セドリック・ディゴリーと反抗期の妹   作:97nnn79

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新学期のアクシデント

 欠かさずに日刊預言者新聞をチェックしていたが、新学期になってもブラックは未だ雲隠れしていた。ホグワーツはダンブルドアの庇護のもとにある安全な場所だったが保護者は渋っているようでキングスクロス駅では子どもに注意喚起している親が何人も見受けられる。ご多分にも漏れず、ディゴリー家もそうだった。

 

「二人とも、くれぐれも気を付けるようにな。もし不審な影を見たらパパとママにすぐ手紙をよこしなさい」

「セドリック、妹を守ってね」

「楽しむなと言ってるんじゃないぞ、アリスなんて今年は初めてのホグズミードだ。思う存分遊んでほしいんだが……」

「アリス、お兄ちゃんの言うことは聞きなさいね」

 

 文句は言わずに素直に両親の話を聞くのが一番早く終わると理解していた兄妹は「分かったよ」「そうするよ」とおとなしく頷いた。

 

「──それにセドリックは監督生だ。ハッフルパフを正しく導いてあげなさい」

「はい、父さん」セドリックのローブにとめられた監督生バッジがチカッと光る。妹の贔屓目なしに兄にぴったりだ。最後にもう一度注意事項を貰い、兄妹は汽車に乗り込んだ。

 

「アリスのコンパートメントを探そう」

「いいよいつも 自分で探すから」

 

 セドリックは監督生用のコンパートメントがあるので空き室探ししなくていいのだが、妹の荷物を片手に「なかなか埋まっちゃっているみたい」と周囲の席を探し回っている。

 

「早く巡回に行った方がいいよ──ホラ、ライアン見つけた!」

 

 コンパートメントの扉から廊下を伺う派手な金髪が見える。爆ぜた火花のような──獅子のたてがみのような──人混みの中でも目立つ金髪だ。ライアンはアリスとセドリックを見つけると手招いた。

 

「よかった、ライアンがコンパートメント取ってくれていたみたいだね」セドリックの安堵の声は途端にピタッと止まった。ライアンの背後から彼に負けず劣ずの派手な赤毛が二つ、部屋から飛び出てきた。

 

「ご機嫌麗しゅう ディゴリー家のみなさん! ウィーズリー家からご挨拶差し上げます」

「おぉっとその胸元に光っているのは監督生になったらもらえる あの特別なオマケ・・・?」

 

 ウィーズリー家の双子のフレッドとジョージは代わる代わるに話した。彼らはいつもこうだ。

 

「セドリック監督生おめでとう」

「ありがとう」

 

 ライアンが端的に祝したが双子は長尺でコレをいじりたいようだった。

 

「パーシーみたくなるなよ」

「似合い過ぎているな その"Prim"いいこちゃんバッジ!」

「"Prefect監督生"のPでしょ!」

 

 アリスは訂正したが「どっちでも変わらないさ」と笑い飛ばされる。

 

「褒められたってことだよね……? パーシー・ウィーズリーは監督生で主席だって聞いたから」

 

 セドリックはサラッと上手くかわしたので双子はゲェと顔を歪める。

 

「お兄ちゃんは忙しいんだからちょっかいかけないで ホラバッジで目を潰されたい?」アリスはむんずとセドリックの胸元をつかみ、そのバッジをひねって、双子の顔に反射した光を当てようとした。

 

「ギャア! 眩しい」

「逃げろ!」

 

 双子はそう叫んでコンパートメントの中に引っ込んだ。

 

「彼らと一緒の席だなんて楽しめそう」

「誘ってくれたんだ」肩をすくめるアリスにライアンが答える。

 

「双子と一緒で大丈夫?他探そうか」

「大丈夫よお兄ちゃん これでも三年目になってだいぶ扱いに慣れてきたんだから」

 

 セドリックは苦笑すると妹の肩を軽くたたく。

 

「アリスは本当に頼りになるよ」

「ここは任せて お兄ちゃんは巡回頑張って」

 

