!」

 

綺羅羅が激昂し、直哉(カス)の胸ぐらを掴もうと手を伸ばす。

条件は揃った。

 

「触んなや。汚らわしい」

 

直哉(カス)の姿がブレた。

次の瞬間には、綺羅羅の背後に回り込み、カウンターを入れている。

速い。異常な速度だ。術式か?

 

「テメェ!!」

 

金次が殴りかかる。

だが、当たらない。直哉(カス)は紙一重で回避し、カウンターの掌底を金次の顎に入れた。

 

「ノロいなぁ。止まって見えるで」

 

速すぎる。まともに追いかけても捕まえられない。

僕はマントを脱ぎ捨て、直哉(カス)の視界を塞ぐように投げつけた。同時に足払いを仕掛ける。

 

「無駄や」

 

直哉(カス)はマントを手で払い除け、僕の足払いも最小限の動きで躱す。

 

「君らに構ってる暇ないねん」

 

そう言って、直哉(カス)は出口のドアへ向かおうとした。

 

――近づけないでしょ?

直哉(カス)がドアに手を伸ばす。だが、届かない。

まるで磁石の同極同士が反発するように、体はドアに近づけない。

綺羅羅の術式『星間飛行』。

 

ドアと直哉(カス)の星の相性が合っていない。決められた順序を通らなければ、彼はずっとこの教室の中だ。呪力を高めて、無理やりこちらに引き寄せる。相手が反応した瞬間に拳を合わせようとするが、また避けられてカウンターを食らった。

鳩尾に拳が入る。

……ん?

痛くないわけではない。だが、思ったほど効かない。

 

「……速いだけだね」

 

「そうだな、拳が軽すぎる」

 

金次も首を鳴らす。

僕の呪力量による肉体強化と、金次のざらついた呪力とタフネス。これに対し、直哉(カス)の打撃はスピードこそあれど、重さが足りない。

金次、一緒にこいつを〆よう。

 

「重ねて――『餓鬼』」

 

拡張術式、展開。

僕の腕に、呪力を渇望する餓鬼の特性が宿る。

この子のおかげで、触れたら相手の呪力を吸収できる。術式の種が分からないのなら、呪力切れを起こさせ術式を使えない状態にさせてから殴ればいい。

こちらの呪力が多いのは明白だ。

僕は怯まずに距離を詰め、引き寄せて接触を続ける。

殴られる。速すぎて見えない打撃が体を打つ。

だが、それでいい。殴られた接触点からも、こちらから触れた一瞬からも、餓鬼の力で呪力を吸い取れる。

ダメージよりも、吸収量の方がプラスだ。

 

「……なっ、キッショいなぁ君!」

 

直哉(カス)が露骨に嫌な顔をする。

 

「どうしました? 冷や汗が出てますよ?」

 

直哉(カス)が焦り、高速移動で逃げようとする。

だが、金次がルートを潰してくれるおかげで、どこから来るかもある程度絞れる。

直哉(カス)が僕の死角から接近し、その脇腹へ鋭い蹴りを放った。

僕はあえて動かず、そのまま受ける。

鋭い蹴りが、僕の脇腹に直撃する。

命中した。……はずだった。

 

「……あ?」

 

直哉(カス)の動きが止まる。

蹴りを入れたはずなのに、僕が動かない。吹き飛ばない。まるで巨大な岩を蹴ったような感触。

膨大な呪力量。それで全身を強化すれば、スピード重視の直哉の打撃など、痛くも痒くもない。

 

「本当に硬いなぁ。呪力だけのカスやな」

 

直哉(カス)が舌打ちをする。

こちらのタフネスに攻めあぐねているようだ。

 

「それに、お前やろ。この現象」

 

直哉(カス)が術式の元凶である綺羅羅を睨む。

綺羅羅へ突撃する直哉。

金次が間に割って入り、直哉(カス)を妨害。僕が引き寄せるまでの時間を稼いでくれる。

こちらにも考えがある。

 

ーー簡易領域

 

僕を中心に領域を展開。

直哉(カス)が金次を躱し、僕の懐に入ってきた。

領域内での自動カウンター。体が勝手に動き、迎撃の拳を放つ。

だが、直哉はそれすら読んでいた。

 

「甘いわ。こっちはカウンター前提で動き作ってんねん!」

 

カウンターをさらに回避し、僕の顔面に膝を入れる。

さすがに戦闘センスは抜群だ。

 

だが、動きを作る?

