セドリック・ディゴリーと反抗期の妹   作:97nnn79

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ロックハート先生の理想の贈り物

 それから数日、学校中がミセス・ノリスの襲われた話でもちきりだった。ジニー・ウィーズリーは酷く心を痛めているようで可愛らしい顔を曇らせてふさぎ込んだ。

 

「ジニーは猫が好きなんだ」 ロンが妹を指差して耳打ちする。

「可哀想に」 アリスは心の底からそう思った。動物があんな目にあうのは新入生にとってかなりショックだったろう。

 

「でも、ミセス・ノリスの本性を知らないからだよ」 ロンはジニーを元気づけようとした。

 

「はっきり言って、あんなのはいないほうがどんなにせいせいするか」

 

 ジニーは震え始めたのでアリスは咎めるようにロンの顔を覗き込む。

 

「こんなこと、ホグワーツでしょっちゅう起こりはしないから大丈夫」

「去年はトロールが出たけどね」

 

 今度はロンがアリスを小突いた。

 

「あんなことをしたへんてこりん野郎は、学校があっという間に捕まえて、ここからつまみ出してくれるよ。できれば放り出される前に、ちょいとフィルチを石にしてくれりゃいいんだけど。ア、冗談、冗談──」

 

 余計なことを言ったロンの足を蹴ると、躍起になって互いに足を蹴とばし合う。ジニーは顔を伏せて二人の前から消えた。

 

「ジニーのことを気遣ってやろう」 ロンは息を荒げて提案した。

「同意見だね」 アリスも前髪を払って頷いた。

 

 石になったミセス・ノリス──継承者──秘密の部屋──

 聞き覚えのない言葉に荒唐無稽だと考える人も多い。けれど興味を惹かれて調べる生徒だっていた。魔法史の授業中、ハーマイオニーの挙手で何人かはうたた寝から覚醒した。アリスも隣のライアンに揺り起こされる。

 

「ピンズ先生、秘密の部屋について教えて下さい」

 

 こんな光景魔法史の授業ではレアだ。ピンズ先生は渋っていてなかなか話したがらなかった。簡単には食い下がらないハーマイオニーに根負けして、口を開いた。

 

「……当時の最も偉大なる四人の魔女と魔法使いの手によって、このホグワーツ魔法魔術学校は創設された」 ピンズ先生の声が静かに響く。いつもはこの淡々とした声に眠気を誘われていたが今は皆ほとんどがそれに集中していた。

 

「四つの学寮は、彼らの名前にちなんで名付けられた。ゴドリック・グリフィンドール、ヘルガ・ハッフルパフ、ロウェナ・レイブンクロー、そしてサラザール・スリザリン。彼らは、マグルの目の届かぬこの地に共にこの城を築いた」

 

 ハーマイオニーは本で見たことあるのかしきりに頷いているのがここからでも見て取れた。

 

「数年の間、創設者たちは協調的で魔力を示した若者たちを探し出してはこの城に誘って教育を施した。しかし、やがて四人の意見に相違が生まれ始めた。スリザリンは選別された者、つまり、純粋な魔法族の家系にのみ、教育を与えるべきだと説いた。マグルの親を持つ者には学ぶ資格がないと考え、その者たちを入学させることを嫌ったのである。彼とグリフィンドールが激しい論争を繰り広げ、ついにスリザリンが学校を去った……伝説によればスリザリンは、この城のどこかに、他の創設者たちには全く知られていない隠された部屋を作ったという」

 

 ライアンと顔を見合わせる。彼は眉を顰めていたのでいつにもまして人相が悪い。アリスは彼の眉間を指で押した。

 

「その伝説によれば、スリザリンは『秘密の部屋』を密封し、この学校に彼の真の継承者が現れる時まで、何人もその部屋を開けることができないようにしたという。その継承者のみが『秘密の部屋』の封印を解き、その中の恐怖を解き放ち、それを用いてこの学校から魔法を学ぶにふさわしからざる者を追放するという」

 

 ハーマイオニーがもう一度手を挙げた。

 

「先生、『部屋の中の恐怖』というのは具体的にどういうことですか?」

「何らかの怪物だと信じられており、スリザリンの継承者のみが、それを操ることができるという」

 

 ラベンダーがヒュッと息を呑む。

 怪物……このホグワーツ城に……

 

「以上、おしまい。これは神話であります! 部屋は存在しない! こんなバカバカしい作り話をお聞かせしたことを悔やんでおる」

 

 生徒はそうは思っていないようだった。暫くは隣と話していたが、それも直にピンズ先生の眠りの授業に誘われてしまった。

 

