ディゴリー家の娘
今朝の目覚めは良くはない。
アリス・ディゴリーは眠りから覚めた途端、ベッドの中で微睡みながら思う。昨晩眺めながら寝てしまったからだろう。枕元の新品の教科書は既に折り目がついてしまっている。のそのそ起き上がり、寝違えて痛む首に眉を顰めてぐるりとまわす。
「あぁ……朝か」
眺めてただけで全く頭に入っていない教科書をトランクの上に放り投げ、寝間着からブラウスとスカートに着替える。ドレッサーの鏡を覗き込むと、長い黒髪が寝癖で酷い有様になっているアリスの姿が映っていた。それを手櫛で適当に整えながら部屋を出る。
煙水晶をはめ込んだような瞳はまだ夢を見ているように蕩けていた。
「アリス! 朝よ、早く起きてらっしゃい」
「もう起きてるママ」
「珍しいこともあるものね」
母のシェリル・ディゴリーは娘の早起きに目を丸くさせるが、父、エイモス・ディゴリーは日刊預言者新聞から顔を上げて笑いかけた。
「アリスもいよいよホグワーツ生だ。楽しみで早起きしたんだろう」
「ホグワーツでの楽しい毎日が早起きに活きてくるといいんだけど……でもママのベーコンポテトパイが暫く食べられなくなるのは残念」
「ふくろう便で届けてあげるわ。……あぁアリスあなた、何その髪は……女の子なんだから少しは身だしなみに気をつけろとあれ程言ってるでしょう」
アリスは母の小言が聞こえないようわざと大きく咀嚼音をたてて食事をする。
「おにいちゃんは?」
「口に物入れて喋らないの! お兄ちゃんはオッタリー・セント・キャッチポール周辺を箒で飛んでるわ」
きっとクィディッチの練習だろう。もう今日から学校が始まるっていうのに。早朝から自主練習に励むなんて信じられないと独りごちていると、丁度兄のセドリックが爽やかな汗をかいて帰ってきた。
「アリスおはよう」
「おはようお兄ちゃん。よく朝から箒に乗ろうなんて思うね」
セドリックはアリスの言葉に眉を下げて笑う。
「身体が訛ってないか不安で……」
「そう言って昨日も飛んでた」
「我が息子は本当に努力を惜しまない! 妹に優勝杯を見せてあげるために、より練習に力が入るってもんだろう!」
「そうだね父さん」
冷たい水を飲み干すセドリックにエイモスは上機嫌に鼓舞する。それを眺めていたアリスは母が支度を急かすのでようやく食卓から腰をあげた。
キングスクロス駅に着いたディゴリー一家は9と3/4番線の壁前にアリスを立たせた。荷物をたくさん積んだカート──シェリルとセドリックがアリスの忘れ物に何回か気づいてくれた──を押していると、いよいよだと実感が湧いてきた。昨年も一昨年もこのカートを押す兄を見てきたからだ。今年からは後をついていくだけではないのだ。
「怪我なんかしないさ。目を瞑ってもいいよアリス」
セドリックの言葉にアリスは眉を顰めた。大変遺憾だったからだ。
「怖くない。私だってこの壁を通るのは三回目だし」
「さすが私の娘だ!」
アリスの頭をエイモスはわしゃわしゃと撫でる。少しばかりこの父親は子煩悩な面がある。乱れた髪が視界に被り、それをぶるぶると頭を揺らして払いのけた。そして強くカートを握り、走り出す。
「エイモス、せっかく結ったアリスの髪が崩れたわ」
「いやすまんな何てったってうちの子は本当に……」
後ろの両親の声が徐々に遠ざかり、なんの衝撃もなくカートとアリスは壁を通り抜ける。そうすると目の前に多くの子供と魔法使いで溢れかえるホームが飛び込んできた。
「アリス、大丈夫?」
続いて壁を抜けてきたセドリックが、ぼうとしているアリスを見つけ顔を覗き込んだ。
「うん……でも少しドキドキしてきちゃった……」
興奮のためか頬を少し火照らすアリスにセドリックは微笑む。
「コンパートメントは混む。もう乗ったほうが良さそうだよ」
「あぁ、いた二人とも。早く乗ったほうがいい。じきに出発するらしい」
「ほら、エイモス。アリスの髪、やっぱり乱れてる。セド、あとでアリスの髪を結直しといてちょうだい」
「わかった」
両親は汽車に乗り込む前の兄妹に、片方には激励ともう片方には注意事項を送り、両方にハグをした。
「セド、しっかりやるんだぞ」
「アリス、冬は暖かくね!寝坊しないように夜更かしせず、起きたらまず朝日を浴びるのを習慣づけなさいね」
