悪役令嬢「わたくしの名前をおっしゃってくださいますか?」   作:偽馬鹿

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私はこのSSをどこに向かって進めているのだろうか……?


悪役令嬢「拳法だけが全てではありませんわー!!」

さて。

ジャギとしての強さを高めているポラリス嬢だが、本編の攻略にも余念がない。

実のところ悪役令嬢のビジュアルに一目惚れしたポラリスの前世は、これが乙女ゲーだと気付かぬままプレイしていた。

『ナナツボシの愛』の名の通り、ヒロインであるアリューは7人の男と結ばれる7つのルートがある。

更に彼ら全員と一緒に愛を育むハーレムルートもあるにはあるらしい。

その内容まではポラリスも把握はしていないが、修羅の道だという話は聞いていた。

 

しかし元男であったポラリスは信じていた。

アリューとポラリスとの百合ルートがあると。

まあなかったのだが。

 

 

 

というわけで、彼女へと変貌しているポラリスは、いざアリューとのルートを完遂しようとしていた。

攻略されるのが自分だということは思い切り忘れているが。

どうやら彼女の頭の中は自分が主導権を握っていると思い込んでいるようだった。

 

そうして彼女が意気揚々と街を練り歩いていると、目の前では子供が棒で叩かれていた。

よくある話である。

何故ならこの国は貧富の差が激しい。

今の王になってからはその差を埋めようと努力しているようだが、その努力は未だに実っていない。

 

 

 

ポラリス嬢は暴力が好きだ。

強さの象徴、あまりにも分かりやすい上位存在としての格。

それらを一瞬で理解させることができる。

力があるということはいいことなのだ。

力があれば余裕が生まれ、弱者に優しくなれる。

 

そう、彼女は力を持つ者は優しくあるべきだというポリシーを持っている。

そしてそのポリシーは、必ず自身を助けるものになると確信しているのだ。

 

「そこをお退きなさい」

「はっ!? ポ、ポラリス様!?」

 

ザッと周囲の人間が道を開ける。

その先には棒を振り上げた状態で固まる商店の主と、叩かれていた子供がいる。

 

「その子は何をしましたか?」

「み、店の商品を盗もうとしました!」

 

ガチガチに固まる店主。

それはそうだ。

彼の店は彼女の一存で消し飛ぶ程度でしかないのだ。

機嫌を損なえば即首をくくらなければならない。

 

「今すぐどかしますので少々お待ちください!」

 

そうしてその子供の髪の毛を引っ張り路地裏へと放り出そうとする店主。

しかし、それを手で制するポラリス嬢。

 

「何を勘違いしていますの?」

「は……?」

 

さっと子供の顔に手をやる。

目の色が赤、そして漆黒の髪。

当たりだ。

 

「この子供は私が頂きます!」

 

どばあ!

ポラリス嬢は子供の頬に添えた手から不思議な水を放出して、子供を一瞬で洗浄した。

勿論噴出した水が他の誰かにかかるような不手際はない。

 

「手間賃です」

 

ポラリス嬢は金貨を1枚店主に投げる。

これだけで銅貨10000枚分になる。

ちなみに硬いパンが1つ銅貨50枚程度だ。

 

頭を下げる店主から視線を外し、綺麗になった子供を見下ろす。

赤い瞳に漆黒の髪、そして彼女には感じ取れる強力な闇の力。

それらを確認した彼女は、その子供を一瞬で立たせて問う。

 

「あなたの名前は?」

 

子供は少し躊躇い、しかししっかりと言う。

 

水鏡(みかがみ) (つばさ) です」

 

その名を聞き、ポラリス嬢の口元に笑みが浮かぶ。

そう、この時を待っていたのだ。

転生者として転がり込んでくるであろう、手足になりえる存在を見つけるこの瞬間を。

 

「それでは来なさい。あなたは私の物です」

 

そのセリフに、周囲の人間がざわつく。

今の今まで薄汚れた姿をしていた子供を、貴族の娘が拾う。

それは大事件になりうるのだ。

 

しかし、その様子を察したポラリス嬢は言う。

 

「たかだか子供の1人や2人拾い上げた程度で騒ぐ必要などありません。

この子供の命1つで色褪せるほど、私は安くありませんので」

 

それだけ言って、ポラリス嬢は歩き始める。

その後ろを翼が駆け足で追いかける。

残されたのは頭を下げたままの店主と、一瞬で黙らされた野次馬だけだった。

 

 

 

「私はあなたを拾いました。

身体も命も拾い上げて差し上げました」

 

歩きながらポラリス嬢は言う。

 

「全て捧げろとは言いません。

抱いた気持ちが満たされるまで、私に仕えなさい」

 

そうしてポラリス嬢は振り返ることなく歩き続けた。

そして、その後ろに続く足音が止まることはなかった。

 

 

 

 

 

