1年生はこれで終わりです。
仲がめちゃくちゃ良くなってます。
口調も少し砕け始めている轟鬼君。
身内を傷つける奴は呪っちゃうぞ。
肌を刺すような寒風が吹き荒れる冬。
高専の周囲は深い雪に閉ざされ、吐く息は白く凍りつく。
僕たちは揃って2級術師へと昇格した。
それは喜ばしいことだが、同時に「単独任務」が増えることを意味していた。
特に僕は、広範囲制圧型の術式を持つせいか、地方への長期出張ばかり回される。北海道の次は九州、その次は四国……といった具合だ。
金次と綺羅羅は都内近郊の任務が多く、よく顔を合わせているらしい。
正直に言おう。寂しくて死にそうだ。
久々に高専に帰ってきても、二人は任務中で不在。誰もいない寮の自室で、僕はやり場のないイライラを術式の研鑽にぶつけた。
その甲斐あって、約一年がかりで百鬼の調伏を全て完了したのだが……達成感を分かち合う相手もいない。
そんなある日。
珍しく三人全員のスケジュールが空いたタイミングで、五条先生から呼び出しがかかった。
場所は雪の積もったグラウンド。
どうせロクな用件じゃないだろう。雪かきの手伝いか、あるいは厄介な特級案件の押し付けか。
「おい、欠意! 久しぶりだな。また背ぇ伸びたんじゃねぇか?」
「欠意ちゃん! おひさー!」
待ち合わせ場所に向かうと、見慣れた二人が手を振っていた。
金次は相変わらずの制服の着崩し方だし、綺羅羅は冬仕様のモコモコしたアウターを着込んでさらにギャル度が増している。
「……会いたかったよ、二人とも。高専に戻っても誰もいなくて、本当に寂しかったんだから」
思わず本音が漏れる。
三人で肩を組み、雪を踏みしめながらグラウンドの中央へ向かう。
そこには、雪景色と同化するように佇む最強の姿があった。
「やぁやぁ。皆が集まるの久しぶりじゃない? 感動の再会ってやつ?」
五条先生はいつも通りの軽薄な調子。
「そんなことより……鬼ごっこしよ!」
「「「は?」」」
「……五条さん、大丈夫か? 」
「悟ちゃん、風邪引いた?」
「風邪薬、持ってますよ。飲みますか?」
僕はポケットから常備薬を取り出した。おそらく、バカは風邪を引かないという迷信を打ち破り、頭をやられたのだろう。
「ルールは簡単。僕が鬼。10分間、僕から逃げ切れたら君たちの勝ち。捕まる(気絶する)か降参したら負け」
唐突すぎる提案に、僕たちは顔を見合わせる。
「ちなみにハンデとして、術式反転『赫』と領域展開は使いませーん。優しいでしょ?」
「……煽ってんのか?」
金次がこめかみに青筋を浮かべる。
「勝てたら、回らない高いお寿司を奢ってあげるよ」
「「「乗った」」」
即決だった。はい、縛り成立。
少し離れて作戦会議を行う。
「あのさ、これ『逃げたら負け』な気がするんだよな」
僕が切り出すと、金次もニヤリと笑って頷いた。
「だな。10分間逃げ回るなんて性に合わねぇ。一発入れてやろうぜ」
「でも、悟ちゃんには『無下限』があるよ? 打撃も術式も届かないじゃん」
綺羅羅がもっともな指摘をする。
「そこなんだよなぁ」
金次が頭をガシガシと掻く。
僕は少し思案してから口を開いた。
「……僕の百鬼の中に、なんとかできそうなのが二体いる」
「マジ? どんなやつ?」
「一体は『ぬらりひょん』。伝承通り、結界や屋内への『無条件侵入』の権能を持つ。先生の無限を一種の結界と解釈すれば、すり抜けられるかもしれない」
「もう一体は?」
「『
「おぉ、いけそうじゃん!」
綺羅羅が目を輝かせる。
「ただ、相手が先生だからね。いくら術式の相性が良くても、単純な呪力出力の差で弾かれる可能性が高い。呪力量は先生よりあるけど僕は出力するのは苦手だから、準備に時間がかかる」
「そこは俺がなんとかする。時間は稼ぐから、デカいのぶちかませ」
「アタシは?」
「綺羅羅は俺らにマーキングをつけて、離れた位置で待機。もしもの時の緊急脱出用だ。他の二つの星は分かりづらい所に配置しておけ」
「了ぉ解!」
作戦が決まり、五条先生に向き直る。
先生は屈伸運動をしながらこちらを見ていた。
「お、終わった? それじゃ始めよっか」
開始の合図と共に、僕たちは散開せずに構えを取る。
「あれ? 逃げないの?」
「逃げるわけねぇだろ! つまんねぇからな……一発入れさせろよ、五条さん!!」
金次が先陣を切って突っ込む。
僕は即座に空へ手を掲げた。
「闇より出でて――」
詠唱破棄。慣れれば一瞬で展開できる。
昼間の空が黒く塗りつぶされ、僕の独壇場が出来上がる。
「やるよ、金次! お出で――『ぬらりひょん』、『一反木綿』!」
影から現れたのは、頭の長い小柄な老人と、白い布の妖怪。
一反木綿が五条先生の視界を塞ごうと巻き付くが、無限に阻まれて空中で停止する。
「やっぱりね」
先生が指先だけで一反木綿を弾く。
その隙に、金次とぬらりひょんが左右から挟撃を仕掛ける。
ぬらりひょんの細い腕が、五条先生の無限に触れる。
――いけるか?
