修羅姫様と死神皇子   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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「ぬぉおおおおおお!!」

 

 シラユキが駆ける。敵は大帝国最強の男。

 アサヒ最強の武人、五代将軍とすら渡り合った化け物。

 

 守りになんて入ったら押し潰される。

 ゆえに、攻めて、攻めて、攻めて、攻め切って、攻め潰して勝つ!

 

「フンッ!」

 

 シラユキの予測困難な獣の動きを、騎士王は左手の盾でガッチリと受け止めた。

 激情に支配されていようとも、使い慣れた武器を手にしたことで歴戦の感覚が戻り、隙は消えた。

 

「帝式盾術『反衝』!」

「ッ!?」

 

 攻撃した側のシラユキが、ぶん殴られたように吹き飛ばされる。

 騎士王は盾を構えたままの体勢。衝撃を跳ね返されたとしか言えない技法。

 もはや武術というより。

 

「妖術の域じゃな……!」

 

 猫のようにしなやかに体勢を立て直す。

 しかし、今ので攻撃の流れを断ち切られ、騎士王に攻めのターンを渡してしまった。

 

 巨体が強く大地を踏みしめ、加速。

 動く城壁が一瞬でシラユキの目の前に現れ、右手の剣に加速を乗せて振り下ろす。

 

「帝式剣術『両断』!」

「ぬぉ!?」

 

 速い、強い、重い! これは防げない!

 転がるように緊急回避!

 外れた一撃が、ズガァァン!! と凄い音を立てて民家を粉砕し、地面に亀裂を作り上げた。

 

「相変わらずの馬鹿力め……!」

 

 盾で防ぎ、剣で攻める、王道の騎士剣術。

 そのはずなのに肉体(フィジカル)技術(テクニック)もおかしいせいで、人外の怪物にしか見えない。

 シラユキも大概だが、上位の英雄ほど人間を辞めている。

 

「ハッ! 相手にとって不足なしじゃ!」

 

 敗色濃厚の戦いなど、よくあること。

 この程度で泣き言を言っていては戦場になど行けないと、気合いを入れ直して再び攻勢に出た。

 

「…………」

「……爺や」

 

 一方、さすがの修羅姫も最強と戦いながらでは気を配れなかった後方。

 裏切りの忠臣は、懐から短剣を取り出し、未だ動けないシュバルトに迫る。

 彼よりラグナロック家への忠義を選んだのなら徹底的にタソガレに尽くす。それがせめてもの礼儀だが。

 

「…………やはり、ダメですな」

 

 短剣を持つ手はカタカタと震え、とてもじゃないが目的を果たしてくれそうにない。

 

「ブルルルル……!」

 

 そうしているうちに、倒れるシュバルトを守るように、スレイプニルが爺やを威嚇し始めた。

 騎士王の威圧の影響は深刻。

 未だに脚が震えているのに、健気に主の望みに応えようとしている。

 

「……ふぅ。殿下、知っておられますか。この馬は殿下にとてもよく似ていると、私は常々思っていたのですよ」

「…………どこがだ」

 

 護衛がついたのを言い訳に、爺やは短剣を構える手から力を抜いて、会話を始めた。

 シュバルトも不機嫌そうに最後の会話に応じる。

 恨み言の一つでも吐き捨ててやると裏切り者を睨みつける眼が、威嚇するスレイプニルと本当にそっくりで、そんな場合じゃないのに少し笑ってしまった。

 

「そっくりですよ。人を信じず、人に怯え、冷たい威嚇を繰り返す。そんな自分に疲れ、安らげる温もりを、愛を求めているのに、やはり怖くて距離を取る。不器用なお方」

「そんな風に思っていたのか……」

「ええ。敵はもとより、仲間も道具。裏切らないかどうかは信頼ではなく、損得や分析で判断しておられましたね」

「…………」

 

 大当たりだった。

 もっとも、無意識に例外認定していた相手も一人だけいたのだが、その一人に裏切られて、見抜かれて、こんな話を突きつけられているのだから、本当にどういう状況なんだこれはという感じだが。

 

「この名馬も似たようなものでした。けれど人間ほどアレコレ考えないからか、彼は殿下よりずっと早く温もりを見つけた。あなたより、よほど素直で賢かった」

「……その温もりがあの女か?」

「うおりゃああああああああ!!」

 

 騎士王との激闘を続けるシラユキを見る。

 衝撃を返す盾にも怯まず、ガン攻めの姿勢。

 フェイントを織り交ぜ、返された衝撃を逃がす体捌きをこの場で編み出し、抵抗を続けている。

 

「奥義破れたりじゃな!」

「小技を一つ攻略したのが、そんなに嬉しいか?」

「なにおう!?」

「……あれは温もりとは程遠いだろう」  

 

 勇まし過ぎる。温かいを通り越して熱い血潮だ。

 あんなのに寄りかかったら火傷する。安らぎもクソもない。

 

「それは殿下が喧嘩腰だからですよ。ちゃんと話してみれば、快活で魅力的な女性です」

「私が喧嘩腰なんじゃない。向こうが喧嘩を売ってくるんだ」

「子供ですか」

 

 まったく、さっきまで絶望していたくせに、シラユキが関わると、すぐこれだ。

 冷酷無慈悲な死神皇子が聞いて呆れる。

 

「ですが、それで良いのかもしれません。殿下が子供の頃は、こんな風に喧嘩などできませんでしたからなぁ」 

「…………」

 

 爺やは懐かしむように目を細めた。

 あの子供が歪んで、捻れて、死神なんて呼ばれるようになってしまった、過程の物語を思い出して。

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