あんまりそれが長いもんだから汽車が出発しそうになり慌てて飛び乗った。汽車は動き出すと、ホームと両親の姿がどんどん小さくなっていく。もう見えないだろうがアリスは窓から半身を出し、手を振った。
さっきまでうるさく感じていたが途端に寂しくなった。
「ここが空いてそうだ。アリス、荷物をちょうだい」
セドリックに鞄を預けたアリスはコンパートメントの座席に腰かけた。車窓は自然豊かなイギリスを映している。今日から家を出てホグワーツで魔法を学ぶなんてやはり実感がない。
窓の外を眺めていると、隣に座ったセドリックがアリスの髪を結ってあった黄色のリボンをほどく。
「別に結び直さなくていいけど」
「きれいに結び直したほうがもっと可愛くなるよ」
セドリックの指がアリスの首周りの髪を掬い集める。アリスは髪をいじるのに興味が湧かない。この長い髪も邪魔なので切ってしまいたい。母親の監視がないホグワーツはイメージチェンジに最適だと企んでいる。
「できたよ」
「もっとキツくしばった方がいいのに」
「痛いかと思ったんだ」
困った笑みをみせるセドリックにアリスは唇を尖らせ、結んでもらったポニーテールをギュッと引っ張った。セドリックと暫く話していると、コンパートメントがガラリと開き、上級生らしき人達が顔を覗かせる。
「セド! ここにいたのか。探したぞ」
「こっちに来いよ。あっアリスだ」
顔を覗き込んだ上級生にアリスも見覚えがあった。昨年の夏休みに家に遊びに来ていたセドリックの同級生だ。
「ハァイ、えー、アダム」
「覚えてくれてて嬉しいよ」
アダムは淡いブラウンの髪を撫で付け、はにかんだ。たった2個上なのに凄く大人に見える。
「やぁアダム。夏、箒で森に行った以来だね。どう? 調子は?」
「上々さ。セド、お前の日焼けっぷりを見るに随分励んでるらしいな。今年の試合が楽しみだ」
華奢な洒落た眼鏡を押し上げて茶化すアダムに、セドリックは肩を竦めて笑った。クィディッチのチームメイトのため家に遊びに来てた時も二人はそればかり話していて、アリスは彼らの話題に何となく相槌を打って過ごした日々を思い出した。
「もしかしてセドリックの妹?」
「うん」
「やっぱりそうだと思った! 可愛い顔してるもの!」
アダムの後ろから顔を覗き込んできた女子生徒達にアリスは胸を逸らせた。
「よく君の話はセドから聞いてるのよ……確かに似てるのねぇ」
「そう、僕の妹だ。今年から1年生なんだ」
アリスに歳の近い友人はいなかった。アダムのようにセドが時々連れてくる年の離れた男友達くらいしか知らない。ウィーズリー家などご近所さんはいるが深い交流は無かったため、こうして上級生ではあるが女の子が話しかけてくれてドキマギした。
「ジルよ。ハッフルパフに縁があったら嬉しいわ」
「ジル、ありがとう」
ジルは褐色の肌とカーリーな髪型が魅力的だ。優しく声をかけてもらえて嬉しく、食い入るように彼女を眺めた。
「セドは本当によくあなたについて話してるわ。瞳がよく似てるって。本当にそうね」
「どれだ? 君がセドリックの妹?」
「へぇ、賢そうな顔だ」
セドリックがいるとワッと生徒が集まってきたのでアリスは目を白黒させた。皆この休暇中会えなかったセドリックと話をしたいらしくてコンパートメントは随分賑やかだ。そしてセドリックの向かいに座るアリスを見つけると彼らは興味深そうに頭の先からつま先まで観察して思い思い声をかけた。
「あー……皆ごめん妹が驚いてる」
セドリックは慌てて同級生たちをコンパートメントから追い出す。
「もう少しお話させてくれてもいいじゃない!」
「妹思いなんだなお兄さんは……」
「ごめんアリス、ちょっと席外すね!」
ピシャン!と音をたて扉は締まり、コンパートメント内は急に静寂に包まれる。
「……お兄ちゃんってやっぱり皆からすごく慕われてるんだな」
静かになった車内で暇になったアリスは鞄からスケッチブックを取り出す。アリスは飽き性だが、絵を描くことだけは続けられていた。
車窓の景色を絵にしようと鉛筆を慣れた手付きで動かしていく。昔から絵を描くことが好きで得意だったアリスは、画家だった祖母に似たのではないかと父親から聞いたことがある。
