セドリック・ディゴリーと反抗期の妹   作:97nnn79

6 / 36
クィディッチ選手と応援隊

 冷たい北風が談話室の窓を震わす。すっかり気候は冬に移り変わり、クィディッチ・シーズンだ。我が寮のハリーポッターが百年に一度の大抜擢で、シーカーとして参加することは秘密事項だったが、周知の事実だった。皆宿題を進めつつも明日に控えた試合でグリフィンドールが首位にたてるかもしれないと期待に胸を膨らませていた。

 

「なぁ、アリス」

 

 ディーン・トーマスが耳打ちする。

 

「今夜、時間ある? 明日の試合のために応援旗を作りたいんだ」

 

 ディーンは絵が上手く、アリスの趣味とバッチリ合った。

 

「やりたい! 手伝わせて」

「よし、俺らの部屋でやろう」

 

 机に広げていた宿題を片付け、ディーンのあとをついていく。男子寮に入るのは初めてだった。中は女子寮とあまり変わりはない。ライアンとネビルが窓際に置いてある小さな植木鉢を本片手に眺めていて、アリスは彼らに手を振るとネビルは小さく振り返してくれる。ライアンは読んでいた本から目を外して、ディーンとアリスを一瞬交互に見た。

 

 ディーンはベッド下に丸められたシーツを広げる。

 

「ロンが譲ってくれたんだ、ハリーへの応援旗にしようって」

「ありがたいけれど、なんでこんなにボロボロなの。どういう寝相してるの」

 

 ど真ん中に空いている穴を覗き込むアリスにディーンは首をすくめた。

 

「スキャバーズが穴開けたんだ。上手いようにやるしかない」

 

「それ……明日の試合の?」

 

 ネビルがそっと声をかけてくる。

 

「うん」

「僕も……見ていい?」

「勿論」

 

 とりあえず床にシーツを広げて思案する。ネビルも丁寧に四つ角を伸ばしてくれた。

 

「俺、ライオンを描こうと思ってるんだ」

「いいね、メッセージを叫んでるみたいにね」

 

 ふたりは頭を寄せ合って意見を出していく。

 

「“ポッターを大統領に”ってメッセージはどうだろう?」

「“ダイトウリョウ”?なにそれ?」

「マグルでは国のトップをそう呼ぶのさ」

 

 アリスはディーンの説明にヘぇ〜と感嘆の声をあげた。マグル育ちのハリーには魔法大臣よりそっちの方がピンとくるかもしれない。早速下描きを進めることになったが、目立つ破れた穴を避けて描くため、アリスとディーンは構成に悩む。するとライアンが静かに近づき、潜めて声をかけた。

 

「それ、少しいい?」

 

 ディーンは気まずそうにアリスの様子を伺い、アリスは 「うん」 と頷いた。ライアンが杖を小さく振ると破れ穴はゆっくり埋まっていく。

 

「塞がった! ありがとう!」

「さっきのはレパロ?」 ディーンは思わず声をかけた。

 

「いや、厳密には壊れたものではないから少し違う……」

「凄い これで絵が描けるよ」

 

 下描きを続けるアリスに、ディーンもハッと筆を持ち直して作業は続行された。

 

「ねぇ、もう少し文字は大きくする?」

「下にメンバーの名前を書こうと思ったんだ」

「箒に乗ってる選手からは一瞬だから見えないと思うよ」

「そうなのか、俺まだクィディッチ見た事ないから想像できないんだよな」

 

「すっごく早いんだ。授業の何倍もだよ」

 

 ネビルは初回の授業の事故を思い出したのか身震いした。

 

「それは楽しみだな。スポーツ観戦が好きなんだ」

「マグルでは何が流行ってるの?」

「サッカーだよ。俺はウェストハムのファンなんだ」

 

 指差す壁を見るとマグルとボールのポスターが貼られていた。アリスは動かない写真をしげしげと見つめて、 「どういう競技なの?」 と聞くと、横から 「ボールをゴールポストに蹴ったら得点が入る」 と、ライアンが教えてくれた。

 

「クィディッチと似てるね。でも“サッカー”で人が消えたらマグルはどうやって探すの?」

「サッカーは選手が消えたりしねぇよ」

 

 ライアンが吹き出すようにクッ、と笑った。砕けた口調で話す様子にディーンは 「サッカー好き?」 と遠慮気味に尋ねた。

 

「そんな詳しくない、けどアーセナルはよく観るよ」

「アーセナルのサポーターなんだ。リーグ優勝おめでとう」

「スミスは得点王だ」

 

