偽。【チ。現パロ二次創作小説】   作:すう

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偽。〜家族と呼ぶには、まだ早い 2

 下校時刻を過ぎると、職員室には小さな安堵の空気が生まれる。

 今日も何事もなく、一日を終えることができた。

 とはいえ、明日の授業の準備が残っている。

 ボルコはクラスに新たに加わった少女の名前を名簿に追加した。

 聡明そうな子だ。しかし、クラス一の問題児レヴァンドロフスキと、扱いにくい優等生フライと早速関わってくるとは。

 胃が、キリ、と締め付けられるように痛む。

「大丈夫ですか、ボルコ先生」

 顔を顰めたボルコを見て、隣の席の教員が声をかけた。

「……いや、大丈夫です」

 つい、と横から何かが差し出される。

 甘いココアのインスタントスティックだった。

「や、ありがとうございます……フベルト先生」

 一組の担任、フベルトは軽く会釈をして自分の分のココアを飲んでいる。

「どうでしたか、転校生は」

「それが、早速よりにもよってやんちゃな子らとつるみ

 出しまして。気が気でないです。

 フベルト先生のクラスはご指導が行き届いていて、落ち着いているから羨ましい」

「……いや、あれは群れの主導者がいるだけです」

「はあ」

 フベルトが読みにくい表情の中に、わずかに浮かべたうんざりした表情に気付かぬまま、ボルコもマグカップに甘いココアの顆粒を注いだ。

「次の単元の、相談なんですが」

「ああ……「私の家族」でしたね。うちのクラスは家庭科の授業中に取り上げます。書ききれなかったら宿題に」

「うちもそうしましょう」

 教材を用意する手を止めず、しかし甘いミルクココアの香りが、胃の痛さを和らげた。

「すみませーん。搬入作業させていただきます」

 職員室の入り口から、作業服の男が顔を出した。

「ご苦労様です。では、倉庫の方に」

 教頭が声をかけている。

「……最近、業者の出入りが多いですね」

 フベルトが何気なく呟いた。

 

 ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎

 