スケッチブックを遠ざけて俯瞰していると突如コンパートメントの扉が開く。セドリックかと思い視線だけそちらに意識を向けた。
そこにいたのは黒髪で灰色の瞳の背の高い兄ではなく、淡い金髪に淡い水色の瞳、アリスと同じくらいの華奢な体格の男の子だ。
「うるさいから何だと思って来てみたら……」
ツンと尖った顎を上げコンパートメント内を見渡す。
「君ひとりか?」
「うん」
スケッチブックから顔を上げ、水晶のような瞳を瞬かせて男の子を見つめる。彼はアリスの顔をしげしげと観察すると少し機嫌が良くなったようだ。
「ごめん、さっきまでうるさかったと思う……」
「次から気を付けるんだな」
男の子はアリスの前に座りこんだ。
「僕はドラコ・マルフォイ」
「アリス・ディゴリーだよ」
「ディゴリー家ね。まぁ、役不足だけど話し相手にはなるか」
失礼な物言いにアリスは思わず目を丸くさせるが流す。ドラコは途端に調子良く自分の家について喋り始めたが、彼の思想や指標はアリスにとってえらく難しく、そして息をつく間もなく並べ立てるので理解が追いつかなかった。途中途中、発言内容にまずいんじゃないのと感じる節もあったが、一生懸命話しているのに横やりするのもよくないと思い、そのよく動く口をアリスも真剣に眺めていた。
「ディゴリーはどこの寮に行きたいんだ? 僕はスリザリン以外ありえないだろうけどね」
「まだよくわからない。でも両親も兄もハッフルパフなの」
ハッフルパフか、だろうな。とマルフォイは鼻で笑う。
「グリフィンドールだけは死んでもごめんだ。ろくな奴がいないらしい。現に血を裏切ったウィーズリー家は代々あそこだ」
「随分意地悪な言い方するじゃない」
知ってる名前が出てきてアリスは目を丸くした。ウィーズリー家とは深い親交はないが、いい気持ちはしない。
「本当のことなんだ。現にウィーズリーの奴らのとこにハリー・ポッターがいた。何が生き残った男の子だ。友達を選ぶ能もない」
「わー……ハリー・ポッターがこの列車内に本当にいるの」
「時期に分かるさ、大したことなんかないって」
「あ、トンネル!」
汽車の先頭の行く先にトンネルが見えた。トンネルに入って景色が変わる前に絵を完成させたいと思ったアリスは再度スケッチブックに集中する。
その勢いにたじろいだのか、絵が完成した頃にはいつの間にかマルフォイはいなくなっていた。
セドリックがコンパートメントに戻ると、アリスは組み分けの話をねだった。今年も変わらず組み分け帽子を被るらしい。試験とかがなくて安心した。一応昨夜教科書は眺めたが、眺めているだけなので知識は身についていない。
おやつを食べたり、やっぱり教科書に挑戦してみたりしていたら、いよいよ城へ近づいてきた。ローブへと着替えも済ませると汽車はゆっくりと減速し、完全に止まった。汽車を降りるとひんやりとした夜の空気がアリスの頬を撫でる。
「イッチ年生!イッチ年生はこっちだ!」
前の方から大きな太い声が聞こえる。大柄な男が一年生を集めている。
「一年生はボートでホグワーツまで行くんだ。またあとで会おう」
セドリックはアリスの頭を撫でると上級生の列へ行ってしまった。アリスは小さくなる兄の後ろ姿を眺める。
視線を感じたのか、パッとセドリックが振り向く。
「ごめん! 僕は着いて行けないんだ」
「いいよ別に!」
上級生の人混みに逆らってこちらに戻ってきそうだったので、アリスはくるりと兄に背中を向け一年生の列の方へと走る。周りの生徒がチラホラ見てくるので羞恥心がこみ上がる。
「私のことまだ世話がかかると思ってるんだ……」
ぶつくさ文句を口にしていると船着き場についた。キョロキョロ観察しながら一つのボートへ近づく。
「ねぇ……一緒にボート乗っていい?」
「もちろん! 1人ちょうど余ってるわ」
「早く乗りなよ」
既に乗船してた派手なカチューシャをした女の子と、ブロンドの男の子が好意的な返答をしてくれた。安堵してボートに乗ろうとした瞬間、足場の影響でぐらりとふらつき、バランスを崩す。
船に乗っている子たちの驚いている顔が見える……あぁどうしよう入学式前なのに湖に落ちちゃうなんて!乾燥魔法を先生にお願いできるの?
