空向剣伝説外伝: RTA Any%怪異譚~勇者は十五回(くらい)4ぬ 作:nocomimi
気が付くと、リンクはスカイロフトに降り立っていた。
だが、ここは本来のスカイロフトではない。平行世界のスカイロフトなのだ。*1
周囲には霞がかかり、住民の姿は見当たらない。
リンクは何を思ったか、近くの木に体当たりした。すると運よくルピーが落ちてきた。
だが彼はそれには目もくれず、すぐさま神殿に向かって走り出した。
それも、瞬発力の限界に近いダッシュだ。
ハァッ!フンッ!といちいち掛け声をかけながら、神殿への階段を登っていく。
ところが、中途にあった鳥の彫像の前で祈りを捧げると、*2
彼はやおら踵を返して階段をかけ下り、発着口から飛び降りてロフトバードを呼び出した。
そうして大空に飛び立ったリンクは、眼下の雲海に開いた穴を目指した。再びフィローネ地方に向かうのだ。
そして雲海の上で彼はロフトバードを飛び降りた。
ところが、声がどこからか聞こえてくる。
「心配だから、あなたのロフトバードの様子を見ておきましょう!」
なんと、それはゼルダの声だった。
世話焼きのあまり、平行世界で姿は見えないのにも関わらず、リンクのことを心配しているらしい。
「ちゃんと飛べそう?」
飛び降りたリンクは既に雲海の穴に到達しつつある。それなのに聞こえてくるとは、いやはや物凄い声量だ。
だが、リンクは返事もせずに、雲海を通り抜けて地上に向かった。
どうやら、美少女ゼルダの想いはリンクには通じていないようだ。
* * * * * * * * * * * * * * *
地上に降り立ったリンクは、さっそく走り始めた。ここは、『封印の神殿』というちょっと不気味な建物に通じている道だ。
「マスター....あの.....申し上げにくいのですが」
女神像の中で剣を見つけたときに会った、不思議な少女の姿をした精霊・ファイが話しかけてきた。
「なんだい、ファイ。忙しいから手短かに頼むよ」
「マスター、あなたはなぜ地上に降りているのですか?本来なら勇者であるあなたは危機に陥ったヒロインを救うため地上に降りるはずです。ですが、ゼルダ様はまだ雲の上におられ、あなたのロフトバードが飛べるかどうかを心配しておられます」
ファイは言った。だがリンクは意に介さない。
「大丈夫だよ。そのうちゼルダは誘拐されるから」
走りながらそう言ったあと、リンクは思い出すように付け加えた。
「.......いや、このRTAでは誘拐されないんだっけ?ま、どっちでもいいや」
リンクの異常な言動にファイは驚きあやしんだ。
「マスター、神に選ばれた勇者の務めはゼルダ様をお守りすることです。その任務をお忘れですか?」
ファイは心配そうに続けた。
「ともあれ......マスター。ここは古より『封印の地』として知られてきた場所です。危険な魔物がいることで知られています。特にこの近辺には食人植物・デクババが生えています。お気をつけてお進みください」
ところがである。
この平行世界では不思議なことにそれが見当たらなかった。リンクは何にも妨げられず進んでいく。
そしてリンクは途中で立ち止まり右手の崖を見た。崖の上には脇に入る道がある。
だが本来なら、向こう側から進入して崖の上の丸太を落とし、それを足掛かりにしなければ、こちらから脇道に入ることはできない。
ところが、不思議な事にリンクが念じるだけで次の瞬間にその丸太はこちら側に落ちていた。
リンクは早速丸太を足掛かりにして崖を登り、脇道に入った。
そう、リンクは魔法を使えるのである。いや、魔法というより、彼は『この世界の理』を操作する術を心得ている、と言ったほうが正確かも知れない。
やがて彼は脇道の先にある洞窟を抜け、フィローネの森に分け入っていった。
* * * * * * * * * *
リンクは小道を疾走する。
「マスター、フィローネの森に到着しました。大樹を中心に、豊かな水が草木を育んでいます。その恵みを求めて様々な生物が集っているようです」
