セドリック・ディゴリーと反抗期の妹   作:97nnn79

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ハンサムな決闘相手

 月曜日の朝、大広間はある大ニュースで大騒ぎだった。グリフィンドールのマグル生まれのコリン・クリービーが襲われた。石になった彼は医務室で横たわっている。一年生は一人で場内を歩くのを怖がり、上級生の後を着いてまわった。ネビルは魔除けの水晶やその他、お守りグッズを買い込んで恐怖で震えていた。

 

「ネビルは純血だから襲われねぇだろ」 ライアンが指摘したが、彼は怯えながら答えた。

 

「僕はスクイブだから、継承者に狙われるんだ……」

 

 生徒から犠牲者が出たことで、不安になった皆は早くクリスマス休暇がきて安心する我が家に帰れないか願っていた。マクゴナガル先生がクリスマス休暇に残る生徒をリストアップしにきたが、残りたがる好き者はほとんど居ない。なので、ハリー、ロン、ハーマイオニー、そしてライアンが名簿にサインしたのを知ったアリスは彼らに駆け寄った。

 

「クリスマス帰らないの?」

 

 ハリーとロンはモゴモゴして言い淀んだ。

 

「私、クリスマス休暇中にどうしても調べたいことがあるの」 ハーマイオニーがそう切り出した。

「今年もなの?」 去年も同じことを言っていた。

「えぇ、ホラ この前ロックハート先生から借りた禁書の本は持ち帰ってはいけないことになってるし……」

 

 ハーマイオニーの勢いに乗ってロンも付け加える。 「僕は襲われることはないし、今年もホグワーツで過ごすつもりさ」

 

「僕も……ダドリーの家に戻るなんて考えたくないよ」

 

 ハリーも意見した。アリスはライアンを見る。

 

「俺も、ハリーと一緒。クリスマスを家で過ごすつもりはない」

 

 ハリーとライアンはマグル生まれではないが、襲われる可能性が無い訳ではないのに。というか、この城にいる全員が100パーセント襲われないと言い切れない。人が少なくなるクリスマス休暇に何か起きたら、というのは考え過ぎだろうか?

 

 アリスが何を考えているかライアンには伝わったらしく、 「大丈夫、たった数日だから」 と言われてしまったのでそれ以上は強く言い出せず、黙るしかなかった。

 

 

 木曜の午後の授業中、継承者の被害と比べたら中規模──いや、同等の恐怖は覚えたかもしれない。膨れ薬を作る授業で、アリスも干しイラクサをスプーン2杯分計り、磨り潰していた。

 

「あっ」

 

 後頭部にコテンと何かがぶつかり、手元が狂って大鍋に余計に水を入れてしまった。後ろを振り返るとマルフォイがニヤニヤとフグの目玉をもう一度投げようと振りかぶった。アリスは躱すと、目玉はネビルの鍋の中に落ちた。

 

「馬鹿のしっぽアタマにもう一度ぶつけたかったのに」

 

 マルフォイのターゲットはいつもハリーかロンなのに。この前の腹いせだろうか?面白い、と肩に自信のあるアリスはやり返したくなったがすんでのところでやめた。『かっこわるい』というアリスの感想は揺るがなかったし、撤回する気も無い。応じる必要はないのだ。そもそもスリザリン贔屓のスネイプに目を付けられたら終わりなので、ツンと澄ました笑顔を返して作業に戻った。

 

 邪魔が入ったので薄くなってしまった薬をスネイプ先生に指摘受けながら調合を続けていると後ろからバーン!と爆発音が鳴る。慌てて振り返るとゴイルの薬が爆発したらしく、スリザリンは膨れ薬を浴びてしまい肥大した体の一部に悲鳴を上げている。こんな大事故は昨年のネビルの鍋が溶けた以来だ。マルフォイの尖った鼻は今やメロンくらいに大きくなって重たそうに机の上にのっけている。スネイプ先生は迅速に縮み薬を配った。スリザリン生の膨らみはシュルシュル元に戻った。