ぬらりひょんの能力は「家主の許可なく入り込む」。無限という拒絶を無視して、その内側へ……!
強烈な火花が散り、ぬらりひょんが弾き飛ばされた。
「あ〜、そういう解釈? 面白いけど、出力が足りないよ!」
先生が笑いながら、術式順転『蒼』を発動する。
見えない吸引力が僕たちを襲う。
「しまっ……!」
僕と金次は地面を転がりながら距離を取るが、ぬらりひょんと一反木綿は圧力に耐えきれず破壊されてしまった。
「くっ……! 理論上は通るはずでも、出力の桁が違いすぎる……!」
これが最強か。蟻がどれだけ工夫しても象の皮膚を貫けないのと同じだ。
「ほらほら、避けないと死ぬよ?」
五条先生が楽しそうに空間を削り取っていく。運動場の雪どころか、地面まで抉れている。殺す気か。
「欠意!」「うん!」
次だ。次はもっと重い一撃を。溜めが必要だ。
金次が前に出る。
「――領域展開『
パチンコの演出空間が展開され、五条先生を取り込む。
領域内での必中効果の押し合い。もちろん五条先生には通じないだろうが、数秒の時間は稼げるはずだ。
僕はその間に、最大出力の呪力を練り上げる。
「お出で――『
巨大な車輪と、その隙間から覗く憤怒の形相。
そして岩のような巨体の蜘蛛。
金次の領域が、先生によって内側から破壊される。およそ30秒。十分だ!
その瞬間。
「よし、行け!!」
土蜘蛛が糸を吐き出す。当然、無限に止まる。これはブラフ兼視界妨害だ。
「無駄だよーん」
先生が余裕を見せた、その上空。
本命はこっちだ。
朧車が落下する。座標指定ではない。この空間ごと、無限ごと全てを「轢き潰す」質量と呪力の塊。僕の全力の出力を、この一撃に込める!
凄まじい轟音と共に、雪煙が舞い上がる。
「おっ」
先生の少し驚いた声。
手応えあり。無限が軋む感覚があった。
煙が晴れると、先生はわずかに横へ移動して避けていた。
だが、無限のバリアが一瞬揺らいだのが見えた。突破しかけたのだ。
その隙を逃さない。
朧車の影から、綺羅羅が飛び出す。
「タッチ!」
星間飛行のマーキング。触れさえすれば、僕たちの勝ちだ。
「いいねぇ、君たち。……だけど」
先生の姿がブレた。
瞬間移動に近い超高速移動。綺羅羅の手は空を切る。
「……あっ」
僕たちの視界から、先生が消えた。
背後だ。
「僕の勝ち」
腹部に衝撃。
ただのパンチじゃない。殴られた瞬間、拳に向かって体が「吸い寄せられた」。
カウンターの威力が倍増する。
「がはっ……!?」
内臓がねじ切れるような激痛。胃の中身を吐き出しそうになるのを必死に堪える。
「一人目」
振り返ると、綺羅羅が既に雪の中に沈んでいた。
「二人目」
金次は……二発喰らって白目を剥いている。タフな彼を一撃で沈められないからって、二発入れるのは鬼畜すぎる。
「三人目、はいおしまい」
僕の意識も、そこで暗転した。
「……うぅ」
目が覚めると、雪の上だった。
体の芯まで冷え切っているし、腹部はまだジンジンと痛む。
「起きた? 記録は4分。まぁ、頑張った方じゃない? 結構いい線いってたよ」
五条先生が僕の顔を覗き込んでいる。
「……負けた」
やっぱりこの人、強すぎる。
術式の相性なんて小細工を、暴力的なまでの基礎スペックでねじ伏せられた気分だ。
「五条さん……あのパンチ、クソ痛ぇんだけど何だアレ?」
金次も呻きながら起き上がる。
「あぁ、あれね。打撃の瞬間に『蒼』の吸引効果を拳の前方に発生させてるんだ。クリティカルが出やすくなるでしょ?」
さらりと言うが、とんでもない技術だ。吸い込みながら殴るなんて、回避不可能じゃないか。
「休憩終わったら、ご飯行くよ」
「……え、負けたんですけど」
「2級昇格のお祝いだよ。なかなか三人揃わなかったしね」
先生がニカっと笑う。
前言撤回。グレート・ティーチャー・ゴジョウ。この人は素晴らしい聖人だ。
綺羅羅も目を覚まし、僕たちは先生の財布を当てにして高級寿司店へと向かった。
回らない寿司は、涙が出るほど美味しかった。
こうしてまた一つ季節が巡り、僕たちは2年生になる。
もうすぐ後輩が入ってくるらしい。
なんでも、語彙がおにぎりの具だけの呪言師と、禪院家のメガネの子、そしてパンダが入学してくるそうだ。
……やんちゃな後輩たちのためにも、もう少し強くなっておかないとな。
僕はお茶を啜りながら、極の番の確認と、領域展開の重すぎるリスクについて思考を巡らせた。
次は2年生ですね。呪術廻戦0いいですよね。轟鬼君によって変わることはあまりないです。
極の番の説明は後ほど領域については予想はつくと思います。
百鬼夜行の最後に出てくるといったらね。
あと代償が必ずあります。
五感の一時的消失が主に