 ディーンはライアンのことを避けていたので自ら話しかける様子にアリスは嬉しく思った。

 

 会話もそこそこに作業再開して、ほつれが直ったシーツは着色も施されて旗らしくなった。

 

「かっこいいライオンだね」

「ありがとうネビル、でももっと良くなると思わない? 魔法でライオンが動くとか……」

「色が変わっても良さそう!」

 

 画家二人はポンポン案を思いつき、期待を込めてライアンを見たが答えは 「俺には無理」 だった。確かにこの要望は複雑で、1年生には扱えない。

 

 アリスは絵の具がついた手を「そうだ、」と叩き部屋を飛び出す。暫くしてハーマイオニーを連れて戻ってきた。

 

「この応援旗に魔法をかけてくれる?」

「“大統領?”」

 

 突然連れてこられて状況を理解できないハーマイオニーは、床に広がった応援旗を読み上げた。

 

「ハリーへの応援旗だよ。絵の色を変えたりできる?」

 

 ハーマイオニーは僅かに思案して、杖を複雑にしばらく動かすと期待を上回る魔法が旗にかかった。ライオンのたなびく毛並みは鮮やかに黄金から真紅に変わってみせ、文字は光が弾けるようにピカピカ点滅する。

 

「流石ハーマイオニー!」

「俺らの応援旗が一番立派だろうぜ」

 

 ハーマイオニーも 「素敵ね」 と微笑み、イラストを褒めてくれる。アリスは明日の試合が楽しみで、自分は選手でもないのにその夜は胸が逸って珍しく眠れなかった。

 

 

 翌日。朝食を腹に収め、競技場へ赴く。夜鍋して作った旗を抱えながら人の波を掻い潜っていると、 「おーいこっちだ」 とヒョロリと背の高いロンが手を振る。

 

「応援旗は最上階にないと。少なくともプロの試合ではそうさ、見たことある?」

「なるほどね」

 

 ロンは寒さで鼻の頭を赤くさせながら興奮して捲し立てる。

 

「朝、ハリーと話したかったな」

 

 大広間では皆が代わる代わるにハリーへ激励の言葉を贈っていたので近寄れなかった。肩にポンと手が置かれ、振り向くとシェーマスが得意げに口角を上げていた。

 

「俺がアリスの分まで気の利いたアドバイスをしておいたから」

「なら安心だよ」

 

 クィディッチの雰囲気は特別で、普段浮いているライアンもパーバティに渡された小さな応援旗を胸元でパタパタ振っていて、アリスの目からは楽しんでいるように見えた。

 

 あぁだ こうだ 楽しみだと話しているといよいよ試合のホイッスルが鳴り響き、思わず固唾をのみこむ。

 

 三年、グリフィンドールのリー・ジョーダンの解説は若干自寮に力が入っていたが、クィディッチとの相性は抜群だ。マクゴナガルのリーを咎める軽快なやり取りも聞きごたえあったが、皆は身を乗り出して試合にくぎ付けだった。

 

「見てよ! フレッドとジョージがブラッジャーを打ち返した!」

「気持ちのいいもんだよ!」

 

 アリスの歓声に、ロンも喜色を浮かべて満足気だ。高速で飛び交う選手にまじって、ひときわ小さなハリーの姿を見つけたアリスは笑顔を浮かべて手作りの応援旗を振った。バンバン点を決めて快調にも思えたグリフィンドールチームだが、スリザリンのラフプレーに乱れが生じる。女子生徒にもわざと体当たりするので、ライアンやディーンは眉をひそめた。

 

「退場させろ! 審判! レッドカードだ!」

「ルールどうなってんだ?」

 

「ペナルティで済む話じゃない」 と彼らは愚痴ったが 「サッカーじゃないんだよ」 とロンがなだめた。

 

「いったいハリーは何しとるんだ」

 

 森番のハグリットが──彼が応援席に混ざった途端、グリフィンドールの一年生たちはぎゅうっと寄った──双眼鏡片手に不安の叫びをあげる。苛烈な試合の裏では、ハリーの箒は不安定にあっちへフラフラ こっちへフラフラ 乱暴に揺れてまわるので 「どうしたものか」 とハラハラ見守ることしかできなかった。

 

 ハーマイオニーはハグリットの双眼鏡をひったくると、何かを見つけて確信めいて言う。

 

「やっぱり……スネイプがハリーの箒に呪いをかけてるんだわ」

「えぇ?」

 

 素っ頓狂な発言にアリスは口を丸く開けて呆けてしまった。そして、ハーマイオニーがスリザリンの応援席まですっ飛んでいくのを口を開けたまま呆然と眺めることしかできなかった。

