修羅姫様と死神皇子   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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 騎士王が辺境伯領に襲来する少し前。

 ナイトフォール大帝国、帝都。

 

「速報! ビャッコ辺境伯の反乱鎮圧!」

「シュバルト殿下がやってくださった!」

 

 その吉報に帝都は湧いた。

 アサヒとの屈辱の停戦に始まり、戦費の浪費による経済の混乱、上がる税金や物価、乱れる治安と、悪いニュースが続いていた中だ。

 

 加えて属国の反乱が多発し、大帝国の盾と呼ばれる領地までもが反旗を翻し、これからどうなってしまうのかと不安に苛まれる者が多かったがゆえに、久しぶりの良いニュースはあっという間に帝都中に広まった。

 

「死神皇子が殺された!?」

「嘘だろ!?」

 

 だからこそ、その直後に流れた最悪の凶報もまた、あっという間に広まってしまった。

 『死神皇子』シュバルト・ナイトフォールの訃報。

 辺境伯の討伐後、戦後の混乱の隙を突かれて暗殺されてしまったらしいと、やけに素早く情報が拡散していく。

 

「現場にはアサヒの武器が落ちてたらしいぞ!」

「ってことは、あいつか……!」

 

 そして、犯人に関しての話も一瞬で広まった。

 まるであらかじめ導火線が用意してあったかのように、その他の様々な説を塗り潰して、世論は一人の女を犯人と決めつける。

 

 シュバルトの妻、シラユキ・ナイトフォール。

 否、怨敵アサヒから送り込まれた刺客、『修羅姫』朝霧シラユキ!

 

「おのれ、シラユキッッ!! おのれ、アサヒッッ!! 和睦のための婚姻に見せかけて、真の狙いは我が愛する弟を騙し討ちすることだったのだ!! なんという卑劣!! なんという非道!! やはり奴らは滅ぼさねばならない!!」

「そうだ!」

「ラクジス殿下の仰る通り!」

 

 燃え広がる敵意に油を注いで、アサヒとの戦争再開、徹底抗戦を叫ぶ派閥が勢いづく。

 ……火消しはできなかった。

 火種が大き過ぎる上に、火の回りも早すぎて、対応を考えている間に趨勢が決まってしまったのだ。

 

「父上! どうかご決断を! シュバルトの仇を取りましょうぞ!」

「……まだシラユキ姫の犯行と確定していないよ」

「何を仰るのですか!? 奴はシュバルトの死の直前、コソコソと領都を出ているのですよ! その後の足取りは不明! どう考えても奴の仕業です!」

 

 威勢良く叫ぶ皇太子の顔には、堪え切れない愉悦が滲み出ていた。

 アサヒに大敗し、彼の名誉は地に落ちた。

 確定していたはずの皇位継承が揺らぎ、血を分けた肉親達が続々と次期皇帝の椅子を狙い始め、戦争でも内政でも戦犯として後ろ指を指され、どうにか挽回せねばと足掻いている状態。

 だから、この事態に飛びついたのか、それとも──

 

「あの鬼嫁に関してはお任せください! 既に討伐部隊を出しております! 必ずや奴の首をシュバルトの墓前に捧げてみせましょう! その暁にはどうか──このラクジスに汚名を雪ぐ機会を!」

「……………」

 

 『皇帝』ユウグレール・ナイトフォールは、権力を得てもなお昔と何も変わらない、肝心な時に全く思い通りにならない政治に疲れ果てながら、最愛の女性の忘れ形見に想いを馳せた。

 

(シュバルト……本当に死んでしまったのかい……?)

 

 あまりにも展開が早すぎて、まだ全然納得がいっていない。

 悲しいとかそれ以前に、何が起きたのか、まるでわからない。

 認識が追いつかなくて情緒が混乱している。

 

「タソガレ、頼む。シュバルトを探してくれ。ラクジスに任せたら、生きていても死んだことにされてしまうだろうから」

「……お任せください」

 

 彼にできたのは、皇太子一派を全力で抑えつつ、最も信頼する側近を動かすことだけ。

 ……もしも、皇帝の心が大いに乱されていなければ。

 きっと、隣にいる男が隠し切れなかった、苦悶の表情を見逃すことはなかっただろう。

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