ハロウィーンはもう目の前だ。アリスはハグリッドのかぼちゃの収穫を手伝いに野菜畑に向かっていた。隣にいる兄のセドリックも一緒だった。
「あれが野菜畑か、母さんの畑を思い出すね」
「私が花咲か豆をばらまいちゃって怒られたのを思い出す……」 セドリックは思い出したかのように笑う。
裏庭につくと既にハグリッドは収穫を進めていて、兄妹に気付くと誇らしげにかぼちゃをお披露目した。
「見てみろこの大きさ。大人三人は入れる。勿論、中身もパンパンじゃわい」
「肥らせ魔法?本当だすっごく詰まってる」 セドリックがかぼちゃを叩いて音の響きに驚いた。
「この数を一人で処理するのは骨が折れるから助かったぞ」
「僕たち家でちょっと農作業の経験があったんだ。久しぶりで楽しいよ」
「それに毎年ジャック・オー・ランタンも作ってたの」
ディゴリー家は土を触ったりするのも、イベントごとも好きだった。
早速、ハグリッドが大きなかぼちゃを転がして、セドリックは底の目立たない箇所に狙いを定めてレダクトで分厚い皮を砕いた。柔らかい実やボール程の大きさの種をかきだし──記念に種を一つ貰った──アグアメンティで中身をきれいに洗う。アリスがかぼちゃの表面に顔の下描きを施してハグリッドにやすりでカットしてもらう……こうしてジャック・オー・ランタンが続々と生まれた。達成感に笑顔を浮かべるアリスは土の付いた頬を拭った。
「お前さんたちようやった! 今年は一段と立派なランタンになっちょる」
「灯っているところ早く見たいよ!」
「これ一人で準備するのは大変だね。毎年ありがとうハグリッド」
ハグリッドは鼻をこすった。「二人ともマリア達に似ていい子じゃわい」
「またそれ?」 アリスとセドリックは顔を見合わせた。ハグリッドはしょっちゅう、アリスを祖母のマリアに、セドリックはベンジャミン大叔父さんに似ていると褒められる。けれど嫌ではなかった。
「ハグリッド、中身はどうするの?」 作業台に積みきれないほど、実がボウルいっぱいに並べられている。
「城の屋敷しもべに渡しに行かなきゃなんねぇ」
ハロウィーンのかぼちゃ菓子の出所が明らかになった。
「よかったらちょっとばかし持ってくか? お前さん随分物欲しそうに見ちょるな」
「えっいいの?」
ハグリッドは小鍋にかぼちゃの実を詰めて譲ってくれた。帰り道、小鍋を抱えながらアリスがぼやいた。
「かぼちゃを使ったレシピを試してみたかったけれどホグワーツって調理場がないもんなぁ」
パンプキンディップくらいしか作れなさそうで肩を落とすアリスを見たセドリックは少し考思案し、妹に提案した。
「着いてきて。案内したい場所があるんだ」
セドリックが連れてきたのは大広間近くの地下通路だった。果物の絵の前に行くと徐に梨をくすぐる。すると梨はドアの取っ手に様変わりしたのでアリスは目を丸くさせる。なに?これは?
扉が開かれると中は……広い厨房だった。こんな数の屋敷しもべを見るのは初めてだ。多分百以上がせわしなく働いていた。
「ここ……」
「ホグワーツの料理は彼らがここで作ってくれているんだ。ハッフルパフ生は時々出入りしていてね」
「ママがホグワーツでもお菓子つくりできたのはここがあったからなんだ!」
兄妹に気付いた屋敷しもべの一人がチャカチャカ駆け寄ってキーキー声で声をかけた。
「お坊ちゃまお嬢さま!何かご入り用なものはございますでしょうか?」
「うぅん、今日はお願いがあってきたんだ。──妹がお菓子を作りたいんだけれど調理場を少し貸してくれないかな?」
「勿論でございます!いつでもご随意にご利用くださいませ!」
やり取りを小耳に挟んだ屋敷しもべたちがアリスにエプロンを使ってほしそうにキーキーと差し伸べてきた。フリルや刺繍の入ったいくつものエプロンに囲まれながら 「部屋からレシピ本を持ってくるからまたあとで来ていい?」 と驚きつつ感謝した。
ハロウィーンを迎えたホグワーツは陽気で甘い香りに包まれている。今年は飾りつけにいくつかアリスも関わらせてもらったので去年よりも浮足立ってしまうのは仕方がなかった。皆午後の最後の授業を終えるとパーティーをしに大広間に集まった。ハグリッドのお手伝いをした大きなかぼちゃのランタンはオレンジの光に灯されて浮かび上がる個性豊かな顔が面白いと好評だ。
「見て! すっごくいい物が作れたよね!」
「うん、皆も喜んでくれてやりがいあったね」
