艦隊これくしょん - variety of story -    作:ベトナム帽子

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ドイツ艦娘の来る日

 ドイツから日本に顧問団が航路で訪れた。正式な作戦名は「遣日艦娘作戦」。コード名は「アドラー作戦」。ドイツの駆逐艦娘1人、海軍関係者32名、艦娘技師16人からなる派遣団だ。派遣目的は近年、めざましい活躍をしている日本海軍に艦娘の運用や技術をはじめとした様々なことを習得するためである。

 この中の駆逐艦娘というのがZ1型駆逐艦レーベレヒト・マースだった。

 

 レーベレヒト・マースは緊張していた。

 ドイツ日本派遣団を歓迎するためのパーティー。橫須賀鎮守府の司令部多目的大ホールでパーティーは行われている。

 今は開会式。この場のドイツ海軍最高階級である、アドルフ・グラーゼン少佐が壇上の上で少しばかり拙い日本語での挨拶を終えた。次は派遣団で唯一の艦娘であるレーベの挨拶だ。

 レーベは不安だった。

 自分の日本語会話能力には自信がある。しかし、実際に日本語を使いこなしている日本人を前にして話すことができるだろうか。しかも、ホールには100人の艦娘と人間がいるのだ。

「レーベ、リラックスしてな」

 壇上から降りてきたグラーゼン少佐はレーベに小さな声で言った。

 レーベは壇上に上がり、マイク台の前に立った。そしてホールにいる大勢の人間を見た。 みんな、ジャガイモだ。ジャガイモだから何も聞いていないし、何も思わない。用意していた台詞を言うだけだ。レーベはそう思って心を落ち着かせた。

 息を吸い込む。

「日本の橫須賀鎮守府の皆さん、こんばんは。ドイツ日本派遣団の艦娘、Z1型駆逐艦レーベレヒト・マースです。この壇上に立てること、非常に嬉しく思います。皆さんのご活躍はドイツにも響いています。約1年で西太平洋を取り返した艦娘達と。僕は今日から皆さんと同じ所で寝起きをし、食事をし、戦闘をします。僕は皆さんが持っている技術、技能を吸収し、立派な駆逐艦になりたいと思っています。文化の違い、戦闘力の差などににより、皆さんに迷惑をかけてしまうこともあるかもしれません。僕としても一生懸命頑張りますのでどうぞ、よろしくお願いします。短い挨拶ですが、これで締めくくらせていただきます」

 一回、しゃべり出してしまうと、案外に簡単なものだった。

 レーベは礼をして、壇上を降りた。グラーゼン少佐は「上手だったぞ」とほほえんだ。

 

 開会式が終わると会食だ。会食はビュッフェ形式で、すでにたくさんの美味しそうな料理が運び込まれている。しかし、レーベはすぐに口にすることはできない。グラーゼン少佐と挨拶回りをしなければならなかった。

 挨拶に行ったのが、橫須賀鎮守府の艦娘を束ねる司令官である、提督だった。

 提督の階級は大佐だったが、大佐という高い階級の割には非常に若い男性であった。おそらく年は30をは超えていない。グラーゼン少佐よりも若い。

「こんニちハ、アドミラル。わたしガアドロフ・グラーゼン少佐です」

「グーデン・ターク、グラーゼン少佐」

 グラーゼン少佐が、拙い日本語で挨拶をし、提督も日本訛りたっぷりのドイツ語で挨拶、握手する。

「こんにちは、提督。レーベレヒト・マースです。レーベでいいですよ」

 レーベは自身の日本語で挨拶をした。

「こんにちは、レーベ。日本、そして橫須賀鎮守府にようこそ」

 握手をする。提督の手は温かい。

「長い船旅、お疲れでしょう。今日は美味しいものを食べて、ゆっくりとしていってください。そうだ、案内役を付けましょう」

 提督は周りを見渡した。つられてレーベも周りを見渡す。

 ホールにはたくさんの人がいる。写真を撮っているピンク髪の女性。赤いスカート、ノースリーブの白い服を着た女性。共に日本に来た技術士官。

 中でも目についたのが長い黒髪でスカートの赤い武道着を着ている女性。彼女はテーブルの皿にある料理を次々と平らげていく。

 提督は暴食の彼女に近づく。そして羽交い締めにしてテーブルから引き離した。

「おい、赤城! そんなにがっつくな!」

「目の前に美味しそうな料理が並んでいるのに食べないのはどうかと思います」

「しかしだな、このパーティーはドイツ日本派遣団の方々を歓迎してのパーティーなんだ。つつしみを持て!」

 赤城、おそらく艦娘だろう。赤城は口の形をへにして聞いている。最後は不満げに「はい」と答えていた。

「すいません、あの艦娘は赤城という空母艦娘でして」

 グラーゼン少佐は笑顔だ。実際、ドイツ海軍の中にも大食らいの艦娘は6人ほどいる。みんな、戦艦や巡洋艦などの大型艦だ。

「ええっと、案内役です。浜風、こっちに」

 提督が手招きする。やってきたのは銀髪で目のぱっちりとした、そして何より胸の大きい艦娘だった。

 だいたい艦娘は胸の大きさで、艦であった頃の規模がわかったりする。胸が大きい方が大型艦の傾向がある。この浜風と呼ばれた艦娘は大型の軽巡洋艦ほどだろうか?