 

「あのままじゃハリー落っこちちゃうわ!」

「どうしちゃったのかしら……箒の乗り方を忘れてしまったの?」

「そんなわけあるもんか。ハリーは100年に一度の逸材なんだ」

 

 ついにハリーが柄にぶら下がって宙ぶらりんになったのでパーバティとラベンダーは顔を伏せた。 「おい、調子を取り戻したみたいだ」 彼女たちはパッと顔を上げた。一緒に同じ方向を見てみれば、箒の基本姿勢に戻ったハリーが一直線に加速していく。そしてそのまま地面へ転がり落ちた。

 

「落ちちゃったわ!」

「可哀そうに、えずいてる」

「見て! あれ!」

 

 ハリーがポンと口から取り出したのはゴールデンスニッチだった。つまり、これまでの得点を考慮するとグリフィンドールの勝利だ。わぁっと歓声が上がり、やったやったと皆互いをハグする。ハグリットの背中に隠れていたネビルもべそをかくのをやめた。

 

「信じられないわスネイプ! 呪いをかけるだなんて!」 ハーマイオニーが怒りで髪の毛をユサユサ揺らしながら戻ってきた。

 

「どういうこと?」

「ハリーの箒の様子がおかしかったのはスネイプが呪いをかけていたからなんだ! ハーマイオニーのおかげで振り落とされなくて済んだ……」

 

 スネイプが本当に呪いをかけていたなら 「嫌な先生だ」 の愚痴では済まない。裁判沙汰である。いくらハリーを嫌っているからって”先生”が生徒の命を脅かすことがあるのか……。

 

 アリスはそれとなく意見を述べたが 「お気楽なもんだ。そんな様子じゃ明日にでもハリーは死ぬ」 とロンから皮肉が返ってきたのでおとなしく口を閉ざす。スネイプの人望のなさが気の毒に思えたが、しかしまぁ そう思われても仕方がないくらいハリーへの当たりは強いのも事実なので、アリスはさっさと応援旗を片づけて城へ戻った。

 

 グリフィンドールの談話室は興奮冷めやらぬ様子でまだクィディッチについて賑わっていた。ホグワーツの目玉行事なだけある。

 

「あのイカした旗、ハリー専用かい?」

 

 選手控室から戻って来た双子のウィーズリーがアリスに声をかける。

 

「試合すっごく楽しかったよ! 次はみんなの分も作ろうってディーンと相談中なの」

「もっと派手なの頼むぜ」

「アリスもディーンも上手いもんだ」

 

 褒められたのでアリスは頬が火照り、はにかむ。私って絵がうまいんだ。こうしてフレッドとジョージに認められると嬉しい。ライアンは椅子に腰かけ、ハーマイオニーから借りたらしいクィディッチ今昔を読んでいた。

 

「クィディッチどうだった?」

「楽しかった。でも女子が振り落とされていたけど……骨とか折れてたら……」

 

 賑やかな雰囲気に水を差しているようで、ライアンは声を潜めたが 「私はなんともないわよ」 と背後から突如声が降ってきたので、振り返る。チェイサーのアンジェリーナだ。

 

「優しいのね、ありがとう」

 

 アンジェリーナはくすくす笑って、女の子たちと連れ立っていく。彼女は三年生だから新入生のライアンは怖くなんかないのだ。ライアンは、まさか本人に聞こえていただなんて、 と紅潮した顔にそうありありと書いてあった。

 

 彼が"優しい"のはアリスも同意で、 「骨が折れても校医にお願いすれば直ぐ治るよ」 とカラカラ笑った。

 

「私、小さい頃はよく木登りに失敗して、癒者によくお世話になってたよ」

 

 ライアンは納得したような、まだ腑に落ちていないような曖昧な相槌をした。

 

 

 随分遅くなってから、ハリー、ロン、ハーマイオニーが談話室に戻ってきた。三人は顔を突き合わせて何かを真剣に話していたが、アリスと目が合うとハリーは近づいてくる。

 

「ピッチから旗がよく見えた。僕、こうやって応援されたことなんて今までなかったから……嬉しかったよ」

「皆で作ったの。今日は本当にお疲れ様」

 

「”大統領”だなんて 見た瞬間、緊張がほぐれて助かっちゃった」

「次もハリーの緊張がほぐれるような”大統領”以上の肩書き、教えてもらわないとね」

 

 ジョークにハリーは笑いながらアリスの肩をポンと思わず叩いた。新生シーカーの手はアリスと変わらない大きさだが、頼もしく感じた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。