 純血主義はサラザール・スリザリンが言い出したものだった。相応しくない者は追放される。

 秘密の部屋は開かれた。秘密の部屋には怪物がいると言われていて、順当に考えればその怪物によってマグル生まれが追放されるのではないか──。だからマルフォイは”次はマグル生まれ”だと言ったのだ。

 

 次の日、ハーマイオニーが殊勝な態度でアリスにお願いをしてきた。要件を聞くと 「前に誘ってくれた、ロックハート先生のお部屋にお招きいただける話なんだけれど……」 と続いたのでアリスは愛想笑いをした。言った手前、流しづらい。彼女と約束を交わしたあと、もう一人誘おうと心当たりの人物を当たった。

 

「ねぇジニー。ロックハート先生の部屋に一緒に遊びに行かない?」

「ロックハート先生の?」

 

 ジニーは眉間にしわを寄せた。ロックハートのファン以外は彼の話をすると大体こういう顔をする。

 

「ジニーはファンじゃなかったっけ?」

「え? そんなこと……」

「本屋でロックハートを見ていた気がして……予定があったら断ってくれていいよ」

 

 彼女は弁明したそうに言いよどむ。一瞬躊躇って、背伸びしてアリスに耳打ちした。

 

「わ、私が見ていたのはハリーよ」 ジニーは赤毛のように顔が真っ赤になった。

「あっそうだったんだ。変なお誘いしてごめんね」

 

 ジニーはソワソワ伺う。 「揶揄わないの?」

 

「ウン。ハリーは素敵だしわかるもの」

 

 恋愛が絡んだちょっかいはそれなりに面倒くさいことを最近のラベンダーとパーバティで経験していたので、アリスはサッパリ答えた。ジニーは照れながら、少し安心したように 「ありがとう」 と感謝したのだった。

 

 授業後、アリスとハーマイオニーの二人だけで三階のロックハートの部屋を訪ねることになった。

 

「お待ちしておりましたよ! 熱烈なファンガールのお二人さん!」

 

 ロックハートの部屋の四方の壁は自分の顔写真で埋め着くされていた。皆、訪問者のアリスとハーマイオニーに白い歯を見せてスマイルを贈っている。ロックハートのローブと同じく、色鮮やかなビロード仕立てのソファにすすめられるとローテーブルに三人前のティーセットが現れた。マクゴナガルの部屋に招かれた時は先生自ら魔法でお茶の準備をしてくれたので、目の前のこれは厨房にいる屋敷しもべの配慮だろうと察せられた。

 

「教師として、特別扱いは好ましくないですが成績優秀者と面白い解釈する愛読者に少しばかりサービスをしても良いでしょう!」

「光栄です、先生」 ハーマイオニーが頬を上気させた。

 

 ロックハートのお茶会は授業と一緒で楽だった。彼の武勇伝にはハーマイオニーが熱心に相槌してくれたし、ロックハートが”アリスの個人的ロックハートへの見解”を聞きたがったら、彼の欲しがる言葉を返せば饒舌にまた向こうが話し続けてくれるからだ。ハーマイオニーはアリスの適当な返事に気づいて眉をしかめたが、この時間がとても楽しいようで咎めなかった。

 

「ミス・ディゴリーから質問はないかね? 滅多にない大チャンスですよ!」

 

 別角度からの”要求”にアリスは戸惑ったが一個、思いついたものがあった。

 

「新学期のペーパーテストにあった、先生の理想の贈り物ですが……」

「あぁ! 私の誕生日の理想的な贈り物は、魔法界と、非魔法界のハーモニーですね?いい質問ですミス・ディゴリー!」

 

 アリスは頷いた。

 

「ホグワーツの授業であえてマグルの技術を取り入れるような視点はあまり聞かないので印象的でした」

「えぇだって両方のいいところが詰まった贈り物だなんて、よりオリジナリティがあり、よりスペシャルだと思いませんか?」

 

 ロックハートの言葉に初めて素直に同意できた。

 

「私は非魔法界でも、ここ魔法界でも様々な贈り物をこの手で開けてきましたからね! マッカラン18年のシングルモルトも! オグデンのオールド・ファイア・ウィスキーの大瓶も! どちらも素晴らしいわけです! ──おっとお嬢さんたちには大人の嗜好品は難しい話だったったかな?」

「非魔法界にも先生のファンがいるんですか?」

「私は非魔法界で育った──魔女とマグルのハーフなんでね! 言っても、マグル相手でも、魔法ナシでこの『週刊魔女のチャーミングスマイル賞』を5回連続で受賞したスマイルで魅了できますがね!」

「アハハ」

 

 大人なのにプレイボーイのようなハチャメチャを素面で、一片の曇りもなく豪語するところだけは、そこまで嫌いになれなくってアリスは一緒に笑った。

 