「駆逐艦、浜風です。グラーゼン少佐、レーベレヒト・マースさん、橫須賀鎮守府へようこそ」

 駆逐艦! この大きさで! レーベは頭が混乱した。しかし、取り乱すわけにも行かない。世界は広いのだ、と無理矢理に理解した。

 ちなみにレーベの胸は平たい。

「レーベでいいですよ。浜風さん」

「さん付けでなくて、良いですよ。レーベ」

「わかったよ。浜風」

「浜風、レーベを案内してくれ」

 浜風はきっちりとした敬礼で答える。

「グラーゼン少佐は私が案内します」

 

「みんな、こちらがレーベレヒト・マース」

 浜風が他の艦娘達が集まっている場所に案内する。集まっている艦娘は10人ほどだろうか。

「皆さん、こんにちは。レーベレヒト・マースです。レーベと呼んでください」

 レーベは丁寧に礼をした。最初の印象は大事だ。

「肌が白い! お人形さんみたい!」

「かわいい!」

 思ったよりも好印象のようだ。島国で海外との交流が難しい今の日本では白人と会うことはほぼないのだろう。

 日本の艦娘も結構なものだと思う。みんな美人揃いだ。体型は浜風のように胸が大きい艦娘もいれば、小さい艦娘もいる。

「さあ、座って座って。しゃべってばっかりだったらつまらないでしょ」

 髪をツインテールにした艦娘が椅子を持ってきてくれる。レーベはありがとうと言って座った。

 目の前には様々な料理が皿に盛りつけられている。ビュッフェ形式なのであらかじめ用意されていたものではない。

「間宮さんの料理は絶品なんだよ」

 きっと彼女たちが用意してくれたのだろう。優しい艦娘達だ。

 

 提督とグラーゼン少佐は日本酒の入ったグラスをもらい、レーベ達の方を見ていた。

「うまくやれてるみたいですね」

「そうですね」

 提督とグラーゼン少佐は英語で会話していた。双方が英語をしゃべれるので拙い日本語と日本訛りたっぷりのドイツ語で話すよりか、ずっと話しやすい。

「ドイツからはるばる、ご苦労様です。持ってこられた工作機械や装備、技術等は有効に使わせてもらいます」

 ドイツ日本派遣団はただ人員が来ただけではない。ドイツ日本派遣団が乗ってきた輸送船の船倉にはドイツ製の高精度工作機械、大砲や誘導弾などのヨーロッパの最新兵器とその技術、ドイツで運用されている艦娘用装備が積まれていた。実際、ドイツ日本派遣団を受け入れた日本の目的はこれらにある。

「こちらも艦娘の運用ノウハウ、たくさん学ばせていただきますよ」

 ドイツ側は水上艦娘の運用ノウハウ、装備開発技術の習得が目的だ。レーベが挨拶で言った様に、西太平洋地域を深海棲艦から次々と奪取している日本海軍は世界的に艦娘先進国のトップを行っているのである。

「ヨーロッパ、大西洋の情勢はどうなっているんです?」

「良くはないです。ロシアが西進をちらつかせていますから、海軍に予算が回っていません。まともなのはイギリスくらいのものです」

 ヨーロッパ大陸地域は深海棲艦が登場してもイギリス以外の国家は海軍力、漁業以外でそこまでの損害はなかったと言える。日本のように資源輸入を海外に任せているわけではないからだ。

 ただ問題だったのが、ミリタリーバランスの崩壊だ。大国の発言力、とくに米国の影響力が薄くなったため、陸で接している軍事大国であるロシアが発言力を増した。そのため、大陸側は海軍力の回復に力を入れることができていない。

「それと、こちらでも戦艦棲鬼などの鬼クラスが確認されました。姫クラスは確認されていませんが、時間の問題でしょう」

「そちらの方はかなり危ない状況ですね。陸でも海でも」

「ええ、政治家に任しましょう。政治のことは。私たちはただ、闘うだけです」

「ともかく、今日は楽しみましょう。そのためのパーティーです」

 2人はグラスをあおった。


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