省いていますが移動中に五条の六眼について説明を受けています。
気になっていたからね。
星間飛行の説明が難しすぎ。間違ってるかもしれない。
校舎の裏手、低い階段を下りた先に、すり鉢状に開けたグラウンドが広がっている。
縁をぐるりと囲む赤いトラックレーン。その内側には、丁寧に均された芝生が青々と敷き詰められている。芝生の感触を確かめながら、五条先生がパンと手を叩く。
「それじゃ、皆の術式見せてもらおうかな。まずは欠意から」
「分かりました。僕の術式は夜か『帳』の中でしか使えないので、下ろしますね」
僕は右手を掲げ、空を見上げる。
「――闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え」
詠唱と共に、頭上からドロリとした闇が垂れ落ちる。空を覆い尽くした不可視の幕は、昼間の太陽を遮断し、グラウンドを真夜中のごとき暗闇へと変えた。
「おい、帳の中ってこんなに暗かったか?」
隣で秤が眉をひそめる。
「僕の術式に合わせて、限りなく夜に近い遮光条件に設定しています。……さぁ、お披露目だ」
足元の影が、生き物のように蠢く。
「お出で――『
影からヌルリと這い出したのは、白い木綿の布のような長い帯状の妖怪と、前足が鋭利な三日月形の鎌になった鼬の妖怪。
闇に馴染むその異形たちは、主である僕の周りを守るように浮遊する。
「へぇ……式神使いか? 陰陽師みてぇだな」
「なんか、普通の式神と気配が違くない? ……自我があるみたい」
秤と綺羅羅が興味深そうに覗き込む。
「彼らは式神というより、妖怪と言った方が正しいですね。自我もありますし、調伏も済ませています。……僕の魂の一部を触媒にして具現化したものです」
一反木綿に飛び乗ると、それはふわりと宙に浮いた。
「彼らが破壊されても、僕の魂の一部が戻ってくるだけなのでリスクはありません。再構築に時間はかかりますけどね」
僕の指示に従い、鎌鼬が腕を振るう。
ヒュッ、という風切り音と共に、離れた場所にあったポールに鋭い斬撃が飛び、砂埃が舞った。
「こんな感じでしょうか。術式名は『百鬼夜行』です」
「はい、オッケー。次は綺羅羅」
五条先生が促すと、綺羅羅が前に出た。
僕と秤の体にポン、ポンと触れる。
「アタシの術式は『
綺羅羅が自分の顔の横で指を立てる。
「印つけたらさ、星座みたいに順番決まんの。間違えたら――ずっと届かないよ?」
「それと同じマーキング同士だと?」
「引き合う」
綺羅羅が指を鳴らした瞬間、強烈な磁力のような力が働いた。
「うおっ!?」
秤の体が、僕の方へ弾丸のように飛んでくる。
「ぐぇっ!?」
ドゴォン! と正面衝突。秤の太い腕が勢い余って僕の首に巻き付く形になった。
……受け止めてくれるのは嬉しいけど、ヘッドロックみたいになってる。絞まってる、絞まってる!
「で、別のマーキング同士だと弾かれて近づけなくなる」
今度は見えない壁に押されるように、秤が僕から弾き飛ばされた。
近づこうとしても、一定の距離で強力な斥力が働き、それ以上進めない。
「術式のモチーフは南十字座だから、5つの星がマーキングとしてあるんだ。順番通りに星を巡らないと、アタシには触れられないよ」
なるほど、初見殺しにも程がある。複雑怪奇な結界術に近い。
「じゃあ最後、秤」
秤は気だるげに前に出ると、ニヤリと笑った。
「説明? いらねぇだろ」
彼は左手を開き、右手の親指と人差し指で円を作る。残りの指は扇のように広げ、そのまま両手を上下に重ねるように構えた。
その独特の掌印に、空気がざわつく。
まさか――。
「――領域展開『
印を結んだ瞬間、空間が歪んだ。
次の刹那、世界が裏返る。
高専のグラウンドだった場所が、極彩色の光と騒音に満ちた駅のホームのような空間へと塗り替えられる。
「これって領域展開!? 」
驚愕する僕とは対照的に、五条先生だけは「やっぱりね」と涼しい顔をしている。六眼を持つ先生には、彼の術式に領域が組み込まれていることが最初から見えていたのか。
視界と同時に、脳内へ直接“ルール”が流れ込んでくる。
確率、演出、リーチ、確変、継続――。
理解するつもりがなくても、強制的に脳へ焼き付けられる術式情報の開示。
……うん、パチンコだねこれ。
僕たちが呆然としている様子を見て、秤は楽しそうに笑った。
「ほらな。説明いらねぇだろ?」
直後、空間内でリーチ演出が始まる。騒がしい音楽とキャラクターのカットイン。
わけもわからないまま数字が揃い――『大当たり』の文字が輝いた。
「ノってきただろ? 今の俺は4分11秒の間、不死身だ」
軽快な音楽が流れ始める。
……不死身?
