修羅姫様と死神皇子   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

5 / 32


「あ゛ぁぁぁ……」

「よく頑張りました、姫様」

 

 翌朝。ソファーでハナに膝枕されて頭を撫でられながら、シラユキはうめき声を上げるだけの屍と化していた。

 鬼の側近も、今ばかりは甲斐甲斐しく介護してくれる。

 

「いつまで……うっぷ……! 伸びているつもりだ……!」

「殿下、ご無理をなさらずに」

 

 そう言うシュバルトも辛そうにえづき、爺やの肩を借りてなんとか立っている状態。

 昨夜はお苦しみでしたね。いや本当に。

 

「私は仕事に行く。貴様はどうする?」

「…………行く。嫌なことは済ませてから寝たい」

「なら、とっとと支度しろ」

 

 ということで、本日の予定は夫の職場見学に決定。

 重い身体を引きずり、ハナに手伝ってもらいながら身支度を整え、馬車に乗って目的地へ向かう。

 

「んん? 随分遠いのう」

 

 しばらく馬車に揺られた後、シラユキがそんな疑問を発した。

 二人の暮らす離宮は貴族街の端。帝城まで馬車で一時間ほどの距離にある。

 目的地への道のりは、その帝城をグルリと迂回するようにして、もう既にかなりの距離を移動していた。

 

「離宮は貴族街の西の端。私の職場は東の端だ。片道三時間といったところだな」

「クソではないか」

 

 率直な感想だった。

 自宅兼職場みたいな場所での生活が長かったシラユキからすれば信じられない。

 

「……私も部下達も立場が複雑だからな。反乱を警戒されたのだろう」

「はぁ?」

 

 シラユキは理解不能とばかりに眉を寄せた。

 シュバルトの強さは身をもって知っている。

 有能な者を中途半端に冷遇するなど、アサヒではありえない愚行だ。

 

「理解できん。普通、有能で実績ある者は完全に抱き込むか、逆らう前に潰すかの二択じゃろ」

「蛮族の国の普通を押しつけるな」

 

 お前強いから仲間になれ! ならないなら殺す! 圧倒的シンプル!

 実際はもう少し複雑だが、これが戦国の基本方針である。

 

「ワシなら謀反の一つでも考えるのう。どうじゃ、一緒にやらんか? 今なら協力してやらんこともないぞ?」

「そんなことをすれば国中を敵に回して終わりだ、バカ者」

 

 まるでデートに誘ってくる彼女みたいなキラキラした目で国家反逆の道に誘うシラユキ。

 精神疲労でハイになってるのか、珍しくシュバルトへの嫌悪よりワクワクが勝っていたのに、当の本人に化け物を見る目でピシャリと遮られてしまった。

 

「そんなもんか? アサヒなら、仮にワシが父上と兄上を討てれば、やり方次第でギリギリ次の将軍になれそうなもんじゃがのう」

「どこまで野蛮なんだ……」

 

 価値観の違いに驚くばかりである。

 だから喧嘩と戦争が絶えないのだろう。

 

「殿下、そろそろ到着です」

 

 そんな話をしているうちに目的地が見えてきた。

 覚えのある憎らしい気配を多数感じて、シラユキの機嫌が急降下していく。

 

「……ほう。ここが」

 

 辿り着いた場所は、本当に貴族街の端も端、城壁がすぐ後ろに見える場所にそびえ立つ、小城ほどの大きさの建物。

 訓練のための土地面積も相応に広く、他の貴族の屋敷と比べても威圧感があるが……どうにも古めかしいというか、年季の入った印象も受ける。

 

「はい。ここがナイトフォール大帝国、帝都第四騎士団練兵館でございます」

「行くぞ」

 

 爺やの解説もそこそこに、馬車から降り、シュバルトが先導するように歩き出す。

 ──帝都第四騎士団長にして第四皇子シュバルト・ナイトフォール。

 それが彼の正式な役職。

 つまり、シュバルトはここの長なのだ。

 

「だ、団長!」

「お、おはようございます!」

 

 鍛錬に勤しんでいた騎士達が、シュバルトの姿を見つけて敬礼。

 親しみ以上に緊張を感じる反応。

 どうやら彼は支えてもらうのではなく、畏れられるタイプのリーダーらしい。

 まあ、性格的に当然か。

 

「あの……隣のご令嬢はいったい……?」

 

 だが、シラユキへの反応がおかしい。

 大半が見たことある顔なのに、まるで初対面のように困惑している。

 

「ワシのことを忘れたか?」

「そ、その喋り方!?」

「貴様!? まさか修羅姫か!?」

 

 その瞬間、騎士達は慌ててシラユキに武器を向けた。

 どうやら西方のドレスを着た可憐なシラユキ姫と、具足姿の戦場の修羅姫が結びついていなかったようだ。

 

「停戦のため団長に嫁いだとは聞いていたが……!」

「待て、本当に修羅姫か? それにしては可愛すぎるぞ!」

「確かに。全身血塗れでもなければ、矢傷も銃創もない。もしや人違い……?」

「バカか貴様ら」

 

 常日頃から血塗れで矢弾が刺さったまま生活する人間がいるわけないだろ。

 どんだけ戦場のイメージが固定化されてるんだ。

 

「『修羅姫』こと朝霧シラユキじゃ。いや、今はシラユキ・ナイトフォールか。よろしく頼むぞ」

「「「できるかぁ!?」」」

 

 よろしくと言いながら、宿敵、宿敵、宿敵に囲まれては、さすがに演技なんてできず、凄まじく嫌そうな顔をするシラユキ。

 直接対決を繰り返した騎士達にも、貴人達と違って取り繕う余裕はない。

 結果、場の空気は最悪となった。うん知ってた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。