 コンパートメントの中に入るとフレッドが「お前さんの兄貴ったら、あの波風立たせない器用さには舌を巻くね。腹の中では何考えてんだが」と皮肉った。続けて「何も考えてないかもしれないぞ」とジョージも気に食わなさそうだ。

 

「ハイハイ お兄ちゃんは生まれてからずっとああだよ」

「そりゃすげぇよ」

「監督生になるために生まれてきたワケだ」

 

 双子はずっとセドリックのことが気に食わないようでこの時ばかりは楽しくなさそうに皮肉を飛ばす。ライアンは肉親を悪く言われて気分を損ねていないかアリスを伺った。「大丈夫」それに気づいてニヤッと笑う。

 

「そこまで嫌じゃない」

 

 共感力の高いアリスにとって身内の陰口は、本人じゃないのにへこむくらいショックだが、セドリックへの双子のそれは不思議とそこまで不快じゃない。兄をずっと嫌っている人なんて新鮮だからだ。それと、双子がやっかむ理由がアリスにはちょっと、理解できるからかもしれない。

 そんなアリスの様子に少し意表を突かれたようで双子は目を丸くさせる。

 

「お気に召してくれているようで」

「いま以上に奴さんについて話させてもらっていいかい? これでも我慢してる方さ」

「もう今日は沢山! それよりクソ爆弾の話しよう」

 

 フレッドは意気揚々と「最高だったろ」と声を弾ませる。ジョージも「最高のブツがゾンコの悪戯専門店にある」と声を潜めるので「オイもう余計なこと教えんな」とライアンが咎める。

 

 汽車が動き出すと次第に窓に雨粒が打ち始めた。新学期のお天気は暗いものになったがそれを吹っ飛ばすくらいコンパートメント内は騒がしかった。食事休憩中ですら双子はずっと悪戯ばっかりだ。

 

()()()()くん このクソ爆弾の良さが分からないだなんて本当にグリフィンドールの男の子かい?」

「ここで爆発したらどうするつもりだよ、もうそれしまえって!」

「そのリスクヘッジは中々面白い提案だよな?アリス」

「あんまり騒ぐとお兄ちゃん呼ぶよ!」

 

 そう叫んだ瞬間、突如汽車は速度を落とし始めた。車輪の不快な接触音を響かせながら徐々に減速する。

 

「あれ?」

「ホグワーツはまだだよな」

 

 通路側に座っているアリスがドアの外を伺うと、他のコンパートメントからも生徒たちが顔を覗かせて様子を伺っている。そして、汽車はガクンという大きな振動と一緒に完全に止まった。

 

 おまけに汽車内の灯りが消えて視界は真っ暗になる。窓の向こうは分厚い雨雲で全く光も差さない。

 

「おい止まったし灯りが消えたぞ」

「故障じゃないか」

 

 視界を失って聴覚が研ぎ澄まされていくのを感じる。バタバタと雨粒が強く窓ガラスを打つ音と、勢いを増して吹き付ける風の音。正面からはフレッドがスゥと息を吸って、ジョージがフゥと吐いた。左からは身じろぎしたライアンのネックレスからチャラ、と金属音が鳴る。

 すると「ウワァアア!」と情けない悲鳴と一緒に何者かがアリスたちのコンパートメントの中に飛び込んできた!おまけにアリスの上に倒れ込んだので衝撃と重さで「ウッ」とうめく。真っ暗で誰だか分からないが体格からして男子生徒のようだ。

 

「ちょっと……」と押し返そうとしてもぎゅうぎゅうアリスの身体に覆いかぶさるようにしがみついていて離れなかった。ふと視界の端に、天井に届くくらい高さのある黒いマント姿が通路を通過した。生き物とは思えない、影のような……。そして肌を粟立たせるほどの冷気が襲う。体の芯から熱を奪われる感覚に、アリスの上で震える訪問者を思わず抱きしめた。ちょっと彼の震えがおさまった様な気がする。耳元のハッハッという、浅い息遣いがくすぐったい。

 

 パッと室内の灯りが戻る。眩しさでくらむ視界の中、目の前の人物にアリスはギョッと顔を歪ませた。

 