 ティーポットの中のお茶も尽きたのでそろそろお暇することになった。

 

「あの、先生。お願いがあって……」 ハーマイオニーがソワソワとローブから紙切れを見せる。どうしたのだろう、もうお土産のブロマイドは貰ったのに。

 

「先程お話した『グールお化けとのクールな散策』に出てくる、ゆっくり効く毒薬を理解したくって……この本を借りたいんです。でも禁書の棚にあって先生からサインをいただかないといけなくって」

 

 ロックハートは快く、紙にサラサラと踊るようにバカデカくサインを書いて渡す。ハーマイオニーはロックハートの気が変わらないうちに部屋をお邪魔した。慌ててアリスも後を追う。

 

「『最も強力な薬』? この本、スネイプ先生が言っていた上級生でも扱えない本だよね」

 

 紙を覗き込んで不思議そうに尋ねる。意外とこういう細かいことをアリスは覚えている。

 

「実際に作ったりしないわ。ちょっとした読み物として借りたかったの……第一材料がないもの」

 

 禁書をちょっとした読み物扱いするのに突っ込みたくはなったが、学年成績トップは違うのかもしれない。アリスはハーマイオニーから視線を外すと彼女はホッと息をついて言葉をつづけた。

 

「すっごく充実した時間だったわ。ありがとうアリス」

「……そうだね」

 

 血で差別が横行している社会。ああやって何の意識もなく発言できたのは彼の生い立ちがあってからなんだ。やっぱり生まれた環境で根付いた思想は変える余地もないのだろうか。

 

「彼って素晴らしい先生だわ」

「いやぁ教師には向いてないでしょう。先生の授業で呪文一個も教わってないもの」

「あなたならわかってくれると思ったのに!」

 

 ハーマイオニーの非難にアリスは肩をすくめてみせた。彼が優秀な教育者かは、また別の話だ。

 

 

 

 

 土曜日、天気は気持ちいいものではない。空気は何だがこもっていて、雷がきそうな雲も見えた。今日はグリフィンドール対スリザリンの試合だ。スリザリン以外は皆……ハッフルパフもスリザリンも、グリフィンドールを応援していた。

 

「流石に全員がニンバス2001を使うだなんてゲーム性が狂うにきまってるだろ」

「こういうのがクィディッチを面白くなくさせると思わないか」

「プロが使う箒を学生に与えるなんてマルフォイ家の財力はとんでもないね」

 

 レイブンクローのテリー・ブートとマイケル・コーナー、アンソニー・ゴールドスタインがそう喋りながら後ろを通る。言葉にはしないが、圧倒的な武器を手にしたスリザリンに歯が立つか不安だったが、雨の中練習してきたグリフィンドールの選手たちを思い出して精一杯応援に臨もうと、グリフィンドール生は心を決めていた。

 

 アリスはディーンと一緒に『光のように飛べグリフィンドール』の応援旗を掲げる。旗の中の七つの赤い流れ星はチュンチュン風を切り、軌跡を残して瞬いている。

 ホイッスルが鳴る。試合開始だ。噂通りスリザリンは影のような速さになってグリフィンドールを翻弄した。昨年までの飛び方とは別物だった。けれど、問題はそれだけではなかった。

 

「なんでブラッジャーはハリーばかり狙うんだ!?」

 

 シェーマスが叫ぶ。ハリーとブラッジャーは高速で宙を飛び回っている。セドリックのチームメンバーのアダムがブラッジャーと衝突したときの話を思い出して身震いした。同じシーカーのマルフォイは大丈夫だろうかと伺うと、彼はブラッジャーの標的ではないみたいだが揶揄うようにハリーの周りをくっついて飛んでいる。重たいブラッジャーは狂ったように執拗にハリーを狙っている。点差は0対60で大差をつけてリードされている。ビーターのフレッドとジョージがハリーをブラッジャーから守っていて、試合のサポートに入れていないからだ。しかも大雨が降ってきた。タイムアウトを取ったグリフィンドールチームに、皆は心配そうに顔を見合わせる。

 

「また誰かの呪いのせい?」

「ブラッジャーは試合前までマダム・フーチが保管しているのに?」

 

 ハーマイオニーとロンが雨音に負けないように声を張り上げる。きっと単なる悪戯などではない。躊躇なく顔面を襲おうとするブラッジャーにアリスは肝を冷やし、ぎゅっと応援旗を握りしめる。視界を遮る雨水に、ローブのフードを深くかぶり直す。ハリーは間一髪によけて逆さまにぶら下がる状態になった。

 

「あぁハリー!」

 

