修羅姫様と死神皇子   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

15 / 32
15

「進めぇ!! バタレガン伯爵軍に栄光を!!」

「遅れを取るなぁ!! 首級第一はこの私が、オロロカ侯爵軍が貰う!!」

「「「うぉおおおおおお!!」」」

 

 野心に動かされた者達が大帝国軍の先頭を行く。

 堂々と姿を晒し、辺境伯の立て籠もる都市へ向けて進軍する。

 

「いいのか?」

「何がだ?」

「奴ら──死ぬぞ?」

 

 シラユキの警告に、シュバルトは眉一つ動かさなかった。

 ただ、冷徹に前方を見据えている。

 

「これがビャッコ辺境伯領の城塞都市……!」

「ハッ! この大軍勢ならひと捻りよ!」

 

 貴族軍の前に立ち塞がる高い壁。

 大帝国の防波堤。城だけでなく都市全体が分厚い城壁に囲まれた鉄壁の町。

 敵に回った大物を前に、名誉と栄光に飢えた獣達はニヤリと笑って突撃を開始。そして──

 

「「「ぎゃああああ!?」」」

 

 即座に城壁都市の迎撃を浴びる。

 まずは最長射程の兵器が火を吹き、雑兵達を吹き飛ばした。

 

「……大砲の雨じゃな」

 

 ──大砲。長射程、超威力の破壊兵器。

 城壁に撃ち込めば粉砕し、大軍に撃ち込めば壊滅させる、画期的な悪魔の発明。

 

「ええい! 怯むなぁ! 分散して進めぇ!」

 

 大砲の届かない安全圏から、指揮官が声を張り上げた。

 一塊ではなく、分散させての歩兵突撃。

 大砲の弱点は命中精度の低さと取り回しの悪さ、再装填までの時間がかかり過ぎること。

 的が小さくなれば当たらないし、当たっても最小限の被害で切り抜けられる。

 

「あーあー。敵の思うツボじゃぞ。せっかくの大軍が、こうもバラけたら……」

「うぐぅ!?」

「がはっ!?」

「……小分けにされて、各個撃破じゃ」

 

 シラユキの言う通りに、戦況は動いた。

 バラバラに突撃した者達は、堀や城壁に足止めされたところを、弓矢やマスケット銃、バリスタ、投石などで狙い撃たれて、死んでいく。

 

 大軍の突破力を投げ捨ててしまったから、もう列に並んで虐殺の順番待ちをしてるに等しい。

 それでも、この物量ならゴリ押しができそうではあるが。

 

「敵の矢弾が尽きませんね。ズラリと並んだ大砲といい、兵の数は少なくとも、装備の質は高い」

「やはり金を出しとる奴がいるな。それに敵の守将も中々の腕前。……まだ助けんのか?」

「ああ。まだ動くな」

 

 シュバルトの様子に変化はない。

 ずっと氷のような無表情のまま。

 ……味方として彼の軍略を見るのは初めてだが、やっぱり好きになれない。

 

「「「ぐはぁあああ!?」」」

「伯爵様! 伏兵です!! 敵の騎兵が出現しましたぁ!」

「何ぃ!?」

 

 前線から悲鳴が聞こえてくる。

 城塞都市近くの物陰から騎兵が現れ、突撃中の兵士達を横から襲い始めた。

 ただでさえ弾丸の雨の中を走らされる可哀想な状態だったのに、横っ腹まで突き刺されて、完全に浮き足立ち。

 

「ひぃぃい!?」

「逃げろ!? 逃げろぉ!?」

「伯爵様ぁ!? 都市から敵軍が出てきました!!  兵達がこっちに逃げてきます!!」

「はぁああああ!?」

 

 トドメに城門を自ら開いて、出てきた精鋭部隊による追い打ち。

 恐怖が伝播して兵士達は逃げ出し、その波が安全圏にいたはずの指揮官にまで届く。

 

「覚悟ぉ!!」

「な、なん、だと……!?」

 

 ……大帝国において、出世に必要不可欠なのは血筋である。

 どれだけ功績を立てても平民では上の地位に就けず、逆に高位貴族の子弟が血筋だけで騎士に任命され、実戦経験皆無のまま軍の指揮を任されることも多い。

 