「マ、マルフォイ」ゆるゆるとアリスは彼に回していた腕の力を緩める。

 

 彼はパニックから戻ってきたみたいだった。自分がアリスの肩や腰にしがみついている現状を理解して、青白い顔色がカアアアアと沸騰したように紅潮していき、混乱しているようにグレーアイがギョロギョロ揺れる。

 

「どけや」ドスの効いた声が上から降ってきた。

 

「てめぇいつまでそうしてんだよ」仁王立ちで見下ろしているライアンが蹴りとばすくらいの勢いだったのでマルフォイは飛び起きて一目散にコンパートメントから逃げていった。去り際、弾みで足を踏まれたアリスは「ギャッ」と間抜けな悲鳴をあげる。散々だ。

 

「大丈夫かアリス」

「うぅ……」

 

「あの黒いマント、なんだったんだ?気持ち悪ぃ」

「汽車が襲われるなんて今までなかったよな」

 

「ねぇさっきの変な風に言いふらさないでね」アリスは心配になって双子に釘をさす。

 

「変とは?」

「これ以上変なように肉付けできないさ。アリスとマルフォイ坊ちゃんがハグしてただなんて」

「てっきり低学年の男の子かと思ったの! 怖がってたから……!」

「「事実は小説より奇なり」」

 

 なんとか双子に公言しないようにお願いをして下車するとドッと疲れに襲われた。雨はまだやまなくってローブのフードを被った生徒たちは、先ほどの出来事が気懸りで不安そうだった。城まで馬車に乗るため列に並ぼうとうするアリスにセドリックが駆け寄る。

 

「顔色が悪いよ これを食べて」チョコレートを割って差し出され、「なんともないよ」と言いつつ口に入れたらかじかんだ手足の先がじんわり暖まってきた。

 

「吸魂鬼だ。まさか汽車の中にまで捜査が及ぶだなんて」

「もしかして……」

 セドリックはチョコレートをもっと砕いて妹に渡す。「うん、ブラックが捕まるまではホグワーツを警護するみたいなんだ」

 

「それって得策なの?私、あれが近づいたら凍えるくらい寒くって。気分が悪くなる子も多いと思うよ」

「……気分いいものじゃないのは確かだよね。アリス、チョコレートを持ち歩くんだよ」セドリックはあるだけ全部チョコレートをアリスに与えて、監督生の仕事に戻っていった。

 

 一行はひとりでに歩く馬車に乗り込み、ぬかるんだ道を進んでホグワーツ城の大きな鉄門をくぐり抜ける。その両脇には吸魂鬼が構えていて凍えるような冷気が襲う。アリスはセドリックからもらったチョコレートを早速ライアンと分けて食べた。おかげで先程より全然マシだ。馬車が城の前に停車して、生徒たちは正面玄関から大広間に進む。今日の天気を魔法で映す天井は曇天だった。

 

「アリス、ライアン ここ座りなよ」

「ハァイ ロン」

 

 先に長テーブルに着席していたロン・ウィーズリーと拳を軽くぶつけて挨拶をする。ロンはアリスの近所に住んでいてちょっとした幼馴染のような、気心の知れた存在だ。

 

「ハーマイオニーとハリーは?」

「マクゴナガルに呼ばれてったよ」心当たりはないらしく、肩をすくめる。今年はまだ罰則は破っていないみたいだ。

 

「そうだ、エジプト旅行どうだった?」

「最高だったよ! 長男のビルに会いに行ったんだ」ロンは喜色満面に話し始める。ウィーズリー家はガリオンくじグランプリで大金が当たったのだ。

 

「職場見学でピラミッドの中に入ったんだけど、地下に呪い破りのオフィスがあってクールだよ!マグルはそれを知らないみたいなんだけれどね」

「え~いいなぁ貴重な体験だね。ライアンはエジプト行ったことある?」今までいくつか引っ越した経験があるようなので聞いてみるも彼は首を横に振った。

 

「そりゃ滅多にないもの。それこそ呪い破りとかにならなくっちゃ。そうだ、見てよこれ新しい杖を買ってもらったんだ──」

 