 

「いやぁ恐ろしい薬だな」

「恐ろしいのはスネイプだ」

 

 アリスはシェーマスに突っつかれてスネイプ先生を見る。爆発した鍋の底から花火の燃え滓を摘まむ。

 

「これを投げ入れた者が誰かわかった暁には」 スネイプが低い声で言った。 「我輩が、間違いなくそやつを退学にさせてやる」

 

 スネイプ先生はグリフィンドールのテーブルを見渡した。命の危機にさらされていてしょうがなく、とかじゃないと、こんな恐ろしいことできるはずがない。

 

 

 

 継承者への不安を抱えて日々を過ごしている生徒たちの耳に、興味深い催しの話が飛び込んできた。アリスたちは夕食後の大広間に来てみると、いつもの長机の代わりに金色の舞台が設置されていた。今夜はここで”第一回決闘クラブ”が開催されるのだ。突如知らされたが学校中のほとんどの生徒が集まっていて、ソワソワ杖を片手に舞台を眺めている。

 

「決闘のスペシャリストに教われるんだね。誰かな」

「呪文の扱いに長けたフリットウィックじゃないか?」

 

 紫色のローブを翻して登場したのはロックハートだ。後ろにはスネイプ先生もいる。

 

「みなさん、集まって。さあ、集まって。みなさん、私がよく見えますか? 私の声が聞こえますか? 結構、結構! ダンブルドア校長先生から、私がこの小さな『決闘クラブ』を始めるお許しをいただきました。私自身が、数え切れないほど経験してきたように、自らを護る必要が生じた万一の場合に備えて、みなさんをしっかり鍛え上げるためにです」

 

 いまだ著書の中の素晴らしい魔法はお目にかかれていないのだが、今夜このステージでお披露目いただけるということか。

 

「では、助手のスネイプ先生をご紹介しましょう」 ロックハートは満面の笑みを振りまいた。

 

「しんじゃうんじゃないかあいつ」 ディーンが耳打ちする。さすがのスネイプ先生も人の命は取ってしまわないだろう。だが、スネイプの顔を見るとそれもあり得てしまいそうな説得力があり、生徒たちは恐れ知らずのロックハートに最早、尊敬の念を抱いた。

 

 ロックハートとスネイプは向き合って一礼をし、杖を前に掲げた。決闘の作法だ。

 

「一、二、三──」 先生方は杖を肩より高く振り上げた。スネイプが叫ぶ。 「エクスペリアームス! 武器よ去れ!」

 

 赤い閃光が瞬いてロックハートは舞台外に吹っ飛んだ。しんでしまったのだろうか。

 

「先生大丈夫かしら!?」 ハーマイオニーが様子を伺おうとジャンプして、でも怖々と顔を隠している。ロンは 「知るもんかい」 と愚直った。ロックハートはラベンダーから転がった杖を受けとりフラフラ立ち上がる。

 

「あ、あれが『武装解除の術』です。スネイプ先生、たしかに生徒にあの術を見せようとしたのは、すばらしいお考えです。しかし、遠慮なく一言申し上げれば、先生が何をなさろうとしたかが、あまりにも見え透いていましたね。それを止めようと思えば、いとも簡単だったでしょう。しかし、生徒に見せたほうが、教育的によいと思いましてね……」

 

 ここまで恐れずに言いたいことを並べられるなんてアリスは才能だと思った。

 

 そのあとは、いよいよ実技に入ることになり、先生方が組むペアを選んでいく。ハリーはマルフォイと組まされていたので、彼は嫌々マルフォイの元へ寄った。ライアンのペアはクラッブで、ハーマイオニーはスリザリンの大柄の女子生徒とだ。波乱が予想されそうなグリフィンドールとスリザリンのペアが多くみられる。

