修羅姫様と死神皇子   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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 ビャッコ辺境伯領の領都である城塞都市から、馬を走らせて小一時間ほどの距離にある廃村。

 人の営みの痕跡があるが、恐らく今回の反乱から逃れるために人が消え、無人となってしまった寂しい場所。

 

「ここか……」

 

 傭兵団と第四騎士団の一部を護衛として引き連れたシュバルトは、秘密の待ち合わせ場所として指定されたそこを訪れていた。

 

 そして、とある家の前で、一頭の馬を見つける。

 凄まじく立派な体格の白馬。

 シラユキが手懐けたスレイプニルと同格。

 帝都から辺境伯領まで一晩で走り抜ける、規格外の移動手段。

 スレイプニル同様、気難しく、乗り手の負担も大きいこの馬を扱える者は、シュバルトの知る限り一人しかいない。

 

「この家だな。お前達は外で待て。ヤクサ、この場は任せる」

「へっへっへ。お任せを」

 

 内密の話ということで、護衛達も話の聞こえない距離で待機。

 最も信頼する爺やのみを引き連れて、中へ踏み入った。

 

「……来たか」

 

 荒れた室内。廃墟そのものと化した光景の中に、その男はいた。

 身の丈二メートルを越える巨体。鍛え抜かれた巌のような筋肉。

 代名詞である剣と盾を近くの瓦礫に立てかけ、公務中のものとは違う簡素な鎧を纏った、大英雄。

 

「お呼び立てして、申し訳ない」

 

 帝都第一騎士団長、大帝国軍部の頂点。

 『騎士王』タソガレ・ラグナロックが、こんな廃墟で死神皇子を出迎えた。

 

「構わない。皇帝陛下の剣からの呼び出しとあれば。……して、要件は?」

「…………」

 

 タソガレは、ここで黙った。

 厳格に引き締められた顔に、苦悶の表情が滲み出ているようにすら見える。

 嫌な予感が加速度的に増幅されていく。

 

「……次の反乱の火種として、私を消しにでも来たか?」

 

 可能性として極小ではあるが、ゼロとは言えない選択肢の是非を問う。

 シュバルトはくだらない血筋の呪いのせいで、大多数の貴族の支持を得られない。

 

 だが、今回の勝利で更に功績が積み重なり、皇太子が失脚しかけているのもあって、本気で『次期皇帝として推そう』という動きが生まれるかもしれない。

 

 そうなれば多数派の貴族とぶつかって、シラユキの実家も電撃参戦してきて、国内は大荒れ確定だ。

 それだけは絶対に避けねばと考えたなら、ここでシュバルトを消す選択もあり得なくはない。

 

「否。陛下は、殿下の死を望まれません」

 

 だが、騎士王はすぐに否定。

 まあ、そうだろうなと、シュバルトもその言葉を信じた。

 

 消すにしてもやり方とタイミングというものがある。

 今ここでシュバルトが死ねば、どのみち国は大荒れだ。

 皇帝はそこまで愚かじゃない。

 

「では、辺境伯領の扱いについての密談か?」

「否。陛下は、殿下のやり易いようにとだけ」

 

 今度は逆に最も可能性の高い問いを投げたが、これも否定された。

 ……では、いったい何だと言うのか。本格的に目的が読めない。

 

「シュバルト殿下。陛下は、あなたを愛しておられます」

「……なんだ急に」

 

 真面目で知られる男が、唐突にらしくないことを言い出した。

 

「立場もあり、複雑さもあり、中々口には出せぬご様子。それでも真に愛した女の忘れ形見。愛していないはずがない」

「…………今日は随分と喋るな」

 

 今更そんなことを言われても、どうしようもない。

 父の血など邪魔に思ったことしかない。

 恨みすら擦り切れた、冷たい諦めの境地。

 まさかそんな話をしに来たのか? それがシュバルトの感想の全てだ。

 

「私にも、息子がいました。文武両道で、高潔な心を持つ、今時珍しい騎士の鑑。いずれは私の跡を継ぐと、確信していた」

「…………」

「息子を愛していた。だから、陛下のお気持ちはわかるのです」

 

 ……騎士王の息子。

 少し前まで皇族扱いすらされていなかったゴミ箱騎士団のシュバルトと違い、未来の大英雄として脚光を浴びていた男だ。

 

 アサヒとの戦いでも英雄の一人として獅子奮迅の活躍を見せ、死神と畏れられたシュバルトとは対極的に、希望の象徴として名を轟かせ、そして──

 

 

「──ですが、息子は死にました。あの蛮族どもに、無惨に斬り刻まれて……!」

 

 

「ッッ……!?」

 

 騎士王から、絶大な憎しみと絶望のオーラが噴き出した。

 今の今まで鋼鉄の理性によって抑えつけられてきた、剥き出しの激情が解放される。

 

 それが肌に突き刺ってようやく、ようやくシュバルトは目の前の男の目的を理解した。

 

「ゆえに、これは陛下の命にあらず。国のためにあらず。薄汚い怨みによる──我の凶行である」

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