水鏡翼は転生者であった。

とはいえこの世界の知識はなく、ただ現代人の知識を持っているだけの異世界人に近い。

しかし彼女……そう、水鏡翼は少女であった。

そんな彼女は救われた今でもずっと考えていた。

 

「なんでジャギ……」

 

そう、彼女もジャギに関しての知識はあった。

それ故に彼女も疑問であった。

よりにもよってジャギ。

シンやサウザー、そしてラオウユダがいる中で、何故ジャギなのか。

 

「それはねー。

あの人、悪役は救われないくらい邪悪であるべきって考えてるからだよ」

「っ!?」

 

そして翼の小さな呟きは、背後にいた誰かに拾われたのだった。

振りむいた先には神秘的な気配を纏った少年の姿があった。

 

「僕の名前はアウダーラ。

通りすがりのアウダーラだよ」

 

ケラケラと笑う少年。

きらきらと光る緋色の瞳に、深海を思わせるような深い青色の短髪。

そして顔にはうっすらと化粧をしていた。

 

「ふふ、気になるかい?

でもまだ教えてあげないよ」

 

そう言ってアウダーラと名乗る少年は立ち去ろうとする。

まさかあの台詞を言うためだけに現れたのだろうか。

そう翼が思ったところでアウダーラが振り返る。

 

「あの人は悪役であることに執心している。

別にそんなことをする必要ないのにね」

 

風が吹く。

目を閉じてしまうほど強い風だった。

その風が通り過ぎて目を開くと、既にアウダーラの姿はなかった。

 

「結局何も分からなかった……」

 

 

 

「見習い!」

「はい!」

 

翼は拾われてからメイドとして働いていた。

と言ってもまだ見習い扱いであり、雑用をたくさんこなしているだけで朝から夕方までが過ぎ去ってしまう。

 

「ではお嬢様のためにしっかりと励むように」

「はい!」

 

本来であれば夜まで働くところなのだが、彼女は特例で勉強をすることを許されていた。

その理由は簡単で、彼女には魔法の才能があったからである。

 

魔法を使うことのできる従者を傍に置けば安全性が高まる。

ポラリス嬢の戦闘能力が謎の拳法の達人級であることから不要だと言う人間もいたが、それはそれとして護衛は必要だとメイド長が叩き伏せた。

そしてそんな護衛として近くに従えるのであれば、同年代かそれ以下の年齢のメイドが相応しい。

そうメイド長が説き伏せたのだった。

 

ちなみにメイド長はそれなりの高齢だが、未だに背筋もピンとしており仕事も完璧にこなしている。

名前は誰も知らない。

あと眼鏡の下の素顔も知らない。

 

それはともかく。

翼は色々な知識を得た。

 

ポラリス嬢の扱う謎の拳法はなんか凄いこと。

魔法を使って強化しているところもあればそうでないところもあること。

ついでになんかよくわからない魔法が作用しているらしいこと。

あとなんか凄いこと。

 

「……」

 

険しい顔になる。

いや凄いことしかわからないのだからこんな顔にもなる。

 

触るだけで人間を気絶させる拳法。

しかも魔法は使っていない。

軽く突くだけで人間が弾け飛ぶように宙を舞う拳法。

しかも魔法は使っていない。

いきなり周囲に燃える水を放ち爆炎を放つ。

しかも魔法は使っていない。

 

「………」

 

険しい顔になる。

魔法使ってないじゃん。

なんで使ってないのにそんなことができるのか。

誰も知らない奇妙な謎であった。

 

それでありながら、ポラリス嬢の魔法は一流だった。

彼女を救った時に身体を清めた水魔法。

あれだけの速度で精密に放つことは大変難しいのだと学んだ。

 

土属性における鉱物の扱いも凄い。

周囲の土が一瞬で鉄へと変化し、ターゲットを貫くのだ。

実際に使ったためしはないが。

 

雷属性における雷電への理解も高い。

規模は静電気に等しいそれも、一瞬で電圧電流を高めて雷に等しくすることもできる。

実際に使ったためしはないが。

 

火属性の練度も非常に高い。

熱量操作においては火炎だけではなく熱風による気圧のコントロールまでも行えるという。

実際に使ったためしはないが。

 

風属性にも理解がある。

火属性と併用することがあるらしいが、真空や高気圧などを利用して動きを制圧するとか。

実際に使ったためしはないが。

 

闇属性はとても特殊な属性で、そもそもどんなことができるのかよくわかっていない。

しかしポラリス嬢はその属性を用いて強力な精神操作を行うことができるという噂だ。

実際に使ったためしはないが。

 

「……………」

 

険しい顔になる。

結局何もわからなかったからだ。

 

しかしそれでも。

翼は彼女のために奮闘する。

命を救われたから、というだけではない。

あの時の佇まい、そして纏う風格。

それら全てが翼を魅了したのである。

簡単に言えば憧れになったのであった。

 

 

 

そうして彼女は今宵も勉強に励む。

その様子を少し離れたところからポラリス嬢が見ていたようだが、翼は気付かなかったようである。

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