 そんなアリスの相手もスリザリンの男子生徒だったが、彼は敵意のない表情で 「よろしく」 と一言かけてくれたのでアリスも自然な笑顔で 「よろしくね」 と返す。男子生徒はちょっとキザったらしい笑顔を浮かべたが、それも絵になるくらいハンサムだった。チョコレート色の肌とスラリとした体躯が黒豹のようで、カーリーヘアーに隠れた睫毛の長い目元が印象的だ。

 

「俺はブレーズ・ザビニ」

「私は……」

「アリス・ディゴリーだろ」 間髪入れずに名前を言われたのでアリスは瞬きする。

 

「可愛いから知ってる」

 

 アリスは目を丸くさせた。男の子からこんな事を言われるのは初めてだったからだ。

 

「かっこいい子に褒められると嬉しいよ」

 

 笑顔で褒め返すアリスに、ザビニの形のいい眉がほんのわずかに動いた。唇の端を持ち上げて薄い笑みを保ちながらアリスを観察している。

 

「相手と向き合って! 礼!」

 

 壇上のロックハートが声を張り上げる。互いに頭を下げる。

 

「杖を構えて!」

 

 杖を掲げて目の前のザビニと視線が交わった。

 

「一、二、三──」

「エクスペリアームス! 武器よ去れ!」 素早くザビニが叫ぶ。

 

「!」

 

 ピュン!とアリスの杖が手元から弾かれてザビニの足元まで転がった。ザビニの武装解除の術が成功したのだ。

 

「詠唱が早くて凄いね」

「たまたまだよ、次は君が成功させる」 彼は余裕そうな表情を崩さず答える。

 

 アリスはザビニの足元にある杖を拾おうと駆け寄った。屈んで、腕を伸ばす。

 

 カンッ

 

 手が届く前に、ザビニのきれいに磨かれた革靴がアリスの杖を蹴っとばした。

 アリスは目を見開く。杖はカラカラ……と音を立てて遠くに転がっていった。

 

「あー……」

 

 頭上からザビニの、感情ののっていない声が降る。

 

「……」

 

 一瞬、停止してしまったアリスは、杖を追いかけて拾い、振り向いた。

 

「次は成功したいな」

 

 口角を上げて当たり障りのない笑顔を浮かべる。

 アリスを見たザビニも目をキュウ、と弓なりにして笑んで、紳士的に返した。 「できるさ」

 

「俺たち、()()()()()決闘できたと思わないか?」

 

 ザビニの言葉に周囲を見渡すと、決闘ではなく乱闘騒ぎになっていて、ハーマイオニーはスリザリンの女子生徒と取っ組み合い状態だし、ラベンダーとパンジー・パーキンソンはお互いの腕に爪を立てて喚き散らしている。どこも似たような惨状だ。

 

「本当、大変。ペアありがとうね」

「いいや こちらこそ」

「じゃあ、友達探すから」

 

 アリスはお礼を言って、ザビニに背を向けた。乱闘の中を縫うように進みながらさっきの出来事を考える。

 

 多分……いや、間違いなくザビニはわざとアリスの杖を蹴りとばした。決闘は彼が成功させたし、彼とは初めて話すし、何か気の障るようなことを言った覚えもない。

 アリスには見当もつかないので、波風立てないように無難にやり過ごすことにした。アリスは人といがみ合うのが何よりも嫌いだからだ。諍いに勝ち負けを決めてもそれは晴れることはなく、心は消耗する。まして、自分が直接関わっていない、人と人が嫌い合う様子を見るだけで厄介に思うというのに。アリスにとって、さっきの状況に突っかかることは、一番無駄で不毛で疲れることに繋がるのだ。

 さっさと忘れようとしたが意識しなくても忘れさせてくれるような出来事が起こった。ハリーがみんなの前で蛇に話しかけたからだ。ハリーはパーセルマウスだったのだ。

 

 継承者はハリー・ポッターだと学校中が騒然とした──。

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