 下剋上を否定することで社会の安定性は高まったが、代償がこういうところに出る。

 

「ぐぇぇ!?」

「敵将、討ち取ったりッッ!!」

「「「うぉおおおおおおおお!!」」」

 

 圧倒的戦力差の中で指揮官級の首級を上げ、辺境伯軍が勢いづく。

 

「……おい。死神皇子。おい」

「まだだ」

 

 死神は動かない。

 

「勝てる……! 勝てるぞ! 押し返せぇ! 独立をこの手に掴むんだ!」

 

 逃げ惑う貴族軍を、辺境伯軍は更に追撃。

 大チャンスだ。最強最大の大帝国を討ち倒すことはできなくても、自分達の勝利で多くの反乱分子が勢いづけば、敵は辺境伯領だけに構っていられない。

 

 そうなれば和睦に持ち込んで独立を掴み取れるかもしれない。

 その未来が手の届くところまで来ている。

 勝てる、勝てる、勝てる、勝てる、勝てる!!

 

 

「──よし。潰せ」

「へっへっへ。お疲れ様でごぜぇやす」

「ぇ……?」 

 

 

 勝利に向かって突き進んでいた辺境伯軍の将に、巨大な戦斧が振り下ろされた。

 凄まじい怪力で騎馬ごと一刀両断である。

 

「イサミシア様……?」

「あっしは傭兵団『鋼の盃』団長、『斧壊』のヤクサと申しやす。縁があったらご贔屓に」

「「「ぐぁあああああ!?」」」

 

 巨大な斧を軽々と振り回す怪人とその仲間達に、辺境伯軍の一団は壊滅させられた。

 『斧壊』のヤクサ。

 アサヒとの戦争でも、それなりに名を馳せた英雄の一人。

 上は名家のボンボンばかりだが、下の実働部隊にはちゃんと実力者が多い。

 

「へっへっへ。やっぱり、シュバルト殿下の仕事はやり易くて良い」

 

 ヤクサは周囲を見る。

 右往左往して逃げる貴族軍。それを追いかけるために深追いし過ぎて陣形が崩れた辺境伯軍。

 

 その辺境伯軍を、貴族軍を隠れ蓑にして横から叩いた自分達。

 同様の指示を受けて、最初に貴族軍を翻弄した伏兵の騎兵達を処理する部隊。

 そして、敗走の動揺が伝わりづらい距離に布陣した、万全の第二陣。

 

「辺境伯の騎士を討ち取ったぞ!! 反撃だぁ!!」

「反撃だぁ!」

「辺境伯軍は潰れたぞ!」

 

 原始的なメガホンを装備したシュバルトの直轄部隊が、走り回ってヤクサの戦果を喧伝していく。

 敗走中の兵士達が後ろを振り向けば、確かに壊滅した敵の姿。

 逃げる足が徐々に止まる。士気が回復していく。

 

「好機であるな」

「よ、よし! 突撃!」

 

 それを見て、まだマシな指揮官のいる第二陣が動いた。

 敗走していた第一陣も、後続に吸収されつつ立て直して反転攻勢。

 辺境伯軍からすれば最悪の展開。

 

「うわぁ……。うっわぁ……」

「なんだ、修羅姫。その不満そうな顔は」

「畜生を見る目じゃ」

 

 シラユキはドン引きしていた。

 釣り野伏。偽装退却で敵を釣り上げ、伏兵で一網打尽にする戦術。

 本来なら練度の高い精鋭軍でしかやれない高等戦術を、シュバルトは味方を本当に負けさせて餌にすることで成功させた。

 

「効率的だろう? 先鋒を放置するなら、そのまま押し潰せる。対処のために手を打てば、潜んだ精鋭が後出しの良手で咎める。どこに責められる謂れがある?」

「友達なくすぞ」

 

 シュバルトの戦略は、味方を使い潰すことに躊躇がない。

 効率的と言えば聞こえは良いが、冷血な悪魔からは人心が離れる。

 

「仁義のない奴は、いつか刺されるんじゃ。こう背中からブスッと」

「……余計なお世話だ」

 

 シュバルトはそっぽを向いた。

 気のせいでなければ、思うところはあるような顔に見えた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。