アツコ、パチンカスになる   作:熱は熱いうちに

2 / 3
ごめん、当番には行けません。いま、パチ屋に居ます。

MomoTalk

_アツコ

◀︎
先生、ごめんなさい当番には行けない

◀︎
いま、楽園D.U.東インター店にいる

◀︎
この店でビナーとの死闘を繰り広げてる

◀︎
本当は、シャーレが恋しいけれど......
◀︎
でも……交通費を取り返すまで、知らないふりをするね

先生_

▶︎
えっと、どう言う事?

_アツコ

◀︎
交通費含めて、所持金を全部吸われた
◀︎
だから、今日の当番は行けないって連絡、かな

先生_

▶︎
………………
▶︎
それは……いわゆる、「負けた」ってことだよね?

_アツコ

◀︎
負けてない

◀︎
諦めたら、そこで試合終了だから
◀︎
今はただ、ビナーが私のお金を一時的に預かっているだけ

◀︎
知ってる?先生
◀︎
1/319の絶望の先にしか、本当の『楽園』はないんだって

先生_

▶︎
誰がそんなこと教えたの!?
▶︎
爆サイの影響!?それともパチンコ情報誌!?

▶︎
とりあえず、今すぐそこから離れて!

▶︎
迎えに行くから!

_アツコ

◀︎
大丈夫

◀︎
いま、カイザーのロゴが燃えてる
◀︎
これが先バレ……私の魂が、右打ちをしたがってる

◀︎
熱いね

先生_

▶︎
落ち着いて

▶︎
それ、ただの演出だから

_アツコ

◀︎
先生……もし私が帰ってこなかったら、サッちゃん達に伝えて

◀︎
『期待値は、そこにあった』って

先生_

▶︎
待って

▶︎
待って!?

▶︎
勝手に死闘を完結させないで!

▶︎
今からお金を持って行くから!

▶︎
今日の負け分は私が何とかするから!
▶︎
とにかく、今はそのハンドルから手を離して!!

_アツコ

◀︎

◀︎
復活演出

◀︎
割れた

◀︎
先生、またあとで

◀︎
これから虹の海へ行ってくるね

先生_

▶︎
アツコ?
 

▶︎
アツコ!?

▶︎
アツコォォォーーー!

絆イベント

アツコ(パチンカス)の絆ストーリーへ

 

 


 

先生はシャーレの執務室で、深い絶望と共に頭を抱えていた。

MomoTalkの既読が途絶えてから、すでに10時間が経過している。今更迎えに行こうにも、件の「楽園」はとうに閉店時間を過ぎ、夜の帳がキヴォトスを包み込んでいた。

 

「やっぱり、迎えに行くべきだった……私のミスだ。私の選択、そしてそれによって招かれた、この状況……いや本当、サオリ達になんて言えば良いんだ……」

 

その時、部屋のドアが静かに、だが墓所の扉が開くかのような重圧を伴って開いた。

 

「……ただいま。先生」

 

そこに立っていたのは、紛れもなくアツコだった。

だが、彼女が背負うオーラは決定的に変質している。フードの下に見える瞳は、過剰な光刺激に晒され続けたせいか鈍い虹色の輝き(確変の残光)を宿し、彼女の両手にはおよそ女子高生が持つには不釣り合いな「金の板(特殊景品)」と、大量の「高級缶詰」、そして……。

 

「これ、先生にお土産」

 

そう言ってアツコが無造作に机に置いたのは、パチンコ屋の景品カウンターでしか見かけないような、ド派手なパッケージの「超特大・徳用チョコ」と、なぜか「健康サンダル」であった。

 

「……アツコ。その、お金は……所持金は無事なの? それに、その目は……」

「見て、先生」

 

アツコがゆっくりとフードを脱ぐ。そして、はっきりと見えるようになったその瞳は、かつてないほど澄み渡りながらも、底知れぬ深淵を覗き込んだ者特有の、抗いがたい全能感を湛えていた。

 

「ビナーを、討伐してきた。……最後の方は、画面を見なくても『来る』のが分かった。……これが、予知夢……ベアトリーチェが、警戒していた力」

「アツコ、それは予知夢じゃなくて、ただの脳内麻薬による共感覚だよ……」

 

先生の心配を余所に、アツコはカバンの中からジャラジャラと、さらに追加の景品を取り出していく。

 

「明日も行くよ。明日は『新台入替』。新しい大決戦が、私を呼んでいるヘソのサイズが見えるの。釘の囁きが聞こえる」

「アツコ、 目がバッキバキだよ……パチンコの話は止めて、今日はもう寝よう? ね? ね?」

「……寝られない。目を閉じると、まだビナーの役物が落ちてくる音が聞こえる。……キュイン、キュインって。とっても、心地よい音……あぁ……脳が震える」

 

先生は確信した。あっこの子はもうダメだ、と。もう物理的にパチンコから引き離すしかないのだと。

だが、アツコは満足げに高級缶詰を一つ開けると、それを先生に差し出し、静かに微笑んだ。

 

「勝てば、すべてが解決する。……じゃあね、先生。サッちゃんたちにも、この福音(万発)を届けてくるから」

 

彼女の足取りは、かつてないほど軽やかだった。

その背中に、先生はもう一度だけ叫んだ。

 

「アツコ! 貯金だけは! 貯金だけは絶対に崩したらダメだからね!! というか、もうパチンコは辞めよう!? 頼むから!!」

 

シャーレのビルに、先生の悲痛な叫びだけが虚しくに響き渡ったのだった。

 




モモトークのレイアウトはこちらの作品の物をお借りしました。
https://syosetu.org/novel/334537/
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。