 悲痛な声に気付いてハリーを見るとついにブラッジャーと衝突してしまい力なく降下するハリーの姿があった。落下しながら彼は──何かを掴んだ──金のスニッチだ。そのまま彼は泥のぬかるみの中に墜落して、グリフィンドールの二年生はピッチに駆け寄った。ハリーの勇姿を讃えて歓声と口笛で競技場はいっぱいになった。

 

「ハリー! 意識はあるか?」

「ハリーのおかげで勝ったわ!」

 

 ハリーは見守られる中ゆっくり目を開いて、顔に恐怖の表情を浮かべた。ロックハートだ。

 

「ハリー心配するな、私が君の腕を治してやろう」

「やめて!」

 

 ハリーの叫びはむなしく、折れた腕はぐんにゃり力なく曲がった。骨がなくなってしまったのだ。グリフィンドール生は呆然とハリーの腕とロックハートに視線を揺らした。コリン・クリービーは狂ったようにその様子をシャッターに納めた。

 

「まあね。時にはこんなことも起こりますね。でも、要するにもう骨は折れていない。それが肝心だ。あっ、ウィーズリー君、ミス・グレンジャー、付き添っていってくれないかね? ──マダム・ポンフリーが、その──少し君を──あーきちんとしてくれるでしょう」

 

 そう言い捨ててロックハートは輪の中心から逃げた。外れたところで応援旗を片手にそれを眺めていたアリスとディーンに、 「"流れ星"は些かナンセンスでしたね、流れ星は地に墜ちますから──」 と、声をかけたがアリスとディーンは信じられない、と言いたげな顔をしたので 「ジョークですよジョーク」 と、一言付け加えてそそくさと退散していった。

 

 ハリーは入院になった。骨をはやす『骨生え薬のスケレ・グロ』の治療は非常に痛いようだ。医務室帰り、濡れたポニーテールを絞りながら廊下を歩いていると曲がり角の向こうからマルフォイの声が聞こえた。

 

「──ポッターのやつ、あれで試合のつもりか? あいつをずっと見下ろしていたけど実に滑稽だった。トンチキなバレエでも踊ってるんじゃないかってね──お前らは先に寮に戻ってろ、僕は箒小屋に戻るから──」

 

 話し相手はクラッブとゴイルだろう。濡れたブーツの足音と共に箒を携えたマルフォイが目の前に現れた。彼はアリスを見るとハッとした後すぐに顔を顰める。

 

「こんなところで何してるんだ?早くグリフィンドール塔でバカ騒ぎしてきたらどうだ」

 

 マルフォイは鼻を鳴らしてアリスの背後を伺う。

 

「穢れた血二人とは縁を切ったのか? それとも試合中、次の犠牲に合ったのかな? あの不良崩れのボードマンと目の上のタンコブのグレンジャーが消えてせいせいするよ」

「ねぇそれは言っちゃいけないって……」

「おや、頭がお花畑のディゴリーにご教授いただけるのかい?バクハツ頭のポッターに教えてあげろよ」

 

 マルフォイは一歩前に出て冷たい目でアリスを睨んだ。彼のマントの雨雫がアリスの革靴に落ちる。

 

「マルフォイってハリーを馬鹿にするために選手になったの?」

「はぁ?」

「今日の試合見てたら誰だってそう思う。スニッチじゃなくってずっとハリーを見てばっか」

「スニッチを捕まえなかったからって馬鹿にするつもりか」

 

 違う、と呟きアリスももう一歩前に出た。マルフォイはピクピクと瞼を震わせている。

 

「マルフォイもハリーやお兄ちゃんみたいに……チームの期待を背負うシーカーだから……それに応えたくって練習してたんでしょう? 私、そういうところが……だからマルフォイも応援していたのに……なのに……」

 

 その姿が、普段憎まれ口をたたいてくるマルフォイでも、同級生や兄の姿と重なって見えていた。

 

「かっこわるい!」

 

 アリスの言葉にマルフォイは目を見開いた。はっ……と息を漏らし、雨で冷えた顔色が紅潮していく。アリスはたたらを踏んでその場を後にした。

 

 マルフォイは思わず箒を床に投げつけたくなった。けれどすんでのところで止めた。

 あんな……あんなグリフィンドールの馬鹿女の言葉にプライドが傷ついているだなんて!!

 しかも先程フリントから怒鳴られた内容と同じ指摘内容だ。”かっこわるい”の言葉が頭の中で木霊している。マルフォイは目の前の小さくなっていく尻尾アタマポニーテールをメラメラと睨んだ。絶対に見返してやる。マルフォイは箒を固く握り直して、裏庭の空地へ足を向けた。

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