呪符は交流会ってことで5枚くらいしか持って来てない。
在庫はたくさんあるけどね。
漏瑚の領域が崩れ去る。
黒い結界の外郭が硝子のように砕け散り、僕たちは三度対面した。
「……これが狙いだったのか」
そうだ。
相手の術式が焼き切れこちらは満足に術式が使える。この圧倒的優位な状況こそが欲しかった。
「ここまでの領域だとは思わなかったけどね。君は強いよ。僕が今まで戦ってきた呪霊の中で、二番目だ」
「儂が貴様を殺せば、一番ということになるな」
「やってみなよ、呪霊」
さぁ、ラウンド3だ。
「舐めるなよ小僧!」
ここで確実に祓う!
牽制として、地中の『大百足』で漏瑚の足を拘束し、神経毒を噛み入れる。同時に『蛟』の巨大な水流を正面からぶつける。
「お出で――『牛頭天王』」
僕と蛟、そして次に出す「本命」にのみ強化のバフを振る。
「産み落ちて――『麒麟』」
鹿のような体躯に鱗をまとい、牛の尾と一本の角を持つ霊獣。『雷獣』『雷神』『迅雷鬼』の三体を融合させて召喚した新たな手札だ。蛟より少ない数だが、雷の“質・量・速度”の要素を完全に揃えた百鬼を組み合わせている。単純な数ではなく、要素の純度が強さに直結するかもしれないという仮説の証明だ。
「まだ……まだぁ!!!」
至る所の地面や木々から火山が生え、極太の熱線が放たれる。さらに火礫蟲が宙を舞い、連鎖的な爆破を起こして視界と逃げ場を塞いでくる。術式の回復が異常に早い。
「もっとコンパクトに戦えよ!」
麒麟が嘶く。
強烈な電撃が漏瑚の身を焦がし、言葉通りの「雷の速さ」で接近。呪霊を空中へ蹴り飛ばした。だが漏瑚は火礫蟲の羽音を使って空中で強引に滞空した。ならばと、僕は蛟の放つ水流を足場にして、同じく空中へ跳ぶ。
儂以上の速さだと……! あのレベルの式神があと何体おるのだ!無限にも思える手札の多さ。そして、その手札を最大限に扱えるだけの莫大な呪力量。それが目の前の小僧の強みだ。体術も高い。それに、領域内で見せたあの「呪符」が持つ効果も、まだ底が見えない。本当に厄介な仕事を押し付けたものだ。花御は宿儺の器と応戦しているはずだ。いつこの『帳』が、当の五条悟によって破壊されるか分からん。奴は生半可な攻撃では致命傷にならん。此方の全力で殺しに行くとしよう。
漏瑚がこちらに掌を向けた。
小さくとも人を消し炭にするほどの火焔弾が、マシンガンの如くこちらへ降り注ぐ。僕は麒麟の背に飛び乗り、空を駆けて回避する。移動中も麒麟は電撃を放ち牽制。大きく迂回して上を取り、麒麟の背から飛び降りて呪霊の真上から攻める。
「ぬかったな!」
死角を取ったはずだった。だが、漏瑚の火山頭から直接、巨大な熱線が上空へ放たれる。
頭頂部からも出るのかよ!
空中ゆえに完全な回避が間に合わない。右足が熱線に焼かれ、切断された。
ならば、残った左足で踏み落とす!
「墜ちろ! 火山頭!」
いくら腕を破壊しようと、頭を破壊しなければ呪霊は祓えない。
眼下の地面は、蛟の出した水で埋まっている。水に叩き落とせば、麒麟の雷撃で感電させることができる。
「ぬぅ!!」
漏瑚は再び火礫蟲の群れに体を掴ませ、水への落下を強引に回避した。
っ!!
さらに、火焔による弾幕と、まだ無事な木々から火山を生やしての熱線放射。
しかも、漏瑚が逃げようとしている方向には、悠仁と葵がいる!
「麒麟!!」
麒麟に指示を出し、強烈な体当たりで漏瑚を強制的に地上へ撃ち落とす。森の中では木が邪魔で攻撃の軌道が読みにくかったが、奴の熱線のおかげで木が燃え尽き、皮肉にも視界が開けていた。急降下し、着地と同時に漏瑚の足を踏み潰す。迎撃に突き出された高温の掌を、呪力で覆った手で強引に握り潰し、悠仁たちとは逆の方向へ蹴り飛ばした。麒麟、蛟、大百足を漏瑚の元へ差し向ける。その直後、遠くから強大な呪力のうねりを感じたため、僕は悠仁たちの元へ急行した。
周囲の森が不自然に枯れ果てている。
その中央で、もう一体の特級呪霊が左腕に莫大な呪力を集めているのが見えた。
「お出で――『玉藻前』」
彼女にさらに『餓鬼』を重ね、呪力吸収スピードを限界まで加速させる。
呪力が……急速に吸われている……!?