ファイが言う。天気は快晴で、どこからか小鳥たちのさえずりが聞こえる中、
リンクは障害物を乗り越え、ロープにぶら下がって間隙を飛び越え、剣で邪魔な木を斬り倒してひたすら前進した。
「フィローネ地方には『キュイ族』という亜人たちも住んでいます」
再びファイが言った。
ファイは知っていた。勇者の本来の務めのひとつは、この亜人たちを魔物の手から救うことであったのだ。
ところが、この平行世界のフィローネには、そもそもキュイ族そのものが住んでいなかった。
そんなわけで、リンクは勇者に特有のお助けイベントに遭遇することもなく進んでいったのである。
リンクはある場所で鳥の彫像を見つけ、その前で祈りを捧げたあと、*2
再び前進した。
ところがである。リンクは地面から顔を出していたタコのような奇妙な生物に近づいた。オクタロックという魔物である。彼がフィローネに降りて初めて遭遇する魔物だ。
リンクは何を思ったか、その魔物の前で無防備に立ち尽くした。
すると、オクタロックは口から岩を吐き飛ばしてきた。
「ウッ.......」
岩が命中し、リンクはダメージを喰らい呻き声を上げる。
だが、それでもリンクはその場から動こうとしない。
再び岩が飛んできた、
「ウッ.......」
リンクはまた呻き声を上げる。だが魅入られたように彼はその場に立ち続けた。
そして最後の一撃を喰らい、とうとうリンクは倒れ伏した。
彼はそんなにこの生物を観察することに情熱を注いでいたのだろうか?
それとも彼は冒険を放棄したのだろうか?
だが、薄れゆく意識の中、彼は密かに唱えていたのだ。
今度は「リセット」ではなく「コンティニュー」と。
* * * * * * * * * * * * * * *
彼は、先ほど祈りを捧げた鳥の像の前で意識を取り戻した。
目の前にはフィローネの風景が広がっている。
だが、驚くことにそのフィローネは、やはり『平行世界のフィローネ』であった。
再び疾走を始めたリンクであったが、彼は一匹のボコブリンに出会うこともない。
実は、騎士学校のアウール先生などは、リンクが冒険に出ると聞いて、彼が出会う危険を慮り木の盾を授けようとわざわざ用意してくださっていたのであるが、それは余計な気遣いだったようだ。*3
そうこうしているうち、リンクは高見台に出た。
高見台の裏手には崖があった。
本来ならば、その上方にある木の枝に生えている蔓をパチンコで撃ち落とさないと、その崖を登ることはできない。
そして、それを行うためのパチンコを入手するには、ボコブリンに襲われていたキュイ族を救い、彼ら全員の無事を確かめてキュイ族長老に報告するといったミッションをこなさなければならなかった。
ところが、リンクが念ずるとその蔓は手で触れずとも垂れ落ちてきた。
これもまたリンクの術なのだろうか。
それにしても、存在そのものを無視されてしまったボコブリンもキュイ族も浮かばれないというものである。
そうして彼は崖の先にあった洞窟を抜け、『森の奥』と呼ばれる地域に入った。
* * * * * * * * * * * * * *
だが、彼が洞窟を抜けると、不思議な事が起きた、
なんと、次の瞬間に彼は『天望の神殿』の建物の前に立っていた。
しかも、神殿の扉は彼を歓迎する自動ドアのように勝手に開いていく。
本来なら、上述の手順で苦労して手に入れたパチンコで扉の上のクリスタルスイッチを狙い撃たなければならないのに、このリンクという若者は並外れた強運の持ち主のようだ。
そうして、彼は神殿に入っていった。
彼にとっては最初のダンジョン。
多くの危険が待っているだろうと思われた。
ところが、さらに驚くべきはここからだったのである。
(次回に続く)
*1 別の世界では「バックインタイム時のスカイロフト」ともいう。
*2 敬虔だからではない。後々の過程のため必要だからだ。また、ある世界では「セーブ」ともいう。
*3 そもそも行方不明になった生徒を捜索するのに先生が行かずに生徒を送り出すのもどうかと思うが。