艦隊これくしょん - variety of story - 作:ベトナム帽子
「派手にやられちゃったねー」
北上は小さいコンクリート片を投げて言った。北上達の目の前には戦艦棲姫の砲撃によって半壊した艦娘寮。火災によりあらゆるところが黒ずんでいる。あの艦娘寮の華やか面影はない。
AL・MI作戦によって空になった鎮守府への奇襲。北上達は善戦したが、砲撃を防ぐことはできなかった。
「こんな状態じゃ、修復……とはいかないわね。新しく建てた方が早いわ」
大井がしゃがんで瓦礫に埋もれた兎のぬいぐるみを拾う。掘り出され兎のぬいぐるみには右足がなかった。大井が叩いて埃を落とすと、左腕がぽとりと落ちた。大井はぬいぐるみをそっと地面に置く。
「あんまり壊して欲しくないなぁ。艦だったらドックに上げて修理できるのに。まあ、難しいよね。橫鎮、どうなるんだろ」
「港としての能力は完全に失っているから、基地としては使えないわ」
砲撃を受けたのは艦娘寮だけではない。湾港全体が被害を受けている。艦艇の建造ドックやクレーン、艦娘憩いの場所である入渠施設も被害を受けている。
2人は半壊した艦娘寮を後にして、歩き出した。
北上は右手に広がる湾を見た。湾内には大破着底した戦艦『岩島』が佇んでいる。30メートルほどもあった艦橋は砲弾の直撃により吹き飛んでおり、31センチ連装砲を収めた砲塔4基の内、2基は装甲がえぐれ、内部が見えていた。「岩島」以外にも脱出できなかった艦艇が3隻もいる。
北上は背中の艤装に引っかけていた15.5センチ三連装砲の砲身を触った。砲身は3本とも塗装が融け落ち、赤い防錆塗装が見えている。戦いの激しさは15.5センチ三連装砲だけではなく、艤装全体から見て取れる。大腿部の5連装魚雷発射管は全て空で、右足の発射管は砲弾の直撃により、使用不可能になっている。両脛の甲標的格納器には本来収まるはずの6隻の内、2隻だけ収まっている。ちなみに服は中破状態と言うほど吹き飛んではいないが、裾などの端っこは破れていたりする。大井は魚雷発射管は損傷こそしていないが、甲標的は全消失している。
北上と大井は鎮守府のゲート前を通りがかった。ゲートには小銃を持った2人の衛兵と1人の少女が立っている。少女は衛兵に何かを言っているようだ。
「艦娘の皆さんに合わしてください!」
「それは無理だよ、お嬢ちゃん」
「だーれが無理だって? 清水君」
北上は清水君と呼ばれた衛兵の肩に手を置いていった。もう一人の衛兵が敬礼する。
「お待ちかねの艦娘さんは私とこっちの大井っちだよ」
少女は慌てているようだった。言葉が詰まってうまく出ていない。
「ええっと、あの!」
「うん」
「橫須賀の街を守ってくれて、ありがとうございます!」
少女はぺこりとお辞儀して、向こうに走って行った。
「ありがとうございます、か。清水君、町の方の被害ってどうなってるかしら?」
大井が清水に聞いた。清水は今、大井の存在に気がついたようで、大井の方を向いて敬礼をした。
「港こそ、手痛い被害ですが、街の方はほぼ被害は出ていません」
「そう、殊勝な子ね」
間宮が設営されたテントで炊き出しをやっていた。橫須賀の艦娘、兵隊はここで昼食を取っていた。北上と大井は艤装を外した状態でうどんを食べている。艤装は足下に置いていた。
「艦隊は地方の軍港や港を使うみたい。横鎮はやっぱり駄目」
「あれだけの艦隊、どこに収めるのかしらね」
AL・MI作戦に参加した通常艦艇は総数31隻だ。中には排水量9万トンの空母だっている。
「再建には1年はかかるらしいよ。横鎮しばしのお別れだね、こりゃ」
「でも、街の方には被害が出なくて良かったわ」
「だね」
幸いなこと、横鎮の施設が壊滅的被害なのに対して、橫須賀市街には砲弾一発の着弾もなく、避難中に軽傷者が出た程度だった。
「頑張った甲斐があるってものだよね」
北上は足下の艤装を軽く叩いた。
この話は昨年の10月に書いたものです。
2014年の夏イベントはE-6がクリアできず、鎮守府はどうなったのだろうか、という想いから書き上げました。
作中で北上が橫須賀鎮守府の再建に1年はかかると言っていますが、問題なのは通常艦艇を運用する上での話で、艦娘だけを運用するにはさほど時間はかかりません。
なので橫須賀鎮守府は3ヶ月ほどで艦娘を完全に運用するだけの能力を取り戻しました。という裏設定。
ちなみに作中で大破着低していた戦艦「岩島」は普通の艦です。
前に予告していた、アメリカに渡った第十一駆逐隊の話を始めました。
どうぞ、ご覧ください。
「雪の駆逐艦奪-違う世界、同じ海-」http://novel.syosetu.org/43325/