まぁ呪霊なのでかなりの弱体化がありますけど強いと思うんですよ。
呪霊の中だったから最強ですね。
呪霊の行軍、百鬼夜行の術式持ちがいたため出現。
雪が激しくなる。
晴明神社の鳥居の下、僕たちは対峙していた。
相手は特級仮想怨霊・安倍晴明。
人が抱く「最強の陰陽師」という畏怖が形を成した、呪いの概念。
小細工は通用しない。最初から全開だ。
「お出で――『
影から現れたのは、炎を背負う憤怒の鬼神と、牛の頭を持つ疫神の王。
どちらも神仏の名を冠する、百鬼の中でも最高位の力を持つ存在だ。
牛頭天王の能力で僕と不動明王の身体能力を底上げし、不動明王の剣で一気に断ち切る。
――はずだった。
「守るもの無き不動に理は無し。その炎は仏に非ず、ただの怒り——砕け、不動」
「祈り無き牛頭に神は宿らず。それは疫の名を借りた祟りに過ぎぬ——砕け、牛頭天王」
晴明が、ただ静かに言葉を紡いだ。
ガラスが割れるような音と共に、二体の強力な百鬼が霧散した。
何が起こった? 攻撃された形跡はない。
呪言か? いや、もっと根源的な……「言霊」だ。
妖怪は「未知」だからこそ畏れられ、形を成す。
だが奴は、言葉によって僕の百鬼を「既知」へと落とし込み、定義し、そこに矛盾を指摘することで、存在そのものを崩壊させたのだ。
相性は最悪だ。
ならば、言葉を紡がせる前に叩くしかない。
「重ねて――『
雷の速度を自身に宿す。
「ごめん、お出で――」
時間稼ぎのために、百鬼を数体召喚し、晴明へけしかける。
奴が定義付けの詠唱をしている間は無防備なはずだ。
その隙に懐へ潜り込む!
地面を蹴り、神速で接近する。速すぎる負荷に筋肉が悲鳴を上げ、皮膚が裂けるが、即座に反転術式で修復しながら無理やり加速を維持する。だが、足を踏み込む刹那。踏み込み先に五芒星の陣が出現した。
「なっ!?」
呪力の渦が発生し、僕の右足を根こそぎ削り取った。
さらに周囲の空間に無数の呪符が浮かび上がる。認識した時には、爆発が起きていた。
「……私とて呪術師。己の術式の弱点ぐらい把握して対策は講じる」
晴明の冷淡な声。
土煙が晴れると、時間稼ぎに出した百鬼たちは既に消滅していた。
「言霊か?」
「頭は回るのだな。だが術式の開示はせんぞ」
僕の足は、既に反転術式で再生している。
晴明はそれを見て、眉一つ動かさずに分析した。
「反転術式か。それに拡張もしているのだな。……面倒な」
こちらの術式を把握されている。
だが、極の番はどうだ?
奴の言霊による破壊プロセスは強力だが、一度に対応できる数や、巨大な質量に対する処理速度には限界があるはずだ。
八岐大蛇。あの子なら、奴の攻撃を「8種類」まで適応・無効化できる。
印を結ぶ。
「極の番――『
指定された20体の百鬼――蛇骨婆、大百足、雲外鏡、河童、海坊主、濡女、磯撫で、海蛇、鉄砲魚、雨降り小僧、水虎、川赤子、蛇帯、毒竜、八つ手鬼、沼御前、蛇神、蛇精、水鬼、龍蛇――が融合する。
大地が割れ、山のように巨大な八頭八尾の大蛇が顕現した。
赤く燃える十六の瞳が、晴明を見下ろす。
この質量、この神話級の存在を定義し直すには、相応の言霊が必要だろう?
僕は大蛇と共に駆ける。
奴の術式発動には言葉を言い切る必要がある。近づいて、詠唱を途切れさせ続ける!
「其は八岐に非ず。国生みの時を騙りし名、今ここに解く。八つに裂けしは一に非ず、一に非ざるものに王の理は宿ーー」
やはり長い!
