交流会当日。
敷地内の開けた場所で、僕たち東京校のメンバーは京都校の到着を待っていた。
野薔薇は京都へ行けると勘違いしてキャリーケースまで用意していたらしく、ブーブーと文句を言っている。どうりで最近、八ツ橋がどうとか会話が噛み合わないわけだ。
みんなの調子は良さそうだ。僕は木の葉から漏れる日差しを体に浴びながら、リラックスして待つ。やがて、重い足音と共に京都校の面々が到着した。
メンツは去年のあの2人がいなくて、3人の2年生が追加で入った感じだね。
「乙骨いねぇじゃん」
葵が少し残念そうに首を鳴らした。
そこから多少のピリピリとした口論が始まったが、僕は静観しておく。
すると、遅れて五条先生が手押し車にピンクの何かを乗せて、カラカラと音を立てながらこちらに向かってきた。先生は京都校の人間たちに、普通にお土産を配っている。どうやら海外の部族のお守りらしい。
「そして東京都の皆にはコチラ!!」
ハイテンションだな。このような時の先生は、大抵ろくでもないことを企んでいる場合が多い。
先生が手押し車の上の箱を開ける。
「故人の虎杖悠仁君でぇーっす!!」
「はい! おっぱっぴー!」
箱の中から、死んだはずの虎杖悠仁が元気よく飛び出してきた。
…………。
静寂。
2年ズは黙っている……いや、あまりの状況に驚いてポカンとしている。
1年ズに至っては、なんとも言えない、怒と呆れがないまぜになったような顔で固まっている。
そして京都校の面々は、お土産の不気味な人形に夢中で完全にスルーしていた。
地獄のような空滑りだ。
でも。
生きてたのか。よかった。
僕はそっと胸を撫で下ろした。ここからは1年ズが彼と話したいことがたくさんあるだろう。そっとしておこう。
交流会開始前。東京校の作戦会議。
虎杖の復帰により、急遽作戦を微調整することになった。
その最中、僕のスマホが震える。五条先生からメッセージが届いた。
『今回の交流会、欠意は「拡張術式」以外の使用禁止ね☆ 後輩の成長の場だから、目立ちすぎNG!』
なるほど。術式による数の暴力も、極の番も、領域も禁止か。
確かに、今回は純粋な人数でこちらが有利だしな。後輩の経験を積ませるためなら、受け入れておこう。
『わかりました』
簡易な返事を返してポケットにしまう。
「僕は悠仁と一緒に行動するよ。京都側が暗殺を仕掛けてもおかしくないからね」
僕が提案すると、野薔薇から疑問が飛んだ。
「暗殺? なんでよ?」
「「あり得るな」」
パンダと真希も即座に同意する。
「悠仁は善人だ。それはみんなが分かっていると思う。でも、京都校側は違う。『宿儺の器』ってだけで、普通の術師は恐怖するものなんだ。しかも、あちらには保守派の楽巖寺学長がいる。彼から『祓え』という指示が出る可能性はかなり高い」
僕の言葉に、場が少しだけ引き締まる。
「他のみんなは作戦通りに動いていいよ。もし狙われていると分かった場合だ。臨機応変に対応しよう」
……納得はしてもらえたかな。
開始場所への移動を始める。
「圧勝!! コテンパンにするわよ!! 真希さんのためにも!!」
野薔薇が気合を入れる。
「……そーいうのやめろ」
真希が照れ隠しのように顔を背ける。
「明太子!!」
「そう!! 真希のためにもな!!」
パンダと棘も続く。本当に仲がよろしいことだ。
「そんじゃまぁ、勝つぞ!」
真希が悠仁の背中を軽く蹴る。暴力はダメだよぉ。
「勝とうか。真希のためにも」
僕も便乗して言ってみたら、普通に薙刀の柄で叩かれた。痛い。
開始1分前のアナウンスが入る。相変わらず五条先生が担当している。
スピーカー越しに、歌姫先生に無茶振りをしながらの騒がしい放送が響き渡った。
『スタァートォ!!』
『先輩を敬え!!』
合図と共に、一斉に走り出す。
鬱蒼と茂る森の中を駆け抜ける。パンダと、恵の『玉犬』を先行させて索敵に回す。葵がこちらに突撃してきたタイミングで、パンダ班と恵班に別れる作戦だ。
そろそろ来そうだな。今回は西宮さんの上空からの索敵を叩き落とせないし、帳を下ろすのも実質禁止にされている。
……来るな。
「そろそろ準備して」
「どごいグのぉ〜?」
前方の茂みから、蜘蛛のような多脚の呪霊が這い出してきた。
「
僕が皆に止まるように合図した、その瞬間だった。
ドゴォォォォン!!
木々がへし折れ、先ほどの呪霊が吹き飛んでいく。
東堂葵が、木々を薙ぎ払いながら豪快に現れた。
「ぃよぉーし!! ブラザー!! 全員いるな!!」
殺気すら心地よいとばかりに笑う彼を前に、皆が一斉に構える。
「まとめてかかってこい!!」
東堂の挑発に対し、悠仁が真っ直ぐに突っ込んでいく。それと同時に、残りの皆が蜘蛛の子を散らすように散開した。作戦通りの動きだ。
飛び込んだ悠仁が、東堂の顔面に強烈な飛び膝蹴りを叩き込んだ。
だが、東堂はそれを受けてなお倒れない。
仕返しと言わんばかりに、東堂が悠仁へ剛腕を振り下ろした。先ほど吹き飛んだ呪霊が間に割り込んだが、お構いなし。呪霊ごとぶち抜く絶大な威力。
悠仁は咄嗟に腕を交差してガードしたが、思いっきり吹き飛んだ。
東堂は止まらない。さらに追撃を仕掛け、大木に叩きつけられた悠仁の顔面へ何度も蹴りを入れ、最後に拳を高く振り上げた。
……が、寸前で止めた。気絶したと思ったのか?
「さてブラザー、始めようか!」
僕の方へ向き直る東堂。だが、僕は構えない。
まだ、悠仁が戦っている最中だもんね。
ガサッ、と音がして、土埃の中から悠仁が立ち上がった。
顔から少し血を流しているが、ダメージはそれほどないようだ。あの猛攻を受けてピンピンしているとは。
「マジかオマエ」
さすがの東堂も目を丸くする。
「人の頭バカスカ殴りやがって。これ以上バカになったらどうすんだよ」
悠仁が文句を言うと、東堂はここぞとばかりに高田ちゃんのことを話し始めた。
……こっちに同意を求めないでよ。確かに前にそういう話はしたけども。
「1年、名前は」
「虎杖悠仁」
「そうか、虎杖悠仁。一つ聞きたいことがある」
東堂の表情が真剣なものに変わる。もう何回目だろうな、この流れ。
「どんな女が好みだ?」
少しの間。
悠仁は首を傾げながら、正直に答えた。
「強いて言うなら……尻と身長のでかい女の子……かなぁ。ジェニファー・ローレンスとか」
……あ。
東堂の目から、滝のような涙が溢れ出した。
また泣いてるよ、葵。今回は少し長いな。しかも、悠仁のタイプって葵と完全に一致してるんだな。
「地元じゃ負け知らず……か」
東堂がポツリと呟く。
もしかしてこれって。
「どうやら俺たち3人は”親友”のようだな」
東堂が涙を拭い、満面の笑みで言い放った。
「今名前聞いたのに!?」
悠仁がツッコミを入れる。
ああ、いつものやつか。
僕はため息をつきつつ、これから始まる怪力同士のぶつかり合いを見守ることにした。