修羅姫様と死神皇子   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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 東の侍達の国アサヒと、西の貴族達の国ナイトフォール大帝国の間には、深刻な因縁がある。

 

 大陸の東端、アサヒの支配するワフウ半島は、半島ゆえに進軍路が限られ、しかも国土の七割が山岳地帯という天然の防壁に護られた鉄壁の国。

 代わりに農地にできる平野が少なく、民は常に飢えて肥沃な土地を狙っていた。

 

 一方、ナイトフォール大帝国は肥沃な大陸西部を支配し、それを足がかりに領土を拡大し続けてきた巨大侵略国家。

 その分、反乱の火種をあちこちに抱えていて、アサヒの持つ大量の鉱物資源や貴重な薬用植物など、武力行使に必要不可欠な諸々が欲しくて堪らない。

 

 おまけに両国は文化も価値観も大きく違うと来ている。

 ……ここまで言えばもうおわかりだろう。

 互いに互いがヨダレを垂らして欲しがるものを持っていて、しかも社長とヤンキーくらい考え方が違って喧嘩が絶えないとなれば、もう血みどろの奪い合いしかない。

 

 そうして派手にぶつかり合い、基本は国力で勝る大帝国が優勢だったが、鉄壁のアサヒ本国だけはどうしても落とせず、反撃を食らって一進一退。

 

 そんなことを繰り返しているうちに両国共に疲弊していき、なんとか停戦したいと思うようになり、でも派手にやり過ぎたせいで、半端な方法じゃ止まらない。

 

 そこで何とか捻り出された方法が、戦争の英雄と呼ばれるほど敵を殺しまくった姫と皇子をくっつけて、停戦の証にすることだったのだ。

 

「はい! イチ、ニ! イチ、ニ! 手拍子に合っていません! 歩幅も大きすぎ! 胸はもっと張って背筋を伸ばしてください!」

「ひぃぃ!?」

 

 という事情があったため、シラユキに拒否権はなかった。

 どんなに嫌でも、どんなに無茶でも、出荷するしかなかったのだ。

 

 たとえ、ほぼ武人として育ったせいで姫としてはアレな出来で、しかも他国の作法や常識を短期詰め込みで覚えろなんて無理無茶無謀を命じられたとしても。

 

「プッ。無様だな」

「ムッキャァァァァァァッッ!!」

「!? き、貴様、この拳は殺す気だったな……!?」

 

 当然、短期じゃ詰め込み切れなかった分を補うべく、現在シラユキは結婚式までの期間を使って特訓をしていた。

 今の時間はダンスのレッスン。

 その悲惨さをシュバルトが嘲笑い、殺意の籠もったプリンセスパンチからの喧嘩に発展。子供か。

 

「ハナ! 刀!」

「ダメです」

「爺や! 剣だ!」

「ダメに決まっております」

 

 お互いの保護者によって喧嘩は強制終了。そのままお説教が始まる。

 

「姫様、真面目にやってください。このまま結婚式でやらかしたら、戦争再開すらありえますよ」

「殿下もです。ダンスのパートナーとして、何より人生のパートナーとして、シラユキ様を助けるのは義務ですぞ」

「「ぐぬぬぬぬ……!」」

 

 二人は心底嫌そうな顔をしたが、一応は役目を全うする意志があるので、渋々ダンスの練習に戻った。

 シュバルトが優雅に手を差し出し、シラユキがそれを取ってステップを踏み始める。

 

「動きが大きくて主張が激し過ぎる。もっと淑やかな女性を演じろ」

「チッ。女は大人しくしていろか。こっちでもあるんじゃな」

「そちらには無いと思っていた。貴様が例外なだけか」

 

 触れ合う手の感触が心底気色悪い。

 すぐ目の前にある綺麗な顔をぶん殴りたくて仕方ない。

 そんな気持ちを紛らわすように、アドバイス交じりの会話をしていく。

 

「こんな感じか?」

「そうだ。貴様の運動能力があればできない方がおかしい。この調子で早急に、一刻も早く全ての動きを習得しろ」

「言われずとも。一刻も早くこの手を離したいのはワシも同じじゃ」

 

 強すぎる嫌悪が早く終わらせたいという強い気持ちに繋がり、二人の集中力を異様に高める。

 ある意味、とても相性が良い。

 

「いやはや。しかし、殿下がこうも感情を出されるとは珍しい」

「姫様はいつも通りですね。いつもの面々といるような喧嘩ができています」

「ほほう。案外お似合いの二人なのかもしれませんなぁ」

「「誰がだ(じゃ)!?」」

 

 ほら息ピッタリ。

 

「改めて、殿下をよろしくお願いします」

「こちらこそ、姫様をよろしくお願いします」

「「やめろ!」」

 

 ◆◆◆

 

 そんなこんなで時は過ぎ去り、一週間後。

 結婚式の当日がやってきた。

 

「最終確認だ。まず帝城内の教会にて神前での結婚式。次いで大広間にてパーティーが開かれ、続けて舞踏会へと移行する。……夜のことは一旦忘れろ」

「……そうする」

 

 今日ばかりは嫌いだなどと言ってられず、シュバルトとシラユキは真剣極まりない顔で話し合った。

 多くの貴族や聖職者が集まる一大イベント。万が一にも失敗は許されない。

 

「いいか。今日一日は戦争だと思え」

「権力闘争的な意味でか? それとも物理的なドンパチか?」

「両方だ」

 

 シュバルトは頭痛を堪えるように顔をしかめた。

 

「この和睦に反対する輩は多い。恨み辛みに加えて、続ければ勝てると妄信する者、費やした諸々を意地でも回収したい者、国を弱らせて反乱を起こしたい者と、様々な理由でな」

「まあ、大体ウチと同じじゃな」

 

 この結婚はビックリするくらい祝福されていない。

 花嫁が隠れ潜みながらの旅を強いられ、それでもなお居場所を嗅ぎつけた刺客が次々と送り込まれるくらいに。

 

「それでも戦いに疲れた停戦派が主流だ。最大限の警戒もしている。だが万が一は起こり得る。──その時は絶対に死ぬな」

「ッ!? ……背筋がゾワッとしたぞ。気色悪い」

「貴様という奴は……!」

 

 シュバルトの額に青筋が浮かぶ。シラユキの腕には鳥肌が立った。

 

「別に心配したんじゃない。貴様が死ねば停戦が白紙になるからだ。勘違いするな」

「はぁ? 勘違いなんぞしとらんがぁ? 真意がわかっても気色悪いだけじゃがぁ?」

「……またやってる」

「仲が良いですなぁ」

 

 この一週間で何度目になるかわからない子供の喧嘩。

 従者達はいちいち反応していてはキリがないと学んだ。もう一生やってろ。

 

「シュバルト皇子! シラユキ姫! お時間です!」

 

 仲良く喧嘩してる間に時は流れ、移動の時間。

 二人は大きく深呼吸をしてから、同じ馬車に乗り込んだ。

 

「足を引っ張るなよ」

「貴様こそ」

 

 結婚式が始まる。

 

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