「城壁を越えたぞ!」
「大砲を抑えろぉ!」
シラユキがシュバルトにドン引きしてるうちに、戦の趨勢は決まった。
敵は元々、民兵をかき集めるようなギリギリの状態。
貴重な正規兵を大量に失い、一気に崩れ出す。
「「ぬぉおおおおおおおッッッ!!」」
「む?」
そして、敵は最後の賭けに出た。
凄まじく強い一団が都市から飛び出し、一直線に総大将のところ、つまりここに向かって進撃してくる。
「結局、最後は個人の武勇に任せた突撃か! なんとも貴殿好みの展開だな!」
「ガハハハハハッ! おうとも! やはり戦とはこうでなくては!」
戦闘を走るのは、騎馬に跨り、年季の入った鎧を纏う、壮年の男二人。
ただし、片方は西方の騎士甲冑、もう片方は東方の鎧兜。
「アサヒの武将! ハナ! あの旗印は誰じゃったっけ!」
「旧反幕府方、盾川家の紋様ですね。大帝国との戦で没落し、当主は行方知れずだったはず」
「ああ! いたいた! あの声のデカいおっさん! 嫌いじゃなかった!」
該当人物の顔を思い出しながら、シラユキは戦闘準備。
スレイプニルに飛び乗って、馬上槍を構える。
「では、取り決め通り、行ってくる!」
「一応聞いておく。斬れるのだろうな?」
「当たり前じゃ! ……もう慣れた」
「……そうか」
スレイプニルが走り出す。ハナが影のように追従した。
「我こそは!
「「「ぎゃああああああ!?」」」
手練れの傭兵と比べても遥かに強い、修羅の国の豪傑が暴れている。
貴族軍では相手になっていない。
最終的には数にすり潰されるだろうが、それまでの間にアサヒへの悪感情を嫌というほど刷り込んでしまうだろう。
「朝霧流馬上槍術──」
ゆえに潰す。同じアサヒの武将であるシラユキが。
「『蹄打ち』!!」
「ぬぉぉ!?」
「「「殿!?」」」
ふわりと宙を舞ったスレイプニルの、加速と落下の勢いを全て込めた振り下ろし。
同じく馬上槍で受けた盾川は、あまりの威力に騎馬から弾き飛ばされ、馬の方など北方の怪物馬に踏み潰されて馬刺しになってしまった。
「久しいのう、盾川」
地に落ちた同族を、馬上から睨みつける。
「ガハハ! 修羅姫か! 随分ハレンチな格好をしているな! 大変よろしい!」
「貴様もか……」
へし折られた馬上槍を投げ捨て、快活に笑いながら刀を引き抜くスケベ親父。
……改めて見ると、酷い姿だった。
今のダメージを差し引いても、鎧兜はほつれ、刀は刃毀れだらけのボロボロ。
武将というより、落ち武者。
「盾川殿!?」
「行かれよ、辺境伯! あの世で会ったら、また一杯やろう!」
「……武運を!」
もう一人の強者、ボロボロの騎士甲冑は、立ち止まらずシュバルトの方へ向かった。
「意外じゃ。仲が良いのか?」
「うむ! 落ち目の地方領主と、落ちた田舎武将。凄まじく馬が合った!」
「そうか。ならば、ちと心苦しいのう」
馬上槍を構える。スレイプニルの蹄が地面を叩く。
「将軍の意向は和睦じゃ。それに真っ向から反した以上、覚悟はできておろうな?」
「ガハハ! 将軍様は餓えた狼! 獲物を弱らせれば、掌を返して武功をお認めくださるだろう!」
「弱らんさ。この程度で、ワシらの宿敵は」
スレイプニルが突撃を開始。
盾川は刀を構え、真っ向から迎え撃つ構え。
その目算を誤らせるように、シラユキは飛んだ。
「は!?」
「秘技『隼』!!」
「ぐっ!?」
走るスレイプニルの前に飛び出し、その額をカタパルトにして、凄い勢いで突っ込む。
人馬一体……とは違う気がする変態的な挙動。
ゆえに予測困難。
「殿を守れぇ!!」
「させませんよ」
「かはっ…!?」
「ぐぁ!?」
落ち武者にまだ付き従う、忠義の家臣達をハナが妨害。
現地調達の投げナイフが乱れ飛ぶ。
「ヤクサ殿、近くにいるなら手伝ってください」
「へい! 行くぞ、野郎ども!」
「「「うぉおおおお!!」」」
配下同士がぶつかり合い、武将二人の戦いは、邪魔の入らぬ一騎打ちとなった。
だが、既に趨勢は決していた。
アサヒにおいても名を轟かせるシラユキと、国元にすら帰れず消耗し切った盾川。
一対一なら、結果は火を見るより明らか。
「朝霧流槍術──」
「ぬぉおおおおおおおおおおッッッ!!」
力を振り絞り、侍は最期まで足掻く。
敬意を払い、シラユキもまた全力で倒しにいった。
「『死刺』!!」
「ぉ、ぉ……!?」
強烈な威力の槍が、盾川の胴を貫通。
死が確定する中、彼は笑った。
「ガハハ……! 感謝、するぞ……! せめて、華々しく、散れた……!」
「……そうか。良かったのう」
槍を引き抜く。盾川の身体が倒れる。
シラユキは勝鬨を上げた。
「逆賊、盾川重左衛門岩義! このシラユキ・ナイトフォールが討ち取った! これなるは東国の王に歯向かいし不忠者! アサヒは変わらず貴国の味方である!」
「「「お、おおおおおおおお!!」」」
感傷を振り払い、己の役割を果たす。
圧倒的な脅威が打倒され、テンションの上がった兵士達は、難しいこと考えず歓声を上げた。
これで最悪の事態は免れただろう。
「終わりだ」
「死神皇子ぃぃぃぃッッッ!!」
そして、シュバルトの方も決着がついた。
辺境伯と呼ばれたボロボロの騎士甲冑が、第四騎士団の一斉射撃で蜂の巣になっている。
彼も盾川と同等の大立ち回りを見せた、珍しい武闘派の有能貴族だったのに、数に削り倒されて、総大将に辿り着くことなく戦死だ。
どんなに強い英雄でも、個人の武勇には限界がある。
「──進め。反逆者どもを根絶やしにせよ」
「「「ハッ!」」」
そうして、ビャッコ辺境伯領の反乱は鎮圧された