「出陣する」
「「「おおおおおおお!!」」」
皇帝の命令から僅か数日で準備を整え、シュバルトは反乱の起きたビャッコ辺境伯領へ向けて出発した。
黒の騎士甲冑を纏い、左腰に騎士剣、右腰に三丁の拳銃、背に血のように真っ赤なマントを着けて。
現時点で随行するのは第四騎士団と、常備軍である平民兵士団、それと数日で準備しろという無茶ぶりに応えた、やる気のある傭兵団の先遣部隊がいくつか。
合計約千五百人の軍勢。即応戦力としては、かなりの数だ。
「お前達はいつもと同じだ。いつも通りに動いて勝て」
「「「了解!」」」
第四騎士団と平民兵士団は、いくつかの混成部隊に分けた上で、シュバルトの直接の指揮で運用。
半分思考停止で言われた通りに動いてくれる忠実な手足だ。
強くはないが、最も重要な直轄部隊。
「へっへっへ。シュバルト殿下、今回もよろしくお願いいたしやす」
「ああ。期待している」
「へへぇ!」
ヤクサを始めとする傭兵達は平身低頭。
傭兵なんぞとは口も利きたくないとか言う貴族のボンボンに素人指揮で使い潰されることもよくある彼らからすれば、ちゃんと合理的に使ってくれて、基本勝たせてくれるシュバルトは上客中の上客だ。
シュバルトからしても、実戦経験豊富で大半の騎士より使える彼らを冷遇する理由はない。
「さて。久しぶりの戦。久しぶりの戦装束じゃ。──滾るのう」
そして、総司令であるシュバルトの隣で、異彩を放つ女武人が一人。
白を貴重とした和風の着物に、西方ドレスのようなアレンジを加えた、華々しい戦闘服を身に纏い。
腰に打刀と脇差の二本の刃。
手には馬上槍を握りしめ、馬鎧を纏った北方の怪馬を見事に乗りこなす戦乙女。
『修羅姫』シラユキ・ナイトフォール。
「……しかし、この戦装束はなんとかならんかったのか? 妙に露出が多くて落ち着かんぞ」
「大勢の男の前で肌着姿になった痴女が何を言う」
「実用性の話じゃ。防御力が心許ない」
本人がボヤく通り、現在のシラユキの装束は、防御力より魅力が優先されて、彼女の妖精のような美貌を全力で活かす方向に舵が切られていた。
今回は戦力として以上に、アサヒとナイトフォールの和睦の象徴としての働きを求められているがゆえに。
「妥協しろ。実際、効果は出ている」
「まあ、確かに憎しみを向けてくる奴が少ないのう。当然、いないわけではないが」
「殴り合うなよ」
「安心せい。時と場所と相手は選ぶ」
さすがに、そこまで考えなしじゃない。
「ちなみに、ヤクサ、今のワシはどう見える?」
「超エロいと思いやす」
「憎いと思うか?」
「高嶺の花に見えやす」
「男というやつは……」
率直な意見をくれた傭兵団長、及び、気持ち前屈みになってるように見える味方一同に、シラユキは呆れた視線を送った。
「ハナ、スケベ心は万国共通じゃのう。きっと死神皇子も、本性はムッツリじゃぞ」
「扱いやすそうで良いではないですか」
「おい、私を同類認定するな」
「ほっほ。賑やかで良いですなぁ、殿下」
「……もういい。進め。早く戦場に行きたい」
この日、シュバルトは人生で初めて、大嫌いな戦場を恋しく思った。
◆◆◆
もうマジで一刻も早く仕事に没頭したいという強い意志のもと。
自らを含む足の速い騎兵部隊を先行させ、他は数日遅れで追従させること七日。
シュバルトは一足早く戦場へと到着した。
「ここに来るのも久しぶり……でもないな!」
「花嫁道中で通りましたからね」
「あの時は、中々強い刺客が来たのう」
「最終的に串刺し団子三兄弟になりましたが」
東方主従に滅茶苦茶物騒な振り返り方をされているここは、大帝国の東の国境。
この先には侵略して支配下に置いた数々の属国があり、その果てにアサヒが治めるワフウ半島がある。
この地は言わば、それらの脅威から大帝国を守るための防波堤。大陸西部の盾。
それこそがビャッコ辺境伯領。
そんな重要拠点が敵に回ったのだから、なりふり構わず死神皇子を投入するのも納得の判断だ。
「シュバルト殿下!」
「報告しろ。戦況はどうなっている?」
「ハッ!」
到着すれば早速、現地の部隊から報告が上がった。
しばらく競り合って判明した情報によると、敵軍は質の悪い民兵を含めて推定一万。
周辺の属国と組んでいるので、正面に戦力を集中させている。
ビャッコ辺境伯領の代名詞である城塞都市に立て籠もり、徹底抗戦の構え。
「なるほど」
攻め落とすだけなら難しくないが、時間をかければ反乱の火種が国中に広がって火消しができなくなる。
ゆえに、皇帝の指示は短期決戦。
さて、どう攻めたものか。
「バタレガン伯爵軍、到着!」
「オロロカ侯爵軍、見参!」
本隊を待っている間に、貴族軍も続々と集結してきた。
頑張れば軍を派遣できる距離にいる地方領主達が、自ら率いたり、血縁者に指揮を任せたりして送り出した、玉石混交の戦力約二万。
元から戦っていた周辺軍やシュバルトの軍、その他諸々を合わせて、味方は合計約三万五千の大軍勢。
敵軍の三倍以上。まさに数の暴力。
「圧倒的ではないか我が軍は!」
「殿下! これなら負けるはずありませんぞ!」
戦力差に舞い上がった者達が気炎を上げる。
面子を見るに、アサヒとの戦争の時に出遅れ、戦力を温存できた代わりに、手柄も挙げられなかった連中が多い。
ここで一旗揚げてやると意気込んでいるのだろう。
「是非とも我らホウア家に先鋒をお任せください! 一瞬にして叩き潰してご覧に入れます!」
「いえいえ、我々サークムー家こそ、一番槍に相応しいかと!」
「いや、私こそが!」
我先にと名乗り出る好戦派。
手を挙げたいのに臆してしまっている臆病派。
それらを冷ややかに見る静観派。
色々と思惑を巡らせていそうな腹黒派。
疲れた様子の周辺軍に、勘弁してくれとばかりの傭兵達。
シュバルトはそれらを、機械的な温度のない眼で観察していき。
「諸君の言いたいことはわかった。素晴らしい熱意だ。これならば必勝は間違いないだろう」
「「「おお!」」」
「働きに期待している。では、作戦会議を始めようか」
ニッコリと作り笑いを浮かべ、シュバルトは配置を決めていく。
死神皇子のやり方を知る者達だけが、戦々恐々としていた。
(……悪い顔じゃ。どうせまた嫌味な戦法ばっかり考えとるんじゃろうなぁ)
シラユキは今回、将として一軍を率いているわけではないので、軍議に口は挟まない。
シュバルトの護衛っぽい立ち位置でオーラを放ち、色々とアピールするのが仕事。
「シラユキ、お前からは何かあるか?」
「私は旦那様をお支えするのみです」
「そうか。頼りにしている」
こんな小芝居をしておけば、それで充分。
貴族達も思うところはあるようだが、武将以上に口から出た言葉を重視する者達。
失言を恐れてか、それとも修羅と死神を恐れてか、表向きは何も言ってこない。
「さあ、蹂躙を始めるとしよう」
「「「ハッ!」」」
戦争が始まる。