12月になると雨で汚れた地面は、白い雪で隠れた。学期終了後は家に帰られるし、その最終週にはホグズミードにも行ける。談話室は楽しいムードで浮足立っている。オリバーだけは別の理由でここずっと興奮している。ハッフルパフが負けたことによってグリフィンドールが首位に立てる可能性がごくわずかに残り、練習の鬼になっているのだ。
占い学の帰り、テリーがアリスに声をかける。
「学期末のホグズミード一緒にまわらない?」
「私と?」本を小脇に抱えて尋ね返す。
「あら」
「まぁまぁ」
背後でラベンダーとパーバティがニヤニヤ野次を飛ばす。シッシッと追い払うと二人は黄色い声をあげて立ち去る。
「そういうんじゃなくってさ、ホラ。この前レイブンクローの俺の友達紹介したいって言ったろ? もしよかったらどうかなって」
「わかってるよ」アリスは目をグルンと上に向ける。「なんかその言い方無駄にフラれたみたいなんだけど!?」
テリーは愉快そうに笑う。「クク、俺はアリスを振ったりなんかしねぇよ。どう? 行かない?」
フラットで軽い誘い文句に「いいね。ちょっとライアンと相談するよ」と返した。
「ボードマン、ねぇライアン」
談話室で本を読むライアンに声をかけたのはラベンダーとパーバティだ。
「アリスがレイブンクローのテリー・ブートにホグズミードに誘われていたわよ」
「へー」
「しかもクリスマス前。二人っきり。これって……」
ラベンダーとパーバティは顔を見合わせてキャアッと声をあげた。
「『へー』、じゃあないわよ。いいの!?」
「ライアンどうするの?」
「……どうって?」気のない返事をするライアンに二人はやきもきした。
「えっと、俺と行くから無理だ、とかって断りましょう?」
「それじゃ弱いんじゃない? アリスに気安く声をかけるな、とか? やだぁ~!」
完全におもちゃとして消費されていることに気づいたライアンは白けた目を二人に向ける。
「あ、アリス来たわ」
「しっかりなさいね」
談話室に戻ってきたアリスが占い学の本で詰まった鞄をどさりと机の上に置き、ライアンに話しかける。
「学期末のホグズミードなんだけどテリーに誘われたんだ。ライアンも一緒にどうかな?」
ニコニコ誘うアリスにライアンは先ほどから一行も進んでいない活字に目を落とす。
「俺はやめておく。アリスが誘われたろ」
「でもライアンも来たら絶対テリー喜ぶよ」
ライアンは首を横にぷるぷる振る。アリスは首を竦めた。
「わかった。合流できたらしようよ!」そう言って鞄を担ぎ直し自室に戻る。
「……」
「さっきの何アレ?」
「ライアン・ボードマン10点減点」
背後から文句を言うラベンダーとパーバティに眉根を潜めた怖い顔を向ける。
「まだ見てたのかよ」
「なんで止めなかったのよ! アリスがテリーとクリスマスデートに行っちゃうわ!」
ライアンはサッと顔を逸らす。「俺が口挟める立場じゃねぇだろ」
「またそういうこと言って」
呆れた女子を「まぁまぁ」と諫めてくれたのはディーンだった。
「アリスに友達が多いのは今に始まった話じゃないだろ。ライアン、ホグズミード俺らと行こうぜ」
ラベンダーが言い返す。「絶対友達として見ていないわ。アリスって可愛いもの」
「アリスって可愛いか?」頬をボリボリ掻きながら立ち聞きしていたシェイマスを、ムッとした顔でライアンは睨む。
「はぁ? お前、「可愛いわよ!」「どこに目をつけているワケ!?」
女子の勢いに男子は口を噤む。「ヒィ、おっかね。アリスは可愛いね、スミマセンでしたっと……」とシェイマスはそそくさ姿を消す。
「男の子って本当子ども。これ読んで勉強することね」
呆れたように差し出されたのは恋愛小説のようだ。魔法界の女子に人気の。
「感想文待ってるわよ」
好き勝手言って二人は去っていった。ポカンとするライアンの視界にふわふわの栗毛がむんずと割り込んでくる。ずっと隣で課題をこなしていたハーマイオニーだ。
「読書感想文? 魔法界では定番の課題図書なのかしら?」
興味深そうにペラペラめくる友人にライアンはため息を一つついた。
・・・
「テリーお待たせ!」
学期末のホグズミード。アリスは待ち合わせに向かって駆ける。
「おぉ、こっちこっち!」
寒さで白い息を吐きながら手を振るテリー。
「走ったら危ないよ。転んじゃうと大変だろ」
金髪のレイブンクローの男子生徒が紳士的に言う。
「俺、アンソニー・ゴールドスタイン」
眼鏡のリムを押し上げる。「テリーからよく話を聞いてるよ。今日は一緒に楽しもう」丁寧で優しい男の子だ。握手を交わす。
「私、グリフィンドールのアリス・ディゴリー。えっとこちらは……」
壁にもたれかかっていた背の高い男の子が顔をあげる。
「マイケル・コーナー。よろしく」
男の子にしては長めな黒髪が目元に影を落としている。レイブンクロー生っぽいアンニュイな雰囲気だ
「君って雰囲気あるね」するとマイケルは気分が良くなったのかフンと鼻を鳴らす。
「まぁよく言われる。アリスもその笑顔素敵だね」
「こいつナルシストなんだ」テリーが言う。「女の子にモテるけどよく振られる」アンソニーが付け足す。
「お前ら俺が嫌いなのか!?」