だかアリスは転ぶことも湖に落ちることなく無事安全にボートに着地した。腕を後ろの誰かから支えられていたらしい。振り向くと視界に派手な濃い金髪が映る。
威嚇するようなギラリとしたオリーブ色の三白眼がこちらを睨んでいる。とてつもなく人相の悪い男の子だ。
「あ、ありがとう……」
男の子は何も言わずただもう一度アリスを鋭く睨むと、さっさと違うボートに乗ってしまった。怒ってた……?わたし、声小さかったかも……
それを目の前で呆然と見ていた──ラベンダー・ブラウンとアーニー・マクラミンはボートに座り込んだアリスに顔を近づけ、小声で聞く。
「なんだあいつ……おっかない顔だ」
「彼と知り合いだったりする?」
「全然」
「そうよね。あなたみたいな真面目そうな美人、あんな──ちょっと──怖い人と知り合いだったらおかしい話よね」
「僕の予想だとあいつはスリザリンだね」
二人とも彼についてアリスを助けたという面よりも、顔や雰囲気の方について話が盛り上がっている。今度会ったらもう一度お礼を言おう。
話題の変わったラベンダー達の話に相槌を頷きつつ、ボートに揺られているといつの間にか一行は岸に着いていた。
ホグワーツ城は月に照らされて堂々とそびえ建っていた。一年生は皆歓喜の声をあげる。
「素敵! 今日からここでの生活が始まるのね!」
「お兄ちゃんの話の何倍もかっこいいお城!」
「アリスはお兄さんがいるんだ?」
城を見上げるアリスは笑みを浮かべた。月光が顔を照らす。
「ハッフルパフに2つ上の兄がいるの」
アーニーはアリスの顔を見て目を丸くさせた。暗いボートの上ではよく分からなかったが、アリスは綺麗な容姿をしていた。涼し気な目元や、他の女の子よりスッキリした頬と顎。立ち上がると男の子の自分よりもスラリと高い背丈など、同い年の1年生ではなく、年上の女の子に見える。
上の兄弟がいるから?おとなっぽい同級生にドキドキしながらアーニーはアリスを盗み見した。
「ボートからの眺めが最高だったね……また乗れるかなぁ」
「本当ね。お兄さんに聞いてみたらどうかしら」
階段踊り場前まで歩を進めると、厳格な面立ちの魔女が待ち構えていた。
「私は副校長のマグゴナガルといいます。皆さんにはこれから組みわけの儀式をしてもらいます。とても大切な儀式です。遅れないで着いておいでなさい」
マグゴナガルの後を慌てて一年生は着いていく。大広間の扉が開かれるとそこには夜空の天井と、宙に浮かぶ蝋燭に席にズラリとついた上級生達がいた。
「凄い、部屋の中なのに外にいるみたい」
「魔法で見せてるのよ。ホグワーツの歴史に書いてあったわ」
栗毛の女の子がハキハキとした口調で説明してくれる。仕組みや理論はアリスには見当もつかないが、歴史と知識を感じられる天井がとても魅力的だ。大広間の隅を陣取ってスケッチしたい。
校長のダンブルドアが前で話をしてたがアリスはよく聞いていなかった。
壁にガーゴイルがいる──今こっちをみた?気の所為じゃない……私たちが相応しいか値踏みしてるのかな……
前の長テーブルには教職員の皆さん──この人たちが先生……今から粗相のないように努めないとね……
後ろを振り向くと上級生──わぁ!目が合っちゃった!よろしくお願いします……
蝋燭の光で灯された同級生の顔──貴方たちが私の友達になるんだ……