踏み込む。今度は陣を踏まない。『迅雷鬼』の速度で罠を回避する。体が削られるがそれすらも反転術式で治しながら最短距離を走る。縦拳。避けられる。だが、言葉が止まった。蹴り、拳、肘。捉えられないようにリズムを変えて放つ。晴明は表情を変えず、最小限の動きで避けてカウンターを入れてくる。体術も高い。全ての打撃が重く、内臓に響く。
だが、反転術式で治しながら殴り続ける。
八岐大蛇が動く。
二つの首を僕と奴の周囲に円状に配置し、逃げ場を塞ぐ結界代わりにする。
晴明が呪符を放ち、僕の足を切断する。
構わない。治している間は大蛇が攻める!
大蛇の尾がしなり、晴明を吹き飛ばす。
なるほど、この子なら詠唱させないほどの波状攻撃が可能か。
足も治った。反撃だ!
「……やはり面倒だな」
晴明が溜息をつく。
その手に、これまでとは桁違いの呪力が籠もった、一枚の呪符が出現する。
「極の番『
呪符が八岐大蛇の額に吸い込まれるように貼り付いた。
その瞬間、呪符が大蛇の体に染み込み、消滅する。
――何をした?
次の瞬間、大蛇の十六の瞳が、僕に向けられた。
「ッ!?」
味方のはずの大蛇の尾が、僕を薙ぎ払った。
吹き飛びながら受身を取る。
制御がない。パスが切断されている。……式神の乗っ取りか!
さすが陰陽師の頂点、使い魔の主導権を奪うことなど造作もないということか。
「止まってくれ!」
叫ぶが、大蛇は止まらない。
なんとか避けるが、あの子は一撃で破壊しないと再生する。しかも8種の攻撃を適応ストックする怪物だ。自分が使う分には頼もしいが、敵に回すとこれほど厄介な相手はいない。
どうする?
『大嶽丸』は不動明王、牛頭天王が破壊されたから出せない。
『天之逆毎』を出すか? だが、奴にまた乗っ取られる可能性がある。
それに、八岐大蛇を破壊された時の代償は――「触覚」の消失だ。
戦闘中に触覚を失うのは致命的すぎる。
……待て。
奴が動かない。
追撃してこない。
極の番を使ったリスクか? 考えられるのは……声が出せなくなること、か。
大蛇の首を掻い潜り、晴明に肉薄する。やはり声が出せないのか、迎撃の詠唱がない。
ならば!
「お出で――『
最速召喚。即座に攻撃。
この子は「回避不能の斬撃」を放つ剣術の達人。
最初に出さなくて良かった。今なら当たる!
晴明の腕に傷ができる。これなら通る。
僕も近づき、打撃を通して斬撃のリキャストを埋める。
すると、晴明は懐から大量の呪符と、人の形をした紙を取り出した。
数枚が僕に、残りが鬼一法眼に貼り付く。
僕についたものが急に燃え出し、さらに僕を地面に縫い止めるように重力が増す。
そして、鬼一法眼についたものが眩く光った瞬間――破壊された。
一瞬見えた文字は『破邪』。
だけど先に、この火をなんとかしないと。
『迅雷鬼』を解除。
「重ねて――『狐火』」
自身の呪力を炎に変え、燃え移った火を相殺し、拘束を焼き切る。
だが、その隙が命取りだった。
気づいたら、晴明が目の前にいる。
掌底が顔面にめり込む。その攻撃の瞬間、額に呪符が貼られていた。
まずい。文字が見えた。『雷公』。
脳髄を焼き切るような電撃が全身を駆け巡り、強制スタンさせられる。
動けない僕を、晴明が蹴り上げる。
宙に浮いた僕に、八岐大蛇の巨大な首が襲いかかる。
トラックなんてものじゃない。新幹線に生身で轢かれるようなものだ。
咄嗟に腕をクロスし呪力でガードしたが、そんなものは紙切れ同然だった。
地面に叩きつけられ、大量に吐血する。
全身が軋む。何本か骨がいった。
……もう、触覚がどうとか言ってる場合じゃないな。
「極の番――『
直近で使用した20体の百鬼――まだ手元に残っている百鬼の中から、20体分のリソースを強制消費する。