あれは、轟鬼欠意! 漏瑚はどうしたのですか!
「逃げろ! 花御ぃ!」
遠くから漏瑚の叫び声が響く。僕の百鬼からうまく逃げたようだが、もう遅い。
玉藻前の呪力砲と『白狐』を重ねて反転術式を纏った僕の拳でこいつを完全に挟み撃ちにする。
葵も近くにいる。確実にこの特級呪霊はここで祓える。
――その刹那。
上空を覆っていた『帳』が、五条悟によって物理的に破壊された。
「さて、どこから行こうか」
「五条先生!?」
悠仁の呪力操作のレベルが格段に上がっている……そうか!! 葵か!! 確かにあいつの指導なら、悠仁と相性がいいだろう。特級が2体いるけど欠意もいるみたいだし心配ないね。
僕の全ての百鬼が、帳が消えたため消滅した。この場にいる全ての存在が、空に浮かぶ五条悟へと釘付けになる。その中で、いち早く動いたのは漏瑚だった。葵と悠仁に向けて巨大な火焔を放つ。僕がそれを防ぐために動いた隙をつき、漏瑚は花御の元へ駆け寄る。
「大丈夫か? 花御」
「えぇ。……それより、もうここまでです。五条悟の相手はしたくない」
「ざけんな!! 何がしたいんだテメェら!!」
悠仁が激昂し、呪霊たちを追おうとする。
「
東堂が止める。
「なんで止める!!」
僕も二人のもとへ近寄り、諭すように言った。
「……本当は、僕自身の手で呪霊を祓いたかったけど。巻き込まれるよ」
直後、大地が抉れた。
五条先生の放った『虚式・茈』が、呪霊たちがいた場所の森ごと、遥か彼方まで刈り取って行った。
「……本当に祓えたかどうか、分からない結果だね」
先ほどまで地面があった場所は、巨大な崖のようになり、向こう岸との距離は絶望的に離れていた。
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「ほら、起きて花御、漏瑚。帰るよ」
「……ちゃんと、呪物の回収はできたのか?」
「バッチリさ」
「真人。……殺意にブレーキをかけるのは、ストレスがたまりますね」
「あはは、花御も呪いらしくなったじゃん」
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僕は今、恵のお見舞いに来ている。
『どこへ行く
ドアを開ける直前、遠くから葵の暑苦しい叫び声が聞こえたが、無視でいいだろう。
病室に入ると、なぜか窓が開いていた。誰か逃げた?
「恵、怪我は大丈夫かい?」
「あ、先輩」
ベッドの横には野薔薇もいた。
「はい、大丈夫です。家入さんの治療も受けたので。……それより、交流会はどうなるんですか?」
「それ、私も気になる」
「死人も出たんだ。ひとまず、先生の判断を待つしかないね」
「そうですか。……先輩は大丈夫なんですか? 特級とやり合ったんですよね?」
恵が心配そうに僕の姿を見る。
「流石にきつかったかな。領域展開はしないで対処できる範囲だったけど、不意打ちが怖くてね」
「……化け物め」
野薔薇が呆れたように呟く。
「1年生が無事で良かったよ」
僕はジト目をしている野薔薇にお土産の菓子折りを渡し、病室を出た。
翌日。
僕らはなぜか野球をしていた。
漏瑚が極の番を使用しなかったのは京都校の人間を傷つけないという縛りに抵触しそうだったため。それと単純に避けられそうだから。
轟鬼くんの交流会重症度はパンダと同じくらいの場所
【設定資料:百鬼夜行】
・融合百鬼『麒麟』
『雷獣』『雷神』『迅雷鬼』という、雷の“質・量・速度”を司る三体を融合させて生み出した新たな手札。鹿のような体躯に鱗を纏い、牛の尾と一本の角を持つ霊獣の姿をしている。
【能力】
・雷電の完全支配
戦闘フィールド内に存在する電気、静電気、雷雨などのすべての雷属性エネルギーを完全に支配・操作する。
・雷化と神速移動
自身の肉体を「雷」そのものに変換することで、瞬間移動にも等しい神速での移動を可能とする。また、大気中の電気を足場にすることで、空を駆け抜けることも可能。
・帯電装甲
常に超高圧の雷を纏っており、麒麟に対して物理的な接触を試みた相手には、防御を無視した強烈な電撃の自動カウンターが見舞われる。