空向剣伝説外伝: RTA Any%怪異譚~勇者は十五回(くらい)4ぬ 作:nocomimi
こうしてリンクは『天望の神殿』の扉を開け、中に入っていった。
彼にとっては最初のダンジョン。
多くの危険が待っているだろうと思われた。
重々しい扉を通り抜け、中に入る。
だが、気が付くと、リンクは空中から降り立っていた。*1
どこにって?
天望の神殿の、至聖所の手前にある深部の部屋に、である。
本来なら、入り口から伸びる廊下で蜘蛛の巣を払い、クリスタルスイッチで扉を開け、次の扉の前で剣の先をグルグル回し、さらに大蜘蛛を倒し、水路を水で満たし.....
とにかく途方もない手順をこなさないと到達できない場所なのに、彼はいきなりそこに『降り立った』のである。
「マスター....あの.....お気づきでしょうか?」
ファイが言った。
「マスター、今あなたは本来いられるはずのない場所におられます。そのため、ダンジョンそのものが苦しみの声を上げています」
彼女は部屋の中を指し示した。
「御覧ください。本来ダンジョンの中にいるはずの魔物が、見当たりません。明らかに何か異常です」
「ああ、大丈夫。すぐ直すから」
リンクは心得た顔で答えると、奥の戸口を抜け、右手に曲がり、間隙を飛び越え、その突き当りの部屋に入った。
すると背後の扉が格子で塞がれる。部屋の中にはスタルヘッドと呼ばれる三つ頭の大蛇がいた。
だが、リンクは一瞬でその頭をまとめて斬り落とすと、格子の開いた扉から出ていった。
すると廊下にはボコブリンが出現した。リンクを見とがめると鉈を振り回しながら襲ってきた。
「ほら、直っただろ?」
リンクはボコブリンを回避しながら言った。だがファイは首を振った。
「マスター....ファイには....理解不能です。一体何が起こっているのですか?」
「ま、とにかく大丈夫。君もそのうち慣れるよ」
「な...慣れろと仰いましても。ダンジョンの中にいきなり出現するなど、精霊でもない限り不可能です。マスターは人間の少年ではなかったのですか?」
「ま、細かいことはいいじゃないか」
リンクは剣を天に向けて掲げると、廊下の途中にあった間隙の上からぶら下がっていた大蜘蛛に向かって振り下ろした。
光の筋が大蜘蛛に向かって放たれた。衝撃で大蜘蛛が左右に揺れている隙に、リンクは間隙を飛び越えた。
次にリンクは、至聖所の前にあった奈落を綱渡りで渡ると、段差を登り、蔦にぶら下がって崖を渡って箱から鍵を手に入れた。
いよいよ、神殿の最奥部だ。
いったいこの勇者は何を求めてそこに入っていくのか。
学園のマドンナ・ゼルダは何の危険にも遭っていない。
そもそも、世界を襲うはずの危機はまだ起こっていない。
それを示すように、道端ではほとんど魔物にも出会わなかった。
そして、何よりもリンクは普段着に剣一丁の軽装なのだ。
ある意味、何もかもが奇妙だった。
* * * * * * * * * * * * *
鍵のかかった重々しい扉を解錠して至聖所の中に入ると、そこは薄暗い円形の部屋だった。
すると、そこに人影がある。彼はこちらを振り向くと言った。
「ん?君はあの時の.....。私の竜巻に弾かれながら無事なうえ、こんなところまで来るとはね」
気障な髪形、体にピッタリとフィットした〇レディー・〇ーキュリーみたいな服装。そう、彼は誰あろう『魔族長』を名乗るギラヒム閣下であった。
だが、ギラヒムは知らなかった。
この少年は、彼が起こした『竜巻』イベントのある世界線をスッ飛ばしてここにやってきたということを。
このリンクはただの勇者ではない、ということを。
「クックックックッ...........僕のことは気さくに『ギラヒム様』と呼んでくれて構わないよ」
彼は鷹揚な語調で続けた。
だが、そんなギラヒム様に、リンクは剣を抜いて問答無用で襲い掛かった。
しかも相手は素手であるのに、まったく躊躇いというものがない。
まるで獲物を狙うハイエナのようだった。
バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!
回転斬りと突きのコンボが次々と炸裂。
余裕をぶっこいていたギラヒム様は、何発も喰らってよろめいた。
やがて彼は気付いた。
―こ.........この少年は.....本気でボクを56しに来てる。目が据わってるし、動きに一切の迷いがない―
危機感を感じた彼は魔法で剣を取り出すと、構えた。
リンクは遠慮会釈なしに押し迫る。だがギラヒムは身軽に後ろに飛び退き、指を鳴らすと、空中に浮く不思議な短剣を出現させた。さすが『魔族長』の肩書は伊達ではない。
ところがリンクは先を読んでいたかのように、それを一刀のもと斬り捨てた。
―なに?ボクの魔法を一撃で破った....!何者だコイツは?―
ギラヒムの心に焦りが浮かんだ。
だが、それでも彼の中には『子供だから最初は手加減してやろう』という情け心があったのかも知れない。悠然と構えていると、リンクはズンズン進んできてしゃにむに斬りつけてくる。
バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!
どれほど後ろに飛び退いても、すぐに距離を詰めてくる。
ギラヒムがどう構えようが、隙のある角度を見つけ出して斬る。
そうこうしているうち、攻撃が次々とヒットし、ギラヒム様はたじろいだ。
―クソっ。子供だからって手加減してやればいい気になりやがって。だったらこっちも本気を.............―
そう思ってギラヒムは突進攻撃で反撃しようと腰を落とした。
ところが、発動する前にリンクは怒涛の勢いで駆け寄ってきてザクザク斬りまくった。
バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!
―や.....やばい.....このままじゃ56される.............―
脳裏に4の恐怖が浮かぶ。
とうとうギラヒム様は言った。
「ムン....少しはやるようだね。だけど覚えておくといい。それは君の実力じゃない。剣のお陰だよ」
まったく、ボコられても強がる不良のようである。
「ん?遊びが過ぎたかな、少女の気配が消えている......だとすればここには用はない。さようなら少年。二度とボクの邪魔をするんじゃないぞ」
こうしてギラヒム様は姿を消した。
だが、内心彼は顔面蒼白になっていた。
.......どうしよう。
この神殿は、何か所も扉がロックされていて、
鎖と錠前で封じられている場所もあり、
ボコブリンと大蜘蛛も解き放たれているし、
なんならスタルフォスという骸骨戦士だっていたはずだ。*2
それなのに、全てをスキップしてあいつは最奥部にやってきた。
そして、このボクと対面したとき、あいつの顔には、
初めての戦いを前にする少年が浮かべるべき『恐怖』も、
武者震いに伴う『高揚』も、
愛する人を救うんだという悲壮な『想い』も、
何も浮かんでいなかった。
彼の顔に浮かんでいたのは、ただ一つ。
「最短の時間で、狩る」
この固い決意のみ。
そして、この決意の前には、ボクの剣の技も、
魔法も、体術も、何ひとつ通用しなかった。
ヤバい奴がきちゃった。
どうしよう。
(次回に続く)
*1 なんでも、スカイロフトで祈りを捧げたときの座標がダンジョンに入るときの座標と対応しているらしい。詳しくは..............分かりません....
*2 彼はアイテムを隠した部屋に潜み、ひたすら勇者が迷い込んでくるのを待っていたが、結局登場することさえも許されなかった最も可哀そうなキャラの一人である。