なら、ちょっと試すか。

僕は『餓鬼』を解除し、新たな拡張術式を重ねる。

 

「重ねて――『影女』」

 

窓際に誘導されたフリをして、後退する。

直哉(カス)が追撃に来る。

そこだ。

直哉が踏み込んだ床。そこにあった僕の影が、粘着質な泥のように変化した。

 

「なっ……足が!?」

 

直哉(カス)の足が影に沈み、固定される。

最高速が出せないどころか、身動きが取れない。

ここから出られないね。

今だ。

僕は踏み込み、無防備になった直哉(カス)の顔面に、渾身の膝蹴りをぶち込んだ。

鼻が折れる感触。

直哉(カス)が仰け反り、金次の方へよろめく。

 

「オラァッ!!」

 

待ち構えていた金次の拳が、直哉(カス)の顔面に深々とめり込む。

ピンボールのように弾き飛ばされた直哉(カス)が、僕の方へ吹っ飛んでくる。

よし。

僕は拳を振りかぶった。

僕たちを、綺羅羅を侮辱した罰だ。飛んできた顔面にカウンターで拳を叩き込んでやる。

振り下ろそうとした拳が、ピタリと止まった。

誰かに手首を掴まれている。

 

「はいはいストップ。これ以上やると、僕が爺さんたちに怒られるからさ」

 

五条先生だった。

いつの間にか教室に入ってきていた先生は、呆れたように僕たちを見下ろしている。

 

「なんでこんなことになってんの?」

 

「……こいつが、僕たちと後輩を貶したので」

 

僕は正直に答えた。

 

「ふーん。ま、もういいでしょ。ほら、気絶してるし」

 

足元を見ると、直哉(カス)は白目を剥いてのびていた。

 

「あららぁ、御三家のボンボンだね。まぁ、こっちは僕がなんとかしとくよ」

 

先生は直哉の襟首を掴んで引きずっていく。

嵐が去った教室で、僕たちは息を整える。

 

「……今日起きたことは、真希たちには言わないでおこう」

 

「そうだな。あいつのプライドが許さねぇだろ」

 

金次が頷く。

僕は綺羅羅に向き直った。

 

「綺羅羅は、綺羅羅でいい。そのままで、十分すぎるくらい素敵だ」

 

金次もぶっきらぼうに続く。

 

「気にすんなって。ああいう手合いは、放っときゃいいんだよ」

 

「別に気にしてないしぃ!」

 

綺羅羅は頬を膨らませてそっぽを向いたが、その耳は少し赤かった。

 

「……よし。日下部先生に何か奢ってもらおうか。生徒がこんな目にあったんだから、慰謝料だ」

 

「賛成!」

 

後日、日下部先生の財布が軽くなり、彼がやけ酒を煽ったのは言うまでもない。

 

 

数日後。

僕は五条先生に呼び出された。

 

「先日の件ですか? 始末書なら書きますけど」

 

「いやいや、違うよ。欠意にね、1級の推薦が来てるの」

 

「……1級ですか」

 

予想外の話だ。

 

「そそ。葵と七海が推薦してくれたの。『親友なら問題ない』だってさ」

 

東堂と七海さんか。ありがたい話だ。

 

「だから、チャチャっと任務こなして準1級になりなよ。実力はもう十分だし」

 

「誰が査定に同行するんですか?」

 

「冥さん。……じゃあ、頑張ってねぇ〜」

 

先生は言うだけ言って、どこかへ行ってしまった。

冥冥さんか……守銭奴と噂の。

 

そして任務当日。

同行した冥冥さんは、大型の斧を軽々と担ぎながら、微笑んでいた。

 

「轟鬼君だっけ? 君、貯金はいくらある?」

 

「……えっと、それなりには」

 

「この前の特級任務の報酬、いくらだった? 運用はしてる?」

 

なぜ知ってる。

任務中、彼女の口から出るのは金の話ばかりだった。

なぜか口座残高を聞かれたりしながら、いくつかの任務をこなしていく。

だが、戦闘になれば流石の実力。彼女のサポートもあり、任務は滞りなく完了した。

 

「うん、動きに無駄がないね。合格だよ」

 

冥冥さんはスマホで入金確認をしながら、あっさりと認めてくれた。

 

「査定したから、五条君から弾んでもらわないとね」

 

こうして僕は、無事に準1級術師へと昇格した。

 

……まあ、仕事が増えるだけかもしれないけれど。




身内の悪口を言われた時点でカス判定になっています。
もし轟鬼君が禪院家にいくとアレルギーが出て極の番でお家を破壊しようとします。
しれっと準1級ですね。

新しく出た百鬼
・餓鬼(がき)
飢餓に苦しむ亡者の姿をした妖怪。

能力:呪力吸収
掌や体の一部が触れた対象から、強制的に呪力を吸い上げる。
相手の呪力を枯渇させつつ、自身の呪力として還元できるため、対術師戦や長期戦において非常に強力。


・影女(かげおんな)
人の影に棲む女の妖怪。
能力:影操作

【通常召喚時】
影女自身が触れている影、または影女の影と繋がっている影を操作・干渉することができる。
【拡張術式時】
術者(轟鬼)自身の影を自在に操作する能力を得る。
影を伸ばして攻撃したり、影の性質を「沼」や「粘着質」に変化させて、踏んだ相手を捕縛する罠として使用可能。今回は直哉の足を止めるために使用した。
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