視線をキョロキョロさせていると、ホグワーツの四つの組についての歌が始まった。帽子が歌をうたっている。
「ねぇあれが組み分けるのよね?どうしよう心の準備が……」
ラベンダーは忙しなく髪を撫で付け、カチューシャが歪んでないか尋ねた。
「ねぇ緊張しすぎだって。それに帽子被るからカチューシャ意味ないよ」
「だって“ブラウン”だから順番なんて直ぐよ!」
「あぁ私も“ディゴリー”……私まで緊張してきちゃった!」
組み分けが始まり、名前順に呼ばれていく。ラベンダーだけではなく、皆頬を火照らせて上がっているようだった。ラベンダーはグリフィンドールに分けられた。赤と金のネクタイに獅子がトレードマークだ。
それと先程のアリスを助けてくれた怖い顔の男の子、ライアン・ボードマンも組み分けが長引いたがグリフィンドールだった。彼は素面で緊張した素振りをしなかったので上級生のような風格だ。
アリスは漠然とハッフルパフに入ると予想している。一族代々ハッフルパフだからだ。
「ディゴリー・アリス!」
ぼんやりしていると名前を呼ばれ、慌てて前に出る。
上級生の席にはセドリックがいた。穏やかないつもの眼差しは 「大丈夫」 と汽車の中で何度もかけてくれた声を思い出す。帽子をかぶると少しくすぐったくて身をよじる。
「ほう、ディゴリー家の娘の方か」
「こんにちは……父も母も兄もハッフルパフだよ」
「如何にも。しかしふむ、随分夢想家で自由奔放な性格。君の好奇心はレイブンクローで遺憾無く発揮されるだろう…だがこの好奇心は勉学に向いてるわけではなさそうだ。共通してハッフルパフの堅実と忍耐は合わない。それに周囲と足並み揃えて行動するのは君のやり方ではない」
アリスは生まれて初めて他人──ヒトとしていいか不明だが──にあけすけに言い当てられて驚いた。
「あー……私ってハッフルパフの素質がなかったの?」
「そんなことはない。血筋とその平和的な思想はヘルガが求める性質そのもの。あぁ待て、気分屋で尚且つ恐れ知らず。自分の正義心から動かされる行動力には目を見張る。それに祖母似だ。君はグリフィンドールの性質も強い」
「おばあちゃん?グリフィンドールだったの?」
「君の祖母マリアはグリフィンドール。どうだろう、いま挙げた三寮ならどこでもうまくやって行けそうだ」
どうしよう?アリスは困った。てっきりすぐハッフルパフに行くと思っていた。
セドリックはこちらを心配そうに見つめている。私……妹だけどお兄ちゃんとは違うんだな。
アリスは組み分け帽子から言われた言葉を頭の中で反芻した。家族以外からこんなにも自分について指摘されたのは初めてで、強く興味を惹かれた。
「アリス、迷ってるなら私が決めようか」
「待って! 決まったの。グリフィンドールがいい」
「ようし。────グリフィンドール!!!」
高らかに叫んだ組み分け帽にわぁっと大きくグリフィンドールの机から歓声が上がる。対してハッフルパフの机からは意外そうな声が聞こえた。セドリックは目を丸くしていたが、組み分けを乗り越えた妹に拍手を贈っている。
マクゴナガルが 「ようこそグリフィンドールへ」 と微笑む。賑やかに出迎えてくれるグリフィンドールの席に着き、自分の選択に満足したアリスは心地よい胸の高鳴りを感じた。