 おしゃべりをしていたら新入生の組み分けが始まる。

 

「二人ともあのおぞましい吸魂鬼は大丈夫だった?」

 ロミルダ・ベインがグリフィンドールに組み分けたのを目で追いながらロンが口を開く。

 

「正直気が滅入るよ」

「ハリーが気を失ったんだ。アイツらハリーに食らいつく勢いで近づいたからさ」

 アリスは眉を寄せて不安そうな面持ちになる。ライアンは体調を伺った。

「具合は? チョコレートは食った?」

「ウン、コンパートメント内に先生がいたんだ──新任の先生だよ。チョコレートをもらったら元気が出て、それと吸魂鬼にも詳しかった」

「いい先生みたいだね」

「今年の闇の魔術に対する防衛術の先生か」

 

 そうこう話していて組み分けが終わるころに、ハリーとハーマイオニーが戻ってきた。一体何の要件だったのか聞く前に壇上にダンブルドアが現れた。長い銀髪と顎髭は神々しいエネルギーを感じられる。アリスは昨年度末、廊下にある絵画の前でダンブルドアと交わしたお話を思い出した。

 

「新学期おめでとう!皆にいくつかお知らせがある。一つはとても深刻な問題じゃから、皆がご馳走でぼーっとなる前に片づけてしまうほうがよかろうの。ホグワーツ特急での捜査があったから、皆も知ってのとおり、わが校は、ただいまアズカバンの吸魂鬼、つまりディメンターたちを受け入れておる。魔法省のご用でここに来ておるのじゃ」

 

 斜め前に座るシェーマス・フィネガンが「ブラックがホグワーツに現れる?」と隣のディーン・トーマスと話している。

 

「吸魂鬼たちは学校への入口という入口を堅めておる。あの者たちがここにいるかぎり、はっきり言うておくが、誰も許可なしで学校を離れてはならんぞ。吸魂鬼は悪戯や変装に引っかかるような代物ではない。──『透明マント』でさえムダじゃ」

 

 アリスは『透明マント』に心当たりがあり、実際にそれを使ったこともある。ハリーのモノだ。彼らへの忠告なのかもしれないとアリスは察した。ただあの勇猛果敢なハリーであってもわざわざシリウス・ブラックを探しにいくとは思えないが。

 

「楽しい話に移ろうかの──今学期から、うれしいことに、新任の先生を二人、お迎えすることになった。まず、ルーピン先生。ありがたいことに、空席になっている『闇の魔術に対する防衛術』の担当をお引き受けくださった」

 

 話で聞いていたよりもなんだかみすぼらしい先生だった。つぎはぎだらけのローブでまだ三十代くらいなのに鳶色の髪には白髪が混じっている。やつれているようにも見えたが、でも優しそうな人だ。大広間はまばらな拍手だったがルーピン先生を知るロン達の大きな拍手につられてアリスも期待を込めて沢山拍手をおくった。拍手がやむとダンブルドアは言葉を続ける。

 

「ケトルバーン先生は『魔法生物飼育学』の先生じゃったが、残念ながら前年度末をもって退職なさることになった。手足が一本でも残っているうちに余生を楽しまれたいとのことじゃ。そこで後任じゃが、うれしいことに、ほかならぬルビウス・ハグリッドが、現職の森番役に加えて教鞭を取ってくださることになった」

 

「ワァ!」

 

 グリフィンドールから割れんばかりの拍手が鳴った。ハグリッドの嬉しそうに赤らんだ顔は、もじゃもじゃな髭に埋もれていたけれど目尻を拭う動作に彼の大きな感謝や喜びを感じられた。

 

「ハグリッド凄い!俄然授業が楽しみになったと思わない?」

「教室じゃなくって森の中で授業しそうだな」

 

 アリスもライアンも、ハグリッドが大好きだ。彼の新たな活躍を祝して頭上で大きく手を鳴らした。

 今学期は選択科目も始まるし、アリスの好奇心が擽られる。勉強であっても新しいモノに触れられるのはワクワクするのだった。

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