「姫様、これで全員ですか?」
「うむ。ワシにわかる範囲ではな」
「では九割方大丈夫そうですね。……それにしても」
戦闘終了後。ハナはシラユキとシュバルトを交互に見て。
「随分と息が合っていましたね。まさに阿吽の呼吸。今まで組んだ誰よりも相性が良いのでは?」
「恐ろしいことを言うなぁ!!」
シラユキは髪を逆立てながら反発。
シュバルトも不快そうに顔をしかめた。
「私がそいつを上手く使っただけだ」
「こいつはワシのおこぼれをせしめただけじゃ」
「「あ?」」
二人はドスの効いた声を上げて睨み合う。
また始まってしまった。
「貴様の動きや癖はよく知っているからな。望むように動かすのは難しくない。道具としては有用だと認めてやる」
「貴様一人では決定打に欠けると素直に言えばいいじゃろ。言っておくが、ワシは貴様を殺し切れなかっただけで、貴様の剣に殺されそうになったことは一度もないぞ」
二人の視線がバチバチと火花を散らす。
もはや恒例行事のようなじゃれ合いを見ながら、ハナは思った。
つまり個人では決定打を持たない狡猾な軍師と、個としての能力は突出していても、全軍の指揮や細かい分析は副将に投げていた天才剣士の組み合わせということだ。
やはり相性最高なのでは? ハナは訝しんだ。
「……はぁ。今は貴様に構っている暇はない。爺や、大丈夫か?」
「ええ。ハナ殿が応急処置を施してくださいましたので」
状況が状況なので、シュバルトは即座に喧嘩を切り上げて必要な仕事をした。
「……他はダメじゃな。もう息がない。相手が悪かった」
シラユキも条件反射で口が動いてしまったが、手は他の護衛達の容態の確認をしていた。
結果、爺や以外は助からず。
いずれも背中ではなく体の前側に致命傷があった。
逃げることなく、最期まで主を守ろうとした忠義の証だ。
彼女はそれに敬意を評し、亡骸の汚れを拭って、手を合わせる。
「何をしている?」
「供養に決まっておろう」
「敵に対してもか?」
シラユキが弔っていたのは、護衛達だけではなかった。
自らが斬った黒装束達にも、同様に手を合わせる。
「人間死ねば皆仏。アサヒではそう教えられとる」
「ホトケ……そちらの神だったか。欺瞞だな」
「しかし、弔ってもらえねば恨みが増すぞ。生きている敵の身内のな」
「む……」
てっきり死者がどうの、人としての道義がどうのと言い出すかと思ったら、意外と実利的な話が出てきた。
「大帝国は敵の恨みを軽く見すぎる。敵への敬意が足りん。だから戦が中々終わらず、こんな地獄の婚姻をするハメになったんじゃ」
「……まあ、一理はある。そちらも大概だったがな」
「皆がワシのように清く正しく美しいわけではないからのう。ま、やらぬよりはという話じゃ」
台詞こそ多少冗談めかしているが、真摯な顔で手を合わせ、拝むシラユキには神秘的な何かを感じた。
きっと見てくれの美しさによる錯覚だろう。
それでも、この錯覚に上手く騙されることができたなら。
なるほど、戦意喪失する敵もいなくはなさそうだ。
「こっちだ! 誰かいるぞ!」
「シュバルト殿下!?」
「何事ですか!?」
そこで帝都警備隊がようやく駆けつけてきた。
シュバルトが最初に撃った銃の発砲音を聞きつけて来たのだろうが遅い。
「襲撃を受けた。実行犯は十人。九人が死亡。一人は生け捕りに成功した。この捕虜は第四騎士団で預かる」
「は、はい!」
「承知いたしました!」
「それと大きめの馬車を手配してくれ。私を守って散った忠臣達を運びたい」
「ハッ!」
死神皇子と呼ばれる不吉な英雄の優しさを見て、帝都警備隊は少し彼を見る目を変えた。
「…………」
シュバルトは、シラユキを見る。
……認めたくはないが、凄まじく頼れる味方戦力だった。
敵は強く、軍略が本領の自分一人ではどうなっていたかわからない。
そう思ってしまうことが実に腹立たしく、二度とこんな事態を招いて堪るかと、死神皇子は気を引き締めた。