セドリック・ディゴリーと反抗期の妹   作:97nnn79

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セドリックの看病

 闇の魔術に対する防衛術の講師はスネイプ先生からルーピン先生に戻った。グリフィンドール生は安堵とスネイプの授業の不満を口々にした。

 

「僕たち、狼人間について何にも知らないのに──」シェイマスが吠える。

「羊皮紙二巻だなんて!」ロンも言葉を付け足した。

「君たち、スネイプ先生に、まだそこは習っていないって、そう言わなかったのかい?」

 

 ルーピン先生はかなり体調が悪そうだった。顔色が悪くてよく眠れていないようで隈が酷い。ショウガ入りのミルクティーを飲むべきだ。

 

「言いました。でもスネイプ先生は、僕たちがとっても遅れてるっておっしゃって──」ディーンが返す。

「耳を貸さないんです」アリスも頷く。

「羊皮紙二巻なんです!」大事なことなのでロンはもう一度強調する。

 

「よろしい。私からスネイプ先生にお話ししておこう。レポートは書かなくてよろしい」

 

 ルーピン先生は柔和に微笑んだので皆はホッとする。ハーマイオニーだけが「そんなぁ。私、もう書いちゃったのに!」とがっかりした。授業はおいでおいで妖精を連れてきてくれて、鬼火のように揺れる灯りがきれいだった。確かにこれを見かけたら追いかけたくなるのかも。沼地に誘われてしまわないように、ちゃんとその鬼火の光り方を目に焼き付けて、対象方法をノートにメモした。授業後、鞄を抱えてライアンに声をかける。

 

「私図書館に寄るよ。調べたいものがあるの」

「アリスが図書館に?」ライアンは目を丸くさせる。「図書館に食いモンはねぇだろ」失礼だ。アリスはジト目になる。

 

「私、ハリーにニンバスのミニチュアをプレゼントしたいの。そのために工芸品の作り方だとかそんなことが書かれている本がないか調べたいんだ」

「……ふうん」ライアンが視線を外す。「凄く大変そう」

 

「ウン、でもあのまま捨てられちゃうよりかはいいよね? ハリーを元気づけたい」

 

 ライアンは、やる気に満ちている彼女の横顔を伺う。

 

「アリスって、ハリーに優しい」

「え? そうかな」

「そうだろ。一年の頃からハリーを気遣ってて……」ライアンは思わず飛び出た言葉にハッとなり、俯く。

 

「だってハリーは大切な友達でもあるけど、私、彼のファンなんだよね」アリスは少し照れる。

「……ファン」

「そう、ファン」”クィディッチ選手”として。

「……完成したらきっと喜ぶよ」

 

 ライアンの言葉に、アリスは「だよね!」と勢いづいて図書館に姿を消した。

 

 本棚をこんなに食い入るように注視したのは初めてかもしれない。『魔法模型制作・初級』『魔法使いのための木工細工』『魔法具修復学』……などを抱えて机の上に広げて眺める。木片の削り方や魔力組み込まれた素材の扱い方、加工魔法など載っている。フンフン鼻を鳴らしながら文字を指で追い、使えそうな箇所をノートに走り書きする。

 

「よし、まずは木材の削り方と木片の接合方法を練習しよう」

 

 第一回ニンバスミニチュア制作は体感、好調な滑り出しだった。本を抱えて席を立つと窓の向こう、渡り廊下にいる人影が目に入る。セドリックだ。いつもなら「あぁお兄ちゃんか」と構わないがなんとなく気になる。本を本棚に戻し、図書館を出てセドリックの元へ駆け寄る。広い背中が目に飛び込む。

 

「……? あぁアリス。どうしたの走って……」

「え? うぅん。お兄ちゃんがいたから」

「僕を見かけたから走ったのか?」

 

 ふっと笑うセドリックの顔をアリスはしげしげ眺める。

 

「ハリーもう退院できたみたいだね。本当に大きな怪我がなくて良かったけれど……」

「うん、そうなの。でも次の試合に使う箒がない状態だよ」

「学校備品の”流れ星”を使うにはシーカーとして速度が物足りなすぎるね」

 

「お兄ちゃんさぁ」

「ん?」

 

 アリスは背伸びして腕を伸ばし、セドリックの額に触れる。

 

「熱ない?」ペタペタ頬や首を触る。若干熱い。

「え……」くすぐったそうにする目を細めてされるがままのセドリック。

 

「風邪ひき始めって感じがする!」

「……確かにちょっと体が重いけれど……」

「この前の試合で風邪ひいたんだよ! もう数日でレイブンクロー戦だよね? 今日は休まないと!」

 

 セドリックは普段自己管理をしっかりしているので、珍しいことだった。指摘した途端アリスの目にはセドリックが病人にしか見えなくなる。セドリックの周りをウロチョロして観察する。うん、頬が赤い気がするし、灰色の瞳もボーっとしているみたい。妹にはわかるのだ。手を引っ張って医務室に連れていく。