セドリックと自分たちの成果を見にきたのだが、その仕上がりに大満足だった。そこにハグリッドも集まる。
「お前さんたちのおかげで立派なモンを作れた! これは礼だ貰ってくれや」
ハグリッドは懐から薬瓶を二つ取り出した。中身は黒くドロドロで異様だ。
「俺特製の薬草酒だ。一口飲んだら風邪知らずっちゅうわけだ」
兄妹は恐る恐る受け取った。飲んでもいいものなのかスネイプ先生に一度お聞きしたくなった。アリスはお返しに手元のバスケットから瓶詰めされたパンナコッタを差し出す。
「ハグリッドから譲ってもらったかぼちゃで作ったチャイ・パンナコッタだよ」
「うんにゃ、悪いな」
ハグリッドは人差し指で味見するかのように掬って一口で完食する。 「洒落た味だ。ごっそさん」
アリスとセドリックは顔を見合わせて笑ったのでハグリッドは不思議そうな顔をした。通りかかったグリフィンドールの一年生コリン・クリービーにジャック・オー・ランタンの前で写真を撮ってもらった。きっと今頃ディゴリー家でもランタンが飾られているだろうから、ホグワーツのランタンも両親に見せたい。
大広間には金の皿いっぱいにご馳走とハロウィーンのデザートが盛り付けられている。厨房にも長机があって屋敷しもべがそこに料理を並べると大広間の長机に現れる仕組みだった。机の上の料理を食べつくしてもドンドンおかわりが出てくれるのは彼らの働きがあったからだ。
「ハッピーハロウィーン! パンナコッタをどうぞ」
「えぇ! アリスの手作り?おしゃれねぇ」
「ホグワーツのデザートと違っていいな」
アリスはセドリックのクラスメイトのジルとアダムにプレゼントすると彼らはとても喜んでくれた。屋敷しもべに聞いたところ、ホグワーツのメニューは創設者のヘルガ・ハッフルパフが考案したもので今までそのメニュー内容は変わらないらしい。だからアリスはホグワーツにはない少し”今風”のデザートを用意したわけだ。アーニーやハンナたちにもお裾分けすると、意外なアリスの趣味に彼らは驚いた。
「お兄ちゃん、厨房について教えてくれてありがとうね」
ちょっと早口でアリスはセドリックに感謝した。
「……実は誰が厨房をアリスに教えようかちょっと揉めたんだ」
「どういうこと?」
「母さんと父さんとでさ。でも、僕が案内したくって……」
セドは小さく笑った。脳裏でお菓子つくりに悩むアリスの背後でソワソワしていた両親の様子を思い出した。
「現役のハッフルパフ生に譲ってってね」
「なぁにそれ」 兄らしくない発言にアリスは面白くってぷっと吹きだして笑ってしまう。
「作りたいもの沢山作ろっと」
「パンナコッタご馳走様。すっごくおいしかったよ」
アリスはちょっと照れたすまし顔で兄に手を振ってグリフィンドールの席へ向かった。勿論グリフィンドールの友人たちにも配った。
「パーバティのスパイスありがとう! 求めていたものだよ」
「こっちこそ! こんなにおいしく作ってくれて嬉しいわ」
パンナコッタに使ったチャイのスパイスはパーバティの故郷のものを少し譲ってもらったものだ。このパンナコッタは沢山の人の好意によって出来たものなのだ。
目の前にゴーストや野菜の絵が飛んでくる。生徒たちは可愛らしくコウモリの羽で飛ぶ絵を突っつくとイラストのキャンディーに様変わりしたので喜んだ。アリスは驚いて教員席のマクゴナガルを見る。悪戯っぽくマクゴナガルが微笑んだ。隣のスネイプは顔の周りを飛ぶ見覚えのある野菜のイラストを邪魔ったそうに避けている。
「このイラスト、アリスが描いた?」 ライアンが宙に浮かぶニンジンお化けの絵を指さす。
「うん、そうだよ。可愛いでしょう」 アリスは手のひらいっぱいにキャンディーに変わった自分のイラストを眺めた。とっても素敵な魔法だ。アリスは変身学もマクゴナガル先生も大好きだ。
ダンブルドアが招いた『骸骨舞踏団』も最高だった。音楽に合わせて皆は踊りまくり、喉が渇いたらかぼちゃジュースで潤し、また騒ぐのだ。
昨年は参加できなかったから知らなかった。ホグワーツのハロウィーンって素晴らしい!でも……そういえばハリー達を見かけない。
ハリー達を見たのはパーティーが終了した三階の廊下でだった。生徒たちのガヤガヤした喧騒が、沈黙へ変わる。壁にかかれたメッセージとぶら下がった猫──ミセス・ノリス。
「継承者の敵よ、気をつけよ! 次はおまえたちの番だぞ、『穢れた血』め!」
マルフォイが嬉しそうに吠えた。