「難しく考えんなって。さっき頭に流れ込んできただろ」
確かに、理解はしている。勝手に。
ボーナス、確変、ラウンド継続。
そして、“還元”。
「当たり引いた時点で、俺の呪力は無限に供給される状態になる」
秤は自分の胸をトン、と親指で叩く。
「消費する端から補充される。枯れねぇ。減らねぇ。ゼロにならねぇ」
呪力が尽きない。
それはつまり、反転術式も回し放題ということか。
「体をぶっ壊されても、全部呪力で即座に再生されるってことだ」
グチャリ、と。
秤はわざとらしく、自分の左腕を逆方向に捻り上げた。
骨が砕け、肉が裂ける生々しい音が響く。
だが次の瞬間、損傷箇所から蒸気のような呪力が噴き出し、何事もなかったように元通りに修復された。
「な?」
ぞっとするほど軽い調子で言う。
「「……そういうのやめてよ(ください)。たとえ不死身でも痛みはあるんでしょ?」」
僕と綺羅羅の声が重なった。
一拍だけ、秤はきょとんとした顔をした。
それから、くつくつと喉を鳴らして笑う。
「……あるに決まってんだろ」
軽く言いながら、さっき自分で折った腕をひらひら振る。
「痛ぇし、普通に嫌だし、できればやりたくねぇよ」
あっさりと肯定する。
そのくせ、顔はまるで困っていない。むしろ恍惚としているようにすら見える。
「でもな」
一歩、こちらに踏み出す。
「“当たり引いてる最中にビビる奴”は、そもそも台に座る資格ねぇんだよ」
にやりと、獰猛な笑みがこぼれる。
「痛みとか、死ぬかもとか、そういうの全部ひっくるめて――それでも突っ込むから、脳汁が出んだろ」
その横で、綺羅羅が深いため息をつく。
「……ほんと最悪」
「褒め言葉だろ、それ」
「違うし」
即答だった。
「ま、安心しろよ。今の俺は“確変中”だ」
その笑顔はやっぱり、どこまでも楽しそうで。
「死ぬ気はねぇし――死ねねぇからな」
領域が解け、元のグラウンドに戻る。
五条先生がパチパチと拍手をした。
「はい、紹介は終わりね。秤の術式は現代的だよねぇ。領域展開がデフォルトで組み込まれてるタイプだ。ま、いきなり使うのはびっくりだけど」
先生が僕に向き直る。
「それと欠意、もっと解釈を広げてみ?」
「解釈ですか」
「例えばその『一反木綿』、ただ乗るだけ?」
「いえ、巻き付けて拘束にも使えます」
「甘いね。術式は解釈だ。『一反木綿』は布だろ?なら『視界を塞ぐ』『音を遮断する』『傷口を圧迫止血する』解釈次第で役割は無限に広がる」
ハッとした。
妖怪という形に囚われていた。
「……なるほど。見た目や常識に縛られすぎていました」
五条先生が呪骸を取り出す。かわいいなそれ。
「やってみな」
布なら、縛り上げることも、包むこともできる。
魂で繋がっているから、声を出さずとも意思は伝わる。
僕は呪骸を見据え、一反木綿にイメージを送る。
――ただ巻き付くんじゃない。自身を絞って縄のように。
一反木綿が高速で回転し、きりきりと音を立てて呪骸を締め上げる。さらに呪力を流し込み、硬度を強化。
パンッ!
乾燥した破裂音と共に、呪骸が弾け飛んだ。中綿が雪のように舞う。
決して、さっき秤に首を絞められたから思いついたわけではない。断じて。
「飲み込みが早ぇな。……面白ぇ」
それを見ていた秤が、好戦的な笑みを浮かべる。
「おい綺羅羅、俺らも遅れんじゃねぇぞ」
「分かってるってば。アタシらもやろ」
夜の帳の下、僕たちの呪術師としての生活が、静かに、けれど確実に熱を帯びて動き出した。
反転術式は保護してもらった際に家入さんの診察がありそこで知った。
呪骸は学長から借りた。破壊しちゃったねぇ
次回は綺羅羅が完全にギャル化する予定です。
『百鬼夜行』
術式の効果:
百鬼(日本の妖怪)を従える。帳もしくは夜にしか使用できないが拡張術式は使用可能。
最初に極の番に必要な20体は調伏済みの状態だが残りは契約状態のため調伏が必要。
触媒は自分の魂である。召喚した百鬼が破壊されても自分の魂は自分に帰属するためリスクはない。調伏は自分と調伏済みの百鬼を使って行う。
調伏は定期的に行っています。1年の終わりくらいには全て調伏させる予定。
都合上、全ての百鬼は出ません。
極の番の説明は後でします。
真人が天敵。