触媒となる血は、もう嫌というほど流れている。
血だまりから荒ぶる女神が顕現する。
彼女は八岐大蛇に向かって手をかざし、その存在を「召喚」から「消滅」へと反転させる。
大蛇が空気に溶けるように消えていく。
そして、少しだけ彼女の反転術式を受け、傷を塞ぐ。
すぐに戻す。また乗っ取られたら、今度こそ終わる。
代償が来る。
八岐大蛇に対応した五感――「触覚」の消失。
フッ、と世界から重さが消えた。
地面を踏む感触がない。
自分が立っているのか、逆さまに浮いているのかさえ判別不能になる。
一歩踏み出すたびに、底なしの暗闇へ踏み外すような「永遠の落下感」が脳を焼く。
寒いのか熱いのかも分からない。自分の体がどこにあるのかも曖昧だ。
視覚情報だけで平衡を保とうとして、視界が激しく揺らぐ。船酔いのような吐き気が襲う。
その揺らいだ視界で捉えたのは、晴明が展開した無数の紙人形たち。
全員が弓を構え、こちらに狙いを定めている。
矢の雨が降ってくる。
詰んだな。
あいつはまだ手札がある。こちらは印を結ぶ時間も、避ける感覚もない。
……死ぬのか。
最後に見えたのは、放たれた矢ではなく、足元に転がってきた石だった。
微量な呪力が籠もった石。
パン!
乾いた拍手が聞こえた。
――え?
矢が降ってきたはずの場所に、僕はいない。
生きている。なぜ?
背中を誰かに支えられている。触覚がないから分からないが、温かい気がした。
「栄枯盛衰、すべては盛りと衰えを巡る」
聞き慣れた、力強い声。
見上げると、そこには不敵な笑みを浮かべた男が立っていた。
「だが例外は存在する。——俺とブラザーだ」
東堂葵。
親友が、そこにいた。
助っ人を入れます。さすがに詰みなので。
一応、安倍晴明の術式は「言霊呪法」としています。
反転のアウトプットも無効化どころか回復されます。
極の番『太上祝詞・調伏令』は式神ならいけます。摩虎羅さえも
代償は乗っ取った式神が破壊されるもしくは自分で破壊するまで声が出ない
まぁ本来の晴明より弱体化されているので手札はそんなにありません。
【設定資料:百鬼夜行】
・牛頭天王
牛の頭を持つ鬼神。
能力:全能力向上
対象の身体能力や呪力出力を底上げする強力なバフ能力。
自分だけでなく召喚した他の百鬼も強化できるが、強化対象の数が増えるほど、一体あたりの上昇幅は低下する。
・不動明王
炎を背負う憤怒の鬼神。
能力:結界断絶
右手に持つ炎の剣は、物理的な硬度だけでなく、呪力で作られた「結界」をも焼き斬ることができる。簡易領域や帳、あるいは術式による防御壁に対するカウンターとして機能する。
・迅雷鬼
雷を纏う鬼。
能力:神速突進
雷と同等の速度での直線移動が可能になる。
拡張術式で自身に宿すことで、反応速度の限界を超えた回避や接近を行うことができるが、肉体への負担も大きい。
【設定資料:極の番】
・極の番『八岐大蛇』
指定された蛇・水棲系の百鬼20体を統合して召喚する、要塞兼超耐久型の極の番。
1. 八頭の適応
8つの頭それぞれが独立した「適応ストック」を持つ。
攻撃を受けるたびにその属性や術式への耐性を獲得する。
ただし、適応できるのは最大8種類まで。9種類目の新しい攻撃を受けると、最初(1つ目)の適応が上書きされて消える。
2. 神域の腹
巨大な体内は一種の結界(神域)となっており、術者や保護対象を呑み込むことで、外部のあらゆる攻撃から完全に遮断・保護できる。緊急避難シェルターとしての役割も持つ。
3. 再生と破壊条件
驚異的な再生能力を持ち、頭を一つずつ潰しても即座に生えてくる。
破壊するには「一撃で全細胞を消滅させるほどの火力」か「8つの首を同時に落とす」必要がある。