 

「兄が風邪をひいているようなんです」

「ミスターディゴリー。こちらに来て見せてみなさい」

 

 マダムポンフリーはセドリックの下瞼をひっぱり瞳孔を確認する。「風邪ですよね?」アリスは確信して、念押しで聞く。

 

「えぇ、微熱。今、風邪薬を持ってきます──あの悪天候の中試合をしたら風邪人が出るにきまっています」

 

 プリプリお怒りながら薬品棚に向かう校医を横目にアリスはセドリックを引っ張ってベッドに座らせる。

 

「よくわかったねアリス」ギシ、とベッドのスプリングが軋む。

「わかるよ。それにお兄ちゃんって風邪を長引かせちゃうのもね……」

 

 腕を組んでしかめっ面をすると困ったように笑う。

 

「まいったな……休んでいられないのに」

「ダメ!」

 

 戻ってきたマダムポンフリーも同調するように元気爆発薬をセドリックに飲ませる。耳から煙が出るほど体温が上がる風邪薬だ。普段ならアリスはその様子を指差してケタケタ笑い転げたいところだが、兄が心配で目を右往左往させるだけだった。セドリックは火照ったようでローブとセーターを脱ぎ、アリスはせかせかそれを回収する。

 

「じゃあ私行くけど……ずっと寝てるんだよ」

「うん、心配かけてごめんね」

 

 と、言いつつも兄は冷たい雨が降り注ぐ窓の向こうに視線をやっているのにアリスは気が付いていた。「見てるぞ」と言わんばかりに、両目を指してからセドリックを指した。

 

 しかしセドリックの風邪は長引き、レイブンクロー戦でハッフルパフは敗北した。本調子でないのに雨の中また空を飛んだセドリックにアリスはマダムポンフリーと一緒にお冠だ。男の子って基本無理しがちな気がする。アリスの周囲だけだろうか? ハッフルパフのビーター、アダムの「俺らも止めたんだ。でもあいつ責任感強いだろ?」という発言にアリスはすかさず言い直した。「じゃなくって、お兄ちゃんは頑固なの」

 

 アリスは自室にハグリッドから貰った薬草酒を見つける。昨年、ハロウィーンの準備の手伝いをして貰ったものだ。

 

「一年前のものだけど大丈夫かな」

 黒くてドロドロした液体をペロリと毒見。……えぐみが凄い。飲んでいいものなのか不明でぺっぺと吐き出す。アリスはローブのフードを被り、防水呪文で雨風をしのぎながらハグリッドの小屋を訪れた。

 

「おぉアリスか……寒かったろう。暖炉の火をもっとたかにゃ……」

「元気?」フードから顔を覗かせる。「昨年貰った薬草酒またわけてもらえないかな」

 

 ハグリッドは薪を暖炉にボンボン投げ込みながら少し明るい声をだす。「あれはなかなか良かったろう? 飲めば冬なんか怖くねぇ。待ってろ新しいのを分けてやる」

「いいの? ありがとう」

 

 ハグリッドはあの事故以来気を落としている。薬草酒を受け取ったアリスは懐からニンバスの木片を取り出す。

 

「ねぇ、こういった木片の加工方法のコツを教えてほしいの。思ったより難しくって……ハグリッドからアドバイス貰いたいんだ」

「どれだ見せてみろ……こりゃチャチなナイフじゃ手がかかるだろう。俺のナイフを貸してやる」壁にかかったナイフを差し出す。「これで笛だのなんだのなぁんでも作れちまう」

「うわぁ本格的」

 ハグリッドは試しに薪木をナイフで削る。

「握り方はこうだ。こまけぇものを削りたい時はちとばかし刃先を立ててやれ」

 アリスはしげしげ眺め、ナイフを受け取り木を削る。

「こう?」

「なかなか上手いぞアリス」

 

 褒められて照れ笑いを浮かべるアリスの背中をボンと叩いて笑うハグリッド。ひっくり返ってしまって危なかった。

 

「バックビークはどうなっちゃった?」

 ふとまた顔を曇ってしまう。「ダンブルドア先生が理事会から俺のことをかばってくださっている」

「そうなんだ。バックビークにも温情を分けてくださると良いね……」

「俺が悪いんだ。折角いただいたチャンスをこんな風に……」

 

 アリスは山のようにデカい彼の背中を撫でる。ビュウ、と冷たい北風が扉を叩く。

 

「また遊びに来るよ。木片の加工方法もっと教わりたいし」

 ハグリッドは顔をあげる。「おぉ、おぉ、また来てくれ。俺が教えられることならなんだって」

 

 アリスは小屋から出て貰った薬草酒をゴクリと飲み干す。アリスは元々風邪を引かない丈夫な子だがこれのおかげで今年は風邪を引かなさそうだ。もう一本の薬草酒は、口直しのチョコと一緒にセドリックに分けた。借りたナイフのおかげでミニチュア制作計画も前に進みだした。

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