 下校後、ドゥラカが家に着くと、ヨレンタが出迎えた。

「おかえりなさい」

「……ただいま」

 シュミットは仕事で不在だと、ドゥラカが聞く前に教えてくれた。

 ドゥラカがこの家族に感じる違和感は、日に日に大きくなっていく。

 例えばこの夫婦。

 寝室は別。

 会話は事務的。

 仲が悪いわけでは無い。

 お互いを見る目は優しげである。

 ただ、どこか、役割を演じているような気配がする。

 自分がこの家に迎え入れられたことには、何か理由があったのでは無いか。

 そう考えるようになると、その理由が気になり始めてしまい、この家の全てのことが怪しく感じられてくる。

「……ドゥラカさん?」

「あ、すいません。何でしたっけ」

 ヨレンタに話しかけられ、ハッとして顔をあげる。

 食卓机に向かい合わせに座り、おやつのクッキーを差し出しながら、ヨレンタが尋ねた。

「学校はどうだった?お友達とか」

 ドゥラカが級友の顔を思い浮かべる。

「……まあ、話せる人はいます」

「それは、良かったわね」

 良かった、のだろうか。

 ドゥラカは今日会った、過去に関わりのある人物たちの顔を思い浮かべる。

 レヴァンドロフスキに、フライ。そしてボルコ。

 レヴァンドロフスキじゃないが、運命というにはあまりにも偶然が重なりすぎた再会。

「……そうだ、ヨレンタさんやシュミットさんって、何の仕事されてるんですか?」

 ホットミルクの入ったカップを両手でつつみ、フウフウと息を吹きかけながらドゥラカが問うた。

 このカップは、ドゥラカが選んで買ってもらったものだった。

 クマのイラストがプリントされている。

「……」

「……?」

 急に黙り込んでしまったヨレンタに、ドゥラカが訝しんで声をかける。

「ヨレンタさん?」

「あ、ああ、ごめんなさい。ええと、仕事だったわね」

 慌てて取り繕うも、視線が迷う。そんな姿のヨレンタを見るのは初めてだった。

「はい。学校の授業で家族のことを作文にするから、聞いてきなさいって言われて」

「そうだったのね。

 ……私もシュミットも、調査員をしているの。仕事の関係上、詳しくは言えないんだけれど」

「同じ職場なんですか?」

「そうね」

「職場恋愛だったんですか?」

「……」

 ヨレンタが固まってしまった。

 まずいことでも聞いてしまったのだろうかと、首を傾げる。

 その時、玄関の開く音がした。

 ガサガサと何やら荷物の音をさせているシュミットのところへ、ヨレンタと共に向かう。

「おかえりなさい、シュミットさん」

「ただいま、ドゥラカ君。土産だ」

 ポンと渡されたのは、一抱えもあるテディベアだった。首に深緑のリボンを巻いている。

「ヨレンタさんにはこちらを」

 恭しく花束を差し出す。

「……おかえりなさい、シュミット。どうしたの?」

「まあ、たまにはと思って」

 シュミットは咳払いをひとつして、靴を脱ぐ。

 ヨレンタは花束を受け取りながら、困ったように微笑んだ。

 テディベアのつぶらな瞳がドゥラカを映す。

 どこか噛み合わない夫婦。

 それでも、二人の間には確かに柔らかな空気が流れている。

 考えすぎかな。

 ドゥラカはテディベアを抱えたまま、二人を見比べる。

「……あの」

「どうした?」

「いえ。その、ありがとう、ございます」

 そう言って、赤くなった顔をテディベアの後ろに隠した。

 

 翌日。

 昼休み。

 フライとレヴァンドロフスキに呼び止められたドゥラカは、倉庫の裏手に連れて行かれていた。

「なあ、これ見てくれ」

 倉庫の小さな窓からは、薄暗い中に算数セットの箱が並んでいるのが見えた。

 レヴァンドロフスキがさらに奥を示す。目を凝らすと、箱が開いて中身が溢れている。

「……?」

「昨日までは無かった」

「何でそんな事知ってんの?」

「校内の早朝パトロールは俺の日課だぜ」

「他にやることあるだろ」

 フライの冷たい目を受けても、レヴァンドロフスキは動じない。

 その時。

「好奇心は猫を殺すよ」

 冷たい廊下に、高い声が響いた。

「お前は」

 レヴァンドロフスキの目から、冗談めいたいつもの色が消えていた。

「一組の……ラファウ!」

「え、誰」

「隣のクラスの学級委員長で、六年間同じ担任に持ち上がられ続けてるやばい奴」

 フライがドゥラカに耳打ちする。

「やばくない。僕に着いて来れる担任がフベルト先生だけだったということ」

 やばい奴だ。

 ラファウが薄暗い倉庫裏に足を踏み入れた。

 後ろ手に組んだ姿勢のまま、ドゥラカたちの目の前をゆっくりと歩く。

「確かに、僕もこの倉庫の中の物が気になっていたところだよ」

「他に、趣味見つけた方がいいよ」

 フライの冷たい言葉を聞き流し、ラファウが体操服の上着に手を入れる。次は体育らしい。

「僕の手にかかれば、事務員さんを懐柔することなど朝飯前」

 ラファウの手には鈍く光る銀色の鍵が握られていた。倉庫の鍵のようだ。

 レヴァンドロフスキとフライは驚愕のあまり目を見開く。

「なん、だと……!」

「事務のノヴァクさんはこの学校の中で最強のはず」

 関わってはいけないタイプの優等生だ。

 鍵穴に吸い込まれていく鍵を眺めながら、ドゥラカは冷めた目で目の前の光景を見つめる。

 男子たちが息を呑み、扉が開かれる瞬間を待つ。

 無情にも、始業五分前のベルが鳴る。

「おっと」

 ラファウが手を止めて、鍵を上着にしまった。

「僕のクラス、授業前集合最優秀クラスなんだ。じゃあ」

 そう言ってさっさと立ち去ってしまう。

 物言いたげなドゥラカたちを残し、ラファウが一度だけ愉快そうに振り返る。

「放課後に、また」

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