いじられてキレるマイケルにアリスはケタケタ笑う。確かに面白い三人組だ。
「ゾンコには勿論行くだろ?」
「レイブンクローの男の子も行くんだ」
「当たり前さ。あそこは知的好奇心が擽られるものでいっぱいだから」
「知的? あそこに知的なものなんかあったか?」
「おいマイケル、安心してくれよ。もうお前にクソ爆弾は仕掛けない。誓って」
四人はゾンコで悪戯グッズを買いこんだ。彼らの男子部屋のティーカップは悪戯による事故で全滅したらしい。鼻食いつきティーカップをマイケルに差し出すと簡単に鼻を齧られていたので皆は爆笑した。
「ライアンは今日ホグズミードに来ていないのか?」
ハニーデュークスで菓子を吟味しながらテリーが訪ねる。
「ライアンはディーンやネビルと行くって」隣で百味ビーンズを掴んで美味しそうな味がないか眺めながら答える。
「なんだ残念だね」
「あの金髪のデカいやつだろ? 知らないヤツばっか増えてもつまんないから良かったよ」壁にもたれかかりながらマイケルは言う。
「マイケルってやつは人見知りだね?」アリスは後ろを振り返った。
「人見知りじゃない!」と壁から離れて慌ててこちらに反論する。
四人は三本の箒で食事をして、叫びの屋敷を眺めながらハニーデュークスのお菓子をつまんだ。
「なぁ、これほら」テリーがオレンジ色の百味ビーンズをアリスに差し出す。
「何味?」
「聞くなんて野望だろ? グリフィンドールなのに怖気づいちゃって!」
アリスはプライドを擽られて躊躇なく口に放る。
「……オエー! ゲロ味!」口いっぱいに腐ったチーズのようなイヤな味が広がる。
「ギャハハ!」
ジタバタえずくアリスにマイケルは離れろとアリスの頭を向こうにぐいっと追いやる。
「うわ、口からすげー匂いするぞ」
それを遠くからたまたま見かけたグリフィンドール男子は肩をすくめる。
「ほら、どこがクリスマスデートだよ。ゴールドスタインやコーナーもいる」ディーンの背後からネビルが顔を覗かせる。
「アリスいじめられてない……?」
「女の子扱いされていないだけじゃん」シェイマスがナメクジゼリーを食べ歩きしながら答える。
「……」ライアンは寒さで赤くなった鼻を鳴らしながらその様子をじっと見つめた。
「ゲホゲホ……お礼にチェリービーンズあげるよ」
「嘘こけ! それミミズ味だろ?」
「口開けろ!」くわっと目を見開いてテリーを追いかけまわす。
「ミミズ味余ってるならくれよ。俺食べたことがないんだ」アンソニーが手を出す。
「ラッキーだよ。美味しい味ばかり当たってる」
「いや、俺全部の味を試したいんだ」何やらコートからノートを差し出す。見てみると百味ビーンズの味を評価しているようだ。『──石鹸味:見た目はミントや耳垢味と非常に酷似。人間が食べてはいけない味。マレーシア土産のナマコ石鹸のような味だ。星5段階評価において星1……追記、口から泡が出る仕掛けを施したらもっと面白くなりそう──……』
「アハハなんだこれ? 変わり者だ」ミミズ味を差し出すとアンソニーはパクッと咀嚼し、「フムフム」と味わう。
「ありがとう。良いデータ取れそう」
「アンソニーゲロ味もあったよ」
「それはもう評価済みなんだけどいただこうかな」平気で口に放るのでアリスは引いた。
「まずくないの?」
「不味いさ。でも不味いともう知っているからね……さっ、ミミズ味についてメモを……」
ノートに走り書きするアンソニーを見て「なんだこいつ……」と口を歪ませたアリスを見てテリーは噴き出す。マイケルは「お前らの口臭最悪だから俺の方向いて喋るなよ」と念押ししたのだった。
城に戻ると「また遊ぼうな」「良いクリスマス休暇をね」「腹出して寝るなよ」とレイブンクロー三人組と別れて、談話室に帰る。ホグズミード後の楽しさと家に帰る準備へのせわしなさで賑やかだった。
「ほら、アリス帰ってきた」
「気になることあるなら聞いちゃいなさいよ」
「あ゛ーっ、うるっせぇな。どっか行けや」
ラベンダーとパーバティに未だにからまれているライアンは口調荒く追い払おうとするが二人はクスクス笑いする。
「クリスマスのホグズミード良かったね。飾り付け綺麗だったし」
「まぁな」アリスが近づくと、先程まで落ち着かなさそうに揺れていた貧乏ゆすりが収まる。
「ねぇクリスマス休暇、今年もホグワーツに残るんでしょ? 今からでも私の家に遊びに来れるよ?」
「いや、それは悪ぃって」
「悪くないって! ママもパパも喜ぶよ!」
ライアンはニットの袖をいじりながら視線を外す。
「いや……ガスの様子も気になるし残る」
この前裏庭で見つけた黒犬のことだ。オーガスタス、ガスという愛称までつけて可愛がっている。アリスは犬を理由に出されちゃ太刀打ちできないので肩をすくめて分かったよ、と言い女子部屋に戻る。まだ荷造りが終わっていない。
「あ~何で断っちゃうのよライアン」パーバティがライアンの袖をぐいっと引っ張る。ずるっと首元が覗くのを荒く直す。
「アリスもアリスでもっと粘ってくれてもいいのにね」ラベンダーも残念そうだ。
「うぜーうぜー消えろ」
ライアンが怒った顔を向けても暖簾に腕押し。ケラケラ笑う女子二人は、顔の周りを飛び交うピクシーのようでライアンは疲れたようにこめかみを揉んだ。